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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第8章 展示会とゴーレム
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展示会 その二

第百四十六話 展示会 その二


 「アーガス卿、行こう行こう!」


 「待って下さい! グールン卿・・・」


 グールン卿は配下の魔道師を置き去りにして、伯爵の屋敷を後にした。ルーガルに向かう街道を走っている。宮廷魔道師らしいグールン卿はすぐに魔道馬車の操縦法を覚え、俺の魔道馬車で遠乗りに出かけた。グールン卿は三十代の陽気な人間で、屋敷に入るなり魔道馬車を見て興奮し、形ばかりの挨拶の後に魔道馬車に乗り続けている。試乗用の魔道馬車から離れないので俺の魔道馬車で遠乗りに誘ったのだ。


 「素晴らしい! 素晴らしい! どういう理屈なのだ?」


 「極簡単なミスリルのゴーレムを仕込んでいます。ハンドルのキーアキーラの文字はセンターコントロールゴーレムなんです」


 「ゴ、ゴーレムゥ?」


 「ええ。止まっていただけますか? 原理をお見せします」


 「う、うむ!」


 グールン卿が魔道馬車を止めると、俺はゴーレム化した銀貨を取り出す。小さな魔石の上に銀貨を置くと、銀貨はくるくると回り出す。


 「この銀貨は回れという命令を与えてあります。俺が出来るのは一軸の制御までです」


 「一軸だと?」


 「ええ。例えばパンチ。肩の関節と肘の関節、二つの軸を同時に制御しないとパンチを真っ直ぐ繰り出せないんです。肩を先に回転させるとドアを叩く動作になりますし、肘を先に回転させると下から叩くパンチになります。この制御は俺では無理ですね。やったら出来るでしょうが、一生を捧げないと駄目でしょうね」


 「成る程! アーガス卿は銀からミスリルを産む事が出来るんだな? その銀貨、極一部がミスリルになっているだろ?」


 「ええ。極一部は出来ます」


 「なんと・・・長らくの論争が・・・」


 「ミスリルの正体は魔力を帯びた銀で間違い無いですよ。さ、これは差し上げますから、今度は大型の魔道馬車に乗って下さい」


 「お、大型か? 小型の方は速くて楽しかったぞ。私は馬には乗れないから、乗馬気分でいいな。大型は動きがとろいのはないか?」


 「流石でございます。操縦が楽しいのは小型ですが、長い旅を考えた場合、体が楽なのは大型です。前線基地として使用も良いかもしれません」


 俺は小型を収納し、大型を取り出す。魔法の鞄を使用しても、グールン卿は驚かない。


 「南部を旅したんですが、宿が無い街があるんです。大型の魔道馬車があれば、野宿が要らないです。中に入って下さい。椅子の背もたれを外してここに嵌めると、ベッドになります。後の板を前にスライドすると二段ベッドになります。最大で四名まで就寝出来ますね」


 「おお・・・単に大きいだけかと思ったぞ・・・」


 「車体のサイドには簡易的な屋根がついておりまして、引っ張ると出て来ます。この収納を開けると椅子とテーブル、食器セットがでてきますので外で食事が出来ます。調理は大型には魔道竃が付属しますので、このように魔石をセットしていただけると加熱します」


 「魔道竃だと? アーガス卿は魔道具を作れるのか?」


 「ある程度は可能ですが、得意なのはアミュレットです。先ほどの銀を使ったアミュレットです」


 「成る程・・・メリーカーナ殿下が持たれていた指輪はアーガス卿が?」


 「ええ。お買い上げいただきました」


 「成る程・・・どのくらい売ったのだ?」


 「銀の通常版は会頭、俺、俺の婚約者、ソーラ様、ソーラ様の護衛に一つづつ。王女殿下に五個、お付きの騎士様が一つ持たれているはずです。総ミスリルの治療のアミュレットは王女殿下に一つ贈らさせていただきました。一つはルーディアの錬金術師ロビーリーサ、一つはルーガルに嫁ぐことになったオースルー・ジーウェヴォールに。残り二個は俺です。ミスリルだから強力に治療が出来ます。オースルーさんには街の人間全員を治療してもらいます。ルーガルの寿命を倍にする計画です。ルーガルでは三十でみな死んでいくんです」


