MMTで出てくる『税は財源では無い』の意味
ぶっちゃけ、MMT(現代貨幣理論)は理論を名乗ってはいるが、基本骨子にあるものは極めて単純な現実観察であり、リンゴが地面に落ちるのを、単にリンゴが落ちたと見たままを述べているだけである。古典派の連中が、地球は平らで端は滝になっているとか言うのに対して「地球一周してみたけど、滝なんて無かったぞ」と述べているだけなのだ。MMTが観察したものは、簿記会計だとか実際の予算の執行である。経済学というのは、現実なんて全く見てきていなかったのだ。
経済学という代物が、市井の人に植え付けてきた固定観念には誤りが非常に多く。そして、多くの人はそういう色眼鏡を掛けている事に気が付かない。仮に指摘したとしても、本当に付けている実感が無いので、素朴に誤った前提で反論してくる。今回はどういう色眼鏡があるのかを解説しつつ、『税は財源では無い』の意味を判りやすく解説する。
色眼鏡1:政府は支出するために、資金を調達しなければならない。
MMTは『税は財源では無い』と述べる。コレには色々な意味があるが、コレを聞くと「予算として使用されているだろ?」と普通の人は考える。政府は支出するために資金を調達しなければならないという前提だ。だが、実際の予算の執行を考えると、そもそも歳入を歳出に使うのは『不可能』な事に気が付く。コレをMMTではスペンディングファーストと呼ぶ。政府は収入が入る前に支出しているのだ。何かと言うと極めて単純な話だ。
2019年の予算は2018年の12月には予算案にまとめられている。そこの歳入には国債費やら税以外の収入が幾らだとか、税収が62兆4950億だと書かれている。『2019年の税収62兆4950億』この、さも当然のように存在する言葉と数字に、なにか疑問を感じないだろうか?
2019年の確定申告はいつするだろうか? 2020年の2~3月だ。そこで2019年の所得税や消費税が納められる。では、この2019年の税収62兆4950億というのは何かというと”見込み”である。増える事もあるし減ることもある。そんな数字だ。実際に2018年の予算では税収は59兆790億だったのに対し、今年の7月に報じられた2018年の税収報告では60兆3564億だった。62兆4950億というカネは、2019年の段階では政府の何処にも無いのである。
じゃあどうやって予算を執行しているのかと言うと、財務省が『財務省証券』を発行する事で支出しているのである。証券とは言うが、実際には単なるデーターであり、数字を入力するだけの事だ。コレが日銀当座預金と交換される事で、政府の支払いに使用される。このスプレッドシートに数値を入力する事が、私たちが「政府支出」と呼ぶものなのである。そのデータはどこからか「やってくる」ものではない。『税収』などと銘打っているが、実際は国債発行と大差が無いのである。2009年はリーマンショックにより税収が大きく落ち込み、税収部分を国債で代替する予算再編を行ったが、財政を執行できないなどという事は起きなかった。
色眼鏡2:銀行預金はあなたが預けた現金を保管している。
色眼鏡3:お金は増える事はあり得ない。
そもそも、なぜこんな現実無視の発想が支配的かというと、現実のお金の姿や、それにかかわる職域の業務について全く認識出来ていないからである。例えば、銀行口座を開き1万円だけ振り込み、再び1万円を引き出したとしよう。その一万円はほぼ確実にあなたが振り込んだ一万円と同じモノでは無い。重要なのは帳尻があっているか否かであって、銀行は、あなたが振り込んだ際の現金を、あなたが引き落とすまでワザワザ保管するなどという意味不明な事はしない。言われてみると当たり前の事だと思う。しかし不思議なことに、そのような主張をする人は多い。
例を挙げれば、『銀行の取り付け騒ぎ』だ。銀行預金が引き出せないという噂なり何なりで、人々が銀行に殺到して預金を引き出そうとするが、口座が停止され引き出す事が出来ないという現象がある。これは何が原因なのだろうか? 預金者の口座に現金が無い事? 兌換紙幣では無いのだから、預金者の現金というモノが金庫にある必要は無い。単に、銀行の経営不振により、運転資金が枯渇した事が原因だと述べるべきだろう。しかし、預金者の金庫に現金が無いからと述べる人はそれなりにいるのである。そもそも、貸し金庫では無いのだから、預金者の金庫なるモノは無いにも関わらずだ。
