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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第8章 展示会とゴーレム
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ゴーレム開発 その二

第百三十話 ゴーレム開発 その二


 「やはり百ミリクラスのカノン砲は無理か・・・」


 俺はアルプーディアで入手したアルプーディーフリーシュの牙を見ながら考えた。


 「なに?」


 「ロマンを求めてデカイ龍筒を考えているんだ。ゴーレムに持たせて持ち歩くから、精々一トフズちょっとの大きさだね・・・」


 一トフズは三センチ位だ。


 龍筒は十九世紀のミニエー銃を参考にしている。この時代の火薬は現代の無煙火薬より威力の弱い、硝石、硫黄、黒鉛を混ぜて作られた黒色火薬を使用している。


 魔力で無煙火薬と同等の威力を与えているので、ミニエー銃より遙かに強力に仕上がっている。黒色火薬ではミニエー銃は爆発の威力で弾の尻をライフリングに食い込ませ、旋回を与える構造になっているが、無くても大丈夫であった。


 アームストロング砲であるが、脆くて割れやすい鋳鉄ではなく、炭素量を下げられた鋼を用いられた後装填方式の大砲である。元の世界では明治時代に登場してくる。薩摩藩がこっぴどくやられた大砲がアームストロング砲だ。


 鋼、初期は錬鉄を用いているので軽いのが特徴で、爆発時に発生する力を相殺させるリングが設置され、あらかじめ圧縮応力、締め付ける方向に力が加えられているのである。


 「焼嵌やきばめだろうなあ。これはミスリルに祈りを込めて圧縮応力を与えておくか・・・」


 アームストロング砲は多層の砲身構造である。最終の層が圧縮応力を掛けている構造らしいのであるが、図面を見た記憶では只の筒だった。リングを焼いて膨張させ、嵌めて冷やすと収縮してガッチリ固定し、締め付ける力を与えることが出来る。


 「小さき父・・・」


 「駄目よファークエル。今考え中だから」


 ヴェルヘルナーゼに言われて頷くと魔法陣の転写を再開する。


 「次は尾栓か・・・」


 アームストロング砲は後装填方式である。アームストロング砲の後部は弾が入る穴が開いたネジ構造になっている。ネジを緩めて邪魔板を外し、弾を込めて邪魔板を固定し、爆風が漏れないようになっている。邪魔板には点火させるための火の通り道、火口と呼ばれる細い穴が切ってある。邪魔板は火口ピースという。


 「問題はここだな・・・砲身をメスにして、オスをスッポリ嵌めるだけにしよう・・・魔法で固定出来るだろ・・・」


 ミスリルは、ロビーリーサに錬成してもらうのである。ロビーリーサにネジの構造を理解して貰うのが大変であろうからだ。ライフリングを理解して貰うだけでも大変だった。ネジはねじ山が正確な間隔で、精度良く作らねばならない。ネジは想像以上に精密部品なのだ。俺はロビーリーサにネジを教えることは諦めた。ピッタリした蓋とする。


 「確か、大砲はグリップがあったはず」


 大砲の構造は、後から尾栓、薬室、弾室、グリップと続いている。アームストロング砲の弾は鉛でコーティングされていて、ライフリングに食い込むのであるが、グリップと呼ぶ、若干細くなった部位で余分な鉛を削る様である。また弾がきちんと中心に位置するように調整する役目も有るらしい。今回は魔力で無煙火薬の数倍で撃ち込む予定であるから、鉛コーティングなど不要であろう。ゴーレムにはクーディーメローシュの魔石を使用するので、魔力は使いたい放題だ。


 「布一枚分厚くするか・・・後は弾の大きさだ。一トフズ、三十ミリでは小さいので一トフズ半、四十五ミリにしようか・・・あとはバズーカ砲のように持ち手と、尾栓の紛失防止用の鎖の取り付け輪を付ける・・・標準は要らない・・・」


 おれは図面を書いていく。ロビーリーサが来たら錬成してもらおう。弾の図面も書いて終了だ。


 「よし、これでいい」


 「出来たの?」


 「小さき父、また我より強い魔法を開発しているのだな? ぐぬぬ、負けておれぬな」


 「ファークエル、俺が龍筒を使うと全身無防備になって簡単にやられっちゃうからね。ファークエルがいるから俺は戦いの場に無防備でいられるんだ。俺の背中はファークエルに任せたい」


