楽して生きるための魔法
普通に魔法使いと出会った。
バーで飲んでいたら、隣の人と意気投合した。
それがたまたま、魔法使いだった。
すごく楽しかった。
魔法使いはとても気遣いの出来る、聞き上手だった。
魔法が掛かったように、話が止まらなくなった。
でも、今まで生きてきた日常は、あまり楽しいものではなかった。
「人生がツラいんです」
「楽して生きたいんです」
「もう今のままは、嫌なんです」
僕は、魔法使いに思い付く限りの弱音を吐き出した。
すると、魔法使いは僕に、こんなことを言ってきた。
「楽に生きられる魔法を授けます」
その言葉に、甘えようとした僕だったが、そんなに甘いものではなかった。
魔法に関するルールは、とても複雑すぎて、全然、楽と呼べるようなものではなかった。
★第一章★ 空腹
空腹の状態を作っておきましょう。
ただし、エネルギーが一定値に達していないと、魔法は使うことが出来ません。
その空腹状態はツラくても、水で潤してはなりません。
胃を通さずに、点滴等で身体を活気付けることもしてはなりません。
普段取る水分は、軟水のミネラルウォーターのみと決めさせていただきます。
それは3週間ほど継続していかないと、適した身体にはなれません。
★第二章★ 高揚
精神や心の状態ですが、七分の高揚感を保ってください。
不安要素は、全て取り除かなければいけません。
そして、起きてすぐの状態では集中力の観点から、魔法を使うことが難しくなります。
起きてから一時間は、精神が安定していても、魔法を使うことは不可能です。
七分の高揚感は、少しの誤差があってもなりません。
それくらい、繊細な精神状態が求められます。
★第三章★ 意識
魔法を使うんだ、という意識は脳内から完全に排除しましょう。
魔法を意識しすぎると、成功確率は極端に減ってしまいます。
心や脳内に、不純物が混じっていると、稀に小爆発が起きるかもしれません。
心の状態以上に、服装には気を付けてください。
服装の乱れは、心の乱れに直結するからです。
だらけというものを、身体から滲み出させないようにしましょう。
特に服装は、魔法に影響が出やすいジャンルです。
魔法を扱うにあたり、NGな服の色があります。
黒や茶色などの暗い色はOKです。
その他では、純粋な何の雑じり気もない赤は可とします。
ただし、鮮やかすぎる赤や、それ以外の色が服装に少しでも入っていると、魔法が暴走する恐れがあります。
出来るんだ出来るんだ、と強く思い続けることもよくありません。
そして、出来ない出来ないという感情も同様で、あまりよくありません。
リラックス状態を保ちながら、柔らかく魔法の想像をしてみてください。
★第四章★ 視覚
視力は1.0以上にしてください。
視力は心の視力にも繋がっていきます。
視力が悪く、どんなことを試しても改善が見られない場合は、眼鏡を掛けることも可です。
ただし、安いものですと、逆効果になる場合があります。
ですので、基本は裸眼で挑むことをオススメします。
目に少しでも痛みや違和感を感じる場合は、5分以上目を閉じてください。
その時、黒目を1ミリも動かさないようにしましょう。
1ミリにつき、30分程度のタイムロスが発生します。
目薬が有効な場合もありますが、合わない場合は逆に悪化することもありますので、控えましょう。
コンタクトは瞳に直接触れるので、バランスが狂いますから、絶対にやめてください。
★第五章★ 嗅覚
鼻が詰まっていては、実力も詰まってしまいます。
鼻から体内に、十分に空気を取り入れられるようにしましょう。
鼻にある毛ですが、全く無くても感覚が掴めないので駄目です。
伸ばしすぎは、鼻の穴をくすぐってしまい、集中を欠く等の支障をきたすので駄目です。
適度な長さに切り揃えましょう。
周りは、僅かなニオイが漂っているよりも、無臭が一番好ましいです。
ただし、強い香りでなければ、甘いものは可とします。
鼻うがいは、魔法を使う5分前までにしてください。