さて、なんでこんな銀行業務について述べたかと言うと、現金で税金を納税した場合にどうなるか? という事を説明する為である。日本銀行に行けば、バラバラに裁断された日本銀行券を買う事が出来る。日本銀行によると、その他、トイレットペーパーなどにリサイクルされたり、一般廃棄物として各地方自治体の焼却施設において焼却処分されているそうだ。集めたお金はそのように処理されているのである。あなたが汗と血に塗れ、クシャクシャになった現金で納税をした場合には間違いなくそうなる。
あなたが現金支払いをしたお金が政府の金庫に入る必要性は何処にも無いのである。税務署の電子台帳に数字を書き込んだ時点で、それらのお金は役割を終えたのだ。電車のチケットと同じ事である。パッチンしてポイ。(アメリカはもっとドライに税務署で全部裁断処理してるらしい)
そろそろ、現実のお金が何なのかを見るべきだろう。金本位制の時代は終わっているし、お金が天から与えられているとの認識は、狂人の領域に両足を突っ込んだ主張である。銀行預金とは単なるデーターの集合であり、銀行券とは原価数十円の紙とインクの加工品、硬貨とはそれほど価値在るわけでない金属で作ったコインに過ぎない。最後に述べるが、MMTの主張の根幹は、マクロ経済活動に実際に存在しているボトルネックとは何なのかを問うモノである。
お金が増え続けるとどうのなどというのは、人類の歴史でお金が増え続けているのに、お金の価値が急減するなんて問題など起きてない事や、直近の例では量的緩和政策で、日銀当座預金が数百兆も増えたのに、古典派の主張する通貨安や金利上昇が起きていない事で全て否定されている。政府にとって、お金が無いから財政支出が出来ぬなどという事は、そもそもあり得えぬ話なのである。
色眼鏡3:政府赤字は、子供たちの世代に債務という負担を残すことになる。
色眼鏡4:政府赤字は民間貯蓄を奪っている。
ここまで言っても、このような色眼鏡の主張をする人はいるモノだ。財政赤字で良いだろと言うと、政府が赤字でも問題ないなんてあり得ない! それは子供たちの世代に債務という負担を残す事だ~、いわゆる孫たちに債務を残すな~とかいうアレ。「将来、私たちの子孫のモノやサービスが奪われる、その理由は”国の借金”と呼ばれているもののためだ」という考えはひたすらにバカバカしい。
まず、極めて当たり前の事を述べよう。現在の人間が過去の人間に返済を行うなどという事は、現行のあらゆる科学を総動員しても不可能である。どれだけ気張ろうが、筋肉モリモリマッチョマンの変態機械兵士を一体も送りこめないばかりか、過去にそよ風ひとつ吹かせられない。未来の人間が現在の人間に返済を行う場合も一緒だ。一体全体、何がツケであり、何を返済させる気なのやら?
或いは、政府赤字は民間貯蓄を奪うとかいう意見、いわゆる経済学が創りあげた思想の中でも最も馬鹿らしい代物である。これがクラウディングアウト仮説とかいう信仰だ。コレが誤りであることは簿記会計の基本中の基本を知っているだけで理解できる。そして恐ろしい事に、元ハーバード大学の経済学部教授ともあろうクラスの人間が、会計を知らぬと述べたのである。そう、経済学の範疇に会計学は欠片も含まれていないのである(んなアホな)
じっさい財政赤字はどのように働いているのだろうか。それはこの上なく単純な話だ。政府の赤字は、額が幾らであっても、政府以外の残り全部の円建ての金融資産の増加額とぴったり一致する。つまり財政赤字は、政府以外の金融資産をぴったり同額増やす働きをするのだ。政府の赤字は民間の黒字。これは会計的な事実であって、理論とか哲学といったものではない。議論の余地がない国民所得計算の基本なのだ。去年の財政赤字が1兆円なら、民間の金融資産は1兆円増えるのである。もし一致していなければ、会計係は深夜残業でも何でもして、どこで会計ミスをしたのかを探すはめになる。
ここまで来ると、当然こう疑問が生じるだろう。
政府が支出のための税を必要としないなら、いったいどうして税を取るのか?
