一羽鶴
結唯 ♀ 15歳 私
主人公。勉強もスポーツも出来ず、友達もいない。クラスでは、暗いやつ、地味なやつ、といじめられている。
芽依のことを最愛の姉、そして唯一の親友だと思っている。心室中隔欠損症、その中でもEisenmengerを患っている。手先が器用で、細かい作業が得意。
芽依 ♀ 15歳 あたし
結唯の双子の姉。勉強もスポーツもトップクラスにできて、友達がたくさん居る。クラスでは学級委員長を負かされていて、みんなの人気者。真央の親友。結唯を最愛の妹、そして親友だと思っている。唯一の欠点は、手が不器用なところ。
真央 ♀ 15歳 真央
芽依の親友。後の結唯の親友。自称コミュ症、実質コミュ症。とても優しく、少しでも結唯の力になりたいと思っている。しかし、小学生の時にいじめられていたこともあり、いじめがとても怖いと思っている。
和人 ♂ 25歳 俺
結唯と芽依の兄。両親を亡くしたため、結唯と芽依の保護者として生計を立てている。素直で明るい芽依のことは好きだが、暗くて空気が読めない結唯のことは嫌い。結唯に暴力をふるっている。しかし外面は良く、家族以外には、良いお兄ちゃんと見られている。涙もろい。
高田先生 ♂ ?歳 僕
結唯と芽依の主治医。腕の良い外科医。優しくて患者思い。しかし、本当は結唯のことを性的な目で見ていた。
??? ♀でも♂でも良い(声のみ)
ニュースキャスター ♀でも♂でも良い(声のみ)
担任の先生 ♀でも♂でも良い(声のみ)
校内放送 ♀でも♂でも良い(声のみ)
いじめっ子 (2~4人)以下、A、B、Cと表示。
プロローグ
暗転のまま声のみ
???:あっ!!そこの人!!そうそう、あなたです!ちょっとお時間良いですか?すぐ終わるので!私、ただいま街頭アンケートを行っておりまして…あっ大丈夫です!!すぐ、本当にすぐ終わるので!1問だけですって!!
間
???:ああー!!ありがとうございます!!じゃあ早速アンケートに移りますね。2択の中から1つ選んでください!!
間
???:あなたの大切な人、例えば家族や親友、恋人などが、車に轢かれて死にそうになっているとします。その人を助けるためにはあなた自らの命を犠牲にしなくてはなりません。その場合、あなたならどうしますか。
間
???:え?もちろん自分の命を犠牲にしてその人を助けるって?本当にそれで良いんですか?
間
???:じゃあ逆に、あなたが車に轢かれて死にそうな人だったとしますよ?あなたは、近くにいたあなたの「大切な人に」その人の命を犠牲にして自分を助けてほしいと思いますか?
間
???:助けてほしくない?あれ?さっきと言ってること違いません?
間
???:では、もう一度聞きますね。あなたの大切な人、例えば家族や親友、恋人などが、車に轢かれて死にそうになっているとします。その人を助けるためにはあなた自らの命を犠牲にしなくてはなりません。その場合…あなたなら、どうしますか。
音響 救急車の音
第一章
明転
場所は病院の診察室。高田と結唯、和人が向かい合って座っている。
高田:…ですので、結唯さんは、心室中隔欠損症、その中でもEisenmengerと呼ばれる先天性の心臓の病気を患っています。
和人:心室中隔欠損症、ですか…。
結唯:……。
高田:はい。症状としては、息切れ、そしてチアノーゼ-体の一部が青ざめることですね-があげられます。
和人:はぁ。
高田:この図を見てください。
心臓と肺の図を取り出す。壁などに貼れれば貼って、それを指さしながら説明。
高田:心臓には右心室と左心室があります。その間は当然仕切られていますが、Eisenmengerの患者さんは、その仕切りがうまく形成されていないんです。そうすると、血液が全身に巡りずらくなって、酸素が少なくなり、息切れなどを引き起こします。
和人:……はい。
高田:心室中隔欠損の大欠損を元々患っていて、体に行く血液が右心に戻って、肺に行くから、肺の圧力が上がる、そしたら肺が耐えられなくなって、右心から左心に血液が行きやすくなります。それがEisenmenger化です。
和人:なるほど……。
高田:…大変言いづらいですが……この病気の患者さんの平均生存年齢は40代です。しかし、結唯さんの場合、発見が遅れて治療が殆どできなかったこと、症状が重いことなどから、生存年齢はもっと低くなるでしょう…。
和人:そう…なんですか…。(目頭を押さえて俯く)
高田:お兄さん……。
和人:もう少し、早くに通院させていれば、結唯は助かったかも知れないのに……。
結唯:……。
高田:お兄さん…。
和人:うちは俺が高校生の時に両親を事故で亡くしています。俺が成人するまでは生活保護などを受けて生活していました…。でも、生活はぎりぎりでとても通院なんてできなくて…。うう…でもそんなの言い訳にはならない…。俺のせいで、結唯が…。
結唯:……。
高田:お兄さん、顔を上げてください…。
和人:治療法は、ないんですか…。
高田:…あることには、あります。
和人:本当ですか?!金には糸目をつけません!!何年かかっても、絶対に返します!!俺が、俺が死ぬほど働いて、絶対…!!
高田:お兄さん、落ち着いてください。治療法はあるとは言いましたが…。
和人:なにか、問題でもあるんですか…?
