薬草チキンとクリームシチュー
第十三話 薬草チキンとクリームシチュー
「おにいちゃん、フェルムも連れてきたよ! 弟なの! これが私のお椀とコップ!」
スーナは肩に掛けた巾着から木のコップとお椀を見せてくれる。
「お、持ってきたか。偉い偉い」
スーナの後ろには小さな男の子が居た。確かに似ている。
俺はスーナの頭を撫でる。スーナはにっこりと笑う。スーナは孤児で、孤児院に居るらしい。姉弟で孤児院にいるのかと思うと、胸が少し痛む。
俺達が川に向かって歩き始めた。スーナとフェルムを中心として俺とヴェルヘルナーゼが手を繋いで歩いて行った。
門を通るとき、お、ガキがいたのか、と言われてしまった。街道を右に曲がると、すぐに川が見えた。ちょうど大きく曲がる地点であったらしい。
「ほら、キーアキーラが居たわ。焚き火とテーブルの準備が終わっているわね」
丸太が切り倒されていて、真っ二つに割られて低いテーブルになっている。どうやって割ったのか・・・
子供達は走って焚き火に向かっていった。ヴェルヘルナーゼが慌てて追って行く。
「孤児の女の子を呼んだのか。弟か? だから果実水なのだな。エールと牛乳は買って置いたぞ」
キーアキーラは割終えた薪を一カ所にあつめている。
「さ、作るか。キーアキーラさんは鶏を捌いて貰えます? 鶏の骨を一羽分下さい」
ヴェルヘルナーゼは子供を追いかけているので任せておく。
キーアキーラは慣れた手つきで鶏肉を捌き始める。俺はパンの生地を取り出し、小分けして順に焼いていく。オーブンが無いので燃えている薪を蓋にも置いて焼いていく。鍋二つ分びっちり生地が入っている。一度に鍋一つしか焼けないので、数回掛かるだろう。
パンを焼きながら、薬草を磨り潰した。半分を小麦粉、塩と混ぜ、唐揚げ粉を作った。最初のパンが焼けると、スーナとフォルムの姉弟が集まってきた。凄い良い匂いがする。
俺はパンを鍋から取り出し、二回目を焼く。姉弟の目がパンに釘付けだ。 フェルムは涎を垂らしながらパンを見ている。
「錬金術師君、とりあえず一羽分の鶏の骨が出来たぞ」
「ありがとう。骨と、玉葱、人参、セロリ、にんにくを半分使って煮て欲しい。スープが取れたら野菜と骨は一度捨てるから」
「お、おう」
鮮やかな手つきで鶏を捌いていたキーアキーラだったが、野菜を切る段取りになると手元が怪しくなった。鶏の解体は冒険者仕事で、人参を切るのは料理、と言うことなのだろう。鶏の解体の方が難しいはずだが・・・
それでも鶏ガラスープを煮始めると、皆の興味はスープに移って行った。
「ユージー君、なんで骨を煮るの?」
「鶏の骨から良いスープが取れるんだよ。本当はこれに牛肉をミンチにして入れると、コンソメというもっと美味しいスープになるのだけど、作った事ないな」
「へぇ。そうなんだ」
ヴェルヘルナーゼは鶏ガラスープを見たことが無いようだ。この世界では普通じゃ無いのかと疑問に思ったが、インターネットは無論、書籍も無い時代、庶民にレシピが伝わらないのかもしれない。ましてや冒険者だ。
俺はフライパンを取り出し、バターと牛乳で小麦粉をペースト状に焼いていく。ホワイトソースだ。出来上がるとパンの第三弾へ。
スーナが俺を見ていたので、パンを焼いて貰うことにした。生地を一緒にこねて、鍋に入れて焼く。次は一人で焼いて貰う。
俺は残った野菜を切り、チキンも一羽分細切れにする。俺はスープの中の食材を取り出すと、新たに野菜と豆、チキンを入れる。
「チキンスープか。旨そうだな」
キーアキーラは感心して言い放つが、まだだ。
俺はセージ、タイム、ローリエをホールのまま、磨り潰さない状態ので鍋に入れる。
