レングラン男爵家
第十六話 レングラン男爵家
「ミカファ様! ミカファ様は! 大変でございます!」
ミカファの執務室に、執事長のグーフルが入って来た。グーフルは初老の男性で、二代に渡ってレングラン男爵家に仕える忠臣である。頭髪は既に白くなり、薄くなりかけている。体重も落ち、痩せた老人の風合いを示すが、上等な黒い執事服と長年培った上品な威厳で身を包んでいた。
ミカファはレングラン男爵嫡男で、年は三十一歳になる。赤い髪と、精悍な無精髭が似合う偉丈夫である。
ミカファは面倒臭そうな顔をする。グーフルの大変、は大方弟のガーレルの話であった。銀級冒険者のガーレルだ。
「おう、どうした。流石にガーレルの馬鹿の話じゃないよな? 今は金級の冒険者がいるっていうじゃないか。金級がいたらどうにもならん。で、どうした?」
ミカファは執務席に置いてある羊皮紙から目を離し、ペンを置いた。椅子に深く座り、顔を上げる。
「いや、ガーレル様がギルドに捕縛されました。酒場でガーレル様が飲んでいた所を、踏み込まれて捕まったそうです。酒場の店主が聞いたところでは、金貨二百枚の強奪と冒険者を一人半殺しにしたようです・・・」
グーフルは報告をすると、汗を拭いた。
「いつものように迷惑金を被害者とギルドに渡しとけ・・・んんん? おい、誰に捕まったんだ」
「ええ、背の高い細い女と女エルフだそうです。ガーレル様は女エルフにご執心だったですから。どうやら女エルフの仲間を半殺しにしたようです」
「あちゃあ。こりゃあかん。細い女は金級のキーアキーラだ。女エルフはヴェルヘルナーゼじゃないのか? 地獄の女コンビにとっつかまったのか。ああ、ああ・・・おい、ちょっと待て。キーアキーラの仲間を半殺しにしたのか? あいつ馬鹿だと思っていたけど救いようの無い馬鹿だ!。頼むよ俺に迷惑を掛けないでくれよ! 金級の仲間を襲うなんて頭イカレているだろ!」
ミカファは頭を抱えて思わずうめき声を出した。
「迷惑金はいくらぐらいがいいでしょう?」
「待て、手遅れだ。恐らくギルドから正式に討伐が出てるな。ああ。あああ。ああ。どうするべか」
ミカファは顔から脂汗が流れ落ちた。
「あの、どういうことでしょうか・・・」
「そうか、余り知られていないかもしれんな。金級の冒険者の目の前で暴行と金を盗んだんだろ。あの馬鹿は。金級は歩くギルドだ。金級は子爵までの領地のギルド、白金級は伯爵までの領地のギルドを采配出来るんだ。金級の発言はギルドの発言と同じ、金級になるにはギルドと国王の承認がいるんだ。清廉で正義感に溢れた人間しかなれないと聞くな。それだけに金級の発言は重いんだよ、ギルドにとってな。よりによって金級のパーティを襲うなんて救いようがねぇよ」
「ど、どうしましょう」
「伯爵向けに手紙を書くか。ガーレルの廃嗣及び領外追放とオヤジ殿の引退だ。それしかねぇだろ。責任は全てオヤジに擦り付けだ。金級に見られているから、ガーレルが盗賊か犯罪人かは覆らん。くそ! 妹のハールレのこともあるのによ! ともかくだ、オヤジんとこ行くぞ。衛兵を五人連れてこい。オヤジを捕縛する」
「え?」
グーフルは言葉に詰まった。グーフルを見るミカファの視線は既に意志が固く、後戻り出来ない事を理解させた。
「わかりました。お待ち下さい」
ミカファは席に座ると、手紙を書き始めた。あらかた書き終えた頃、足音が響き渡った。
「ミカファ様! 衛兵五名到着しました!」
五人の衛兵とグーフルがミカファの執務室に入る。皆、緊張した顔だ。