高田:問題、というか…。…治療法は、心臓移植のみ、です。
和人:心臓移植、ですか…。
高田:はい。しかし、移植の決定は、血液型、サイズの適合などが考慮されます。しかも、移植が出来るのは、脳死の死体のみに限られます。生体では不可能です。なので…
和人:移植手術が出来る可能性は低い、と…。
高田:はい…。臓器を提供してくれる人…ドナーが見つからないと、何とも言えません…。
和人:でも、できるだけ…っ!!
高田:もちろん、最善の努力はします。結唯さんには、これから、長期的に入院してもらうことになりますが、よろしいですね?
和人:もちろんです!!よろしくお願いします!!ほら、結唯もちゃんとお願いして。
結唯:よろしく…お願いします…。
高田:結唯さん、良いお兄さんがいて良かったですね。闘病生活は苦しいとは思いますが、一緒にがんばりましょう。
結唯:はい……。
暗転
第二章
場所は家。芽依がそわそわしている。そこに和人が帰ってくる。セットはちゃぶ台などのみ。
和人:ただいま…。
芽依:あっ!!お兄ちゃん!!お帰りなさい!!夕飯作っておいたから、一緒に食べよ!ビールも冷えてるよ!!
和人:おう、芽依。ありがと。ごめんな、思ったより時間がかかっちまって。
芽依:大丈夫だよ!!それより、結唯は…?
芽依と和人、ちゃぶ台で夕飯を食べながら話をする。
和人:あいつは…入院することになった。
芽依:え…?なにか、重い病気だったの…?
和人:なんかよくわかんねーけど、先天性の心臓の病気だって。
芽依:嘘、でしょ…?今日の体育の時突然倒れて救急車で運ばれたから、熱中症かなにかだと思ったのに…。治るの…?
和人:心臓の移植手術が必要らしい。でもドナーがいないから、治る可能性は低いって。生きられるのも、あと十数年らしいぞ。
芽依:嘘……。結唯、あんなに元気だったのに…。
和人:別に死ぬのは良いけどさ、入院費とか手術費とかかかるのは困るよな…。
芽依:お兄ちゃん…
和人:どうせ死ぬならあんなやつ、さっさと死んじまえばいいのに。
芽依:お兄ちゃん…
和人:はーあ、またバイト増やさなきゃなー…
芽依:お兄ちゃん!!!
和人:おう、なんだ、芽依。…って、なんでそんなに怒ってるんだよ。
芽依:なんでお兄ちゃんはそんなに結唯に酷いこと言うの…?お母さんとお父さんが死んだとき、家族で助け合って生きようって言ったじゃん。なのに、なんで……
和人:芽依は優しいよな…。あいつ、母さん達が死んでから勝手に人間不信になって、不登校になって。やっと学校復帰したと思ったら、いじめられてるんだろ?元々勉強もスポーツも出来ないし。全く。双子でこんなに違うもんかね…。
芽依:お兄ちゃん…
和人:ん?どうした?芽依。
芽依:あたしは、優しいお兄ちゃんが好き。でも、お兄ちゃんは結唯の悪いところしか見ないよね。結唯にも良いところ沢山あるのに…。それには目を向けないで、自分が中卒で働きに出なきゃ行けなくなったことも、仕事がうまくいかないのも、お酒におぼれちゃったことも、全部、結唯のせいにして…!!
和人:おい、芽依…
芽依:あたし…あたし、そんなお兄ちゃんのこと、嫌いだから!!!もういい!!!あたし、もう寝る!!
和人:め、芽依!!ちょっと待てよ!!!
暗転
第三章
場所は家。セットは変えない。結唯が入院の準備をしていて、それを芽依が手伝っている。
芽依:全く、あたし、ほんっとうに結唯のこと心配したんだからね…?
結唯:大丈夫だよ。それより、入院の準備手伝ってくれて、ありがとう。
芽依:わざわざなんて、そんな…。っていうか、結唯、寝て無くて大丈夫?結唯の病気のこと調べたよ?チアノーゼとか、酷いんでしょ?
結唯:走ったりしなければ大丈夫だよ。私の病室、隣のベッドのおばあちゃんがずっと私に怒鳴ってきて…。私が隣だとやっぱり嫌なのかなって思って入院の荷造りを理由に一時的に帰って来ちゃっただけだし。
芽依:ああ、そうなんだ。でも、だめだよ?自分が隣だと嫌なんだ、とか、そんなネガティブになっちゃ。
結唯:でも…大丈夫。私、むしろ1人で居る方が楽だしさ。あ、芽依は別だよ?芽依がお見舞い来てくれて本当に嬉しい。
芽依:ふふ、ありがと。結唯は優しいね。
結唯:そんなことないよ…。私なんて…。
芽依:私が結唯みたいに1人で入院なんてすることになったら、怖くて冷静じゃ居られないよ。
結唯:芽依なら大丈夫……。それに私だって…本当はすごく、怖いもん……。
芽依:え……?
結唯:私ね、もうすぐ死ぬんだって。
芽依:結唯…。
結唯:私の病気、心臓の移植が必要なの。でもね、その移植、ただ死んだ人じゃなくて、脳死じゃなきゃいけないの。脳死ってね、冷たくならないんだよ?死んでいるのに、脳みそが死んだだけだから、体が温かいの。死んだように、見えないんだよ…?
