再び南部へ その二
第百三十四話 再び南部へ その二
俺達はレーキの街に到着した。速度を幌馬車に合わせているので、時速五キロでのんびり移動である。心配された灰色牙狼は一回だけだった。南部はルーガルを三角形の頂点として、ガルダス山地を周回する形で街道が伸びている。ガルダス山地の最高峰が狼山といい、灰色牙狼の住処である。
「おや? アーガス卿ではありませんか! ようこそレーキへ! さ、どうぞ! 今男爵を呼びに行かせます!」
衛兵は俺を見るなり、大歓迎してくれた。
「あ、今日はもう夕方ですし、明日の朝、出発前に伺います」
「そうですか? わかりました。男爵にはそう伝えておきます!」
一行は冒険者組と騎士組に別れ、二軒の宿に向かった。俺とヴェルヘルナーゼは同じ部屋、モノルゲッテ、ドリエウタ、ズーフィーが一人部屋だ。部屋に入ると、ヴェルヘルナーゼが鎧を脱がしてくれる。鎧を脱ぐと、食堂へ向かう。
既に三人がエールを飲んでいた。
「あ、来たわね! エールを飲むわよ!」
ズーフィーが立ち上がって俺とヴェルヘルナーゼを手招きする。
「あ、待って下さい。お酒を持ってきたんで、飲んでもらえます? 冒険者向けにどうかなって思っているんですよ」
俺はウィシュケの入った木箱を取り出すと、皆にグラスを配った。ヴェルヘルナーゼが酌をしてくれた。木箱一個にグラスが四個入っている。ヴェルヘルナーゼはお茶で良いようだ。
「酒精の強い南部酒がベースなんです。エールやワインより痛まないし、量も少なくて済むから冒険者に良いんじゃないかって思うんですよ。もう少ししたらルーガルで作る予定なんです」
「へえ。ルーガルですか。いいんですか? 遠慮無く・・・」
ドリエウタはツーフィンガーを一気に飲み干した。
「ウフフ。じゃあ私も」
モノルゲッテもグラスを呷る。流石にドリエウタみたいに飲み干さなかったが、高い酒精も問題ないようだった。
「二人とも美味しそうに飲むわね。私もいただくわ・・・きついわね。でも良いんじゃない? 小さな樽に入れたら持てないことはないわね。瑠璃の瓶だと高いし、割れちゃうわね。瓢箪にでも入れて持ち運ぶのかしらね」
ズーフィーはルーガルで作ると聞いて、真面目に答えてくれる。確かに、小さくて安く、格好いい入れ物を作る必要がありそうである。
「いやあ、旨い酒ですね。昔カルツァールを飲んだ事を思い出しますね。女房はスコークっていう田舎の出なんです。女房に南部を回る仕事になったと言ったら喜んでましたよ。あ、ヴェルヘルナーゼさんすみません」
ドリエウタが運ばれて来た硬いパンと塩スープを肴に、二杯目のウィシュケを飲んでいる。
「へえ。一度行きましたよ。確か、小さい街で宿が無くて通り過ぎた記憶がありますね」
「え、宿が無いんですか? 十二年前は宿が二軒あったんです。灰色牙狼も今日みたいに群れで出る事も無かったです。五頭だと、なんとかいけるかな? ズーフィーさんと俺で牽制しつつ、モノルゲッテに魔法で焼いてもらえばなんとかなりそうですね。ズーフィーさんが産休に入ったら厳しいかもしれませんね」
「そうねえ。ルーガルでは早く子をって、そればっかりなのよ。私が抜けたら、あいつらを雇う? 南雲の閃光の三人よ。みんな銀級じゃなかったっけ」
「あ、心当たりがあるのですね。良かった。今度商会に連れてきて下さいよ。あ、そう言えば俺は王都の魔道学園に入ることになったので、迷宮はしばらく延期になります。三週間後に魔道馬車の展示会をするんで、終わったら商会に顔を出して貰えます?」
「あら? モノルゲッテは魔道学園に行ったんでしょう?」
「い、いきまひた。れも・・・んー。何時もお世話になっれます」
モノルゲッテはズーフィーの頬にキスし始める。キス魔のようだ。
「止めなさいよ。ちょっと」
「いいじゃないれふか。どりさんにキスしたらもんらいれふし、ユージーさんとキスしたいれふが、とってもしたいれふが殺されまふ。んんー」
「やめんかこのクソおっぱいめ!」
ズーフィーはモノルゲッテの豊満な胸をガッチリとわしづかみにする。
