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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第8章 展示会とゴーレム
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展示会 その一

第百四十五話 展示会 その一


 「みんな聞いてくれ。今日は魔道馬車の展示会だ。ぶっちゃけ、大型の魔道馬車を二台も売ったので、無理して売る必要は無いんだ。気楽に行こう。紅茶とレコール牛、ウィシュケの紹介が主目的になるな。来客には銀貨五枚で紅茶、クッキー、ローストビーフサンド、牛のシチュー、ポトフを出す。ローストビーフサンドは女性では食べきれない気がするな。持ち帰らせるかもな・・・女性は半分にするか。ヴェルヘルナーゼ、オースルー、フリンカ、ハールレは調理というか、盛りつけと配膳を頼む。フローヴとズーフィーは試乗だ。馬が繋がれた馬車は四台だ。これは馬車ギルドから二人頼んである。リークは販売担当だ。注文など無いだろうが、沢山注文が来たら納入は何時になるか考えながら返答してくれ。ユージーは自由に動いて説明を頼む。モノルゲッテは販売を頼む。リークの手伝いだ。ロビーリーサは上がり症だから留守番だな」


 キーアキーラの説明の後、リークが口を開いた。


 「一つ、私から説明します。魔道馬車、大型が金貨千枚。小型が八百枚。小型のワイヴァーン膜仕様は金貨千枚。シャーシーは馬車ギルドの販売になります。価格は馬車ギルドに聞いてもらう事になります。ウィシュケのセットは金貨四枚、レコール牛は一塊金貨三枚。紅茶はまだ販売しません。冬に入ったら販売です。王女殿下の口に入るまでは販売できない、ということです」


 「よし! じゃあ行くか」


 いよいよ展示会。展示会の中身はリークが全てやってくれている。俺、フリンカとヴェルヘルナーゼでパンを焼いたり、シチューを作った。


 ルーガルからレングラン男爵以下、ズーフィー、オースルー、モノルゲッテ、ハールレが助太刀で参加してもらっている。


 伯爵家に行くと、馬車の準備が出来ていた。ヴェルヘルナーゼと共に魔道馬車を四台並べる。並べ終わると、ヴェルヘルナーゼは屋敷の一階に行く。料理の準備だ。


 「おはようございます。馬車ギルドのマスター、ゲゲルーギと申します。この度は展示会の開催、おめでとうございます」


 腹の出た中年男性が俺に握手を求めて来た。


 「はじめまして。副会頭のユージー・アーガスです。こちらこそ、馬車のシャーシーを扱っていただき、大変助かっています。我々は販売網を全く持っていませんから」


 「お礼はこちらから言わせてください。しかし、もの凄い魔道具ですな。板バネ付きの馬車にも驚きましたが、魔道具付きの馬車には肝を潰しました。余りに乗り心地が良いので試走で寝てしまいました。で、こちらが噂の走る部屋の魔道馬車ですな。こちらが小型の魔道馬車・・・ふむ。いいですな」


 「実際はお勧めしないつもりなんです。見栄えは絶対に馬で曳いた方がいいですから。馭者や厩舎の仕事を奪ってしまいますからね。ターゲットは高位の冒険者かなと思っています。厩舎を持っていない、財力に余裕があって魔力を供給出来る人がターゲットです」


 「なるほど・・・」


 「どうぞ、大型の中に入ってください。女性が野宿をしなくても良いように開発した魔道馬車です。当商会の初号機はメリーカーナ王女殿下がお買いになられました。こうするとベッドになります」


 「おお! これはまた凄い物を・・・」


 「揺れないので、王女殿下は移動中お休みになられていました。移動時の負担をかなり減らせると思っています」


 「走る部屋ですな・・・いやはや、馬車ギルドにも欲しいですな。小型の方も見せていただけませんか」


 「どうぞどうぞ。大型は家のイメージですのでオイル仕上げですが、小型は黒いニス仕上げです。日射しが強いときはこうやって幌を簡単に展開できます。四台限定でワイヴァーンの膜仕様を作ります。正直ワイヴァーンの膜の値段が良くわからないんですが、通常の綿仕様が金貨八百枚、ワイヴァーン仕様が金貨千枚です。大型は金貨千枚です」


 「むむむ・・・馬車ギルドの扱うシャーシーに架装してもらうことはできるのでしょうか。王都以外ではここまでの架装は難しいですな・・・」


 「そうなんですか? 我々はルーガルの産業支援の意味合いもあってルーガルで作るんですけどね。ただ、細かい細工は出来ないんです。全面に彫刻を入れたり、金細工を施したり、紋章を入れたりですね。このままなら可能です。価格はうちのリークと話してほしいですね」


 「いえいえ。結構でございます。では、リークさんと話してきます」


 俺は馬車ギルドの魔道馬車を見に行く。


 「おはようございます。キーヴェルユー・リーフローフ商会のユージー・アーガスです。この度は当商会のシャーシーを扱っていただきありがとうございます」


 俺が挨拶すると、細身の三十代の男が近づいて来た。


 「アーガス卿、お噂は聞いています。馬車ギルド職員のジルビです。ひとつ聞きたいんですが、魔道具有りと無し、何が違うのか良くわからないんです・・・」


 「ああ、そうですね。人を呼んで貰えます? 持ち上げて落とすと違いがわかるんです」


 馬車ギルドの職員を集め、最初に魔道具無しシャーシーを三十センチほど持ち上げ、手を放してもらった。シャーシーは二、三度跳ねてしまう。


 魔道具付きを三十センチの高さから落とすと跳ねなかった。ショックアブソーバー効果を付与しているからだ。


 「ああ、跳ねない!」


 「ええ。板バネだけだと、ショックを吸収してもバネが伸びて振動が持続してしまうんです。魔道具はバネが伸びる動きを制限しています。乗り心地の秘密ですね」


 「なるほど・・・ようやく理解出来ました・・・素晴らしい魔道具ですね・・・伯爵様が見えられましたね」


 伯爵夫妻と母親のソーラが現れた。


 「キーアキーラ様、ご機嫌麗しゅう。今日は中央から宮廷魔道師と公爵家の代理が来る手はずです。明日以降は商人や下級貴族ですね。昼頃来られるらしい。来られたら食事を頼みます。で、魔道馬車に乗せてもらいたい」