芽依:……。
結唯:その家族はその人の臓器を移植のために使わせようなんて絶対思わない。私だってそうだもん。でもね、私、どっかで誰かが脳死して、早く助かりたいっておもっている。
芽依:……。
結唯:私ってホント、酷いやつだよね。そもそも血液型とか心臓の形、大きさが合う人が少ないし、きっと私は助からないんだけどさ…。
芽依:結唯…。
結唯:私、学校でずっといじめられててさ、病気のことが分かるまでは死にたいとさえ思ってた。でも、いざこうなると、怖くて怖くてたまらないの。私の病気が治って、学校に戻ったら、またいじめられて死にたくなるって分かってるのに…。私の病気が治っても、誰も喜ばないって分かってるのに……。ねえ、芽依、私、なんかおかしいかな……?
芽依:おかしくなんて…ないよ…。
結唯:芽依…。
芽依:それにね、結唯。結唯は1つ間違ってるよ。
結唯:え?
芽依:結唯は「私の病気が治っても誰も喜ばない」って言ったよね。それは違う。あたしがいるじゃん。他の人のことはわかんないけどさ、あたしは結唯の病気が治ったら嬉しいよ。結唯の病気が治るって、ずっと信じてる。
結唯:芽依…
芽依:だから、怖がらなくて良いんだよ。結唯は自分の病気が治ることを信じて。大丈夫。ドナーだってきっと、見つかるから。
結唯:ねぇ、なんで芽依はそんなに私に優しいの?私は勉強もスポーツもできないし、可愛くないし、友達だって芽依以外にいない。ちゃんと面と向かって話せるのも芽依だけ。兄さんだって私のことあんなに嫌いなのに。なんで、なんで私にこんなに優しくしてくれるの…?
芽依:優しくしてくれる、なんておかしいよ、結唯。あたしは結唯のこと好きだから、仲良くしてるの。結唯さ、お母さん達が死んだとき、ずっと泣いているあたしに言ってくれたでしょ?私がいるから大丈夫だって。正直、学校でもやんちゃしてて、親戚の人達とも仲良くできてなかったお兄ちゃんより、結唯の方がずっと頼もしかった。あたし、結唯に助けられてたんだよ。だから、今度があたしが結唯を助ける番。あたしができることならなんだってするよ。
結唯:ありがとう…。やっぱり芽依は優しいな。
芽依:だから、そんなことないって。あ、そうだ。
結唯:ん?
芽依:あたし、今日結唯にプレゼント持ってきたんだ!
結唯:え?!プレゼント?!
芽依:うん!ほら、これ。(鞄の中から鶴のキーホルダーを取り出す。)
結唯:これは…?
芽依:本当は千羽鶴とか作りたかったんだけどさ、あたし不器用だし、折り紙も足りなくて千羽なんて作れなかった。だから持ち運べるように、キーホルダーにして一羽鶴にしたよ。
結唯:ええっ可愛い!!それに、すごい綺麗…。
芽依:えへへ…。昨日の夜遅くまでかかっちゃったんだけどさ。あたしにしたはがんばった方でしょ?
結唯:がんばった方、とか、そういうんじゃなくて、ここまでしてくれるなんて、本当に嬉しい…っ!ありがとう!!
芽依:いえいえ。あたしがいなくて寂しかったらこれを私だと思って寂しさを紛らわせてね。
結唯:あたしがいなくて寂しかったら、なんて、そんな死ぬ人みたいな…(笑)
芽依:えへへ…。
そこに、和人が入ってくる
和人:ああ、芽依!!どこに行ったのかと思ったよ。さっき主治医の高田先生と話して病室に向かったらいないんだもんな。全く。
芽依:あ、お兄ちゃん!お疲れ様!高田先生と話したんだ。どうだった?
和人:こいつの病気、思ったより重くて、あと1年ちょいで死ぬってさ。
芽依:…え?
和人:いやー、よかったよかった。思ったより入院費が抑えられそうだ。
芽依:ねえ、お兄ちゃん、なんでそんなこと言うの…?
和人:え?だって本当のことじゃないか。
結唯:違う……
和人:は?なんだお前。なんか言うことあんのかよ。
芽依:結唯…。
結唯:私は、たす、かる。芽依が、言ってくれた。ドナーだってきっと1年以内に見つかる、し、手術だって、成功、する。芽依が、信じてくれてる、から…
和人:は…?
芽依:そうだよ!!お兄ちゃん!!結唯の言う通り!!結唯は絶対助かるんだよ!!私だって、バイト増やすし、お金も何とかなるよ!!だから…
和人:はは……
芽依:お兄ちゃん…?
和人:はははは、あははははは!!
芽依:お、お兄ちゃん、どうしたの…?
和人:いや、久しぶりに喋ったと思ったら、なに、その話し方。キモすぎるだろ…はははは…
結唯:だって、芽依が、言って、くれた、から……
和人:はぁ…。お前さぁ…
結唯:ひっ……
和人、結唯の襟首をつかむ
和人:芽依が優しくしてくれてるからって調子乗るんじゃねーよ?母さんと父さんが死んでから、生活が苦しくてバイトしなきゃなんねーのに、お前は人と話すことも、勉強もできない。体力もない。だからお前の分まで俺と芽依が働かなきゃなんねーんだぞ?なのに入院するとかさ、本当に家族不幸だよな。
結唯:…うぐ……
芽依:お兄ちゃん、やめて…
和人:芽依…
和人、襟首を離す。
結唯:けほっ、けほ…
芽依:お母さんとお父さんが死んでから、家族で仲良く、助け合って生きなきゃってみんなで話したじゃん。なのに、なんで……
和人:ああ、芽依、ごめん、頼むから、泣かないで…
芽依:とにかく…結唯の病気は治るから。
和人:え?