「高価な薬草じゃないか」
「いいからいいから」
流石にキーアキーラは価値がわかるようだ。俺は野菜が煮えた頃合いでホワイトソースとチーズを入れた。塩とオレガノで味を付ける。うん、一応ホワイトシチューだ。まあまあだ。
「ユージー君、こ、これはなんだ?」
キーアキーラはホワイトシチューを見て固まっている。俺は味見を禁止する。
「そ、そんな・・・」
泣きそうなキーアキーラはおいておく。スーナは真剣にパンを焼いている。少し不格好だが、焼くと膨らんで形は関係無くなるので問題ない。
いよいよ、メインの薬草チキンを揚げていく。俺は鍋にオリーブ油を入れ、唐揚げ粉を塗してバンバン揚げていく。油で揚げる音が響き渡る。弟のフェルムがじっと見ている。
「美味しいぞ? 待っててね」
俺の言葉に、フェルムは頷く。
「ユージー君、オリーブ油をそんなに使うなんて・・・」
ヴェルヘルナーゼは無論、キーアキーラも驚いてチキンを揚げる様子を見ている。
そんなに変? 揚げ料理が無いのかも知れない。俺は気にせずチキンを揚げていく。唐揚げと言うよりフライドチキンだ。
「よし! 揚がった! 食べよう! みんな座って!」
「じゃあこの白いシチューかしら? 配るわよ。キーアキーラは子供達に果実水を出してあげて」
スーニとフェルムは嬉しそうに果実水を貰っている。
ヴェルヘルナーゼはは良い笑顔で皆にシチューを配る。テーブルには大量のパンと薬草チキン。お椀にはホワイトシチュー。旨そうである。
「じゃあ食べましょうか」
俺がチキンを食べようとすると、スーナがパンを皆に配り始めた。
「スーナが焼いたの! 食べて!」
俺にも、ヴェルヘルナーゼにも、キーアキーラにも配ってくれた。くれたのは俺が焼いたパンだったが、黙っておく。
「お姉ちゃんが焼いたの?」
フェルムがパンを囓る。にっこりと笑って一生懸命食べる。
「あら、凄い柔らかいわよ。あら? 昨日買った胡桃ね? 美味しいわ・・・」
「王都でも売っていないおいしさだぞ。ユージー君は天才だったか。私のパンには干し葡萄が入っている」
ヴェルヘルナーゼとキーアキーラからお褒めの言葉を戴いた。
俺もパンを食べてみる。確かに柔らかいが、前の世界で食べたパンより硬い。まだまだだな。
シチューはまあまあだ。チキンはソコソコ旨いが、胡椒が欲しい。ぶっちゃけ、全て何かが少し足りない感じだ。やはり胡椒を手に入れたい。
「おにいちゃん、鶏肉美味しいね!」
みんなはパンから、鶏肉に移っていた。みんな無言で食べている。小樽からエールを貰った。
「ぬるい・・・ね、ヴェルヘルナーゼは氷を出せないの?」
「え? 氷の槍なら撃てるわよ? どうするの?」
「エールに氷を入れたい」
「ええ?」
「頼むよ。冷たい方が美味しいから」
「わかったわよ」
ヴェルヘルナーゼが地面に氷の槍を打ち込んだ。スーナとフェルムの姉弟はびっくりしてしまった。ごめん。
俺は短剣で氷の槍を砕き、ヴェルヘルナーゼとキーアキーラのコップに氷を入れる。
うん、エールが冷たくなった。旨い。
「あら、いいわね」
「ほんとうだ。錬金術師君は味の錬金術師だったか。私は夜の錬金術師だと思っていた」
俺はキーアキーラの言葉を聞き流し、エールを飲んだ。初めてこちらの世界で飲むエールだ。
スーナはシチューを上手に食べる事の出来ないフェルムの手伝いをしている。俺と目が合うとにっこりと笑う。
俺もシチューを食べた。
「錬金術師君、この白いシチューはなんて言う料理なのだ?」
「え? 白いシチューですよ? 小麦粉とバターを練ったソースで味付けしてます」
「そ、そうか」
キーアキーラはシチューが気に入ったようだ。頷きながら食べている。
