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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第8章 展示会とゴーレム
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展示会の準備 その二

第百四十四話 展示会の準備 その二


 翌日、キーアキーラはリーク、フローヴ、ロビーリーサと共にルーガルに向かった。リークはお金の相談、キーアキーラはオースルーにアミュレットを渡しに行くのだ。フローヴは運転手で、ロビーリーサは魔道馬車を出したのだろう。牛の骨のスープはフリンカにまかせ、ヴェルヘルナーゼと二人で鍛冶屋を訪れている。


 「あら! 出来ているわよ! あなた! アーガス卿がきたわよ!」


 奥さんのボーローは工房へ連れて行ってくれる。工房は馬車のシャーシーで溢れている。


 「おう、出来ている。来い」


 ドワーフの鍛冶べべルコに案内され、作業台の上に並べられた煉獄刀を手に取る。


 「やはり綺麗ね」

 「ああ。流石だ」


 「ふ。当たり前だ。王女殿下へ献上するんだろう。お前さんの言うとおり、細かく作ったぜ。ほら、魔剣にするんだろう」


 柄には銀が溶かし込んである。俺は祈りを込める。振ると白色の虹色に光るエフェクト。姉妹であるキーアキーラと同じ。実際に刀を振るわないであろうメリーカーナ王女には嘘発見機能を付与する。抜くと後光が差す機能も追加しておく。神々しく見えるはずである。


 「よし。出来た」


 「うむ」


 べべルコは刀を組み上げ、魔石も仕込んでくれる。


 「確認してくれ」


 俺は鞘に収まった煉獄刀を見る。どう見ても、立派な刀だ。鯉口を切り、居合いで空を切る。刀は白色の軌跡を描く。重量バランスが良く、振りやすい。


 「ベベルコさんの最高傑作です。刀を振らない王女殿下には勿体ない気がする」


 「まあそうは言わないの。後が光ったわよ。神々しいわ。で、嘘をつけば良いのかしら?」


 「うん。名前を呼ぶから違うって言ってみて」


 「いいわよ」


 「ヴェルヘルナーゼ」


 「違うわ」


 刀から、嘘だという感じが伝わってきた。


 「あ、刀が嘘だって判断した。よし、完成だ」


 「ほう、嘘がわかるのか?」


 「ええ。王宮じゃ必要じゃないかな」


 「そんな恐ろしいところなのか・・・あとあるか?」


 「弾を二種類お願いしたいんです。何時ものサイズと、この大きいサイズ」


 「真鍮でいいのか?」


 「ええ。でも出来るなら芯を鉛で。真鍮は出来るだけ薄く」


 「鉛と真鍮の二重構造か・・・わかった。やってみる。数は?」


 「小は千、大は三百。金貨三十枚置いておきます」


 「わかった。急ぐんだよな。二重構造が難しかったら真鍮だけにする。小さい方は難しいと思う」


 俺は頷くと、金貨を前払いする。フルメタルジャケット弾である。鉛は真鍮より三割重たいから、その分威力が増すはずだ。どうして最初から鉛にしなかったのかなと考えてしまう。真鍮でも十分な威力はあるが。


 「ベベルコさん、大きい方の弾は金貨一万枚の価値があるから、無くさないでくださいね」


 「一万枚! わ、うお、とんでもねえもんを・・・」


 びびるべべルコを尻目に、俺達は鍛冶場を後にした。


 商会に戻ると、俺は山のように積まれている魔道竃と魔道馬車の錬金を行う。俺が王都に行っている間の稼ぎだそうだ。


 ダンヒレはルーガルで酒造開設の準備をしているらしい。もうすぐ蒸留器が出来るらしい。出来たら製造を開始するようだ。


 展示会が終わったら新店舗を作り、物販を開始する。俺の仕事は新店舗の監修と錬金だそうだ。俺は魔道馬車の部品八個を錬金し、今日の作業を切り上げた。時間にして五分だ。


 フリンカは順調にデミグラスソースを仕上げている。今日は二回目のスープを取っている。する事が無くなったので、俺は新店舗の草案を練っている。木の壁にするか、真っ白な漆喰の壁にするか。ウォールナットの壁にするか。悩んでいる。