芽依:結唯の病気は絶対治る。私、信じてるから。
暗転
暗転のまま、声のみ(芽依の夢の中)
高田:ご臨終です…。
和人:あああああああああああああー……結唯……まだこんなに若いのに……。
間
担任:(わざと悲しくなさそうに)みなさんに悲しいお知らせがあります。私達のクラスメイト、結唯さんが重い心臓病で亡くなりました…。
A~C:ええええーー?!
担任:皆さん、まだ現実が受け入れられないと思うけど、若くして亡くなった結唯さんのためにも、がんばって生きましょうね…。
間
和人:あーあ、やっぱり葬式の準備とかめんどくせーな。どーせあいつ友達いないし葬式なんて誰も来ないのにさ。ん?どうした、芽依。「なんで病院で先生の前ではあんなに泣いていたのに家に帰ってきたらそんなに口が悪いの?不謹慎だよ。」だって?だってさ、世間体って大事じゃん?妹が死んで悲しい兄ってことをがんばって演じなきゃな。まあ実際は何とも思ってないんだけどな。
間
結唯:あ、芽依!久しぶり~!え、私?結唯だよ?もう顔も忘れられちゃったのかー。悲しーなー。え?どうして死んだ私がここにいるかって?もう、芽依ったら、何言ってんの。死んだ人の幽霊が恨んでいる人の所に出るのは当たり前でしょ?え?まさか芽依、私が芽依のこと恨んでいる理由が分からないっていうの?…生きているとき、芽依、私に言ってくれたよね。「結唯の病気は絶対治る」って。私、それを信じてがんばってたんだよ?なのに、なのに芽依は…。なんで私ってこんなに不幸なんだろうね。死ぬまで、ずっとさ。……私じゃなくて幸せな芽依が死ねば良かったのに…。
明転
セットは変わらず。机に突っ伏している芽依。
芽依:はっ……夢、か。
間
芽依:そりゃそうだよね…。結唯があんなこというはず…。
和人、鞄をもって登場。
和人:お、結唯、おはよ。またここで寝ちゃったのか…。風邪引くぞ?って…な、なんで泣いてるんだよ…。
芽依:え、私、泣いて…(自分の手を目の下の当ててはっとする)
和人:芽依…(芽依の横に来て芽依と向き合う)昨日はごめん。母さんと父さんが死んでから、3人で力を併せて生きていこうっていってたのにさ…。結唯が病気になって俺たちバイトとか忙しくなるかも知れねーけど、がんばろーな。大丈夫。芽依になにかあれば俺が助けるから。
芽依:お兄ちゃん…
和人:おっと、もうこんな時間か。俺もうバイト行かなきゃなんねーから、もう行くな。
芽依:うん。お兄ちゃん。行ってらっしゃい。
和人、はけようとする。それを引き留める芽依
芽依:お兄ちゃん!
和人:ん?芽依、どうした?
芽依:あの、お兄ちゃん……ううん、なんでもない。
和人:ん、そうか。芽依も学校遅刻しないようにな。じゃ、行ってきます。
和人、はける
芽依:もう、私がやるしかない、よね…。お兄ちゃん、ごめん。でも私、結唯のいない世界でなんて、生きていけないから…。
第四章
暗転のまま、声のみ。
ニュースキャスター:昨日、茨城県県楓市の公立高校に通う鈴木芽依さん(17)が楓市第三交差点でダンプカーにはねられて死亡しました。死亡理由について自殺も考えられていましたが、遺書がないことなどから信号無視による交通事故と考えられています。…では、次のニュースです。
担任: みなさん、おはようございます。クラスメイトの芽依さんが亡くなってから今日で一ヶ月ですね…。
まだ皆さんの中にはこの事実が受け入れられない人も多いと思います…。先生もその一人です…。
しかし、後ろばかり向いて生きていくわけにもいきません。今日は嬉しいニュースがあります。
入院していた結唯さんが退院して、今日学校復帰しました!
明転
場所は教室。結唯のことを囲んでA~Cが立っている。少し離れた机に真央が座って、勉強をしている。
A :あー、結唯ちゃんじゃーん。学校復帰したんだー?病気治ったんだって?おめでとー!!
結唯:……
B :え、無視?無視って酷くない?折角うちらが祝ってあげてんのに。
結唯:……
C :結唯ってさ、手術したんでしょ?心臓の移植手術。その心臓のドナーって、誰だったんだろーねー?
結唯:……それ、は…
C :え、なーに?聞こえないんだけどー
一同、笑う
A :タイミング的に、みんな分かってるけどね。もちろん、結唯ちゃんも知ってるんでしょ?
結唯:……
C :芽依ちゃん、だよね?
結唯:(びくっ)
B :あ、反応した!うっける~
結唯:……
C :やっぱりドナーって芽依ちゃんだったんだ。さすが芽依ちゃん、優しいなぁ。
結唯:……
C :ねぇみんな、あの噂が本当か、本人に聞いてみようよ。
結唯:……?
A :あー、あれ?結唯ちゃんがドナーにするために芽依ちゃんを殺したって噂?
結唯:な、なに、それ…
A :みんな言ってるよ?あんたが芽依ちゃんを自分のドナーにするために殺したって。
結唯:そんな、こと……
C :自分で手を下してなくても、自殺に仕向けたってだけでその人のこと殺したってことなんだよ?
