あたしの前世がまだ生きてるっぽい
『昔、凄くお前に似てる人がいたよ』
知人がそう言ってきた。
『ミュージシャンなんだけど、ある日突然表舞台から姿を消したんだよ』
どんな人なのだろうか。
『もうかなり有名だったよ』
私は全く知らなかった。
『姿を消してからはもう20年だよ。姿を消してから、ちょうどお前の年齢と同じ20年だな』
何かしら、私と関係があるのかもしれないし、ないのかもしれない。
『病気説とか、ヤバい仕事してる説とか、逮捕説とか。色々流れたけど、確かなことは分かってないんだ』
私の脳は、正常に動いていなかった。
『顔はあんまり似てないんだけど、雰囲気と語彙がね。あと、喋り方とか言葉のチョイスも、もうナリアそのものなんだよ、お前は』
予想外にカタカナ系の名前が出てきた。
外国の人なのか。
『滅多にテレビには出なくて、謎に包まれてたから、分からない人もいるかもね』
気になって調べてみた。
伝説のアーティスト【ナリア】は、交通事故で意識不明になり、今も眠っていると書いてあった。
その情報は確かなのか?
私は、ナリアの魂を受け継いだのだろうか?
ナリアの写真は、ネットを探しても全く見つからなかった。
ナリアに魂を移せば、ナリアは目覚めるのだろうか?
とりあえず、ナリアのことを脳内で広げてみた。
ほとんど知らない人物の想像を、必死に作り上げてみた。
想像のナリアは、ブラウンの長髪をしていた。
躊躇はしたが、自ら作り上げた、その想像のナリアへ、独学で乗り移ろうとした。
目を瞑り、現実の実像は、ピクリとも動かさぬままに。
強く念じたあと、暗かった視界に、ものすごく目映い光の束が、押し寄せてきた。
瞼を開けると、そこは病室だった。
私はナリアになったのか?
鏡を見ると、想像していたナリアそのものだった。
目覚めたとはいえ、私はナリア。
これからのプランが、一切見えてこない。
包帯はどこにも巻かれておらず、傷らしい傷はどこにも見当たらない。
ただ、重症患者がいるような病室にいた。
噂に聞いていた交通事故は、本当にあったのだろうか。
交通事故に遭い、ずっと眠り続けていたのだろうか。
きっとそうだ、そこに、私は入ってきてしまったみたいだ。
急に慌ただしくなってきた。
意識が戻ったことが、誰かに伝わったのだろう。
これから、ナリアとしての人生を歩むことになるのか。
これは夢のようなもので、目覚めたらまた、本当の私として生きられるのか。
ずっと、心配は尽きなかった。
これから、どう生きていくかよりも、空っぽになったであろう、自分の身体の方が心配になった。
ナリアの身体にいるが、意外としっくりきている。
もしかして、本当に前世なのかもしれない。
そう思うくらいに。