 「何悩んでいるの?」


 「新店舗さ。木の壁にするか、真っ白な漆喰にするか」


 「普通のお店は木の壁ね」


 「あ、そうか。じゃあ漆喰にしよう」


 壁は漆喰と煉瓦にする。主は漆喰、角や部分的に薄く焼いた煉瓦を接着する。メニューの書き方、看板のデザイン・・・俺が前の世界で見たお洒落なカフェの記憶でデザインを描いていく。棚の作り方、飾る物。俺はどんどん会議室の石版に書いていく。


 「店名を決めないとな・・・ヴェルヘルナーゼスでいいか」


 「ええ? うちの名前?」


 「店長だしいいよ。美人だしね」


 「美人って、もう」


 看板のデザインも書いていく。


 「随分細かいのね」


 「まあね。作るのは俺が王都に行ってからだろ? 今のうちに書いておくさ」


 「棚を付けて、カップを飾るの? お茶の箱も?」


 「うん。喫茶店を印象付ける」


 「喫茶店かあ。王都にはあるけど、ルーディアには無いよね」


 「無いの?」


 「無いわよ」


 「そうか、儲からないかもしれないな」


 「まあ品物を売るお店で良いじゃない」


 「そうだね」


 「さ、フリンカはどうかな?」


 キッチンへ行くと、フリンカが灰汁を掬っていた。


 「ユージーさん! 出来ましたよ! 一番目のスープと二番目のスープ! 大量で嬉しいです!」


 大鍋に二つ、スープが採れている。


 「じゃあ混ぜて沸騰させて。灰汁を取ったら裏ごしだな」


 フリンカは大鍋をもう一つ運び、一番と二番のスープを半分づつ混ぜ、煮始める。灰汁を掬い、スープを完成させる。


 「よし、じゃあこのスープからシチューに使うソースを作るぞ。小麦をバターで炒めるんだ。茶色くなるまでな。で、このクミンの粉と蜂蜜を入れて四刻ほど煮て完成」


 ヴェルヘルナーゼに頼んで牛肉をぶつ切りにしていく。空いた大鍋に大量の牛肉を入れ、葡萄酒で煮ていく。


 「良い匂いよ・・・」


 一刻煮た後、デミグラスソースを味見したら十分に美味しいので玉葱、人参、トマトを切って鍋に入れる。ローリエ、タイムを加えて煮込む。火が通った頃合いで塩、胡椒、唐辛子で味を調える。