結唯:え……
B :あれ?反論しないの?
結唯:……
C :やっぱりあんたって、人殺しだったんだー!!うっわーーないわーーー(爆笑)
結唯:……
B :どーせなら、みんなに人気者の芽依ちゃんを生かして、嫌われ者のあんた自身が死ねば良かったのに。
結唯:……
C :それな!!病気が治って戻ってきて、みんなに歓迎されるとでも思ってたのかな、こいつ。
A :え、なにそれ、超自意識過剰じゃん(笑)
B :人殺しのくせに自意識過剰とか、もう救いようないね(笑)
結唯:……
校内放送(声のみ):時刻は18時。下校時間です。担当教師が消灯に回ります。教室に残っている人達は早急に下校してください。繰り返します…
A :あ、やっべ、そろそろ帰んなきゃ。みんな、行こ。
B :そだね!!じゃ、人殺しの結唯ちゃん、また明日ね。ばいば~い。
A~C、話しながらはける。
間
俯く結唯。その結唯に近づく真央。
真央:あの、結唯、ちゃん…?
結唯:…は、はいっ
真央:あ、あの、怖がらないで。私はあの人達みたいに結唯ちゃんに酷いこと言ったりしないから。
結唯:あ、ありがとう、ござい、ます……。
真央:結唯ちゃん、敬語とか良いから。タメで話してよ。同級生じゃん。
結唯:わ、かった。あなた、は…?
真央:あ、えっと、真央っていいます。芽依ちゃんから聞いたことないかな。芽依ちゃんには結構仲良くしても
らってて…
結唯:ああ、あなたが…
真央:そうそう。聞いたこと、あるかな…?
結唯:ある。芽依、あなた、の、こと、よく、話してた…。
真央:そっかぁ。嬉しいな。実はね、あの日の前日、芽依ちゃんからメールが来てね、これ、見て。(携帯を取
り出し、結唯に見せる)
結唯:「あたし、もう死のうと思う。私が死んだら私の心臓を結唯に移植してもらうようにって真央からお兄ちゃんに伝えてもらえるかな…?これはもちろん私の意志だよ。結唯が死ぬのを横目で見て、1人でのうのうと生きていくことなんて出来ないから。でも、きっと結唯の手術が成功して、また学校に行けるようになったとしても、結唯はクラスの子達にいじめられると思う。これが私の最期のお願い。いじめられている結唯を助けろなんて言わない。でも、私の変わりに、結唯の隣に居てあげて…」これ……
真央:芽依ちゃん、本当に結唯ちゃんのこと、好きだったんだね。
結唯:芽依……
真央:あのね、真央、こんなことがなくても結唯ちゃんと仲良くしたいなって思ってたの。でも、真央、コミュ症だから話しかけられなくて…。だから、あの……お友達になってくれますか……?
結唯:…わかった。よろしくね。真央ちゃん。
真央:わあぁっ!やったぁ!!無視されちゃったらどうしようってずっと思ってたんだ……!
結唯:そんなことしないよ。大丈夫。私こそ、まさか誰かに声かけられるなんて思ってなかった。
真央:そう?あ、家の方向同じだから、一緒に帰ろうよ!!
結唯:うん!是非!
真央、結唯、二人ではける。
暗転
第五章
場所は教室。結唯と真央が二人で雑談しながら登校して来る。教室の端っこにA~C が群がっていている。
結唯、自分の机に座ろうとする。
結唯:え……
結唯、机の落書きに気が付く。
真央:結唯ちゃん、どうしたの?
結唯:これ…
真央:なに、これ……
A :あれ、結唯ちゃん、どーしたのー?
A~C、結唯に近づく
B :えぇっ、なにこれぇ~、「人殺し」ってかいてあるよ~?
C :「学校来るな、人殺し」「お前も死ね!!」「自意識過剰乙~(笑)」うわっ、ひっど~
A :まー、事実だしね?仕方ないんじゃね(笑)
C :それもそっか~
真央:あの…
B :ん?な~にぃ?
真央:あなたたち、ですよね。
結唯:ちょっと、真央ちゃん!
C :え、なに、あんた。
A :こいつあれじゃん、芽依ちゃんとよく喋ってたやつじゃん。
B :え、こいつ、人気者の芽依ちゃんにちょっと優しくしてもらっただけでつけあがってんの?
C :うわー、こいつも自意識過剰じゃん、人殺しの仲間だー(爆笑)
真央:違う!!結唯ちゃんは、ひ、人殺しなんかじゃ…
A :え、なに?
真央:ひっ……
A :ねえ、もしかして、あんたもこうなりたいの?
真央:ち、ちが…
結唯:やめて、ください…
A :ん?なに?
B :なにこいつ。涙目になって、超必死じゃんwww
結唯:真央ちゃん、は、何も、悪くない…。真央ちゃんには、手、出さない、で…
C :うわー、人殺しが正義者ぶってるー、うっざー。
A :まーいーや。そろそろホームルーム始まるし、今日はもうやめとこっか。
B :そーだね。担任に見つかるとめんどいし。
C :明日はこいつになにしよっか。なんかもっと楽しいことやりたいね。
C :もー、あんた馬鹿ぁ?「こいつ」、じゃなくて、「こいつら」、でしょ?
暗転
第六章
翌日。場所は教室。A~Cが群れている。そこに結唯と真央が入ってくる。
A :あっ!結唯ちゃんと真央ちゃんじゃん!おっはよ~!
