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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第1章 初めての転生
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初めての転生

第一話 初めての転生


 真っ白だった。見渡す限りの純白の空間。俺は夢の中に居る。


 唐突に状況が浮かんでくる。ベッドに寝ている俺。泣く年老いた母親。ああ、俺は癌になってしまったんだっけ。


 段々頭がクリアになってきた。会社の検診で引っかかって検査入院したら、まさかのステージⅣ。そのまま死のうと思ったら母さんが来たんだ。俺は何となく安心しちゃってさ・・・ぽっくり逝ったんだよ。


 俺は四十歳で独身だったんだ。知っているか? 癌って、若いとあっという間に進んで行くんだぜ。四十代は癌にとって、非常に若い年齢なんだ。癌細胞が増殖していく速度が半端ないんだ。


 気が付かなかったのかって、仕事で必死だったからさ。そうかあ、いわゆる社畜と言われても仕方が無いのかもしれないなぁ。


 気が付くと真っ白な空間にいた。今度、生まれ変わるとしたらさ・・・人間に生まれればいいよね・・・次の生命はゴキブリかも知れないし、薄羽蜻蛉かもしれないよね。


 ゴキブリだったら長生きできるかな。薄羽蜻蛉だったら川で羽化した瞬間に山女や岩魚に食われるよね。


 願わくば、次の生命も人間がいいな。神様とか居るんだったら、頼みます。人間で。できれば、イケメンで。俺が街を歩くと、女が振り返るの。ワーとかキャーとか言われたい。


 ハッハッハ。俺は何を考えているのかな。真っ白な風景が、段々と灰色に変わってきた。生まれ変わりなんて、無いよな。俺はこれで消えて居なくなる。


 良い人生だったかと言われると悔いが残るよな。結婚したかったし、子供も欲しかった。何がいけなかったのかと、今でも思うよ。


 そうだなぁ。今度は困っている人を助けられるように、強くなりたいな。俺は精神的に弱かったから、今度は強く生きたいね。強く、強く。


 そうしてさ、魔法使いの様に、バリバリと仕事してさ、稼いでさ、人助けしてさ。出来れば女の子もね。いや、はっきり言うとモテたいです。


 あ、視界が狭まってきた。四十年しか生きられなかったけど、良い人生だったよ。ありがとう。ハッハッハ。誰に言っているんだろう。


 真っ白だった視界が真っ暗になった。

 俺の自我が維持出来なく、ナッテ・・・

 ダメダ・・・オレガキエテイク・・・

 オレハダレダ・・・

 オレハオレダ・・・

 オ、レ・・・

 オ・・・レ・・・




 

 俺は煙で目が覚めた。目の前の焚き火で煙たくなり、目が覚めた。真っ暗な空間で、赤々と焚き火が燃えていた。


 俺は積んである薪を手に取り、焚き火にくべた。薪は加熱され、最初に煙を吐き出した。薪は赤い炎を生み出し、力強く燃え、ケトルの湯を沸騰させた。


 ケトルの中にはハーブティーが入っている。俺はカップに注いで冷えた体を暖めた・・・


 「うおおおお!」

 俺は立ち上がる。


 「え? え? ここ何処? 何処?」

 俺は左右を見る。真っ暗だが、少しづつ目が慣れてくる。森だ。森に居る。


 「どうして森に居る? え? キャンプでもしていた? テントは無いよな? タープも張っていないし?」

 俺は深呼吸して落ち着くと、状況を確認することにした。


 「どうも記憶が曖昧だ。どうやらキャンプに来ているみたいだけど、テントが無い。こんなワイルドなキャンプはしないんだけど・・・落ち着け。記憶に障害がある。こんな時は缶コーヒーに限る。自販機は何処かな。小銭はっと・・・」

