エルフの森
第百五話 エルフの森
「お待ちしていました!」
俺達がルーガルの冒険者ギルドに行くと、受付嬢のメーニアが出迎えてくれた。この人はルーガル一の胸の持ち主で、目の毒というか、ヴェルヘルナーゼが不機嫌になる。胸だけならヴェルヘルナーゼも負ける。因みに既婚子持ちで、旦那さんは面識は無いが、幸せ者だと思う。
俺は胸を見ないように頑張るが、後ろを向くとお尻を振るわせながら歩くのである。
俺は天井を見ながら、応接室に入って行った。
「ユージー君、いやアーガス卿とヴェルヘルナーゼさんは金級ですねぇ。聞いていますよ。シーサーペントを狩ったって聞きました。あ、いまマスターを呼んできますね。最初はアーガス卿がヴェルヘルナーゼさんを捕まえたって言ってやっかんでましたけど、今はヴェルヘルナーゼさんがアーガス卿を捕まえたって言われてますよ。いいなあ。あ、呼んで来ますね」
「うちが・・・捕まえたことに?」
「ハハハ。それだけユージーの価値に気が付いたんだよ。言われておけ」
しばらくすると、ギルドマスターのドンゲールが入って来た。
「おう、聞いたぞ。南部じゃ大暴れだったらしいじゃねえか。とりあえず南部の状況を聞かせてくれないか」
俺は灰色牙狼が多数出没し、経済が麻痺していること、シーサーペントを狩って討伐証を貰ったこと、ワイヴァーンを狩って王女殿下を助けたことを報告する。女神関連は誰にも言わない。
「そうか・・・ワイヴァーンは四頭もか・・・狩ったのなら暫くは脅威は無くなったと考えていいな。さ、討伐証を出せ。金級への推薦状を書いて中央ギルドに送る。秋には叙任式があると思うぞ。王都で行うから、必ず出ろよ」
今は初夏なので、暫くは時間がありそうである。俺は討伐証をドンゲールに手渡した。
「確かに受け取った。で、ワイヴァーンはあるのか?」
「四頭あります。灰色牙狼は引き取って頂けませんか?」
「灰色牙狼はな・・・うちじゃあ剥げないんだよ・・・すまんな。クーディア以外じゃ無理なはずだ。ワイヴァーンはうちじゃ二頭しか引き取れないな・・・クソ」
「別に腐らないので、言って頂ければその時出しますよ。当分ワイヴァーンは狩りませんから」
「そうか、すまんな。甘えさせてもらうぞ。鱗と膜が要るんだったな。二頭だから金二百だ。いいか?」
俺は頷くと、解体場に移動し、二体のワイヴァーンを出した。中には入らないので外に出すと、案の定、ギャラリーが集まってくる。皆、観察するように見ている。皆、余り見たことが無いのだろう。
「マスター、今日帰りますので、又来たときでお願いします。迷宮に行こうと思うんですよ」
「うむ。わかった。お前達がワイヴァーンを狩ってくれるので、売り上げが増えている。ルーガルを訪れる商人や魔道師も増えている。恩に着る。馬車工房も作ったと聞いた。街はちょっとしたお祭り状態だ。お前が来てからルーガルは良くなったと思う。田舎だと小馬鹿にされていたルーガルがちょっとした注目を集めているのだ」
「え? あ、ありがとうございます」
俺は照れてしまうと、にやにやしながらキーアキーラに背中を叩かれた。
俺達はギルドを後にしてレングラン男爵の屋敷に向かう。門番の騎士に挨拶して中に入っていく。
「男爵様! ユージーです!」
「おう! 入れ!」
「失礼します」
俺達が入ると、毛皮を眺めるレングラン男爵と、打ち合わせをしているカムナとガドールと騎士ドドーレ。長老のハハム爺さんはお茶を飲んでいた。
「この前はお疲れだったな。王女殿下は無事ルーディアまで到着されたのか?」
「ああ。ミカファ、無事着いた。妹が世話になったな」
キーアキーラが放った妹、という言葉で場がざわつく。
「言っていなかったか? キーアキーラは貴族籍を離れた元第二王女だぞ。お前ら控えろよ。で、今日はどうした?」
「男爵様、紅茶の木を植えたいなと思いまして。少しだけあるんです。増やして名産にしたいなと」
「ああ、王女殿下もお気に入りだったお茶だな。わかった。植えるのか? 変な場所じゃ駄目だな。付いてこい」
俺達は屋敷の奥、調練場に案内される。レングラン男爵他、執務室のメンバー全員が着いてきた。
「ここが良いだろ。屋敷の奥だから、盗難にも会わないだろう。カムナ、今から植える木は紅茶といって、王女殿下が王宮で飲みたいと、言っていただいたお茶だ。初出荷は当然殿下だ。いいか、死ぬ気で守れ」
「お、王女殿下! はい! 寄り合いに計って管理メンバーを決めます! 騎士団もご協力を!」
「うむ! 任せろ!」
カムナとドドーレが盛り上がって来た。スコップや鍬を持つ手を振り上げている。
