表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第10章 王都と第二王子
168/217

第二王子 その二

第百六十八話 第二王子 その二


 「それでは手をお貸し下さい」


 「お願いします。生まれつきですので、恐らく良くなりませんよ」


 姿勢が低いマクミリヤニ王子の手を取り、魔力を流す。まず心臓だ。予想通り右心房と左心房の間に穴が開いている。心弁は異常ない。脳は異常なし。血管は異常なし。肺は右の肺に異常がある。胃腸は問題が無さそうだ。診断は心房中隔欠損症と、肺の異物、黴だ。肺に黴が生えている。前の世界、母が罹患した病気だ。母は肺を切って処置したが、ほんの少しの切除だがすぐに息が上がるようになった。


 「診断終わりました。殿下は心臓と肺にご病気がございます」


 俺は羊皮紙を取り出して、心臓と肺の絵を描く。


 「心臓は四つの部屋に分かれています。心臓が収縮して体中に血を送るんです。殿下は心臓の壁に穴が開いていて、体に血が巡りづらくなっています。もう一つ、呼吸をする器官である肺に黴が生えています。動くと息苦しいはずです」


 「その通りです・・・わかるんですか・・・驚きです・・・」


 「は。申し訳ありませんが、メリーカーナ殿下にも診察をさせていただけないでしょうか?」


 「メリーもわかるんですか?」


 「マクミリヤニお兄様、私はお兄様の弟子ですよ? お兄様から治療魔法を習ったんです・・・手を失礼します・・・アッ! 心臓に穴が!」


 「肺も診てごらん」


 「ああ、確かに・・・」


 メリーカーナ王女は手を離す。


 「言われないとわかりませんでした・・・」


 「仕方が無いよ。では治療を始めさせていただきます。恐らく三、四回かかると思います。よろしいですか? お付きの方もいいですか?」


 「ちょと待って下さい! このような有象無象の人に殿下のお体を任せるなど出来ません!」


 「メーフォーリさん、下がって。ドラゴンブレス卿に対して無礼である。この方は大賢者の再来と言われる、白金級冒険者だ。有象無象はどちらかと言うとメーフォーリさんだよ」


 「しかし」


 メーフォーリは食い下がる。気持はわからなくも無い。


 「くどい。どっちにしろ、治せる者など居ないのだ。居るかもしれないが、私には術を施してくれないのだ。メーフォーリさんが私を心配してくれる気持ちは嬉しいですが、見ていて下さい。最後のチャンスになりそうなんです」


 「メーフォーリさん、私もワイヴァーンに完全に貫かれて死ぬ一歩手前を治療してもらったから。恐るべき使い手よ」


 「わ、わかりました・・・お願いします・・・」


 メーフォーリは唇を噛みしめ、手を強く握り締めて耐えようとしている。主を思う気持ちが溢れてくる。俺は少し嬉しくなった。


 「それではお手を」


 俺は差し出された右手から魔力を流し、心臓の穴を塞ぐ。あと五回ほどで塞がる。俺は魔力欠乏気味になる。


 ヴェルヘルナーゼが魔力薬を手渡してくれる。飲み干すと、肺の黴を消していく。肺も六分の一の黴を取り、痛んでいる肺細胞を修復していく。俺は汗を流しながら手を離す。


 「第一回の治療が終わりました。全部で六回行います。心臓の穴と肺の黴を少しづつ治しました。血色が良くなって来ましたね・・・いかがですか?」


 「胸も息も楽です。凄い・・・」


 「メーフォーリさん、第一回の治療は終わりです。王宮に戻ったら、魔法の回復薬をお出しして下さい。恐らく、戻られたらお疲れになるはずですので」


 「は、はい。で、殿下・・・今までの医者のように酷いことをされるのかと・・・」


 メーフォーリは大泣きし始める。マクミリヤニ王子はそうっと抱きしめる。


 「殿下・・・いけません・・・」


 俺達はほっこりしながら見守るが、俺は言わねばならない。


 「殿下、申し訳ございませんがお座りください。まだまだ治療の途中でございますし、体力もつけねばなりません。メーフォーリさん、治療が終わるまでは今までの生活を変えないで下さい。体力が持たないはずです。御失礼ですが殿下のお召し上がる量は少なすぎます。五倍は食べていただかないと」


 「は、はい! あの、ご無礼を言ってしまい、申し訳ありませんでした! いかような罰もお受けいたします!」


 「アーガス卿すまない。メーフォーリは私の唯一心を許せる人なのだ。勘弁して欲しい」


 「あ、良いですから。殿下ラブが伝わって来ますね」


 「フフフ、そう思いますかアーガス卿」


 マクミリヤニ王子は嬉しそうだ。妻は無理だろうが、妾にするのであろう。


 「マクミリヤニお兄様、どうです?」


 「胸が楽だ。呼吸も。素晴らしい。何と礼をいったらいいのか・・・残念ながら私は何も持っていないのです。メリーはアーガス卿に教えを請い、今では王宮の中心です。メリーと違って財も力も無いんです」


 「まあ治ってからの話でしょう。俺は特にお金も要らないですし、権力も要らないですからね」


 「流石白金級冒険者の言うことは違うわね・・・」


 フォールーは変なところで感心をしている。俺は紅茶とクッキーを皆に出した。


 「これはメリーが好んでいるお茶ですね。どうしてアーガス卿が?」


 「お兄様達はキーアお姉様と商会を作って、ルーガルで色々な物を作っているんですよ。この紅茶もそうですし、真っ白なカップもそう。魔道馬車もお兄様の錬成ですよ」


 「キーアキーラお姉様と?」


 「うちの会頭ですわ。うちとはずっと冒険者としてパーティを組んでいます」


 「そうなのですか・・・姉上が商売を・・・出来るんですか?」


 「思ったより商売上手なんですよ。そうそう、麦の話でしたね。新種の小麦で焼いた菓子で、クッキーと呼んでいます。さ、どうぞどうぞ」


 俺はメーフォーリにクッキーを薦める。


 「普通の小麦より沢山稔る小麦です。特別な畑で育てているので十倍収穫出来るのですが、普通の畑だと七倍くらいですね。粉にしたときに粘りけの無い小麦なんです。さくさくとした感触や、昨日の保存食もこれですね。パンは良く膨らむ新種の麦です。あとは寒冷地用に寒さに強い麦を作りました。お酒に向くようにしてあります。ルーガルでは秋蒔きから植えると思いますよ。収穫がグッと増えますから、楽しみですね」


