プロローグ
本編始まりにございます。
2x89年、かつてオーバーテクノロジーとされていた「平行世界移動」は現実のものとなった。
2x90年x月x日平行世界移動を小型デバイス「レナトゥス」として製品化させる計画「レナトゥスプロジェクト」の臨床実験時レナトゥスの制御AI「リフェリー」の暴走により、実験場のあったある半島がレナトゥスの高エネルギー爆発により、消えた。そして同時刻、消滅範囲ギリギリにあった、ある空港の半分が一般人ごと消滅した。この事故の被害者は約700人に及び、範囲内の生存者は0人だった。この事故を受け、当時「レナトゥスプロジェクト」の中心国であったローズバレン科学連合国は、直ちにプロジェクトを凍結。情報統制を引き、空港にいた被害者はローズバレン科学連合国により保護された。
しかし、それから彼らが帰ってきたという話は全くなく、この事故は歴史の波に飲まれて消えていった。
2x98年、極秘裏にローズバレン科学連合国に調査を入れていた、隣国カルティエ王国のラディウス伯爵家により、再び「レナトゥス事件」は表に出された。
ローズバレン科学連合国は、名目上保護した空港の被害者を、人体実験の被験者にしていたのであった。
ほとんどの被験者は、度重なる人体実験により被験者はほぼ全員の死亡がラディウス伯爵家により発表された。
何よりの皮肉は、ローズバレン科学連合国の人体実験により、「レナトゥスシステム」が完璧なものになり、さらに遺伝子工学の臨床実験により、並行世界移動の先にどのような特性があってもその環境に適応でき、特性に合わせた特殊能力を使える、文字通り怪物が生まれてしまったことだった。
その化け物の名前は、被検体122番、夜羽 悠 当時10歳だった。人体実験の最後の被験者だった。
はじめ、悠は能力の危険性と若さから殺処分の予定だった。しかし、事件解決の立役者ラディウス伯爵家の主グラン=ラディウスにより引き取られた。
七年後...... ラディウス伯爵家で、戦闘術、文字の読み書きを学び、悠は今日、17歳になろうとしていた。
悠が両親を事故で失ったのは、彼が2歳の時。それから、人体実験により誕生日などは判らなかった。判ったことといえば、夜羽 悠という名前と極東の島国出身。ということだけであった...... そのため悠の誕生日は、父 グランが悠を引き取った日としていた......
そんな朝、悠が廊下を歩いていると、「悠!誕生日おめでとう!」元気な声と共に笑顔で駆け寄ってきたのは、ラディウス伯爵家の一人娘で、悠の想い人 リゼット=ラディウスだった。
「あぁ、ありがとう!リゼ」
「ねぇ、悠」
「ん?」
「ホントに、旅に出るの?」
「あぁ.......」
悠はこの7年間、能力の制御方法を身につけ完全にコントロールできるようになっていた。そこで悠は、実用化された「ラディウス」で、違う世界線に飛ばされたかもしれない両親を探そうと決意したのだった......
「そうだね...... でも必ず帰ってくるよ」
(それに、リゼにこの気持ちを伝えたいし)
するとリゼは顔を俯かせると......
「そう......やっぱり、決意を決めた悠は揺らがないね......」
「うん......ごめん」
「いいよ......その代わり、今日買い物付き合ってよ?」
「俺今日誕生日なんだけど?」
「やだ?」
(そんな上目遣いで見られたら断れないじゃん...... もともと断るつもりはないけどね)
「そんなことないよ......午前中はやりたいことがあるからだめだけど」
「やった!」
彼女の屈託のない笑顔に思わずドキッとしてしまう......
「ん?どうかしたの?」
「ホントにかわいい笑顔するなぁ」
「えっ?!」
(ん?待てよ、今俺なんていった?!)