 「良し、味見するか。三人の秘密だぜ」


 食堂でパンと一緒に牛のシチューを食べた。


 「お、美味しいです・・・尊敬します、ユージーさん」


 「ほ、ほんとね・・・牛肉ってこんなにおいしいのね。しかし凄い手間のかかる料理ね」


 「まあでもまだ煮込みが足りないな。もっと旨くなるよ」


 「フリンカちゃん、覚えた?」


 「はい! 忘れないうちにレシピを書いておきます!」


 「喫茶店のメインはこれでしょうね。一皿銀貨一枚貰わないと割に合わないわね」


 美味しく牛のシチューを食べていたらキーアキーラが帰ってきた。


 「ふう、疲れたな・・・良い匂いがする」


 「お帰りなさい! 今お持ちします!」


 フリンカは牛のシチューとパンを持ってくる。


 「おおお、凄い良い香りだ・・・遠慮などしないぞ・・・うんうん」


 珍しく、キーアキーラが興奮している。


 「う、旨い」


 キーアキーラが無言で食べている。あっと言う間に食べ尽くした。


 「ふう。この商会を作ってからな、無駄使いしなくなったよな。我々は宝石には興味が無いし、旨い物も食い放題だしな・・・フリンカが作ったのか?」


 「スープまでは作りました! 二日間も煮込みました! 美味しいシチューはユージーさんです!」


 「あ、旨いのは肉が美味しいからですよ。やはりレコールの牛は最高ですね」


 「ああそうだ。紅茶は一箱金二枚で話が付いた。売値は金五枚だな。投資銀行を使っていないから全額が男爵家に入る。独占契約も結んできた。絶対にあの畑は手放さないぞ。その他の薬草も独占契約を結んだ。確か独占できるのは五年だったか。ギルドの買い取り価格の半額にしている。まだまだ超高級材料だな。オースルーにはアミュレットを渡してきた。既に治療院はスタートして、大人は大銅貨一枚、子供は小銅貨五枚で怪我の治療を開始している。払えない人は聖堂の掃除をさせているそうだ。オースルーがアミュレットを使いこなせるようになったらルーガルの街の全員を治療する。だんだんお前の考えが実現してきたぞ。あ、畑の作物だがな、四半分はお前に所有権があり、無償で提供すると寄り合いで全会一致で決まったそうだ。何を送るか揉めたそうだが、お前が食い物が喜ぶと、馬車工房のクーコから聞いて決めたそうだ。広場に銅像を建てるらしい。お前のな。男爵はお前が好まないって反対したんだが、ルーガルに記録が必要だという寄り合いの熱意に負けたらしい」


 「え? 食材は嬉しいけど銅像はちょっと・・・」


 「流石だな、ルーガルの英雄め。民から愛される、幸せ者だな」


 「そ、そうですか?」


 「ウフフ。街に銅像を建てられる冒険者なんて聞いた事無いわ」


 「まあ、お前がもうルーガルに戻って来ないと思っているんだ。違うな、ルーガルに引き留めるべきではないと思っている様だぞ。仕方ないな。王都行きの話は皆が知っているからな」


 「ええ? 戻って来ますよ?」


 「はっはっは。男爵は伯爵に第一回の報告書をだしたぞ。さっき渡してきた。麦にもの凄く興味を持っている。当たり前だな。あとだな、南部の貴族の子弟が入学するらしい。恐らくお前の事を良く知っているだろうから、口止めをする事で示し合わせるそうだ。でも会った訳じゃないし、大丈夫だろ」


 「俺、やり過ぎの様な気がしてきた・・・」


 「あ、そうそう。メリーの話も聞こえて来たぞ。どうやら治療魔法をマスターしたらしいな。光の王女と呼ばれ始めているようだ。公侯爵達の病気の治療を何件かやったらしいな。多分指輪を嵌めただけだけどな。今年の魔道学園の最大の出来事は光の王女を迎える栄誉らしいぞ。大賢者の再来という声も出始めているな」


 「へえ」


 「大賢者の再来もユージーの手駒だとは誰も思わないだろうな。はっはっは。紅茶と剣、アミュレットは伯爵経由で献上になった。明日持って行ってやる。伯爵は大変喜んでいたぞ。説明書きをしておいてくれ」


 「そ、そうですか。手駒って・・・」


 俺は羊皮紙に剣の使い方を書いていく。


 「ウフフ。やり過ぎがちょうどいいのよ。何人助かると思っているのよ。南部の人は毎日ユージーを拝まなくちゃ駄目ね。ウフフ」


 「く、ヴェルヘルナーゼだって他人ひとごとじゃ無いんだぜ」


 「うちはいいよ。だってあなたのついでだもの」


 「ああ、そうだ。ドールマーリっていう吟遊詩人がルーガルに来たぞ。お前達の歌だったぞ。広場で歌っていたが街の人間全員が来ていたんじゃないか? 私も聞いたけど凄い熱狂ぶりだったな。ドールマーリは帰してもらえず、何回も歌っていたな。はっはっは」


 「えええ?」


 「最後の南部で困っている人がいるときに現れる希望なんちゃらというフレーズで泣き始める奴がけっこういたぞ」


 「そ、そうですか・・・欲しい物を手に入れているだけなんですが・・・」

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