 「なんと・・・殿下に贈っているのであれば良しとするか・・・他のアミュレットは良いが、治療のアミュレットは禁止させてもらいたいが・・・」


 「そういうわけにはいきません。人命を救うものですし、俺としてはどうしても欲しいと言われたら売るつもりです。作成が大変なので言われない限り売りませんけど。通常版は治療目的ではなく、病気と毒をある程度防ぐものなんです。数が増えたら王女殿下の評判が下がるのはわかりますが、どうしてグールン卿が気にするのです?」


 「・・・無くなった第二王女派に入りたかったのだ。これでいいか?」


 「あ、会頭のファンの方でしたか。成る程」


 「い、言うなよ! 妻にばれたら大変なんだ!」


 「大丈夫です。私が会えるわけがありません。さて、大型の中に乗って見てください。俺が操縦しましょう。さ、ベッドで横になって見て下さい」


 「いや、私が操縦しよう。なあアーガス卿、一つ教えて欲しい」


 「なんでしょうか?」


 「アーガス卿はキーアキーラ様とどういう知り合いなのだ? 実は、あんな笑顔を見たことが無くてだな、余りのお美しい笑顔に心を打たれたのだ。アーガス卿がいるから笑顔なのは理解する」


 大型の魔道馬車がルーディア目がけて進んで行く。心を打たれたらしいが、魔道馬車へ飛びついたのではと・・・


 「・・・パーティメンバーなんです。俺の婚約者、ヴェルヘルナーゼと二人でパーティを組んでいたようで、俺が後から入った形です。違いますね。一時期別行動をしていたようで、俺とヴェルヘルナーゼと行動していたらキーアキーラさんが混ざってきた感じですね」


 「そうか。キーアキーラ様を頼む・・・ヴェルヘルナーゼ? 魔剣士か? アーガス卿の奥方は」


 「ご存じでしたか?」


 「ああそうか、アーガス卿がドラゴンブレスだったものな。アーガス卿は我々宮廷魔術師を中心に注目をしている・・・着いたようだな。うむ、やはり乗って楽しいのは小型だな。大型と小型は一長一短という訳か・・・なるほどな・・・悩むな」


 伯爵の屋敷に戻ると、伯爵家の執事が待っていた。お茶らしい。


 「お、来たか。ダカ、まあ座れ。珍しいものを出すぞ。王国では関係者以外ではメリーしか飲んだ事のない、紅茶というお茶だ」


 案内された部屋のテーブルは伯爵夫妻、ソーラ、公爵の使者、キーアキーラ、レングラン男爵が座っている。


 「それでは末席にて失礼させていただきます。ベーフ子爵、公爵家では魔道馬車を購入するのですか? 私は小型と大型どちらを買うか迷っています」


 グールン卿は席に座ると、ハールレがお茶を配膳する。おつまみのクッキーは伯爵家のメイドが配膳する。


 「当家は小型の馬付きにしました。大型と確かに迷うところです。グールン卿はいかがです?」


 公爵の使者、ベーフ卿は宮廷魔道師であるグールン卿を敬っている感じである。


 「迷っております。小型にするか、大型にするか・・・白いカップですね」


 「流石気が付いたか。ルーディアで焼いた純白のカップだ。紅茶の赤い色が映えるんだ。メリーがルーガルに来たときに試作品を出したんだ。随分と気に入っていてな、先日ようやっと出荷できる品が出来たので贈った所だ。恐らくメリーには届いていないだろうな。冬頃に販売を開始する運びだ」