「週一回よ」
「何?」
俺は思わず聞き返した。
「週一回ここで食事会よ」
「週一回か・・・薬草の入手が難しいかな。ギルドの在庫はもう無いよ」
ヴェルヘルナーゼが言い放つが、俺は反論を試みる。薬草の入手が難しい。
「確かに金貨一枚分の薬草だもんね・・・でも金銭感覚がおかしいのよ、ユージー君は」
「わかった。薬草は私が手配する。ユージー君はお金を気にせずに作ってくれ。隣町の錬金術師に行ってくる」
「錬金術師がいるんですか?」
キーアキーラが薬草を手配してくれると言うが、俺が行かないと駄目だろう。
「ユージー君は半分錬金術師だから、話があうかもね。錬金術師というか、ミスリルを作れるんだから。今度行きましょうよ? でさ、このシチュー、薬草が入っているんだから魔力を込めれば魔法薬になるはずよ」
「そうだな。錬金術師は最後に魔力を込めると聞くしな。ほら、鍋に魔力を込めてみろ」
二人に促されて俺はシチューの鍋に魔力を込める。効果はなんだ? 危なくない効果がいいか。効果無しでいいか。
俺は適当に魔力を込めた。シチューが少し光った気がする。
「ひ、光った・・・」
フェルムが驚いて俺を見た。
「おにいちゃんは自称魔法使いだからな」
「本当に魔法薬になったぞ。効果は何だ、錬金術師君」
「え? 危ないから効果無しの魔法薬です。どれ、食べてみよう」
俺は空になったお椀にシチューを盛り、食べてみる。普通のシチューだ。
「うん、別に何の効果も無い。大丈夫だ」
「え? ちょっとユージー君、あんた魔法薬の効果を操れるの?」
「今更何を言っているの? その指輪だって俺が効果を操っているだろ」
「そ、そうね。そうか、そういうことなのか・・・でも錬金術師なら常識なのかも・・・」
ヴェルヘルナーゼはお椀にシチューを盛ると席に座り、食べ始める。
「うんうん。なるほど、なるほど」
何かを考えながらシチューを食べている。
「錬金術師君、チキンも薬草を使っているだろ。疲労回復の魔法薬にしてみてくれ」
俺はチキンを一個手に持つと、魔力を流してみる。疲労回復の魔法薬。衣に魔法薬効果を付与。
「あ、鶏肉がひかった」
フェルムは不思議そうに俺を見ている。
「うち、魔法薬ってこう、液体の薬だと思っていたわよ・・・」
「それは私もだ。言ってみたが、凄い違和感がある。どれ、責任を持って味見しよう」
キーアキーラが俺からチキンを受け取り、一口囓る。
「!」
「どうしたの?! 毒になったの? 吐きなさい!」
「お、美味しくなった。更に美味しくなった」
「え? うちによこしなさい!」
俺と姉弟は笑いながら二人を見ていた。
「あ、ユージー君、残りのチキンに魔力を込めなさい! ありったけの魔力よ!」
俺は無理矢理残ったチキンに魔力を込めさせられた。魔力の少ない俺は気を失うわけで・・・
目が覚めると、満足して居眠りする姉弟と、エールを飲むキーアキーラ、果実水を飲みながらうつらうつらしているヴェルヘルナーゼ。
あれだけ作ったパンもチキンもシチューも残って居なかった。
「お、起きたか。美味しかったぞ。ありがとうな」
「あれ? 食い足りないんですけど・・・俺が金貨一枚も出して準備したのに?」
「ああ。金級の私が出そう。ほら。立て替えありがとう」
俺は金貨を受け取った。文句も言いづらくなり、符に落ちないまま川で鍋を洗おうとしたら、一つの鍋にはチキンが、一つの鍋にはパンが入っていた。
「ああ、それは孤児院のお土産だからな」
皆で片付け、帰路についた。皆は楽しそうにしている。俺は帰りに硬いパンを買って帰った。夕食は要らないと言ってあるからだ。
食事回の続きです。




