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情報カタカタ

情報が溢れすぎて、脳がカタカタする。だから、机に突っ伏す。視覚情報を、遮断するため。


チャイムがなるまで、聴覚と脳だけ効かせる。思考を止めるのは不可能。聴覚と視覚だと、視覚の方が情報過多。だから、聴覚を活かしている。


学校は、聴覚だけでやっていける。怖い視覚を、最小限にする。それだけで、だいぶ楽だ。


小学生のとき、家以外での視覚をしぼめた。極力、まぶたを覆って生活した。一対一でしか、誰かと話したくない。脳が爆発しそうになるから。


美女の幼馴染みとしか、喋ってない。好きだから一緒にいてほしい。そう言われた。だから、小学生で視覚をしぼめてからも、一緒にいた。唯一、普通に接した。


高校生の今も、同じクラス。でも、教室で喋ったことはない。その子と付き合う気もない。


とにかく、考えは消せない。だから、今は五感情報を、入れないようにするだけだ。自分主体で、考えを巡らせる。入ってしまった情報だけで、進んでゆく。それをやってゆく。


幼馴染みは、この学校で、一番かわいいと評判だ。街で声をかけられることも、あるようだ。買い物中にスカウト。そんなよくあることを、経験しているみたいだ。


好きになれない。好きに持っていけない。好きが一番、脳を使う。僕にとって一番、好きは作ってはダメなもの。たぶん、脳が爆発する。そもそも、隙間がないから入らない。だから、今こんな感じなんだろう。


こちらから、何も求めない。求めると、こちらからしなくてはならないことも増える。でも、求められることは、嫌いではない。


ただ、喜んでくれないと不安が増える。情報の多い脳内で、増えるワカメのように、不安が膨張する。だから、何事も制限しないと生きられない。


幼馴染みは、怒ったりしない。僕にだけ頼っている気がする。そして、人見知りで、口数が少ない印象。


でも、僕の前では、本音のようなものを、駄々漏れにしてくれる。だから、幼馴染みは僕の、普通の先端にいる。


幼馴染みに、教室でも向かい合いたいと言われた。もちろん出来ない。誰かの目線というものに、触れている状態だ。確実に爆発する。


爆発しない予感がしない。ひとりの人と喋るだけでも、とてつもない情報処理をしなくてはならない。そうなると、爆発しなくても、放課後は灰だ。


今は机の上だ。昨日の夜に、幼馴染みに、学校でも向き合いたい、そんな情報を入れられた。そのお陰でキツイ。でも、一番信じられる人。だから、やる方向に進もうと思う。


教室でも向かい合いたい。それはつまり、解放だ。閉じ込めていた大半を、解放しなくてはならない。


180度の方向転換を求められる。壊れる覚悟だ。小兵力士が200kg超え力士に挑む。そんな感じでいくしかない。真っ正面から、突っ込んでいくしかない。


休み時間になった。幼馴染みが話しかけてきた。隣の席に、席替えになったばかり。だから、違和感はやや薄れた。


ザワツキの渦にいる。ここは、様々な外側の情報が溢れている。無駄話や雑音。それが、色んなものを消し合う。だから、なんとかいけた。


向かい合う。それが、物理的なものなのか。心理的なものなのか。分からない。幼馴染みの考えは分からない。どれが正解か、分からない。


二人で、突っ伏し合いながら喋る。それを、今はしている。それも、立派な向かい合いだ。僕の思考だけの世界ならだ。意外と楽しかった。


幼馴染みが、満足しているかは分からない。耳の能力に特化している僕でも、分からない。これで本当にいいのか。正面突破ではない。中途半端が、最大の脳エネルギー消費を起こしていた。


「昨日のドラマ見た?」とか。「今日の体育ダルくない?」とか。「お弁当に赤ウインナー入ってるんだ」とか。


何気ない会話だった。それが、何だかよかった。脳のカタカタが、少しだけおさまった気がした。


こういう会話は、悪くないどころかいい。安定している。安定感が半端ない。この会話は、教室に起きている、大きな波や小さな波にも、逆らっていない。


ぷかりぷかりとしている。波を一ミリも乱すことなく。上下に揺られながら、受け流している感じ。脳に疲労感も、頑張っている感も残らない。


こんなに、余裕があるのは初めてかもしれない。大豪邸のリビングに、ベッドだけ置く。そのリビングの中心に置かれたベッドで、スヤスヤとする。そんな感じだ。そんな余裕だろう。


突っ伏して会話しているときに、急な異物が来た。「私たち、結婚しない?」というものだ。今期最大級に、乱れた。もう何も入ってこない。


結婚は雑念でしかない。結婚様には申し訳ないが、自己見解ではそうだ。双方からのザワザワ。多方面からの、カタカタが収まらなくなる。


驚いた。驚いた。驚いた。語彙さえぶっ飛んだ。語彙の『彙』という漢字が、書けるくらい、落ち着いてはいる。でも、旧型の暖房をつけた直後の轟音がしてる。いや、つけた直後は静かで、急にゴーッと、来たっけな。


受け入れる。それが一番いい、選択肢だろう。あまり考えない。それも必要だ。結婚したことで脳が変わる。それもある。180度ほど、脳の仕組みが変化したらいい。それくらいの力は、結婚にある気がする。


「いいよ。しようか」そう言った。震えるかもしれない。震えておさまらないかもしれない。情報が増える。情報が増えるから。必然的に、受け入れざるを得なくなるから。


まだ、皮膚に触れたことがない。もちろん、触れられたことも。意識を持ってから。全人類と。屁理屈みたいなもの。それが、みんな吹き飛ばしてきたから。脳にある情報が今も、カタカタ鳴っている。


僕が、妻になる女性に抱き締められたとする。その時、正常に戻る人間なのだろうか。誰かの皮膚に触れたら、どっちかに振り切れる気がする。情報でカチカチに埋まるか。情報と共に、フワフワ飛び立つか。


僕という一人称。それを、脳内で使うことが出来るようになったのも、最近だ。まだ会話の流れで、使えていない。


完全に見失っていた。結婚の情報が入りすぎて、悩みすぎた。


幼馴染みは、今何をしている。完全に放置していた。声も何もない。いなくなったのか。今なら、触れられてもいいのに。


突っ伏す僕の、クロスした左手があたたかい。手の甲に、あたたかさがある。範囲は狭い。でも、愛のあたたかさだった。これは、幼馴染みの人差し指だろうか。それとも、小指だろうか。どっちでもいい。


脳がふわふわしている。脳が生き生きしている。きっと今、幸せなのだろう。

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