結唯:おはようございます…。
B :あれ?!結唯ちゃん、上履きはいてないじゃん!どうしたのー?
真央:(結唯に耳打ち)あんなとぼけたこと言って、どうせまたあいつらがやったんだよ…。
C :あっ、これ見て!!ほら、こんなところに結唯ちゃんの上履き入ってるよ!!
真央:えっ、それ、私の机じゃん…
B :うわっ、真央ちゃん自分の友達の上履き隠したの?!ありえなwww
真央:違う、真央、そんなこと……
結唯:わかってる。あいつらがやったって、ちゃんとわかってるから…
A :え、なに、結唯ちゃん、あいつらってもしかしてうちらのこと?うちらは何にもやってないって。無罪の人に罪なすりつけるとかひどすぎない?証拠は?
結唯:そんなのは、ない。でも、あんたらがやった、って、わかってる。あんた達が私にやってきた、たくさんのいじめ、考えれば、すぐにわかる。
C :え、うちら結唯ちゃんになんかひどいことしたっけ。
結唯:…え?
B :そうそう。仲良くしてあげてただけじゃん。友達がいなくてさびしそーにしてた結唯ちゃんにかまってあげてただけだよ?それをいじめだなんてひどすぎるって(笑)
真央:そんな、誰がどう見たっていじめだよ…
C :その言いがかり本当にひどいよ?真央ちゃん。逆にうちらが真央ちゃんたちにいじめられてる気がするんですけどー
真央:そ、そんな…
結唯:真央ちゃん、は、そんなこと、しない…。私をいじめるのは勝手にして。でも、真央ちゃんのことは…いじめ、ないで……!!
A :なにそれ。珍しく強気じゃん。人殺しのくせに。
C :人殺しにいじめっことか最悪じゃん(笑)
真央:ち、ちが…っ
B :(大声で回りに向かって)こいつらはいじめっ子と人殺しでーす!もうクラスみんなでハブっちゃおうぜー!
暗転
第七章
場所はお墓。セットはなし。舞台の右側か左側に芽依のお墓がある設定。
真央、和人、結唯が芽依のお墓に向かって手を合わせている。和人が持っていた花束と、プリンを墓に供える。
結唯:芽依が亡くなって、もう…2ヶ月か…。
真央:そっか、まだ2か月か。真央はもっと長く感じるな…。
和人:芽依…あっちの世界で元気にしてるか…?芽依の好きだったプリン、買ってきたぞ…。ああ、もう、俺、芽依がいないと寂しくて寂しくてたまんねーよ…。
真央:真央も…。芽依ちゃんがいないとこんなに生きるのがつらいなんて、思わなかった…。
結唯:お墓詣り、毎日来れなくて、ごめんね。ねえ、芽依…会いたいよ……。
間
和人:あーだめだ、やっぱり。
真央:どうしたんですか?お兄さん。
和人:ここにいるとやっぱり泣いちまう…俺、先に帰ってるわ。結唯も大概にして帰ってこいよ。真央ちゃんも、遅くならないようにな。
真央:あっ、ありがとうございます!さよなら。
和人、泣きながらはける
真央:良い、お兄さんだね…
結唯:……
真央:って、普通の人は言うんだろうね。
結唯:真央ちゃん…?.
真央:結唯ちゃん、お兄さんに沢山暴力ふるわれてるんでしょ?「お兄ちゃん、外面は良いくせに、たまったストレスとかを結唯に暴力をふるうことで解消してる。お兄ちゃんは本当に酷い。あたしもやめてもらうように何度も言ってたのに」って芽依ちゃんからよく聞いてた。
結唯:ああ、芽依が…。
真央:辛い、よね……。
結唯:よく考えたら、芽依、7年もよくそんな家族環境を耐えてくれてたな…。
真央:7年?
結唯:うん。うちね、7年前に両親が交通事故で亡くなってるの。それから、悪い大人が沢山うちに来て、お金をだまし取ろうとしてきた。長男の兄さんもまだ高校生だったし、私と芽依はまだ10歳だもん、恰好の獲物だったんだろうな…
真央:……。
結唯:そのせいか、私は人間不信になって人と話せなくなった。お兄ちゃんは嘘をつくことを覚えた。自分の本音を隠して、建前で生きることを覚えた。でも…、芽依はなにも変わらなかった。
真央:結唯ちゃん……。
結唯:壊れていく家族を、芽依が支えてくれた。真っ直ぐに生きる芽依は、私達の唯一の救いだったんだ…。
真央:芽依ちゃん、やっぱり、すごい人だったんだね…。
結唯:…私はやっぱり、人殺しかも知れない…。
真央:え?
結唯:私のせいで芽依は死んだ。でもね、問題はその先にもあるの。芽依が死ぬことで、私が芽依を殺すことで、沢山の人が壊れちゃった…。兄さんね、毎日お酒を何杯も飲むようになった。クラスメイトも暗くなった。いじめもひどくなった。私だけじゃなくて、真央ちゃんまでいじめられるようになった。学校の先生もやつれた顔をしてる。みんな、芽依に救われていたのに、それを、私は…
真央:結唯ちゃん…!
結唯:真央ちゃん…?
真央:結唯ちゃんは人殺しなんかじゃない…!!確かに芽依ちゃんが亡くなったことで真央たちの周りの世界は壊れていっている。でも、結唯ちゃんだって分かってるはずだよ。結唯ちゃんは人殺しじゃない。芽依ちゃんは、こうやって結唯ちゃんが泣くことなんて、望んでない…
結唯:わかって、わかってるよ…。
間
結唯:あ、そうだ。忘れるとところだった。
真央:ん?どうしたの?