 「メリーカーナ殿下より先に頂戴するのは気が引けますが・・・良い香りですね」


 「流石は美食で鳴り響く公爵家の人間だな。飲んだ事あるか?」


 「いえ。驚きです。これは、ほどよい苦みと甘み・・・甘い花茶や渋茶とは違い、飲みやすい。どうやってこれを・・・」


 「ルーガルのミカファの屋敷で育てている。細かくは秘密だ。デーク叔父、いや妻のダールファーイが好きそうじゃないか?」


 「ですね・・・少し在庫有りませんか? 奥方様が喜びます」


 「仕方ないな・・・二箱譲る。一箱金三枚だが、今回はサービスしておく」


 「ありがとうございます・・・ではこの焼き菓子を・・・甘い・・・」


 「どうだ? 王都では果物以外の甘味は珍しいだろ。麦から甘味を作っているから、少ししか作れないんだ」


 「そうですか・・・残念です。奥様が喜ぶ焼き菓子ですのに」


 一同は紅茶を飲みながら、比較的和やかに時間が進む。夕刻になり、食事を摂ることになった。


 「さ、少し早いが夕食にするか。最近我が商会では料理に凝っていてだな、一品目は野菜のポトフと言う料理だ。フリンカ、出してくれ」


 料理を出すのは伯爵家のメイドが動いている。商会のメンバーは基本裏方だ。俺も部屋の隅で待機している。俺は料理の反応が心配でドキドキしている。


 ポトフが配膳されると、皆はスープを口に含む。


 「こ、これは・・・」


 ベーフ子爵は驚きの声を上げる。伯爵夫妻、ソーラも驚きの表情だ。


 「フフフ。旨いだろ? メリーの名を付けたスープに野菜を入れて煮たものなんだ」


 「ほう、これが噂のメリーカーナスープ・・・」


 「ん? ベーフ卿は知っているのですかな?」


 伯爵は意外そうな顔をする。


 「伯爵様、公爵夫妻が珍しいスープがあるからと言われて食事を共にされたそうです。驚きの余り、レシピを聞くという失礼をしてしまったそうなのですが、秘密と言われて帰ってきたらしいんです」


 「だろうな。メリーにはレシピを教えていないからな。作れるのはうちのユージーとフリンカという者だけなんだ」


 「アーガス卿が?」


 「ああ。食の追求の為に冒険者をしている感じの人間なんだ。では二品目、南部のレコール牛をローストしたものをパンに挟んでいる。うち特製のパンだ、旨いぞ。新たに発売を考えている南部酒、ウィシュケも付ける。ウィシュケは酒精の強い南部酒だ」


 ローストビーフサンドとウィシュケが運ばれると、ベーフ卿とグールン卿はウィシュケをあおる。


 「ベーフ卿、メリーカーナ殿下が珍しい酒を王に献上したと聞きましたが、確かですか?」


 グールン卿がベーフ卿に話しかける。


 「高級貴族の集まりで振る舞われたと聞きます。酒精の強い酒だと聞きました」


 「ベーフ卿、これがそうですな。確かルーガルに酒造を作るとか」


 「はい、伯爵様。ルーガルに作っています。事業としてはキーアキーラ様の商会になります」


 レングラン男爵は短く言葉を繋ぐ。


 「では、こちらのパンを・・・牛肉でしたか・・・旨い・・・」


 「メリーの移動中の食事として作った品なんだ。移動中だとまともな食事にならないからな」


 「変わった味のソースですね・・・」


 「祝福されたソースと新しい赤いソースを使っている。祝福されたソースはメリーがミカファの妹、ハールレの婚約を祝福したのが名前だ。ユージーは新しい料理の名前は女性か土地の名前を付けると言うので、その場にいたハールレの名になったんだ。赤いのは名前が無いんだったな・・・名前で呼ぶのは面倒ながら赤いソースでいいな」


