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あなたの知らない物語

ねえねえ、ミッちゃん?私ね、最近、小説とか、ドラマとか、映画とか、物語に浸ることにハマってるんだけどさ、ミッちゃんのオススメって何かある?


オススメ?えっ、何でもいいの?小説でも、ドラマでも、映画でも、ジャンルは何でもいいの?ちょっと待ってね、ひとつに絞りきれないから、少し考えさせてくれる?


【知らない。全然、知らない。単行本や文庫本なんて開いた記憶がないくらいだし。ドラマの裏番組に好きなバラエティーとかあるから、そっちを優先しちゃうし。わざわざ映画館に行って映画を見たり、DVDを借りて見る時間やお金があったらゲームにつぎ込みたいタイプだし。これはきっと世間の認知度が低い作品を求めているのだろうけど、それが余計にプレッシャーになってるし】


ミッちゃん?無理しなくてもいいよ、私だって一作品に絞れって言われたら絞れないもん、よし、分かった、じゃあ、ジャンル絞るね、えっとね、何がいいかな、じゃあ、和む系の小説でお願いしてもいいかな?二作品になっちゃっても全然大丈夫だからね。


【ここは正直に、小説とか全く興味なくて、一作品も頭に浮かんでこないほどだって打ち明けた方がいい場面かもしれない。でも知らない方が嫌われるリスクが大きいとみた。全く本を読まず、色々なストーリーが頭の中に存在していないことを逆手にとって、ここは独自の型にとらわれないオリジナルストーリーを展開するしかないだろう。もう即興で物語を作るしかない】


じゃあ、あれがいいかな?ヒナちゃんにピッタリのがあるよ、少し笑えて、あたたかさに程よく包まれて、感動もあって、とてもいい作品だから、ヒナちゃんにも読んで欲しいんだけど、その小説、今、どこでも手に入らないらしくて。


そうなんだ、じゃあ、あらすじだけでも教えてよ、印象を少し聞いただけでも興味が出てきたもん、でも大丈夫?少しハードル上げ過ぎな気がするけど、私、何万冊も本を読んできて、たくさんの物語に触れてるから、結構厳しいよ。


【自分でハードルを上げ過ぎてしまった。物語を話す心の準備はしてあった。でも、まだ全然オリジナルストーリーは浮かんできていない】


じゃあ、話すよ、【ハナノミヤコ】っていうタイトルね、とある花屋で働く美弥子っていう少女がいるんだけど、美弥子は勉強も出来ないし、運動も全く出来なくて、落ちこぼれていたんだ、でも花が大好きで、花のことになると能力を発揮するタイプで、花屋ではキラキラと輝いていたんだ。


うん、それでそれで?


花の名前も花の扱い方もほぼ完璧にマスターして、花屋での仕事も板に付いてきたある日、一人の暗そうな青年が花屋を訪ねてきて、花を知り尽くした美弥子でも知らない花の名前を口にしたんだ、美弥子は急いでいろんな資料を確認したけど、その花の名前はどこにも載ってなかった。


うんうん、それでそれで。


諦めて戻ると、その青年は美弥子がその花を調べている間に、ひっそりと姿を消していて、そこには花の香りにないような、とても優しい香りが残っていたんだ、美弥子は青年がボソッと言い残した手掛かりである゛鼻が思わず綻んでしまうほど神秘的な香り゛という情報だけを頼りにその花を探すことにした、花のことに関しては他のものより数倍熱心に打ち込むことが出来て、嗅覚も人一倍優れている美弥子が、鼻だけを頼りにその花を探していく、みたいなストーリーだよ。


【咄嗟に浮かんだ<華の都>から発想を飛ばしてみた。でも、いざ即興で適当にストーリーを作るとなると大変だった。途中で今何を話しているのかさえも分からなくなった。言葉の響きから色々と広げてはみたものの、纏まりのない文章になってしまった。たぶん即興で作ったストーリーだとバレてしまっているだろう。きっと文句を言われたり、怒られたりするだろう。最初から正直に言った方が良かったかもしれない】


えっ、すごく面白そう、私、読んでみたいなその小説、でもその小説、今はどこでも手に入らないんだよね、残念だな、本当に興味をそそられる内容で、すごく良かったのにな、話し方とかあらすじの構成も良かったから、余計に物語がカラダに染み込んできたっていうかね。


そ、そうか、それはよかった。


タイトルは【ハナノミヤコ】だったよね、スマホにメモしておかないと、あとでじっくり調べてみようっと、主人公の美弥子にはすごく共感する部分があるよね、勉強も運動も出来なくて、落ちこぼれていたけど、それをバネに頑張る姿って応援せずにはいられないよ、他はダメダメなのに一つだけ飛び抜けた能力を持っている人物が主人公の小説は山ほどあるけど、これは素直に読んでみたいと思ったな。


【すぐに即興で作ったストーリーだとバレるだろうと思っていたが、予想以上に食いつかれてしまった。怒鳴られるよりも、酷評されるよりも、こんなに絶賛されるほうがある意味ツラい。もっとクオリティーが低かったら信じなかったと思うが、多少纏まりのない文章だったとはいえ、自分でもビックリするくらいのストーリーが作れてしまった。こんなに期待されたらもう後戻りなんて出来ない。もう、とことん貫き通すしかないだろう】


私の予想なんだけど、その青年はもう、この世には存在しないんじゃないかな、今は幽霊のような存在になっていて、美弥子が心配で近づいてきたとかかもね、美弥子と何らかの関係がある人物なのは間違いないんじゃないかな、それで、頑張っても頑張っても報われない美弥子に新種の花を見つけさせるために、存在しない花の名前を告げて探させようとしてたんじゃないかな、あの青年はそれとなくヒントを与えて後は遠くで静かに見守っているんだよ、ああ、もう、続きがすごい気になる。


こ、こんなに、興味を持ってもらって嬉しいよ。


私は花が大好きだから、こういう小説は私にピッタリなんだよね、新種の花って誰でも一度は憧れたもんね、私もそのひとりだから、絶対に読みたいって思ったの、花に限らず、新種ってなんか興味をそそられるんだよね、小説が手に入ったら完璧だったんだけど仕方ないよね、美弥子がまだ見ぬ花を探すように、私もその小説を探してみようかな、手に入らないものを探して手にする、なんて美しい世界なんだろうね。


【ヒナちゃんが存在しない物語に入れ込み過ぎていて、かなり心配になった。自分のことよりも、ヒナちゃんのことが心配で心配で仕方がなかった】

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