「きゃああ!」
「さ、お前ら寝ろ! じゃ、ごゆっくり。こいつ等は酒癖が悪いんで寝かすわ」
ズーフィーは二人の襟首を掴むと、二階の部屋に引きずっていった。
俺達も美味しくない食事を摂ったあと、部屋に戻った。しばらくすると湯を持ってきてくれたので、二人で裸になって体を拭った。俺はヴェルヘルナーゼをベッドに押し倒すと、心ゆくまで愛撫し、俺も何度も愛撫された。ヴェルヘルナーゼと二人で過ごす夜は幸せだった。
翌朝、俺の大好きなヴェルヘルナーゼの香りで目が覚めた。俺は抱きしめて軽くキスをした。ヴェルヘルナーゼと朝食を食べていたら、ズーフィー達三人が降りてきた。
「おはよう。昨日はごめんねぇ。こいつ等にはお酒は要らないからね」
「え! 酷いです!」
「五月蠅いこのクソおっぱい! いいから食って出発する!」
「は、はい」
ドリエウタは黙って朝食を食べている。見たところ、金級と言いつつもズーフィーに保護されながらの冒険者生活に見えた。恐らく、難しい判断をした事が無いのではないかと思ってしまう。
暫くはドリエウタとモノルゲッテだけで南部を回るのは難しいかも知れないと感じてしまった。俺かリークか必要であろう。
俺達は約束通り、レーキの街を治めるゾーリ男爵家を訪れた。
「小さいわね」
「南部はこんな感じですよ」
ゾーリ男爵家の屋敷を見たズーフィーは素直すぎる感想を吐いた。レングラン男爵の屋敷の半分以下の大きさで、ちょっと大きい家程度である。
衛兵に取り次ぎを願うと、ニコニコしながら一人で降りてきた。貴族とは思えない気軽さである。
「アーガス卿! よう参られた! 今日は随分と多いですな! アーガス卿なら奥方とお二人でも問題ないでしょう!」
俺はゾーリ男爵と握手をする。
「男爵様、紹介します。金級冒険者、迷宮の白鳥のリーダー、ズーフィー・ジーウェヴォール。こちらは同じく金級冒険者のモノルゲッテ・シィーフォーとドリエウタさんです。あと、レングラン男爵の騎士を率いるのはドドーレさんです」
俺は皆を紹介する。ゾーリ男爵は代表してズーフィーと握手をする。ズーフィーの家が一番爵位が高いからだ。
「これはこれは、高名な子爵さまの娘様とお会い出来るとは光栄です。どうして又南部に来られたんですか?」
「牛を仕入れに行くんです。私達はアーガス卿のお手伝いですね。隣町に牧場が広がっていると聞いています」
ズーフィーが言葉使いが丁寧になって受け答えをし始めた。モノルゲッテもドリエウタもちょっと笑っている。
「なるほど。ルーガルでは本格的に牛と麦の交互に作付けする奴を行うんですね。それにしても冒険者をこれほど雇うとは、レングラン男爵も思いきりましたね」
「いえ、全員身内なんです。私は男爵に嫁ぐことになりましたし、うちのパーティのモノルゲッテとドリエウタはアーガス卿の商会に雇われています。だからこき使われている訳です」
「ほ、本当ですか。ご結婚おめでとうございます。これは驚いた。レングラン男爵は金級冒険者を三人も確保している状態ですか」
「アーガス卿と奥方も金級になったので、五人ですね」
「金級を五人も! 驚きです! それよりも牛を仕入れに行くのですね」
「数頭都合してもいいですよ。経費はいただきます。経費として、一頭あたり金貨一枚いただきます。仕入れ値が金貨五枚なら金貨六枚で譲ります。今回限りの特別価格ですね。恐らく冒険者を雇って買い付けさせた方が安い値段になるはずです」
俺が口を挟む。俺達は商会なので、必ず経費をいただく。本来なら金貨十五枚になるだろう。
「いいのですか! お言葉に甘えて、牛を五頭ばかり仕入れていただきたい」
「いいですよ。何かの事情で無理だった場合はご勘弁下さい。では我々はレコールに行きますので、これで」
俺達はゾーリ男爵と別れ、レコールを目指し、門を出てから魔道馬車に乗り込んだ。
感想をいただきました。ありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。