 「そ、そうか。では安心して任されるがよいぞ」


 ファークエルは大きく頷きながら、転写作業を再開した。


 「待てよ。俺の魔力を使う訳じゃないからやりたい放題か? 魔力で弾を撃ち出せば良いのかな?」


 「ん? どうしたの?」


 「龍筒で魔法の弾を撃ち出せば良いかなと思ったんだけど、火の玉ってどういう風になっているのかな?」


 「え? あればバーンって撃ってズバーって飛んでいって、ドカーンよ」


 「え? いや、ね、どういう理屈なのかなって」


 「だからバーンって撃つのよ。誰も理屈を考えてはいないわよ。ひたすら撃って、体に覚え込ませるのよ」


 「そ、そんなものなの?」


 「そうよ・・・と言いたいわ・・・精霊使いに火の玉は難しいのよ・・・」


 「わかった・・・とりあえずいいや」


 「ごめんね・・・でももう火の玉を撃つことは無いし・・・」


 「はい! 難しい顔をしていますね! お茶にしましょう! 私もレシピを書くのに疲れました! 疲れたときにはクッキーです!」


 必死に石版にレシピを書いていたフリンカであるが、紅茶とクッキーを持って来た。


 「あら、お茶かしら?」


 「あ、ロビーリーサさん、フローヴさんお帰りなさい!」


 ロビーリーサは座るなりクッキーを頬張り始める。


 「ほは、はいほうはりはいを」


 「ロビーリーサさん、駄目ですよ。食べながら。ユージーさん、配合を変えてカップを作って魔道竃で無理矢理乾かして焼いたら見事に割れたのよ。焼き物屋も苦笑していたわ。でも見てみて」


 フローヴは机の上に沢山の割れた陶器のかけらを取り出し、縦横五列にかけらを並べていく。


「横の列がオーガの骨の配合率ね。下が粘土や石の粉の配合率が違うの。どう? 右がオーガの骨の灰が半分、左一割ね。半分の方が白が綺麗なの。透き通っていて、一番綺麗なのがこれなのよ。とりあえず手に入った四種類の粘土と白い石の粉を混ぜたものよ」


 俺は手に取って陶器のかけらを見る。確かに、かなりボーンチャイナに近い。透き通り程度も中々である。


 「良いんじゃないですかこれ。確か、粘りけが無いはずですよ」


 「そうなんです。職人さんもろくろが使いにくいって。骨の灰に粘りけがあるわけないですよね」


 フローヴが頷く。


 「でしょうねえ。確か、石膏の型に流し込んで、しばらく置いて、型から解かした物を捨てると、表面だけが水分が石膏に吸われて固まり、形が出来るはずなんです」


 「あら、石膏の塊が有るわよ。削れば良いのかしら?」


 ロビーリーサが口を挟んでくる。


 「そうですね。出来ます? 石膏の型の削り方次第では、相当複雑な形も出来るんですよ。まあでもこういう、普通のカップより広くて浅い形で。取っ手は最後に付けるんです。あと小さなお皿も」


 俺は壁の石版に絵を描いて説明する。


 「削ってみます。帰りますよ、ロビーリーサさん!」


 「え? 明日でいいじゃないの?」


 「駄目です!」


 「わかったわよ。じゃあ、又来るわ」


 ロビーリーサも立ち上がろうとする。


 「あ、待って下さい。オーガの骨の灰を一割混ぜた奴も相当白いですよね。とりあえずこれでカップを作りませんか? 作りながら石膏で型を作りましょう。そっちはまだ世の中に出さなくて良いです。研究を続けましょう」


 磁器みたいに透き通っていないが、十分白くて良い物である。


 「わかったわ。じゃあうちの工房で粘土を手がけて、成型からやらせてみるわ。混ぜてから魔力を込めて、粘土を真っ白にするのよね」


 ロビーリーサが再び座り、クッキーを食べ始める。


 「まあ生産の管理はリークさんにお願いした方がいいんじゃないですか?」


 「あら、そうね。じゃあ頼めるかしら? 粘土はうちじゃないと配合できないわよ」


 「それじゃあ試作品を頼んで来ますね。出来上がるのが楽しみだわ」


 フローヴは紅茶を飲もうとしていたロビーリーサを引っ張って出て行った。


 「ウフフ。フローヴさん凄いやる気ね」


 「出来上がったら革命だからね。紅茶とセットにして木箱に入れて売りたいよね。ルーディアで型を作って、ルーガルで作って貰うのかな?」


 「そうね、そうなるわ。お酒を造る工房と、カップを作る工房を作るのね。なかなか凄いわね」


 「そうだね。リークさんの部下がいるよね。商才のある凄腕の冒険者かあ」


 「なかなかいないわよ。キーアキーラとリークさんと、うち等は二人も既に引き当てているのよ。ウフフ」

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