 俺は尻ポケットの長財布を取ろうとしたが、見あたらない。


 「やっべ! 財布無い・・・ん? ジーンズの尻ポケット自体が無いぞ・・・」

 段々空が明るくなってきた。放射冷却で段々と冷え込んでくる。


 「スマホだ、スマホは何処だ。今何時だよ・・・スマホが無い! 嘘だろう?! スマホが無い? 有るのはこの革袋だ・・・」

 俺は懐の革袋を開いて、コインを出す。


 「五百円玉にしては重いし、精度が悪いというか、五百円玉じゃないぞこれ」

 俺は焚き火の灯りでコインをじっくりと眺めた。


 「なんだこれ? 骨董品だな? ローマ時代の貨幣みたいだ・・・沢山入っているし・・・五百円玉と明らかに材質が違うぞ」

 俺は再びコインを見る。男性の横顔が掘ってある。裏は龍が掘ってある。


 「銀貨だ。銀だぞこれ」

 俺は革袋の中身を出してみる。銀貨が百二十枚、金貨が五枚入っていた。


 「金貨まであるぞ。どういう事だ、これ」

 陽は上がり、陽光が大地を明るく刺し照らす。俺は金貨と銀貨を懐に入れる。森は生命力を取り戻し、生物の活動が始まった。人間も例外ではないのだろう。俺の近くで、がらがらがらという音が聞こえてきた。馬の蹄の音もする。


 俺はハーブティーを飲みながら、音のする方を眺めていた。どうやら道に居るようだった。


 「道? これが? アスファルトでなくて土が踏まれただけの道だぞ?」


 音のする方を眺めていると、二頭引きの馬車が走っていった。馭者は俺に向かって手を挙げて挨拶をしていった。幌馬車だ。朝早くならご苦労様ですと、サラリーマンだった俺は思ってしまった。


 「なんだ、馬車か」

 俺は安心してハーブティーを飲む。心地よい苦みが体に染み渡っていく。


 「馬車? クルマでないの?」

 自動車では無く、馬車で有ることに気が付くと、チラホラと歩く人が増えてきた。皆、分厚いウールを頭から被っている。マントの様な、ポンチョの様な。靴は木靴である。


 「コスプレ? ここは渋谷? 秋葉原?」

 思わず声に出したが、俺は段々と事情が飲み込めてきた。


 だって、俺も分厚いマントの様なジャケットのような服を着ていたからだ。しかも臭い。俺の靴は革靴のようだ。腰のベルトには長めのナイフが差してある。


 俺は立ち上がると、砂を掛けて焚き火を消した。


 左右を眺めると、背が高くて幹が太い広葉樹が目に入ってきた。日本の杉ではない。明らかに広葉樹だ。広葉樹だが幹が真っ直ぐで、建築材に使えそうだった。


 「雑木林でないな・・・ブナか」


 日本では幹が真っ直ぐで建築材に向いている木と言えば悪名高き杉である。杉は見あたらない。全て広葉樹だ。日本の広葉樹は幹が曲がりくねったものが多く、建築材に適さない。だから雑木と言っている。建築に使えない、雑多な木だ。


 「日本の森じゃない・・・」

 俺はザックを背負った。俺は自分のザックを見て苦笑した。明らかに手縫いのザックで、ミシンで縫製された工業製品では無かった。


 ケトルとカップをしまって担ぐ。だんだんと確信に変わっていく。


 「生まれ変わったな・・・俺は誰だよ。おれは赤須優司、四十歳、鉄鋼メーカーのエンジニアだった・・・」

 俺は歩き始めた。街道は一本で、幅は六メートルくらいだろうか。


 「どっちに行っても、行き先はわからないし」

 目の前を男二人が通り過ぎた。やはりウールのジャケットを着ていた。


 「もうすぐ街だぜ!」

 「ああ、たらふく酒を飲むぜ!」

 「ちげえねぇ! ハッハッハ!」

 日本語では無かったが、意味は聞き取れた。インド・ヨーロッパ語族の言葉、な気がする。明らかに英語ではない。


 「助かった・・・言葉がわかる・・・」

 俺は男二人に付いていった。行く先に街がある、はず。俺は不安に心を支配されながら、ザックを背負って歩いた。朝陽が目に入って眩しかった。


 しかしザックが重い。俺は手を見る。細くて白い。貧弱だ。俺は空気を吸い込むと、足を進めた。


 この先に何があるのか、希望も少し湧いてきた。

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