初めての魔物
第十四話 初めての魔物
「ここよ。川縁から上がって行くと、スライムの生息地よ。革袋に入れて運ぶんだけど、もたもたしていると袋が食われちゃうのよ。この大きさで二匹入るから。大銅四ね」
俺は大きな皮袋を二つ持たされている。
「一匹あたり大銅四で、合計銀貨二枚弱か」
「違うわよ。一匹当たり大銅一よ」
「えっ。安い」
「ランクアップの為にはね・・・青銅級の依頼五十件で黒鉄級に上がれるわ。討伐なら五十匹。スライム、コボルド、ゴブリン当たりよ。鉛級の依頼だと評価が半分になるからね。薬草だと百回よ」
「お金的には薬草の方がいいな・・・よし、じゃあ魔法でスライムを探してっと」
俺は魔力を周囲に放ち、生物の探知を行う。今は人型の大きさの生物を検知している。小さくすると、昆虫も探査に入ってしまい、辺り一面反応してしまうので、なかなか難しい。
「錬金術師君、川岸に一匹いるぞ」
キーアキーラは果実水を飲みながら、指を指している。
「どうしてキーアキーラさん居るんだろうって思ってましたけど、もしかしてこのために?」
「そうよ。キーアキーラはレンジャーだから、野外活動にはもってこいの人材ね」
「ほら、捕まえる!」
「う、うん」
俺は指示された方に走っていくが、全く見あたらない。
「いないよ!」
「いるぞ。ちゃんと見ろ」
全くわからない。俺はしゃがみ込んで川の水をしげしげと眺めて・・・
「がぼがぼがぼ!」
俺は立っているのに呼吸が出来なくなり、地面に転げ回った。水が襲ってきた! ヤバイ、息が出来ない!
「もう! だから言ったのに!」
「まぁ一度は通る道だ」
ヴェルヘルナーゼが俺を覆っている水に手を突っこむと、水は俺から離れていった。
「はあはあはあ・・・水が襲ってきた!」
「錬金術師君、それがスライムだ。核を潰すと簡単に死ぬからな。手袋無しで手を突っこむなよ。手が爛れるぞ」
「スライムを見たことの無い人っているんだね。本当に流れ人なんだね」
「こ、これがスライム?」
俺はゼリー状の物体を持ち上げる。透き通ったさわり心地の良い物質だ。シリコンっぽい。俺は木の枝にスライムを布のように掛けて陰干しする。
「アハハ。干して干物にするの?」
「食べないよ。何かに使えるかと思ってさ」
俺は干したスライムの角を引っ張り、皺を取る。かなり伸びる。
「ほら、錬金術師君。足下にもう一匹いるぞ」
今度は立って川を凝視するが、全くわからない。
「いないですよ」
「いるわよ。よっと」
ヴェルヘルナーゼは川に手を入れると、見事にスライムを持ち上げた。
「あ、いた。良くわかりますね」
「核があるだろ、少し黒っぽい丸い奴。これを見るんだ」
ヴェルヘルナーゼが持ち上げたスライムを、キーアキーラが説明してくれる。確かに、極めて透明なスライムに一カ所、黒い何かがある。
「革袋に入れたら、草とか有機物を一緒にいれるんだ。でないと革袋が食われるからな。ほら、足下にもう一匹いるぞ」
何回も見るが、わからない。なかなか難しい。絶対に一人だと捕まえられない自信がある。
「棒でつつくといいぞ」
「なるほど」
俺は落ちている枝で川をじゃぶじゃぶすると、透明なのに枝が何かに当たった。スライムだ。
「やった!」
「あはは。喜びすぎだ」
俺は手でスライムを掬い上げる。やった。初めて魔物を捕まえた瞬間だった。俺は嬉しくて大声で叫んでしまい、キーアキーラに笑われてしまった。
俺はスライムを革袋に入れ、キーアキーラの助けを借りながら合計四匹のスライムを確保した。草を刈って一緒に袋に放り込み、背負う。草はスライムの食事用である。
「重い。四匹は重い。結構大変だよ」
「そうなのよ。コボルドやゴブリンは探すのが大変だし、スライムが一番良いのよね。持ったらギルドに行くよ」
ヴェルヘルナーゼの言葉に、俺が頷く。ヴェルヘルナーゼも二袋担いでいる。街道に出て歩く。
「そうだ、錬金術師君の干しスライムを回収しよう。今度スライム料理を食わしてくれ」
キーアキーラは川に引き返していった。
「別に良いのに・・・ぐふぉ!」
俺は突然の腹部の痛みに、街道を転げ回る。
「邪魔だぜ、鉛よォ!」
何物かが俺の腹部を強く蹴った。俺は二回目の痛みに地面を転げ回る。
「ぐおおお!」
俺は息が止まり、喀血する。腹部は最早痛みは無い。熱い。腹が熱い。
「ああそうかぁ。スライム狩ってやがるぜ、青銅になったのかあ? ああ?」
黒い革鎧を纏った男は俺の懐から飛び出た革袋を拾い上げた。
「あああ? 青銅がなんでこんなに金貨をもってんだ? 強盗じゃねえかぁ。あああ? 強盗だよぉぉぉぉ! 強盗は殺さないとナァ? お前は目障りなんだよォオォ! 俺の女に手を出すとは上等じゃねぇかァァ!」
