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世界一簡単な世界滅亡  作者: 篠渕暗渠
20/20




     終




「さてと、」

 悪魔の妹はその場でくるりとターンして、ゴスロリ服のスカートをつまみ上げて、お辞儀の真似事をしてみせた。

「それではどのような手筈で進めますか?」

「まぁ、さっきも言ったけれど、毎度の事なんだし、いつも通りでいいんじゃないか?」

「確かに兄さんの能力は小回りが効きませんからね。いいでしょう――人類滅亡と地球壊滅までは私がやりましょう」

 トントン、と悪魔の妹は爪先で床を鳴らした。何だか芝居掛かっている。

「何だか気分がノッているみたいだな?」

「ええ、自分でも不思議ですが。人形の中からとはいえ、この世界を比較的長い間見ていましたから、少しばかり愛着が湧いているのかもしれません」

「……ふうん」

 分からなくもないかもしれない。兄妹の能力を以てすれば、演出込みで三日間程度で世界を滅亡させる事は容易い。味気なくはあるが、やろうとすれば一瞬で世界を滅亡させる事も出来る。そう、滅亡自体は一瞬で出来るのだ。それ以外の部分をどのように積み立てるのかという問題である。

「では、まずは雰囲気を出す為に、悪魔降臨の儀を執り行いますか」

「ああ。そういえばこの世界に降り立った時にも、周囲の連中を血祭りに上げてみたっけか」

「そう。やっぱり悪魔という絶対的強者、上位者が君臨したというその事実だけでも、世界は何らかの驚愕を示すべきだと私は思いますからね」

「意味はあるのか?」

「意味はありません。ただの演出効果です」

 悪魔の妹は人差し指を指揮棒に見立てて、ふいっといい加減に振るった。それだけで東京を越えて関東全域の人間が風船のように弾けたのが、悪魔の兄には分かる。

「最終的に粉々に滅亡するのだとすれば、確かにどのような演出も無意味なのかもしれません」

「それじゃあ、俺達のやっている事って何の意味があるんだと思う?」

「おや。何だかナイーブになっていますね、兄さん。あ、ひょっとしてあの人形の幼馴染に、魂の中で言われた何かを気にしているんですね?」

 波切江都。アイツは確かに人間としての分を弁えていない、口の減らないガキだったけれど。

「ですがね、別に意味がなくてもいいのです。私達悪魔は出来損ないの世界を滅ぼす、ただそれだけの存在なのですから。出来損ない世界の人間からすれば、ただの天災扱いなのかもしれません。でも、それでいいんですよ。そう在るように在ればいい。天災と見做されようと、意味がなくても、ただ世界を滅ぼす現象であればいい」

「なるほどねぇ。一種の思考停止であると同時に、真理だ」

「ただの真理ですよ。私は兄さんの妹ですからね」

 ふふっ、と笑って、悪魔の妹は言った。

「『私の拳は星をも砕く』」

 悪魔の妹の能力は、行き過ぎた自己暗示だ。世界すら覆す、自己暗示。妹が言った自己規定の言葉は、どんなに荒唐無稽だろうと、全て真実になる。

 そして、悪魔の妹はやや行儀悪くゴスロリ服なのにも関わらず大股開きで、まるで瓦割りのように、床に拳を打ち付けた。

 ――罅が入る。

 病院の床に、病院という建築物そのものに。

 そして、そこから繋がる病院周辺の地面に。

 波紋のように広がる。

 罅割れは致命的なまでに広がる。

 バキバキと地表が砕ける。衝撃はマントルにまで達し、更には裏側にまで突き抜ける。

 病院近くから裂けた地割れから、とうとうマグマのような何かが見え、しかしそれは溢れ出す前に冷えて固まる。

 地球が真っ二つになったからだ。急速に地熱を失った地球は、温度を保てずに凍りつく。

 人類の騒動が始まる前に、人類は絶滅している。全て息絶えて、潰えている。

 兄妹は離れた宇宙まで瞬間で移動し、その割れた様を眺めている。

「ま、惑星を弄ぶのに一番面白いのは、スイカ割り的に二つに割る、この瞬間だけですよね。さて、あとは兄さん、お願いします」

 悪魔の兄は大学ノートに、『この世界は藁半紙のような物で出来ている』と書いた。

「そのノートを使ったのはどうしてですか?」

「ああ、俺もこの世界に愛着を抱いているのかもしれないな。餞別、みたいな感情かな」

「ちょっと違うと思いますけれど」

「日本語って難しいな」

 世界を滅ぼすのに、その世界に馴染み深い物を使うのを、一体何と言えばいいんだろう?

 悪魔の兄は世界を縦に真っ二つに裂いた。藁半紙のような物だから、それも容易い。続けて、クシャッと紙を丸めるように、右手を握り締めていった。

 世界は手の平サイズの丸めた紙屑にまで圧縮された。兄は興味がない風にその塵を見ると、たまたま側にあったゴミ箱に紙屑を投げた。入らずに外した。もはやどうでもいい。そのまま紙屑を放置した。

「それじゃあ、俺達の世界に帰ろうか、妹よ」

「久し振りの帰還ですね――早く帰りましょうよ、兄さん」

 そんな風に軽く言い合って、世界の滅亡を完了させた兄妹は、自分達の世界に帰っていった。

 これらは悪魔の兄妹にとって繰り返される、当たり前の日々の一ページに過ぎない。

 今、終わって、そして、また始まる。

 世界は滅亡が終了し、また次の世界の滅亡が開始した。

 それは無数に繰り返される。世界の偽物が――世界のデッドコピーが生み出され続ける限り、永遠に。

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