結唯:真央ちゃん、これ、見て。
真央:どれどれ…
結唯:これね、死ぬ前に芽依がくれたの。一羽鶴のキーホルダー。
真央:わぁ、可愛い…手作り?
結唯:そ。芽依の手作りだって。
真央:なるほど。芽依、不器用だったもんね…。でもがんばって作ってる感がある。芽依ちゃんっぽい。
結唯:でしょ?芽依、「あたしがいなくて寂しかったらこれを私だと思って寂しさを紛らわせてね」って言ってこれを渡したの。「これを私だと思って」って、もしかしたらその時から自殺を決めていたのかもしれないね…。あ、今言いたいのはそれじゃなくて…
真央:?
結唯:私、これとおそろいのキーホルダー作ってきたんだ。見て。
真央:ええっこれ、結唯ちゃんが作ったの?!
結唯:そうだよ。
真央:わー…結唯ちゃんって、手、器用なんだ…すっごく綺麗…。
結唯:えへへ、そうかな、照れるなぁ。
真央:だって本当のことだもん!!すごい綺麗!あ、で、これってもしかして…
結唯:そう。ちゃんと袋もあるし、防水なの。
真央:すごい!!結唯ちゃん、女子力高いね!
結唯:だからお世辞は良いって。これ、お供えしようと思って持ってきたんだ。
真央:なるほど!きっと芽依ちゃんも喜んでくれるね!!
結唯:そうだと良いけど…。
暗転
第八章
セットなし。放課後。A~Cと真央が待機している。そこに結唯が来る。
結唯:あの…わざわざ放課後呼び出して、なんのようですか…
A :もー、遅いよ結唯ちゃん。なにしてたの?
結唯:先生が、資料室の掃除を手伝えって言って…
B :え、先生って担任のこと?うわー。あいつの言うこと聞くとか結唯ちゃん、超良いやつじゃん。
結唯:……
C :そんな結唯ちゃんにちょっとした報告で~す。
B :真央ちゃん、今日からうちらの仲間だから。
結唯:え……?
A :ほら。真央、自分で言わなきゃわかんないよ?結唯ちゃんも混乱してるし。
真央:……
結唯:真央、ちゃん…?嘘、だよね…?
真央:……
A :ほら、真央、自分でちゃんと言うんでしょ?うちらの仲間の証拠、見せるんでしょ?
結唯:証拠…?
C :ほら、手の中あいつに見せろって、真央。
真央、握っていた手を開く。そこには結唯が芽依にもらった一羽鶴が。
結唯:真央ちゃん、それ……っ
真央:ごめん、ごめんなさい、結唯ちゃん、真央、結唯ちゃんがいじめられるの見てるのも嫌だけど、自分がいじめられるのはもっと嫌。怖いの。だから…ごめんなさい…
真央、一羽鶴を落として踏みつける
結唯:いや、やめてっ!!!
B、C。が結唯を後ろから押さえつける。
結唯:やだ、やだ、真央ちゃん、それ、私の大切なものなの!!!知ってるでしょ??ねえ、ねえ、やめてよぉぉぉぉ!!!!!!!
真央:ごめん、ごめんね、結唯ちゃん……
A :あははははっ!!!なにこれ最高じゃん!!!超楽しいんですけどー!!
C :ってかなにあんたガキみたいに喚いて。センコー来たらどうすんの?黙れって。
結唯:やだ、やだ、やめっむぐっ…
結唯の口をCが押さえつける。
B :でもやっぱり結唯ちゃん、そろそろやめてほしいよね?じゃあ、お願いしてみよっか。
結唯:…?
A :え、なにやらすの?(笑)
C :あれだよ、あれ。
B :土下座しろよ。
結唯:…?!
B :地面に頭こすりつけて、「やめてください、お願いします、私は人殺しです」って言えばいいよ
A :うわー、あんた、それやり過ぎじゃね?おもしろいから良いけど(笑)
結唯:……
B :ほら、はやくやれよ。これ、返してほしいんじゃないの?
C、結唯の口から手を離して突き飛ばす。結唯がバランスを崩す。
B :ほらー、早くやれよー。キーホルダーぐちゃぐちゃになっちゃうよ?あ、もう手遅れか(笑)
結唯:やめて…ください……
A :え、なに、聞こえないんだけど。
結唯:やめて、ください…!!お願いします!!私は……私は、人殺し、です……!
暗転
第九章
場所は芽依のお墓。結唯はしゃがんで泣いている。その後ろに白いワンピースを着た芽依。
結唯:ねえ、芽依、やっぱり私って人殺しだよ…。
間
結唯:私のせいで、みんな壊れていくの。優しかった真央ちゃんだって、もう……っ
間
結唯:一羽鶴、壊されちゃった。誰にだと思う?真央ちゃんなんだよ…?
間
結唯:真央ちゃん、これが私の大事な物だって知ってたのに…。
間
結唯:でもさ、芽依。これって全部芽依のせいなんじゃないのかな…
間
結唯:芽依、分かってたんでしょ?私が、真衣がいじめられること。お兄ちゃんが壊れること。
間
結唯:ねえ、芽依。私も芽依のところ、行っちゃだめかな。私、もう、居場所がないの…。芽依もいない、真央ちゃんもいないこの世界に、私の居場所はないの。だから……
間
芽依:結唯、それは、だめ…。
結唯:め、芽依?!