「な、なんでもない!そ、それより明日は何買いに行くの?」
「んー、秘密!」
「おぉ!リゼそこにいたのか!っと、悠じゃないか!誕生日おめでとうだな!」
そんな陽気な声と共に後ろの角からで出来たのは、筋骨隆々の男だった。
「父さん!びっくりさせないでよ!」
「おぉ!すまんすまん、だがそうか......今日で悠は17歳か......」
「うん、近いうちに家を出てくよ」
「悠は、やはり親を探しに行くのか?」
「あぁ」
「解ってると思うが無限に存在する世界線の中から悠の本当の両親がいる世界線を見つけるのは砂漠で針を探すような所業であるし、なにより生きている保証はないんだぞ?」
「あぁ......解ってる」
(ついでに言えば、父さんが俺を無駄死にさせないようにあえてきつい言葉を掛けていることもよくわかってる)
「それでも行くんだな?」
「あぁ」
「わかった。なら、行って来い。だが、ひとつ条件がある」
「条件?」
(なんだ、条件って......)
「必ず、帰って来い。悠の親も一緒に暮らせるだけの部屋はある、悠は俺たちの家族でもあるんだからな?」
「父さん......」
(やっぱり最高の父親だよ)
「さて、私はこれから仕事だ、帰ってきたら誕生パーティをしよう」
そういってグランは仕事場へと向かっていった......
「それじゃあ私もバイトに行ってくるわ、午後よろしくね?」
そういってリゼもにこやかに笑いながらバイトに向かっていった。
「さて、俺も覚悟を決めよう......」
俺は、今日旅に出る前に気持ちだけは伝えておこうと思う。そうしないと、絶対に後悔をする気がするから、だから、気持ちだけでも伝えておこうと思う悠であった。
午後、リゼと共に買い物をしていると多くの知り合いにお祝いの言葉をもらった。
そしてリゼからは、黒い石に白い羽の彫り込まれたネックレスを送られた。
(一生大切にするよ、なんて言ったら引かれるかなぁ)
なんて、つまらないことを妄想しつつ、リゼと雑談しながら歩いていると......
「悠!誕生日おめでとう」
「おー司じゃん!ありがとう!」
向かいから来たのは同じ極東の出身で、親友の司だった。
「お前、親を探すんだろ?頑張れよな!」
そんな背中を押してくれる親友に心が温まるのを感じた。
そんな親友と別れあと少しで家という時、軍服を着た男たちが家の前にたくさんいた。
「どうしたんですか?」
もしかしたら自分を捕まえに来たのかもしれない。そんな不安を抱えながら、軍人に話しかける。
(最悪、斬るしかないか...... でも、父さんやリゼに迷惑を掛けるかもしれない。だめか......)
すると、予想外の言葉が返された。
「お前じゃない、私たちが用があるのは、お前の後ろのリゼット嬢だけだ。ガキはすっこんでろ」
「えっ?!」
「はっ?!」
(どういうことだ?!リゼ?!意味がわからねぇ)
「どういうことだよ?!リゼが何をしたって言うんだよ?!」
その瞬間腹に鈍い衝撃が走る。
「ぐぁっ」
「悠っ?!」
殴られたことに気づいたのは地面に押し付けられてからだった。
「ガキはだまってろって言っただろうが!!」
(そんな、まだ、気持ちも伝えられてないのに......)
「ちく.......しょう」
その後、朦朧とした意識の中で聴いたのは、リゼが、俺の大好きな人が、この世界の敵として神の信託が下ったという衝撃の事実だった。
どうやら彼女は、違う世界線に飛ばされるらしい。
絶望の中、俺が意識を投げるのは実に簡単なことだった。
絶望の中俺が目を覚ましたのは三日後。父さんも、母さんも捕まってしまった......
もう俺に失うものは、ない。
実の両親も、化け物の俺を暖かく迎えてくれた義理の父親も、そして、愛する人でさえも、失った….. これ以上何を失うと?
なら簡単なことだ、こんな理不尽な神託をする神なんて......
「俺が、殺してやるよ!」
この物語は、数多くの不幸を背負った少年が、手の届かないものに手を伸ばす、悲しみと、怨嗟と、そして、愛の物語である。
ーー少年は、世界を越えて、神を殺す。
重い始まりですがずっとこんなに重くはないので悪しからず。
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