(1)通貨価値の安定化の為
よくあるMMT批判に、無制限にお金を刷れると言った~というヤツがあるが、MMTは無制限にお金を刷れるなどと言っていない。お金の発行は”インフレに制限される”と言っているのであり、当然、無税国家を行うというならインフレは進行する事になる。そしてインフレとは、モノやサービスの需要と供給の結果で決まるモノで、主流派が主張する、貨幣の信認とやらによって生じるモノでは無い。(だいたい、この貨幣の信認とやらの定義はまるで存在しない。右を見てまた見ると別の定義を主張するような、中身のない言葉である)つまりは、インフレの抑制のために税は必要だという訳である。
(2)富と所得の分配を累進課税という形で表明する為
二つ目の税の目的は、所得や富の分配を変えることだ。例えば累進税システムは富裕者の所得を減じ、困窮者の税を最小限にする。格差をゼロにする為に無茶をやる事に反対する人間はいるが、格差は大きければ大きいほど良いとか言う人間は流石にいないだろう。
(3)様々な企業や経済団体を有利または不利にする公共政策の表明
第三の目的は、望ましくない行動を阻止することだ。大気や水質の汚染やタバコやアルコール。関税などを通じて輸出品の価格(輸入のコストを上げ国産品の購入を助ける)を上げること。これらはよく「罪悪」税と呼ばれる。喫煙、ギャンプル、贅沢品の購入などの「罪悪」のコストを引き上げることが目的というわけだ。
(4)高速道路や社会保障といった確実な国益の費用を定義し直接アクセスするため
第四は、特定の公共サービスのコストを受益者に割り当てるためだ。例えば、高速道路の使用料がその利用者の負担になるようにガソリンに課税するのは一般的なことだ(直接利用料金を取るのとは別のやり方になる)
(5)税の存在が通貨を規定する為
お金を得る為に税金を取るのではなく、税金を取るという行為が何がお金かを定義するのである。次に紹介するのは理論上の概念ではなく本当に起こったことだ。1800年代のアフリカで、英国が作物を作るために植民地を作ったとき、英国は現地人から職を募ったが、誰も英国のコインを稼ぐことに興味を示さす者はいなかった。そこで英国はすべての住居に「小屋税」を課し、それは英国の硬貨だけでしか納められないものとしたのだ。すると地域はたちまち「マネタイズ」され、人々は英国の硬貨を必要とすることになり、それを得るためにモノや労働力を売りに出し始めた。こうして英国は彼らを英国硬貨で雇い、作物を育てることができるようになったのだ。小屋税を納められなかった者? 知らんな。
これ等を踏まえて、『税金は財源の為』という前提を抑えて現実の税制を見てみよう。
お金持ちや企業というのは、利益確保に熱心でこの手の事へは非常に活発に政治活動をしているし、ペーパーカンパニーなども駆使して節税に励んでいる。要するに、金持ちからは税金を取りにくく、逆に金持ちでない人からの方が簡単に税金を取れるのだ。故に、取りやすいところから税金を取ろう。消費税増税! 法人税減税。
ビールのアルコール度数は4~5%に対して、流行りのストロングゼロなどは⑨%だ。税金はどっちが高いでしょうか? 皆も知っての通り、ビールの方が高い。350ml.あたりビール77円に対して、リキュール等の発泡性の酒(発泡酒では無い)は28円だ。なんでこんな税制なのかというと、ビールは高級酒だから、らしい。(この税制が決められた昭和15年ぐらいは輸入品だったそうだ)OKOK、ビールは高級酒。それで我が国の酒造メーカーはカニ蒲鉾をカニに近づけるような涙ぐましい無為な努力をさせられて来た訳だ。それも2018年に裁定が下る。カニ蒲鉾はカニ! かくして杜氏は酒造りを止めて、バイオエタノールに安っいジュースをぶち込んだモノを、酒として売り出すようになりましたとさ。
環境保護の為に皆色々しているよね。車をガソリン車からハイブリッドや電気自動車に乗り換えて、地球もハッピー皆ハッピー。でもね、そうするとガソリンの売り上げが減って、ガソリン税が取れなくなるんだよ。だから、これからは、ガソリン税にプラスして、車の走行距離にも応じて税金を取る事にするね。大丈夫、大丈夫、車に乗らなければ良いだけの話だよ。もっと地球にハッピーで皆もハッピー。ハッピーか?
勿論、これ等の事はカネの為では無いという建前で行われているが、誰がど~みても『税収が減るから』という理由で行われたり、行おうとしている愚政の数々である。