結唯、芽依を見て驚き、尻餅をつく。
結唯:芽依、あなた、芽依なの…?
芽依:そーだよ。芽依だよ。芽依の幽霊。やっぱり驚く?
結唯:そりゃ…。
芽依:嘘だと思う?夢なんじゃないかって思ってる?
結唯:それは…思わない。
芽依:そう?信じてくれるんだ?
結唯:うん。だって、芽依だもん。
芽依:なにそれ。
結唯:だって、芽依だもん。芽依なら幽霊になって出てくるとか、しかも幽霊のくせに超元気だとか、あり得そうだもん。
芽依:そうかな。なんか照れる
結唯:で、どうしたの?芽依が死んでからもう2ヶ月。もっと早くに出てきてくれれば良かったのに。
芽依:んー、なんか、幽霊として現世に現れるにはその…パワー?とかが必要で、それがたまるのに時間がかかった、というか…
結唯:な、なんかスピリチュアルだな…。あ、そうだ!兄さんのところ行こうよ!!兄さん、芽依がいなくて本当に寂しがってるんだからね!幽霊でも、芽依のこと見たらきっと元気になるよ!
芽依:待って、結唯。
結唯:え、どうして?行かないの?
芽依:だめなの。私の体、結唯以外の人には見えないし、結唯以外の人には声も聞こえないから…。
結唯:…なんで。
芽依:え?
結唯:じゃあ、なんで、私の前に出てきたの?兄さんの前に出て、励ましてくれたらよかったのに。真央ちゃんの前に出て、励ましてくれれば良かったのに。
芽依:違う。違うんだよ。あたしが自殺してから、1番話したかったのは、結唯だから…。
結唯:え?
芽依:まず、言いたいのは…
結唯:(ごくん)
芽依:ごめんなさい!!!
結唯:…へ?
芽依:勝手に死んで、ごめんなさい!!!本当はちゃんと結唯に相談しなきゃならなかったってわかってる。でも、そうしたら絶対結唯は許してくれない。だから、勝手に自殺した。
結唯:芽依…
芽依:結局は自分のエゴだった。結唯があと1年で死ぬかも知れないって知ったとき、あたしは結唯のいない世界では生きていけないって思った。結唯に移植できる心臓は、血液型とか、臓器の形とかが決まってるって知って、双子の私しかいないって思った。死ななきゃ後悔するって、思った。だから…
結唯:芽依…
芽依:本当は、わかってた。あたしが死んで結唯が助かったら、結唯が辛い思いするって…。
結唯:……
芽依:でもね、あたし、今すっごく怒ってるんだよ。
結唯:え?
芽依:結唯、あんたは人殺しなんかじゃない。
結唯:……
芽依:あたしは勝手にドナーになることを望んで勝手に死んだの。あんたを助けたいって思って勝手に行動したんだよ。結唯は悪くない。
結唯:でも…
芽依:でもじゃない!!
結唯:ひっ…!
芽依:周りの人間が壊れていくのだって、そいつらの勝手じゃん。あたし等は関係ないから!
結唯:芽依……
芽依:だから、だからね、結唯は胸を張って生きて良いんだよ…。
結唯:私、私……っ(手で顔を覆って泣きはじめる)
芽依:最期にね、お願い。
結唯:(顔を手で覆ったまま、うなずく)
芽依:私の分まで、生きて……。
暗転
第十章
翌朝、結唯の登校中。後ろから真央が来る。
真央:ゆ、結唯ちゃん、お、おはよう…
結唯:わっ、びっくりした。真央ちゃんか。誰かと思ったよ。おはよう。
真央:あの、結唯ちゃん、昨日のこと…
結唯:ああ、気にしないで、真央ちゃんが自ら望んでやったことだなんて思ってないから。
真央:ううん、確かに自ら望んだ事じゃ無かったけど、酷いことやったことには変わりないから…あの、ごめんなさい!!!!
結唯:わわっ、そんな、頭下げないでよ!!私は全然悪いとか思ってないから!!
真央:本当…?
結唯:本当本当!!
真央:じゃあ、その…これからも友達で…
結唯:いるよ!もちろん!!
真央:あああああー…結唯ちゃん…ありがとぉぉぉぉ…
結唯:もー、泣かないでよ!本当になにも思ってないから!!
真央:そうだ!あのね、昨日私が壊しちゃったキーホルダー…
結唯:…?
真央:出来るだけ直してきたの。補強とかして、壊れにくくしたんだけど…
真央、鞄から一羽鶴のキーホルダーを取り出し、結唯に渡す。
結唯:わぁ…っ!!ありがとう!!すごい、本当にしっかりしてるね。これならもう壊れなそう…!
真央:ああ、よかった…
結唯:あ、実はね、私も真央ちゃんに渡そうと思って持ってきたものがあって…これ。
結唯、鞄の中から一羽鶴を取り出して真央に渡す。
真央:これ…
結唯:うん!私と芽依とおそろいの一羽鶴だよ!
真央:わぁ!結唯ちゃん、本当に器用だね…嬉しいよ!ありがとう!!!
結唯:ううん、気にしないで。じゃあ、さ、真央ちゃん。
真央:ん?どうしたの?結唯ちゃん。
結唯:「私がいなくて寂しかったらこれを私だと思って寂しさを紛らわせて」ね。
真央:…………え。
閉幕