再び迷宮都市へ
第百十話 再び迷宮都市へ
「と言うわけでフリンカが大変でしたよ」
俺は昨日のフリンカとの話を二人にした。当然、ヴェルヘルナーゼの話をしたら怖がられた事は話さない。
俺達は迷宮都市へ向けて、魔道馬車を走らせている。昨日はどっさり料理を作り、俺が収納している。
「まあフリンカの言うことはわかるな。好きだ嫌いだなんて、満足に飯が食える人間しかできないからな」
「大丈夫よ。ルーガルは変わって行くと思うわよ。だってこれからいろんな物を作るんでしょう? ルーガルを良くするんでしょう?」
「うーん、貧困と病気による低寿命がなあ。フリンカの話は詰まるところ、この二つなんだよな」
「ユージー気負うな。一つずつ変えていけばいいぞ。まずはルーガルを富ませるのが先決だ。ほら、迷宮都市が見えてきたぞ。目立つから降りて歩くぞ」
俺達が魔道馬車を止めると、ギャラリーが集まってくる。ルーディアと迷宮都市の間は人通りが多く、冒険者の割合が多い。
「魔道具ですか?」
「馬がいない!」
「凄い!」
俺達は質問をしてくる冒険者をかき分け、魔道師ギルドを目指す。
「相変わらず冒険者が多いなあ」
「みんな冒険者ギルドへ入って行くわね」
「冒険者ギルドの横の建物が魔道師ギルドだ。納品に行くか」
俺達は立派であろう石造りの三階建ての建物に入る。冒険者ギルド、迷宮ベーフーディーフェルトの入口の建物が立派すぎて貧相に見える。
中に入ると、当たり前なのだが魔道師で賑わっている。一階の半分は素材を扱っている店で、嫌な匂いがする。
「素材屋さんだ。流石魔道師ギルド」
「受付はあそこか? 流石に初めて入るから勝手がわからないな。ユージーは素材屋に興味がありそうだな。魔道竃を出せ。行ってきてやる。サインを貰えばいいんだな?」
「いいんですか? ではお願いします」
俺は魔道竃を六個出すと、キーアキーラとヴェルヘルナーゼに手渡す。
俺は素材屋に入ると、びっしりと並んだ棚をじっくりと見る。狙いはシナモン、クローブ、コリアンダー、ターメリック、胡椒、ショウガ、唐辛子、カルダモン、クミン。これだけ欲しい。コリアンダーはヨーロッパ由来だから安いはずだ。
コリアンダーの他はインドと東南アジア、アメリカ大陸由来だから、森では手に入らない。そう、俺はカレーを作りたいのだ。ご飯が欲しいが、ナンで良いだろう。
熊の手や猿の頭に目もくれず、目当てのスパイス、違った素材を探す。細長い木箱に入っていて、棚にびっちりと並んでいる。俺は真剣に探し、ようやく全ての素材のありかを見つけた。豊富に取りそろえている。凄い。
軽量スプーン一杯が金貨一枚とか、銀貨五枚とかだ。俺は店員さんを呼び、スパイスいや違った素材を購入していく。乾燥トマトも入手した。種を取り出して、植えようと思う。
乾燥トマト以外は植えたら芽が出そうな感じであった。ショウガは残念ながら乾燥していた。増えるといいなと、思ってしまう。
俺は金に糸目は付けない。五回分は作れる素材を入手する事ができた。金貨三十二枚であった。布に包まれた素材を持って、座って休んでいた二人に近づいて行った。
「嬉しそうね。美味しい物あった?」
「ばれた? ほら、香辛料だよ。全部、植えたら生えると思うんだ。まだ乾燥が済んでいない物ばっかりだよ。凄いね」
「え? 植えるの?」
「もちろん。カレーを作って食べる」
「カレー?」
「あ、癖があるから、俺一人で食べるから」
「聞き捨てならん。食うに決まっているだろ。幾らかかった?」
「金貨三十二枚ですね」
「随分買ったな? 商会で落とせよ? みんなの分を作れよ」
「わかりました・・・味が合わなくても知りませんよ」
「今日作るの?」
「素材を乾かしてからです・・・さ、宿に行きましょうか」