「うちが作る森よ・・・」
ヴェルヘルナーゼも盛り上がっているようだ。
「口を挟むようで悪いんだけど、手で茶を摘むから背丈以上には大きくしないよ。剪定するからね」
「わかったわ。それでもうちが手がける森には違いないわ。あなた、売り方に何か考えがあるんでしょう?」
「紅茶は毎日飲めるから、日常品として広まると思うんだ。お茶の木も国中に広まる気がするんだ。紅茶の木は一種類だけど、植えた場所で味が変わるんだよ。違う場所で作られた茶葉がここよりも美味しい、となって王女殿下から注文が無くなるのは嫌だよね。常に最高品を出し続ける茶畑で有りたいんだ。俺は畑のことは良くわからないから、概念でしか言えないけどね」
「最高の茶葉を常に・・・わかったわ。あなたの言う通りよね。見てて。今からこの地に祝福をするから。魔力欠乏になったらよろしくね・・・ファークエル。今から祝福を与えるわ。手伝って」
ヴェルヘルナーゼは右手に魔龍剣ファークエルを、左手に煉獄刀を握る。
ヴェルヘルナーゼは剣を持ったままくるくると舞い始めた。ヴェルヘルナーゼが回るとファークエルが真っ赤な炎の軌跡を残し、煉獄刀が青い炎の軌跡を残す。
ヴェルヘルナーゼは何かを詠い始める。単調だが、心に響く調子の言葉である。透き通る、綺麗な声だった。神代エルフ語で森への祝福を詠っているのだ。クーディアやアプルーディアでみた、壁画の内容だ。
ヴェルヘルナーゼは時には回り、スカートがめくれて美しい足を披露する。体を反らすと豊満な胸を誇示する。二振りの剣が放つ炎の軌跡と相まって、神聖で、卑猥で、美しくて、目が放せなかった。ヴェルヘルナーゼから美しい、透明の魔力が大地に染みこんでいった。皆、言葉無く、舞に見入っていた。
唄を二十回繰り返したところで舞を止める。
「終わったわ。ね、貴方がゲルア様の団栗を植えてくださらない? そして良いお茶が出来る様に祈って」
俺は手渡された団栗を持つと、スコップを持ったカムナが付いてきてくれた。俺が調練場の隅に行くと、穴を掘ってくれた。
「ゲルア様、美味しいお茶をお願いします。木も丈夫に育つように」
俺が団栗を穴に入れると、カムナは土を被せてくれる。俺は大地に手をあて、祈りながら魔力を流してみた。大地には俺の大好きなヴェルヘルナーゼの魔力で溢れていた。俺の魔力はヴェルヘルナーゼの魔力と混ざり合い、団栗に届いた。
「よし。じゃあ植えよう」
「よっしゃ。じゃあまずは草を根から掘り起こすのじゃ。そして山にして肥料にするのじゃ」
「おいおい、ハハム爺、大丈夫か」
レングラン男爵が思わす声を掛ける。
「先ほどの見事な舞で儂のなかのエルフの血が騒いでしまったのじゃ。四代前にエルフの血が入った家系じゃからの」
「ハハム爺さん、じゃあ頼む。お茶の木は根がある木が二本、切られた木が五本。お茶の木は挿し木で増やすと聞いた事があるんだ。確か、葉を二枚になるように切って、植えていくはず」
俺は地面にお茶の木を並べる。
「ハハム爺様、見たこと有りますか?」
ヴェルヘルナーゼがハハム爺に聞いている。
「無いのう。初めて見たわい。この二本はお主と奥方で植えなされ。残りを挿し木して植えるからの」
俺はふらつくヴェルヘルナーゼと二人でお茶の木を植える。挿し木も畳三畳分の畑に植えられた。作業はすぐに終わった。
「奥方、儂が見ておるから、安心してほしいの。ある程度大きくなったらまた挿し木じゃな? 葉を使うのじゃろ? で、収穫は秋かの?」
「春はスッキリとした味で、秋になるに従いしっかりした味になります。この先端の葉は特別にフルーティな味がします。俺はスッキリ目の味かなって思うんですけどね。季節によって味が変わりますから、この辺が腕の見せ所ですね」
「フム。まあ収穫時には来て貰わんとな」
「あ、男爵様、収穫は女性の手でやっていただきたいなと。ハールレ様にお願い出来ないでしょうか。葉を揉む作業があるんです。俺やドドーレよりも、綺麗なハールレ様のほうが良いかなと。畑が広がれば女性の仕事としても良いかもしれませんね」
「フム。ハールレは殿下に祝福を頂いたから、良いかもな。ドドーレ、どうだ?」
「あ、はい! 光栄です!」
「あとは管理はハハム爺に任せるか。アレは執務室に戻って来ないぞ」
「じゃあそのように寄り合いに計りますね。爺さん目が生き返りましたね。お茶とエールを飲む姿しか見たこと無かったのに」
「ハハハ。言えているな。だがこれは金になる。五人選出して配置させろ。絶対に成功させるぞ」
「男爵様、わかりました。任せて下さい」