「みんな、急にすまない。緊急事態が発生した。先ほど、弟のガーレルが強盗の罪でギルドに捕縛された」
「ギルドに打ち込みですね!」
衛兵の一人が興奮して発言する。
「違う。ガーレルの馬鹿野郎はなんと金級冒険者パーティの一人を襲い、半殺し。しかも金貨二百枚の強奪。金級が全てを見ていたんだろう。ガーレルの盗賊は既に認定され、覆らん。ギルドにカチ込んだら我々も盗賊と成る。でだ、事態収拾の為に先月、オヤジは引退して、しかもガーレルは放逐されていたことにする。これ以外で解決方法は無い。ガーレルは貴族位を剥奪、平民とする。オヤジはごねるだろうから、基本は幽閉する。作戦は以上。異論有る奴は切り捨てる」
「・・・」
想像以上の話に、衛兵達は黙ってしまった。
「ん? 全員反対か? 斬るぞ」
「いえ、わかりました!」
隊長は大きく返事をする。
「よし。行くぞ」
ミカファは立ち上がると、レングラン男爵の寝室へ向かう。執務室にいるとは思っていない。衛兵を引き連れて寝室に到着するが、ドアの向こうから女の嬌声が聞こえて来る。
「オヤジ!」
ミカファはドアを思いっきり開けて中に入る。
「きゃああああ!」
金髪の裸の女が毛布の中に潜り込む。
「女、失せろ」
ミカファと衛兵に睨まれ、女は走って逃げた。
「何事だ! 場をわきまえろ!」
レングラン男爵は下着を履きながら怒鳴り声を上げる。
「オヤジ、ガーレルの馬鹿がギルドに捕まった。金貨二百枚の強奪と半殺し一名だ。恐らく、ギルドの正式な盗賊討伐と思われます」
ミカファは静かに説明する。
「金を積んで出させろ! ギルドマスターのドンゲールを脅してでも出させろ! 命令だ! 一刻も早くガーレルを出させろ!」
レングラン男爵はミカファの襟首を掴み、唾を飛ばしながら怒号を放つ。
「無駄だ、オヤジ。弟が可愛いのはわかるが、金級冒険者のパーティを襲ったのです。金級が証言しているはずだから、無理です」
「ならその金級だかを脅せ! 殺してでもガーレルを出せ!」
「オヤジ、金級を殺すには兵が二千は要ります。彼奴等は人間じゃねぇ。無理だ。男爵家の兵力はオヤジの女とガーレルの裏金で二十しか兵が出せねぇ。オヤジ、先月引退した事になってくれねぇか。あとガーレルは貴族位から平民に落として放逐した事にする。これじゃねぇと家が守れねぇ」
「馬鹿な! 五月蠅い五月蠅い! 儂がギルドへ出向く! 兵を集めろ!」
「オヤジ、だから兵なんていないって。オヤジとガーレルが使いまくっているだろ。兵なんていねぇよ。こっちは詫びいれねぇと取り潰されるんだよ。男爵家なんぞいくらでもなり手がいるだろ。話にならん。離れに幽閉しろ」
「は!」
衛兵二名はレングラン男爵を部屋の外に連れ出した。
「こんな事が許されると思うのか!」
「許されるんだよ。文書は既に全て俺名義で出している。伯爵からはオヤジを早く引退させろと突っつかされているんだ。ガーレルは処分しろと顔を見る度に言われてるんだ。今更だよ。五年前から俺がレングラン男爵なんだ。事実上な」
「お前も殺す! ミカファ! 殺す!」
廊下に怒号が響き渡る。
「スッキリしたが、肉親を処分するなんていい気がしないな。ギルドに行ってから伯爵んとこ行くぞ。グーフル、手紙を書いておいたから伯爵んとこ持ってってくれ。俺もこっちが片付いたら向かうからよ」
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