拾参 兄妹
拾参 兄妹
「ああ……気分が悪い。気分が悪い。気分が悪いぞ、俺は。妹よ」
「どうしたんですか?」
窓が開けられた病室――それまで白戸光羽、白戸光樹、波切江都の三人が存在した筈の病室に、今は別人が――兄妹の二人が向かい合っている。とはいえ、外見上は兄妹は姉弟と変わらない。しかし、中身が決定的に違っていた。人間ですらない。二人は悪魔だった。皮のように人間としての白戸姉弟を被っているだけだ。
「いいえ。言わなくても察しはつきますけれどね。あの人間――波切江都とやらに良いように言われてしまったのでしょう? 人形の疑似霊魂の中から観察してきた限り、あの幼馴染役はどうやら弁が立つようでしたから」
「……ああ、癪だがその通りだよ」
「兄さんは喋るのは好きですが、相手を丸め込むのはニガテですからねぇ。でも別にいいじゃないですか。もう消えたんでしょう?」
「相手が居なくなっても嫌な思い出は残る」
「いじめられっ子みたいな事、言わないでください。ふぅ……ま、そろそろ終わりにしますかね」
「そうだな」
ふむ、と悪魔の妹は自分の顎に手を当てた。
「この格好だとイマイチ兄妹という感じがしませんね」
そして、一瞬後には彼女の姿は十代前半の白戸光羽を再現していた。服装はフリルをこれでもかとあしらったゴシックロリータだ。悪魔にとってこの世界は移ろいやすい幻影のような物に過ぎず、投影された映像のように人間の姿を書き換える事は児戯のような物だ。
「おお、器用な真似をするな」
「兄さんだって別に出来るでしょう?」
「やろうと思えば出来るがやる気がない。それにお前は自分を改変するのが得意分野だが、俺はもっと大雑把な範囲指定なんだよ」
「自分より世界を変える方が容易い、ですか。まぁ、この仕事向きではありますよね」
「まあな」
「それにしても……やっと帰れます」
「長かったか?」
「いいえ。瞬きのような時間に過ぎませんでしたが、それでも飽きてしまいました。怠いなぁ、というのが正直な所でしょうか」
「そうか。まあいいじゃないか。もう終わりだし」
「ですね」
兄妹は悪魔だ。悪魔というのは偉大なる巨人である魔王の子だ。子と言っても人間のように出産で産まれてくる訳ではない。悪魔とは魔王の一種の思考の揺らぎだ。気づいた時にはそこに発生している。悪魔は基本的には靄のような姿を取るが、魔王を模した人間の姿を取る事も出来る。そもそも魔王が巨大な人間の姿をしているのは、ある人間の女性に恋をしたからだ、と言われていた。
無限に続くかのような時の流れの中で、兄妹はその存在を混じり合わせ、しかし、完全に一つにはならず、そのもどかしさを楽しんだりしていた。今はそれが懐かしい。
「それでは世界の終わりを始めましょう」
「まぁ、毎度の事だしサクッと済まそう」