俺達は宿に行き、明日からの迷宮にそなえた。三人別の部屋だったのだが、寝るのは俺のベッドだった。三人で俺が二人を抱く形で寝ている。正直に言うと、二人とも凄く良い香りがするし、凄い幸せである。
翌朝、俺はヴェルヘルナーゼとキーアキーラの声で目が覚めた。いつもより早い時間だ。
「おはよ、あなた」
「おはようユージー。今日も頼むな」
二人は俺の頬にキスをしてくれた。俺は吃驚してキーアキーラを見てしまった。
「不満か? これでも美人冒険者と言われているんだぞ」
「い、いえ!」
「ウフフ。さ、ご飯を食べて行くわよ。スケルトンとゴーレムの生け捕りよ」
俺達は軽くパンとお茶をいただき、宿を出た。目指すは迷宮ベーフーディーフェルト。入口は巨大な元神殿と思われる建物の奥に位置している。冒険者ギルドは元神殿の建物内にある。
俺達は早朝の人がまばらな建物に入っていく。迷宮が込む朝方より更に早い時間に迷宮に潜るのだ。
迷宮の入口は螺旋階段だ。建物三階分を一気に降る。降ると騎士団の詰め所があり、一人当たり大銅貨五枚を支払って中に入る。
「さ、乗るぞ」
ヴェルヘルナーゼは魔道馬車を出し、俺達は乗り込んだ。第一階層はひたすらに長い、一日中降りの道を歩くだけの階層だ。
「やはり楽だな。帰りは相当注目を浴びそうだな」
「二日間の短縮よね。凄いわね」
俺達は魔道馬車を降りて第二階層に入った。第二階層から第四階層までは神殿エリアと呼ばれていて、入り組んだ作りになっている。二、三、四階層で一つの階層と考えた方が良い階層構成となっている。コボルド、大鼠、大蝙蝠を倒しながら進み、中ボスである白鼬を龍筒で倒す。
俺達は大ボスである大牙猪の部屋から三つ離れた休憩部屋で初日の探索を終えた。
神殿エリアでは、比較的小さめの魔物が数多く出てくる。盾でいなしながら片手で攻撃である。俺は正直苦手だった。俺の体は小さいため、鼠の魔物に体当たりされると体勢を崩してしまうためだ。
「ワイヴァーンやシーサーペントを狩る龍咆の弱点が鼠だとは誰も思わないだろうな」
「ウフフ。大丈夫よ。下水エリアは魔物は大きめよ」
俺達はテントを張り、パンを焼いてシチューを暖めている。ベンチに座って食事を取っていると、集まって来た冒険者達に食い入る様に見られる。皆は硬いパンと干し肉を食べているが、俺達は美味しいシチューにエールも飲んでいる。エールは今回は小さい樽で持って来た。俺達の食事を欲しそうにしているが、分ける訳にもいかない。
翌日、早朝に起きて大牙猪に向かう。三つの雑魚部屋を俺だけが苦戦しながら進み、大牙猪の部屋の前に来た。俺は龍筒を取り出し、索敵の魔法を展開して射撃にそなえる。
「入るぞ。準備はいいか。私とヴェルヘルナーゼが並んで前衛。二人の間から後方でユージーが射撃」
「いいわ。前は任せてね、あなた」
キーアキーラとヴェルヘルナーゼは盾を構え、剣を片手に持つ。キーアキーラはいつもの細身の直剣、ヴェルヘルナーゼは魔龍剣ファークエルだ。
俺は大牙猪を捕らえると、即時に射撃を行い、大牙猪を倒した。
「流石だな。収納したら行くぞ。下水エリアだ。五階層、六階層、七階層だ。六階層から罠が出るから、基本的に私が先頭を歩く。ユージーは最後尾だ」
「わかりました」
「下水エリアはトンネル型の迷宮なんだ。迷わないように私からはぐれるなよ。五階層は大鼠、ゴブリン、スライムだ。ユージーの苦手な鼠だが大きくなっているからな。ボスはゴブリンシャーマンだ。ゴブリンが十匹出るから。結構大変だが、ヴェルヘルナーゼに焼き払って貰おう。ゴブリンの素材は要らないだろ?」
「ウフフ、残念ながら龍筒の出番は無いかな?」
俺は龍筒を収納すると、短剣を抜いた。ドワーフの鍛冶べべルコによる、日本刀の製作法で打たれた両刃の短剣だ。左手には龍の鱗の盾。
「準備はいいな? じゃあ行くぞ」
俺達は大牙猪の部屋を出て、階段を降りて行った。




