引っ込み幽霊
死んだおじさん。
死んだおじさんがいた。
死んだけど、一日一時間だけ、快楽と感触を手に入れることが出来る。
そんな権利を、手に入れた。
引っ込み思案だった。
だから、生前は恋をすることもなかった。
そんな人のために、出来た制度だ。
おじさんは、恋に前向きになろうとしていた。
幽霊が住む、事故物件に来た。
ごく普通の女子高生。
幽霊への興味と、部屋の安さ。
それが理由で、引っ越してきた。
何もかも、散々だったおじさん。
そんなおじさんは、恋をしようとした。
素直な女子高生に、恋をしようとした。
「初めまして、サナです」
第一声が、自己紹介だった。
おじさんは、和んだ。
少し、心が軽くなった。
受け入れられているような、気持ちになった。
「ここで人が死んだこと、知ってます」
どんどん、距離が縮められてゆく。
でも、触れることはハードルが高すぎる。
そう、おじさんは感じていた。
女子高生に、触れる権利がある。
でも、怖がられそう。
そんな気持ちから、躊躇っていた。
会釈をずっと、されていた。
普通に、話し掛けられていた。
知っていて、ここに住んだ人。
だから、普通だ。
手を握りにいった。
やさしくやさしく。
ゆっくりゆっくり。
ついに、握ることが出来た。
握るまで、何日も何日も経過していた。
女子高生は一瞬、ハッとなった。
でもそれは、急だったことによる驚き。
怖さから、来たものではなかった。
すぐに、女子高生は握り返した。
そして、笑顔でこう言った。
「これから、よろしくお願いします」