 俺は麦の穂を取り出し、マクミリヤニ王子に手渡す。


 「ほう・・・凄いですね。記憶ではもっと少ない気がします」


 マクミリヤニ王子は興味をそそられたようだ。頷きながらクッキーを食べているのは女性陣である。


 「凄いおいしい・・・」


 「メーフォーリさん、小麦からエールを作る途中で煮詰めると甘い水飴になるんです。麦に余裕が出来れば水飴が沢山作れるんです。甘いでしょう? 王都には甘い物が無いと聞きましたよ」


 「ルーガルではこれほどの物が作られているのですか・・・」


 「俺はルーガルの騎士なんです。立場上は」


 「成る程・・・メーフォーリ、帰りましょうか。次のお客が来ているようです。明日も来ます」


 マクミリヤニ王子主従は歩いて林を出て行った。


 「マクミリヤニお兄様、足取りが軽そうです」


 俺は跪く一行を見る。


 「オルフォーさん!」


 メリーカーナ王女が呼ぶと、上等な服を着た中年の女性が現れた。


 「ルーローイ商会のオルフォーと申します。この度は過分なご注文をいただきました。早速でございますが、採寸をさせていただきます。ご高名な女王龍様とお聞きしております・・・」


 「は、はい」


 ヴェルヘルナーゼは女性三人に採寸に入る。デザイナー風の男は俺に近づき、スケッチを見ながら打ち合わせに入る。


 「ミスリルはあくまでも飾りです。重量は極力少なくする方向で。プレートメイルではなく、皮を柵状にして組む革の鎧です。柵にミスリルを貼り付ける感じでお願いします」


 「ああなるほど、そう言う意味ですね。なるほど」


 「ポイントなんですけど、胴はコルセットのイメージなんです。真ん中に実際には締め上げないんですけど締め上げる紐を配置してください。ランジェリー感を出して、エロ可愛くです。当然胸を強調したデザインですね。腰回りはヴェルヘルナーゼの美しいラインを損なわないように、スッキリとまとめたいです」


 「素材としてサイクロプスの皮を使用しますので、伸縮性、軽さ、丈夫さともに抜群です。化粧ミスリルは太ももから脛に配置して、ヒップラインは美しくデザインですね」


 「わかってますね。貴方とは良い仕事が出来そうです。お名前をお聞きしてもよろしいですか」


 「光栄です。ガルデーグと申します」


 俺はガルデーグとガッチリと握手をして分かれた。充実した打ち合わせだった。鎧製作を頼んだ人達と一緒に、メリーカーナ王女主従も帰っていった。


 「あなた、随分とご機嫌ね。採寸されちゃったわ。サイクロプスの皮で作るんだって? 凄いって言われちゃったわ。ありがとうね。貴方のは、今でも目立つ龍の鎧だもんね。作る必要もないか」


 「まあね」


 雨が降ってきたのでテーブルと椅子を収納し、魔道馬車に入った。二人でのんびりと過ごした。


 翌日から毎日、メリーカーナ王女主従とマクミリヤニ王子主従が現れた。朝食を皆で摂ってから、マクミリヤニ王子の治療を行った。日に日にマクミリヤニ王子の顔色は良くなり、歩けるようになってきた。


 マクミリヤニ王子は俺の話を聞きたがった。俺は今までの戦いの話をすると、目の色を変えて聞いていた。


 六日目、治療の最終日。俺はマクミリアニ王子に治療を行っている。心臓の穴も完全に塞がり、肺も元通りになった。


 「おめでとうございます、殿下。すっかり良くなりました。少しずつ、運動をされると良いです。最初は歩きからです。この際だから剣術でも習われた方が良いでしょうね。剣術は習って置いて無駄になりませんので」


 「アーガス卿、頼みがあります。剣術を含め、家庭教師になっていただけないでしょうか。お礼は治療を含めてさせていただいきたいと思ってます。今の家庭教師は神々の名前を覚えさせられるだけで、何も教えてくれないのです」


 マクミリヤニ王子は俺に深々と頭を下げた。


 「頭を上げてください。家庭教師ですか? この前も大祠祭儀様から異教徒とか悪魔とか罵られた人間ですから、余り良くないかと」


 「賛成です! お兄様は肩の怪我が癒えていなく、二ヶ月は王都に滞在しなければ成らないんです! する事が無いはずなので私にもお願いします!」


 「その辺は大丈夫です。神学ばかりたたき込まれていますので。むしろその辺が聞きたいです」


 「メリーカーナ殿下に言われると断れないですね・・・わかりました。一ヶ月、家庭教師をしましょう。剣術は・・・俺の剣術は独特なのですがいいですか? あと授業に使いますので大きめの石板があれば」


 「もちろんです! ありがとうございます!」


 俺はマクミリヤニ王子に握手をされる。


 「じゃ、明日来ます! 師匠!」


 マクミリヤニ王子はニコニコ顔で帰っていった。足取りも軽く、散歩をしながら帰るのであろう。いつも騎士三名が直立不動で遠くで待っている、ご苦労だと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