それは必須項目で、やらなければ成功はありません。
鼻の奥こそ、不純物や邪念の住み処なのです。
ただし、それに使用する液体は、私たちが特殊な機械で製造した、公式のものにしてください。
★第六章★ 聴覚
魔法を使う30分前までには、適度な耳掻きを済ませておいてください。
イヤホンは耳を圧迫し、その日、耳から放出するはずのものを閉じ込めてしまう場合があるので、前日はしないようにしましょう。
高架下は普段からあまり通らないでください。
あそこは、鼓膜をいじめてきます。
線路沿いに住んでいる場合は、直ちに引っ越してください。
音楽を聴くのなら、オルガンもいいですが、ジャズピアノを中心とした曲がベストなミュージックです。
ピアスの穴は、魔法に必要なパワーが漏れ出すので不可とします。
これらが不可能な環境にいる場合は、無音室で3時間の待機をしてもらいます。
★第七章★ 味覚
塩をなめて、しっかりとしょっぱさを感じるくらいの味覚に調整してください。
甘さは、長いスパンを空けて少量のみの摂取をお願いします。
甘さを取りすぎると、脳が働きすぎる恐れがありますので、注意してください。
すっぱさ、甘さ、苦さ、渋さ、辛さを、バランスよく口に充満させる練習を、日頃から心掛けてください。
全てのバランスが一番のキーポイントです。
味覚が、一番狂いやすい感覚であると言われています。
味覚さえ整えば、他の感覚は引っ張られるように近寄ってくるとも、何処かで囁かれているのです。
食後2時間以降に、舌先に少しの痺れと少しの旨味を感じたときが、魔法をするベストタイミングです。
ベストタイミングは頻繁に来るものではありません。
なので、他のものも完璧に仕上げておく必要があるでしょう。
★第八章★ 触覚
ハンドクリームは一日三回以上を心がけましょう。
乾燥もひび割れも、僅かなささくれも無用です。
日常生活では支障がなくても、魔法の世界では少しのズレも許されません。
装飾品は外せるのであれば、出来るだけ外すことが最善策でしょう。
ですので、腕時計や帽子は必ず外しておきましょう。
そして、肌に触れる生地を出来るだけ減らした、半袖や短パンを推奨します。
軽量の専用衣装は、貸し出しはしませんが販売しております。
これは必須ではありませんが、より良い環境にするために推奨いたします。
足の毛は剃らずに、そのままにした方がいいでしょう。
その方が、魔法が上手くいく場合がございます。
★第九章★ 場所
特定の場所でしか魔法は使えません。
その場所は山奥の小屋の地下だったり、都内のビルだったり、色々な所に存在します。
山奥の小屋が一番、容易く行けると言われています。
その山奥の小屋に辿り着くには、はやくても二日はかかります。
険しい山や流れの早い川など、困難はとても多いことでしょう。
そして、それらの特定の場所の位置は、誰にも教えてはならないと決められています。
ですので、地図などの手がかりは、ほとんどありません。
大まかな情報だけを頼りに探してください。
★最終章★ 魔法後
魔法を使用した後の一時間は、安静にしてください。
走ったりダンスをしたり、激しい運動は絶対に控えてください。
そして、魔法後のストレッチは、入念に行いましょう。
そこで気を抜いてしまうと、魔法の効果が水の泡になる場合もございます。
しっかりと、自分は魔法を使ったという意識を、魔法直後は噛み締めましょう。
そして、その日のうちにはもう、魔法のことを頭から完全に忘れ去ってください。
忘れないと、魔法の効果が下がる場合があります。
今までに出てきた準備やケアなどを、魔法後も続けるようにしてください。
遠足には、こんな言葉があります。
【家に帰るまでが遠足です】
それと同じように、魔法界にもこんな言葉があります。
【朽ちていくまでが魔法です】
楽に生きられる魔法は、カロリーが高すぎる。
普通に生きていく方が、断然楽だ。
僕は、普通に生きていくと決めた。