 俺は伯爵一行を大型に案内し、中に乗っていただいた。


 「これか。王女殿下が乗られていたのは」


 「はい。ではフローヴさん、動かしてください」


 俺、キーアキーラ、伯爵夫妻とソーラを乗せて、大型魔道馬車は動き始める。俺は外が見えるように木窓を開けた。


 動き始めると、伯爵は驚きの声を上げる。


 「揺れないな・・・驚きだ。王女殿下はお休みになられていたんだろう? 何処にお休みになられたのだ」


 俺は座席を一つ、ベッドにした。


 「背もたれを動かすとベッドになります。後方の板を前に引き出すと、二段ベッドになります」


 「なるほど・・・書類仕事も出来るな。当家も一台貰おうか」


 伯爵は頷きながら中を食い入る様に見ている。


 「オーリー、小型と、普通の馬車も乗って見ろ。お前みたいな大貴族は見栄えの良い馬車を薦めているぞ。厩舎の仕事を奪ってしまうからな」


 「確かにキーアキーラ様の言うとおりです・・・これなら母上も旅が出来るのではないか?」


 「そうねえ。確かに楽よ。領内を巡ることが出来るかもね」


 伯爵一行は小型魔道馬車に乗る。俺が操縦に入る。


 「ふむ、こちらの方が走っている感じがするな。馬が居ないのに走るのは不思議であるな・・・」


 「オーリーがパレードをするんだったら小型だな。日射しが強い場合は後の幌を出せばいい。ユージー、出してやれ。四台限定でワイヴァーンの翼膜に出来る。高いがな。因みにメリーを助けたときに狩ったワイヴァーンだ」


 俺は魔道馬車を止めると、幌を展開する。


 「なんと・・・おお、良いですな」


 「だろう? ユージーの渾身の商品だからな。小型の方がわたしは格好いいと思うな」


 「ふむ。なるほど。では小型の馬が引く馬車に乗ろうか・・・まだ架装ができていないのか?」


 「伯爵様、馬で曳く方は馬車ギルドの販売になります。ご注文された方が使っている工房に出せるよう、シャーシーだけの販売です。無論、こちらと同じく架装は可能です」


 「なるほど。ワイヴァーンの膜で馬車仕様と、馬無しの大きい方を貰う。幾らだ」


 「両方で金貨千五百枚前後と思われます。馬の方の価格は、後ほど馬車ギルドに価格を出させます」


 「ふむ。では馬で曳く方を乗ってみようか。フィーネソー、母上を頼む」


 俺は男爵を馬車ギルドの馬車に引き連れて行く。


 「伯爵様が小型、ワイヴァーン仕様でうちの魔道馬車と同じ架装でお買い上げです。試乗をお願いします」


 「はい! 畏まりました!」


 伯爵は椅子があるだけの馬車に乗り込む。


 「ユージー、お前も乗って説明しろ」


 「は。お隣を失礼します」


 馭者は鞭を入れ、馬車を動かした。


 「馬車は魔道具の有り無しを設定しています。馭者席にキーアキーラのロゴが入るのは魔道具有りです。乗り心地は先ほどの魔道馬車と全く同じです」


 「ふむ。やはり馬がいると落ち着くな」


 「はい」


 「小型の魔道馬車のメリットは何なのだ? 無くても良いのではないか?」


 「小型の魔道馬車は今の速度の四倍は出ます。大型は三倍ですね。速度が必要であれば、小型の魔道馬車が良いかと。我々は南部を駆け回っていますので、小型を使っています。軽いので魔力の使用量が少ないです。常用するなら小型の方が良いかと。長い旅で魔力に心配が無いなら大型でしょう」


 「速いのか?」


 「はい。大型も十分速いですので、問題は無いかと」


 「確かに三倍も出るなら構わないか。わかった。素晴らしい魔道具だ。宮廷魔術師殿は買う気満々だから、鴨にしてやれ。公爵様はスープと酒に興味があるらしい。食事メインだな」


 「伯爵様、新メニューを用意させていただきました。会頭も旨いと言っています。是非ご賞味ください。レコールの牛は本当に旨いです」


 「ふむ。楽しみにしておこう」


 伯爵の試乗が終わった頃、物々しい一行が入って来た。馬車三台に騎乗した騎士十名。


 「お、来たな。オーリー、宮廷魔術師は誰が来るんだ?」


 「ダカルデーリ・グールン子爵です」


 「ダカが来るのか? ユージー、一週間ダカの相手をしてやれ。ていうか、お前が相手だ。展示会はもう良いぞ。ライカとあの本も見せてやれ。アミュレットは売ってもいいが、魔剣は禁止な。無詠唱も禁止だ。ゴーレム技術を教えてやれ。奴も鞄持ちだから魔道馬車を両方買わせろ」


 「グールン卿の相手をしてくれるのか。助かる。あの御仁はどうも苦手だ」


 「オーリー、良い奴だが相手は嫌だな。恩を売っておいて良い相手だがな・・・」


 馬車から二人の男が現れた。


 「それって・・・」


 「魔道馬鹿なんだ。困った奴だ。ユージーと話が合うと思うぞ」

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