迷宮 第八層 その四
第百十八話 迷宮 第八層 その四
俺達は白い建物の前に立つ。白い建物は大理石の建物だった。異質なのは、大きなドアがあるだけの建物である。ぱっと見は神殿に見える。
「大回廊だが、罠はない。だが少し歩くと、スケルトンが地面から這い出てくる。大回廊で休んでいるパーティも多い。スケルトンに遭遇したら、必ず破壊する。そうやって進んで行く」
「じゃあファークエルを出すね。ファークエル、小さめで」
「小さき父、魔道の馬車に乗って見ておられよ。我が輩の強さを乗りながら見ているが良い。ワーハッハッハ」
ファークエルは人の大きさほどの炎の龍になると、扉の中に飛び込んで行った。俺達も後に続く。神殿風の建物の中は階段だった。
光の妖精フォーリーフェーンの灯りで、階段を降りて行く。煉瓦造りの壁だった。地下三階まで降りて行くと、幅が十メートルはあろうかというフロワーが出現した。天井は美しいアーチを描く、煉瓦で出来たトンネルである。
「む、向こう側が見えない・・・」
「ルーガルとルーディアの間位を歩くぞ」
「でも、ファークエルが魔道馬車に乗れって言ったので、乗りましょ」
ヴェルヘルナーゼは魔道馬車を魔法の鞄から取り出すと、助手席に乗った。
「私が操縦していいか? 見ていて理解はした」
キーアキーラが運転席に座り、俺は後部座席に座った。
「我も色々と考えたのだ! 見ていろ!」
ファークエルは一人で飛んで行った。五十メートルも進むと、スケルトンが五体、地面から湧き出た。
「煉瓦の床なのに、湧き出た・・・凝った演出ですね」
俺が感心していると、ファークエルは拳大の火の玉を五体のスケルトン目がけて放った。
スケルトンの胴に命中するとコールタールが燃え上がり、スケルトンはバラバラになって地面に落ちた。
「さ、先に飛んで破壊しているぞ! 着いてこい!」
ファークエルは飛んでいき、次々にスケルトンを燃やし始めた。足とか手は動いているものの、魔道馬車で踏んづけて進む。面倒なので素材の回収はしない。
キーアキーラは時速十キロで魔道馬車を進めている。
「ヴェルヘルナーゼ、魔力はどうだ?」
「大丈夫よ。ファークエルが魔力を相当絞ってくれているもの。少ない魔力で効率的に倒すというのを、ユージーの龍筒を見て考えたんじゃないかな。今撃っている小さい火の玉の魔力三十発で、普通の火の玉一発分よ。うちは二百発は撃てるから、平気平気」
「恐らく二十層まではこんな感じだろうな。三十層になると龍筒とファークエルで戦わないと難しくなる。四十層では龍筒では無理だな。ファークエルも難しくなる」
「そう言うこと、楽だと思ってるでしょう? 初層を楽に行けないと、下層は歩けないわよ」
確かに、言われて見ればその通りだと感心してしまう。ファークエルはどんどんとスケルトンを焼いていく。俺は何もしないまま、魔道馬車は進む。
「俺は何もしていないね・・・」
「フフフ。何言っているの。ファークエルを産んだのはあなただし、魔道馬車を作ったのはあなただし、うちの魔力の質を変えてファークエルにお願いしやすくなったのもあなたよ。気にしないで」
「そうだぞ。やっぱり迷宮は話が進む気がするな。南部の件も彼奴等に任せれば良いと思うぞ。金級だからな。迷宮だがな、最高記録は四十八層じゃなかったか? 迷宮の存在を危機と見なした白金級がいてな。金級、銀級、剣鉄級、黒鉄級のパーティーを沢山集めて潜った事があったんだ。初層は黒鉄級が、中層になるに従い、高位パーティーが担当して迷宮を攻略していくんだ。三十層以下は金級を複数従えた白金級が進み、四十八層で白金級を送り出したそうだぞ。金級は半分が戻って来たが、白金級は戻らなかったらしいな。五十層には到達しただろう、と鎮魂の意味も込めて最大到達は五十層になっているな。百七十年前の、王国動乱が収まった直後の荒々しい時代の話だ」
「よく組織できましたね。そんなに沢山の冒険者をそろえる方が大変だったんじゃないですか?」
