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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第7章 再び迷宮へ
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迷宮 第七階層

第百十四話 迷宮 第七階層


 「で、ボスはスケルトンだが、大ボスはオーガのスケルトンだ。周囲に四体の人間のスケルトンが配置されている。オーガやゴブリンは急所があるだろ。のど笛を斬るとか、首を落とすとかすれば倒せるんだが、スケルトンはそうはいかないんだ。バラバラにしてようやく活動を止める。はっきり言って、ユージーとは相性が悪すぎるんだ。どうするかな」


 珍しくキーアキーラが行動前のブリーフィングで疑問を投げかけた。俺達は第七階層を進み、ボス部屋の前にいる。第七階層は第六階層と同じ構造で、出現する魔物も同じだった。珍しく、先行するパーティーがいたので、十分に間隔を取って進んでいったのだ。


 「ファークエルを風の剣にして、鞭のように使えば捕らえる事が出来るよ」


 「そうか。じゃあ小物のスケルトンでいいな? ユージーが一体、盾を使いながら相手をしていてくれ。壊すなよ。その間に残りをやっつける。終わったらヴェルヘルナーゼに捕らえて貰おう。よし、作戦はいいか?」


 「任せて。キーアキーラはユージーの補助をお願いね。全部壊しちゃうから」


 「大丈夫か?」


 「相性が良い敵になったわよ。昔のうちだったら火力が足りなくてさ、苦戦したけどファークエルがいるから平気。さ、行くわよ!」


 「よし、じゃあ私が真ん中、左がユージー、右がヴェルヘルナーゼ。私は状況をみてどちらにも助太刀に入れるようにする。行くぞ」


 俺達はドアを開けて中に入る。最初に目に入ったのは冒険者の遺体だった。四人組の若い冒険者だ。


 「ユージー! 集中しろ! 冒険者は死ぬのも自由なんだ! 気にするな! でないと我々が死ぬぞ! 行くぞ!」


 俺は盾を構え、冒険者の死体を見ないようにスケルトンに意識を集中する。スケルトンは大型一体、小型四体だった。小型のスケルトンは人間だ。大型のは確かにオーガの様である。


 小型のスケルトンは直剣を持っている。俺は一番左端のスケルトンに軽く斬りかかる。左手に龍の鱗の盾を持っているので、強く斬る事が出来ない。


 動きが遅いのを見て取った俺は、わざと剣と剣をあわせた。金属音が鳴り響く。


 スケルトンは剣を大きく振りかぶる。遅い。俺は大きく踏み出し、一気に接近すると盾でスケルトンの右手を叩いた。上死点に到達していなかった右腕は、緩い俺の打撃に耐えられず、スケルトンは体ごとよろめいた。


 俺はすかさず剣の根本を叩き、剣を叩き落とした。落ちた剣を足で払い、拾えない距離に追いやる。スケルトンを無力化した俺は、盾でスケルトンの拳をいなしながら、ヴェルヘルナーゼとキーアキーラの方を見た。


 キーアキーラは槍を両手で持ち、右足が前、左足が後という俺が見せた長刀なぎなたの構えをしていた。鍬を持つ持ち方である。槍の構えは左足が前になり、体の右側に槍を置く。体の使い方が逆になる。槍で突いても、肉を突き刺して倒すことが出来ないので、スケルトンには斬撃、いや打撃で攻撃しなくてはならないのだ。槍本来の使い方では相性が悪すぎるのだ。


 スケルトンは馬鹿の一つ覚えのように剣を大きく上段に振りかぶる。ゆっくりだ。キーアキーラはスケルトンのすね目がけて槍を振り下ろした。初見では、特に剣を経験したことのある人間には躱すのが難しい脛打ちである。スケルトンの脛はガゴっという音と共に外れて飛んでいき、スケルトンは左膝と剣を地面に突き刺し、何とか体勢を保った。


 キーアキーラは大きくなった隙を見逃さなかった。美しい割れの形、左足を前、右足を後に置き、槍を水平に、体の後方に構えた。


 「うおおおおお!」


 キーアキーラは気合いと共に左足をすり足で前にずらし、右足に体重を掛けながら槍を下から上に向かって振る。以前に見せた美しいレベルスイングではなく、力がのったアッパースイングだ。槍がへその前に来た頃、体を後に反らせて槍の回転速度を上げる。


 槍がスケルトンの頭に当たるとき、キーアキーラは手首を返さないで右手で押っつけながらスケルトンの頭を叩いた。


 槍は乾いた音と共にスケルトンの頭にヒットし、頭は壁の方に飛んでいった。キーアキーラは左手一本で美しいフォロースルーを披露したあと、自らも槍と一緒に回り、二撃目をお見舞いした。スケルトンは腰上の背骨を折られ、上半身と下半身が二つになった。スケルトンはまだ動いているが、攻撃能力は失っていた。キーアキーラはスケルトンを槍で力任せに叩き、バラバラにしていった。


 ヴェルヘルナーゼは圧巻だった。勝負にもならない。重さの無い、早い斬撃を動きの遅いスケルトンが躱せるはずがないのだ。スケルトンが剣をゆっくりと振り上げている間に斬撃を喰らってしまっているのである。斬撃を与えると同時に燃え上がるため、瞬時で小型のスケルトン二体を破壊してしまう。


 俺はちらちらと戦いを見ながら、何故スケルトンが燃え上がるのか不思議に思った。流石に二体のスケルトンを破壊している間にオーガスケルトンは巨大な棍棒を振り下ろした。


 ヴェルヘルナーゼは後にすっと引くと、棍棒は地面を叩く。これで勝負が決まった。ヴェルヘルナーゼの斬撃を喰らったオーガスケルトンは胸が燃えた。燃えさかるファークエルの炎がオーガスケルトンの胸、肋骨を焼き、一瞬炎を吹き上げた。何かが塗布してあり、ファークエルの高熱で燃え上がるのだ。


