弟のリズ
一歳の弟がいる。
全く泣かない。
全く笑わない。
普通ではない。
もう一歳だから。
泣いてほしい。
どうすればいい。
方法はないのか?
①泣かぬなら笑ってみせてよ弟のリズ
泣くというものは赤ちゃん本来の姿。
それが無いことは大変なこと。
泣くところも見たい。
でも笑うところも見てみたい。
笑っていれば、いま幸せなんだろうなって思えるから。
②泣かぬならこっちが泣くよ弟のリズ
感情が生まれてもいい時期。
なのに真顔を貫いている弟。
悲しさがじわっと溢れる。
弟の将来を考えると悲しさが増してゆく。
無というべき弟の顔を見る度に、こっちの感情が揺さぶられる。
泣く番はこっちではないのに。
③泣かぬなら悲しくないのかい弟のリズ
赤ちゃんが泣く理由は色々とある。
ミルクが欲しかったり。
オムツだったり。
全てが悲しみの始まりのようなものだ。
負に足を踏み入れたときに、赤ちゃんは泣くのだろう。
それなら、弟は幸せ寄りと考えてもいいのか。
もしそうだったとしたら、悩まないのに。
④泣かぬならAIかもね弟のリズ
人は必ず一度は泣く生き物だ。
だから、泣く気配が全くない弟は人間ではないのか。
感情を持たないというイメージから、AIを思い浮かべた。
弟は、かわいい姿かたちをしたAIなのかもしれない。
そういえば、泣くことや笑うこと以外にも、人間らしさはほとんどない。
いや、考えすぎだ、そんなことはあるはずがない。
⑤泣かぬなら心は大人か弟のリズ
泣かないということは、もう赤ちゃんから卒業したのかもしれない。
もう、大人になっていたら、泣かなくても普通だ。
赤ちゃんから、子供を通り越して、大人になったんだ。
海外の天才少年が、二つ飛び級した情報などはよく耳にする。
天才ならば、学年も突き破るのだ。
そのようなことが、弟の精神にも起きたに違いない。
もう、そういうことにしておこう。
⑥泣かぬなら演技でもいいよ弟のリズ
たぶん、頭はもう大人になっているんだ。
泣いてと言われても泣きたくないのは分かるし、大人なら尚更、泣きたくないだろう。
でも、演技でいいから泣いてほしい。
天才ならそんな演技は簡単だと思うから。
⑦泣かぬならバラード流すよ弟のリズ
誰でも雰囲気が作られていないと、泣くことは難しい。
いくらプロだって、完璧な泣きを作るのには、相当な技術が必要だ。
涙のしずくを流すわけではなく、今求められているのは喚くことだけだが、雰囲気は重要である。
泣いてくれるかは分からないが、泣けるバラードを選曲して、早速流してみた。
⑧泣かぬなら悲恋小説を弟のリズ
それでも、無表情で横になっているだけだった。
今までの体験から、一番泣けるものは何かと考えた。
それは、小説や映画などの物語だと気付いた。
そして、報われないストーリーが涙を誘うことも導き出した。
早速、寝かしつける時に読む絵本のように、悲恋小説を情緒豊かに読み上げた。
⑨泣かぬなら鳴いてもいいよ弟のリズ
読み聞かせても反応はほとんどない。
このレベルでもダメなら、もう他にない。
ふと、あることに気が付いた。
ずっとずっと、泣くことに囚われすぎていた。
もう、感情を思い切り表に出すまで、いかなくてもいい。
感情を伴うリアクションはしなくてもいい。
ただ、何か音を出したり、少し変化するだけでいい。
声を少しでも聞ければいいと思い、ずっと弟のかわいい顔を見ていた。
⑩泣かぬなら泣いたことでいいか弟のリズ
弟は一切泣かなかった。
笑うことも、声を発することもなかった。
ずっとこの先、泣いてくれない不安が溢れる。
当分は、泣かない日々が続くだろう。
ママには褒めてもらいたいから、弟が泣いたことにしたい。
泣かせることは、本来はいいことではない。
でも、弟が泣くことに関しては、かなり重要な項目のひとつなのだ。
泣かないのなら、泣いたことにしてもいい?と、弟に問いかけた。
すると、カラダごと顔を縦に振った。
そんな気がした。