 「うん、うん、確かに行動中に食べる硬いパンと干し肉を考えると良いですね」


 グールン子爵はモリモリ食べている。


 「魔法の鞄に入れるならいいが、真夏は傷むだろうな。どうだ?」


 「成る程、その発想は無かったですね。魔法の鞄にですね。執務に追われているときこれが出てくると嬉しいですね。食べながら書類が読めますよ」


 グールン子爵が自虐げにいうと、ベーフ卿も苦笑いをする。お互い苦労しているらしい。


 「はっはっは。お前ら食うのが早いな。婆や、次が自信作なんだ。サンドは残してくれないか? 次を食べて欲しい。二日間煮込んだスープで作ったレコール牛のシチューだ」


 三品目が運ばれてくる。


 「こ、これは・・・」


 三品目、ビーフシチューは全員が黙々と食べた。


 「牛肉がこんなに旨いなんて・・・」


 「旨いだろ、ベーフ殿。公爵にはたまに南部に来いと言っておけ。明日から、希望者には銀貨五枚で今の食事を出そうかと思っている。レコール牛、紅茶、ウィシュケの宣伝だ」


 「え? たった銀貨五枚で?」


 ベーフ卿が驚きの声を上げる。


 「キーアキーラ、駄目よ。安すぎるわ。金貨一枚を取りなさい」


 「婆や、それでは宣伝にならんだろう」


 「大丈夫よ。王女殿下の名をいただいたスープが出るんだもの。しかも、ここでしか紅茶が飲めないでしょう? 王女殿下が望まれてようやっと贈ることができた紅茶をね。流石にまだ王都には届かないから、王女殿下より先にいただける唯一の機会なのよ。金貨二枚でもいいんじゃないかしら。しかも当家で食事ができるのよ。商家の人達にはまず無い機会よ。明日は殺到するわよ」


 「そうか? じゃあ金貨二枚にするか。実際、食材が貴重過ぎて、まだ値が付けられないんだ」


 「ほう、そのような貴重な食材を?」


 「ああ、使っているんだろ? ユージー?」


 脇に控えていた俺に不意に声がかかった。


 「ええ。使っています。詳しくは秘密です」


 ベーフ卿は秘密と聞くと、残念そうな顔をする。


 「ふう。お腹いっぱいだわ。パンを余してしまってごめんなさいね」


 「ばあや、気にするな。皆はどうだ・・・ダカは相変わらず大食らいだな。足りないだろ? お前は魔力の維持が大変だからな。ユージー、何か出せないか?」


 「では、こちらのルーガルで新しく作った保存食を食べていただこうかと」


 俺は乾燥パスタを魔法の鞄から取り出すと、グールン子爵に手渡した。


 「このまま囓るのか?」


 「いえ、茹でると柔らかくなります。どうやら魔道馬車をお買い上げいただけるみたいですので、特別に極簡単でそれなりに美味しいレシピを紹介させていただきます」


 「魔道竃が見たい。茹でるだけならここでお願いできないか?」


 「そうだな。はしたないが、一度皆に見てもらいたい。ユージー頼む」


 俺はキーアキーラの許可がでたので、フリンカを呼んでテーブルでの調理を行う事にした。


 「まずは紹介する。今日の料理を作ったフリンカだ。当商会のメイドなのだが、ユージーに料理をたたき込まれている最中だ」


 フリンカが緊張した顔でカーテシーを行う。


 「若いな・・・」


 「ベーフ殿、フリンカはやらんぞ」


 「駄目でしょうか?」


 「駄目だ。さ、頼む」


 俺は新品の魔道竃を取り出し、湯を沸かす。沸くと乾燥パスタと塩を入れ、茹でる。茹でるのは火力の弱い魔道竃を使う。茹で上がると皿に盛る。後はオリーブ油とチーズを振り掛けて終わりだ。


 「どうぞ。塩で茹でた後、オリーブ油とチーズを削って混ぜて終わりです。手間の割には美味しいです。あくまでも手間の割に、ですが。水と火がある場所であれば何処でも食べれますね。レシピも簡単ですし」