 オーガスケルトンは四肢が外れ、地面に転がって腕と足がもごもごと動くだけになった。


 「あら? 胸が燃えたと思ったらバラバラになっちゃった。全部焼いておくわね」


 ヴェルヘルナーゼは転がる四肢にファークエルで斬りつけ、燃やしていくと動かなくなった。


 「浄化されたのかしら? あ、ユージーの助太刀ね」


 俺がスケルトンのパンチを盾で受けたとき、ヴェルヘルナーゼが魔龍剣ファークエルを風の剣にして、さらに巻き付いてスケルトンの動きを拘束してくれた。


 「終わったわね。スケルトン、燃やしたら動かなくなったわよ」


 キーアキーラも近づいて来た。


 「死んだ冒険者の認識票とギルドの証明証は拾っておいた。身寄りがいる確率は低いから、遺品は持ち帰らないんだ。むろん遺体もな」


 俺はちらりと冒険者の遺骸をみた。


 「見るな、ユージー。早く調べろ」


 「わかりました・・・ああ、なるほど」


 俺はじたばた暴れるスケルトンを見た。人間の骸骨で、頭蓋骨が割れていた。頭部に打撃を受けて死んだ人の骸骨だ。


 白いと思われた骸骨だが、黒い液状の物質が塗られていた。匂いの元だ。俺にはすぐにわかった。コールタールだ。関節にはコールタールを蒸溜したタールピッチが塗られている。ツンとくる匂いの元はコールタールだったのだ。


 石炭を乾留、蒸し焼きにすると炭素が残ってコークスが出来るのだが、副産物としてコールタール、真っ黒な油が採れる。コールタールは発癌性があるのだが、元の世界ではつい最近まで使用されていた。防腐性に優れ、防蝕塗装の材料だったのだ。コールタールを精製して得られるクレオソートという油は、木製の電柱に塗られていた。


 「どう? 何かわかった?」


 「コールタールが塗られているんだよ。何処かで石炭が採れて、コークスを作っているんだな・・・そこでスケルトンが生み出されているのか?」


 「どうしたユージー、何かわかったのか」


 「ええ。見てください。匂いの元はスケルトンに塗られた黒い油、コールタールですね。コールタールが作られている場所にスケルトン工房があるはずです」


 「スケルトン工房? なんだ?」


 「コールタールは石炭を蒸し焼きにして出来る油なんです。専用の蒸し焼き釜、何処かにコークス炉があるはずだな・・・」


 「セキタンってなに?」


 「鉱山で掘られる燃える石です。真っ黒で、テカリがあって、余り硬くないんです。そいつを炭みたいに蒸し焼きにすると、コークスっていう、木炭みたいになるんですよ。コークスを作る時にでてくるのがコールタールです」


 「ほう。ではコークスなるものは何に使うんだ?」


 「鉄ですよ。鉄を作るにはコークスを使うんです。高炉か、何処かに高炉があるんだなあ。俺みたいな人間がつくったのだろうかなあ。ま、そこは置いておいて、何故コールタールを塗っているのだろう?」


 塗料は、胡桃油、亜麻仁油などの、乾性油を使った物しか無いはずだ。ミルクペイントもあるかも知れないが、貴重な栄養源だから塗料にしないだろう。確かに耐久性も含めるとコールタールの方が都合が良いだろう。


 「この黒い油は燃えるのよね? 燃えたらスケルトンは動かなくなったよ」


 「え? そうなの? では、スケルトンに付与された魂はコールタールにいるのか・・・骨はミスリルみたいに魂や魔力を付与出来るのかと思っていたけどね・・・」


 俺はスケルトンに塗られたコールタールに魔力を流してみる。


 「やっぱり、魔力が込められたコールタールです・・・魔力を保持するために色々な素材が練り込まれてますね・・・」


 魔力を流し続けていたら、突然視界が真っ暗になった。俺は思わず目を閉じてしまった。瞼を開けると、俺は真っ黒な液体の中で無数の亡者に囲まれていた。


 亡者という言い方が適切だと思う。人間の尊厳と気高さを失い、生者を憎み喰らおうとする何かで燃やされ、焼けた爛れた者どもが俺を取り囲んでいた。


 俺は煉獄刀を抜いた。煉獄刀は通常の剣では斬れない、この世の物ではならざる者どものを斬れるように祈りを込めている。


 「ア、ア、ア・・・ドウシテオレガ・・・」


 亡者は、涎を垂らしながら、焼けただれてケロイド化した腕で俺を掴もうとした。俺は煉獄刀を振るった。真っ赤な炎の軌跡を残し、煉獄刀は亡者を切り裂いた。亡者は真っ赤に燃え上がって消えて行った。


 「カラダ、ヨコセ・・・」


 「イキカエルンダ・・・」


 「コドモニアイタイ・・・」


 二体目、三体目と次々に斬り、燃え上がらせる。斬ると今際の記憶が流れ込んでくる。全員、生きたまま煮えたぎるコールタールに突き落とされて、命を終えていた。


 二十人くらい斬ると、亡者はいなくなった。


 「ユージー!」


 「あなた!」


 俺は肩を揺さぶられて目を開けた。


 「真っ青だぞ。ヴェルヘルナーゼ、スケルトンを燃やせ。歩けるか? 第八層は休憩できる。行くぞ」

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