男は腰の剣を抜き、俺に斬りかかろうとする。
金属音が鳴り響き、男の剣が止まる。ヴェルヘルナーゼの短剣が俺を殺そうとする剣を辛うじて止めた。男の後ろでは鎧とローブの男がにやにやして成り行きを見ている。
「ガーレル! その金は私達が払った代金よ! 返しなさい!」
ヴェルヘルナーゼは力を込めて剣を止めようとするが、なにぶん男性にはかなわない。
「どけよぉ! お前は青銅に降格だろォ! 銀級の俺がこいつが強盗だって証言したら強盗になるんだよォ! 俺のスケになるんなら見逃してやるぜ! ケツ出せよ! ぶち込んでやるからよォ! ぶち込んだら許してやるぜェェェ!」
ガーレルと呼ばれた男は目を狂気の色に染め、口から涎を垂らしながら欲望をぶちまけている。
「強盗はお前だ。ガーレル。金を返せ。私が全て見た。金を返せ」
キーアキーラがスライムの干物を投げ捨て、ガーレルと俺との間に立ちふさがる。ガーレルは唾を吐きながら後ろに下がる。
「あああ? 誰だお前? ケッ、ケチが入った。行くぞお前ら。女を買うぞ。その前に飲むぞ」
ガーレルと二人の取り巻きは早足で街へ去って行った。
ヴェルヘルナーゼは俺に何かを飲ませた。腹部の傷が少し楽になる。
「キーアキーラ、良いの? 彼奴等行かせて」
「ああ。窃盗と殺人未遂が成立した。まかせろ。こう見えても金級だぞ。さ、錬金術師君を背負う。ギルドへ行こう」
俺は革鎧と剣類をはぎ取られ、キーアキーラに背負われた。背負われた衝撃で大量の血を吐いた。
腹が熱い。致命傷だ。助からない。
「ユージー君! しっかりしなさい! ギルドに行けば、魔法薬があるから助かるから!」
ヴェルヘルナーゼは俺の鎧と剣を持って歩いてくれる。俺は再び大きく血を吐くと、気を失った。
気が付くと俺はギルドで小瓶を飲まされていた。俺は上体を上げようと試みるが、息が詰まった。
「あ、あ、あ」
声が出ない。
「血が詰まった。吐かせる」
キーアキーラが俺を側臥位にすると、口に指を入れて血を吐かせてくれた。俺は嫌な音を立てながらようやく息をした。
「何にやられたんだ。お前らはスライム捕獲じゃなかったのか」
ギルドマスターが俺の吐血に染まったキーアキーラを見る。
「緊急依頼を出せ、マスター。銀級冒険者ガーレル・レングランが数度にわたり青銅級冒険者ユージーの腹部に蹴りを入れ、死亡寸前の重体となった。さらにガーレルは抜剣し殺害の意志を示し、ユージーの保有する金貨二百枚を奪い逃走。私金級冒険者キーアキーラが一部始終を現地にて確認している。盗賊と認定した。もう盗賊認定は取り消せない。緊急討伐依頼を出せ」
「何? そんな・・・しかもこいつが金貨二百枚を持っている訳無いだろう」
ギルドマスターは汗を拭きながらキーアキーラを睨み付けるが、キーアキーラはギルドマスターの襟首を掴み、顔を近づけて小声で凄む。その表情に、ギルドマスターはおののいた。
「彼は普通の冒険者ではない。高度な錬金術を使う大賢者の再来だぞ。見ろ、この髪留めを。彼に売って貰った魔法のアミュレットだ」
キーアキーラは髪飾りを外してマスターに見せる。
「こ、これは!」
「それ以上言うな。本人の希望だ」
「確かに、金貨を持っていてもおかしくない」
「私が百枚、ヴェルヘルナーゼが百枚払ったのだから。で、どうする。早くしろ、次は無いぞ。どうした」
キーアキーラがギルドマスターを攻め立てる。事の異常さに、十人ほどいる冒険者が集まってくる。
「あいつは男爵様の息子だ。どうにもならない。わかるだろう」
「やはりギルドマスターには剣鉄級では無理なのだ。もう一度聞く。答えによってはあなたを金級権限で捕縛する。罪状はわかっているだろう。盗賊の援助だ。あなたは規定により盗賊の一味と見なし処刑だ。妻子を置いて死ぬのか、選べ。要請ではない。この場を緊急事態とし、私が把握する。いいか、命令だ」
ギルドマスターは力なくうなだれた。
「わかった。緊急依頼を出す。ガーレルとそのパーティを盗賊と認定。緊急討伐を出す。出しても皆には無理だ。あんたと相棒の嬢ちゃんで行ってくれるか。報酬は金貨百枚だ」
「わかった。受けた。恩に着る。行こう、ヴェルヘルナーゼ」
「腕が鳴るわね。行きましょ。ユージー君を頼んだわよ、マスターとメーニアさん。悪化させたら只じゃ済まないから」
「はひ!」
メーニアはだらだらと汗を流し、悲鳴ともつかない返事をした。
その後、俺はギルドにある魔法薬をメーニアに飲まされた。
俺は不味いことになったと思ったが、既に自分の手ではどうにもならない事態だった。
多数の方々にお読みいただき、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
今回から新展開です。