 「どれ、食べてみます・・・うん、うん。割といけますよ」


 俺は大盛りを提供したが、一気に半分を食べてしまっている。


 「グールン子爵、お待ち下さい。フリンカ、赤いソースを追加して」


 フリンカはキッチンへ戻ると、椀にトマトソースを入れてきた。グールン子爵の皿にソースを掛けていく。


 「先ほどのパンに使用した赤いソースです。こちらも材料がごく少量しかなく、ここで食べていただく量しかないんです」


 言うやいなや、グールン子爵は旨そうに食べ始める。


 「ふう。大変旨かった。アーガス卿、感謝する。魔道竃とその保存食は入手は可能だろうか」


 「ダカ、魔道馬車を二つ買っていけ。魔法の鞄に収納しておくんだ。状況と気分で使い分けるんだ。保存食、乾燥パスタは試作品を全てダカに分けてやってくれ、ミカファ」


 「キーアキーラ様に言われたらしかたないですね。今ある乾燥パスタを全てお渡ししましょう。先ほどの赤いソースも、この乾燥パスタもルーガルで採れた食材を使っています。いかがだったでしょうか? レコールの牛も美味しいのですが、ルーガルの希少な食材もお忘れなく」


 「ほう、今日の食材は肉以外はルーガルで?」


 レングラン男爵の発言に、食通公爵家の使いであるベーフ卿は興味をそそられたらしい。


 「ええ。本当に始めたばかりで、売るには全く足りないです。取り扱いはキーアキーラ様の商会になる予定です」


 男爵は頭を下げる。


 「わかった・・・乾燥した保存食、当家にもわけて欲しい」


 「駄目です! 私の貴重な夜食なのです!」


 「そう言うな。沢山有るから、半分づつにしろ」


 「キーアキーラ様、先ほどのお酒も分けていただけませんか? 牛の在庫はありますか?」


 「いいぞ。ウィシュケは今の所、ミハカール王国産の瑠璃のグラスとのセットで金貨四枚だ。牛肉は一塊金貨三枚。牛肉は傷むから鞄持ち以外には売らないんだ。ダカ、持っていってやれ」


 俺はサンプルのウィシュケのセットをテーブルの上に置く。


 「ほう、上等な木材ですね」


 「ルーガルの木だ。開けるぞ」


 キーアキーラが開けると、瑠璃の瓶二本と瑠璃のグラス四個が入っている。


 「どうだ? 良い感じだろ? 公爵家の贈り物に使えそうか?」


 「箱にも、ウィシュケの瓶のラベルにもキーアキーラ様のお名前が」


 「それな、うちの商会の商品は基本、私の名前を付けて売る。ウィシュケは瑠璃のグラスで飲んでもらいたいんだ。だからセットにした。あまり普及していないよな。セットにすると格好良くて気に入っているんだ。どうだ?」


 「全部買いましょう。牛肉も全部買います」


 「ベーフ殿、二十箱しか無いんだ。明日売る分もあるから、十箱だ。牛は五塊わけてやる。うちの売る分がなくなるからな」


 「わかりました。公爵に良いお土産ができました」


 ベーフ卿は魔道馬車より食材を仕入れる事ができて嬉しそうだった。


 「さ、ダカは魔道馬車はどうする?」


 「そうですね・・・やはり小型で、ワイヴァーン仕様でお願いします。ミスリルの値が上がりつつあるから、私が二つ買うと買えない人が出て来ますね・・・いや、人ごとか・・・両方買います」


 「よし、流石次期筆頭魔術師だ」


 「で、お願いがあるんです」


 グールン卿がキーアキーラに改まった顔をする。


 「どうせユージーだろ? 明日、ライカと例の本を見せてやれ。明日だぞ」


 「ん? 本ですか? 本であれば今でも」


 グールン卿は立ち上がると、俺の方を見た。


 「談話室にいこう」


 「あの、まだ食事をですね・・・」


 「ああ、私は気にしないから大丈夫だ。ほら、先ほどのパンなら問題ないだろ。行くぞ」


 俺は伯爵をちらりと見た。伯爵は小さく行けと手で指示した。俺は諦めて談話室に向かったグールン卿を追いかけるため立ち上がった。


 「助かりましたな。子爵位とはいえ、伯爵位は間違いのない御仁だからな。では我々は美味しくお酒を楽しみましょう」


 「フリンカ、婆やとフィーネソーにクレープを出してくれ。お茶もな。酒のつまみにチキンを刻んで持ってきてくれ。終わったらユージーに食事を持って行ってやれ」


 「アーガス卿、グールン卿の相手を頼むぞ」


 伯爵は大きく頷きながら俺に言った。

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