へりくだって何が悪いのか?
山科まほろ(24)。彼は、IT企業に就職して、二年目になる。ある日、後輩である、三神さくら(23)の教育係となった。今から、昼休みに入るところなのだが、まほろは、さくらに声を掛けられた模様。
「先輩、お昼、ご一緒しませんか?」
「うん。こんな僕と二人でです
か?」
「はい。ふたりで」
「いいんですか? 大事な時間を一緒に過ごさせてもらって」
「もちろんです」
「先輩のよく行く場所がいいんですけど」
「うん。でも、僕はあなたのこと、よく知りません。あと、好きな食べ物とか、苦手な食べ物も、よく分かりません。だから、教えてもらえますか?」
「はい」
「ごめんなさい。アレルギ一とかも、あったらお願いできますか?」
「そんなことまで、聞いてくれるんですね」
「僕のせいで何かあったら、申し訳ないので」
「私は、ダメな食べ物はありません」
「そうですか。じゃあ、ハンバーグはどうですか?」
「いいですね」
「では」
まほろは、どんなときも、下から物事を考えてしまう性格である。そんなまほろを、どこかカワイイものを見る目で、さくらは見ていた。
「近くの場所の方がいいですよね?」
「別にそこは、気にしませんよ」
「足に痛みとかないですか? 少し歩く場所だと、痛みが増すかもしれないので。階段も少ない方がいいですよね」
「別にいいですよ」
「すみません。早くいった方がいいですよね。行きましょう」
「はい」
「近くのおいしいハンバーグに」
「行きましょう」
右腕が、まほろに当たるほど、さくらは近づいていた。その度に、まほろは会釈をした。
「その靴、慣れていませんよね。ゆっくりでいいので」
「ありがとうございます」
「ここを右です。車道は左側なので、場所、変わりますね」
「はい」
「ここから、少し見えているんですけど、赤い看板のお店です」
「あ、分かりました。見つかりました」
さくらは、ハートの視線を、ずっと隣に注いでいた。まほろは、まわりに気持ちを散らばせないと、気が済まない様子。
「ここは、近さと混み具合と、美味しさの条件が揃っているんですよ」
「えっ、すごく楽しみです」
「ここです」
まほろは、水をすくうような手で、お店を指した。指を指すより、刺激が少ないと考えた結果、そうしているようだ。
「コ一卜は、そこの隅に、掛ける場所があります。イスをお引きしますね」
「ありがとうございます」
さくらは、これくらい気を使ってくれる人も、有りだなと感じていた。
「どれでも、好きなものをどうぞ。高いものでも、いいので」
「ハンバーグも食べたいですけど、ステーキもいいですね」
「両方、どうぞ。飲み物も好きなだけ、どうぞ。」
まほろは、へりくだりが普通だと思っている。そんなところを、さくらは好きになった。