「白金級が危機と見なせば王国中から冒険者を動員できるんだ。それだけ強い権限がある。でも戻らなかったから、以降は無理な迷宮探索はされていない。魔物の素材と肉を生産する工房みたいな位置づけだ」
ファークエルはどんどんとスケルトンを倒しながら先に進む。時折、冒険者に遭遇する。驚いて俺達を見ている。俺達を乗せた魔道馬車は、時速十キロの速度で進んで行く。
「不思議な光景ね。座っているだけで攻略が進むなんて思いもしなかったわ・・・」
俺達はファークエルが進む中、夕方であろう時刻には大扉の前にたどり着いた。
「早いわ・・・頑張っても三日かかるのに」
「ああ。さて、ボスはクレイゴーレム一体だ。デカイが、絡め取れるか?」
「でかくて絡めるだけじゃ駄目ね。多分転倒させられないんじゃないかな? 無力化しないとね」
「両足でも斬るか? ユージー」
「いや、五体満足で取り押さえたいなって。多分、足が壊れると足を制御している魔法陣が壊れる仕組みだと思う」
「難しいな・・・やはり捕らえるとなると難易度は上がるな」
珍しくキーアキーラの言葉が鈍い。
「ゴーレムの核であろう? 我が取り押さえてやるぞ。火は使わないから、小さき父よ、安心しろ。ワーッハッハッハ」
「じゃあ頼むか。核は頭にあると言われている。取れるか? ユージー」
「ほじくってやるぞ。小さき父よ」
「ファークエル、頼むよ。やっぱり最後はファークエルが頼りになるね」
「当たり前だ! 我は大精霊だぞ! ワーッハッハッハ」
「あ、ヤベ。魔法陣って、古代エルフ語だよね」
「そうね」
「一番上にさ、何か適当な魔法陣を書いてくれないかな? 握ったら淡く光るとかさ、適当なやつ。そして、握る、握らないの判定を常に行い続ける。多分数万枚の魔法陣が書いてあると思うんだ。層状に重なっているはずだから、一番上の魔法陣で全て完結したら、破壊を命じている魔法陣の働きを止める事が出来るはずなんだ」
「・・・ま、まほうじん?? え? いやあの、ファークエルなら出来るよね?」
「うむ、良いぞ。判定をし続けて、握ると条件が成立して光らせて、一枚の魔法陣を終わらせない、これでいいな」
「うん。お願い。大丈夫? あなた」
「うん、で、核は頭から取り出さないで貰えるかな。取り出すと破壊魔法陣が働くから。書き換えてから取り出すんだ」
「うむ! じゃあ見ておれ!」
ファークエルは炎を消すと、半透明の龍となって扉を開け、中に入って行った。俺は念の為に龍筒を構えて中に入って行った。
中に入ると、ドシン、という大きな音と共に巨大な土のゴーレムが半透明の龍に押し倒され、頭に手を突っこまれていた。ゴーレムは動きが遅く、大精霊には敵わないのだろう。手足をばたばたさせているが、押さえつけるファークエルには敵わないようだ。
「小さき父、核があったぞ。見るか」
「本当? どれどれ」
俺達は頭の方に駆け寄った。三人で覗き込む。細長い魔石だった。俺の想定通り、魔法陣が無数に記録されており、上の方の魔法陣が常時光っている。中段から下部に掛けて、光ったり光らなかったりだ。今は四カ所、交互に光っている。
「上の方の魔法陣が思考の部分だよ。思考が四肢をばたばたさせる命令を出すと、ほら、四カ所光っているでしょう? 多分手足の動きを司る魔法陣だね」
「へぇ。初めて見たわ」
「うむ。綺麗だな。同じような魔石を作れないか? 装飾品的な感じで」
「まあ考えましょうか。ファークエル、お願い」
「ウム! 魔力を流して書き込むのだな? やってみるぞ」
しばらくすると、一番上の魔法陣だけが光続け、魔石自体も淡く光始めた。同時にクレイゴーレムが土に戻り、動かなくなった。
「流石ファークエル。取り出して」
ファークエルがゆっくりと核を取り出し、俺の掌に置いてくれた。ゴーレムの核は握ると淡い光を放った。
大量に誤字報告を頂きました。
以前、出張報告を書いてしまった為に、「ほう」が必ず「方」と変換されるようになってしまい、全て見逃すというミスです。修正ありがとうございました。




