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伝説の剣?いいえ、これは刺身包丁です。  作者: 九太郎丸
第1章 勇者失格
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第1話 必見!ネットの落とし穴!〜ネット広告のワンクリック詐欺にご注意下さい〜

 カップラーメン啜るなよ。うるせぇから。


 そう、ネカフェでの迷惑行為ランキング上位に食い込むあのカップ麺啜りである。七つの大罪入りも夢ではない。

 音は勿論、匂いも不愉快。他人のカップラーメンがあんなにも恨めしいとは。隙を生じぬ二段構えである。

 いや、むしろ同時と言える。二つの打撃を一呼吸のうちに完全に合わせるとは…お主、やるな!


 そうして猫背気味にディスプレイに張り付いていた身を起こす。嘘でもバキバキとでも言ってくれれば気分がいいものだが、生憎健常な肉体は軋み一つ起こさず精巧に動く。

 首を回し硬直していた筋肉をほぐす。家のものより幾分か暗い照明がなんとも言えない眠気と倦怠を引き起こした。



 本日、8月22日。


 場所、ネカフェ。



 夏休みの宿題の存在をすっかり忘れて忘却の彼方へ放り込んだ俺は偶然その記憶を昨日サルベージした。故意ではないが、偶然でもない。ネットの大海に転がっている「宿題やんなきゃ」という呟きが引き金となったのである。

 そして今日の0時。まぁたまには「んひー!宿題終わんないー!」と言いながら宿題をするもの乙かと思い、同日同時、作戦を開始した。


 それが二時間半で終わったのである。


 興醒めもいいところだ。まさかここまで歯応えがないとは。

 ま、この努力しなくても何でも並以上のことが出来る冴えてる系主人公の俺ならば当然のことなのだが。努力しなくて並以上、努力すればそりゃもう学校一になっちゃうからな俺は。

 悔しいか笑ってやろうははははははははははははは。

 はぁ…。

 こちらとしても楽しい筈がないだろう。

 楽しいと思ったか?思ったのなら君は人の心がわからない人種のようだな。

 はぁ…。

 そういや俺貰ったらすぐ片付けずにはいられなかったよ。やってあって当然だにゃ☆。

 …つまりは、七月の残飯を喰ろうてきた次第だ。


 そんなこんなで、ボス戦がスーパーのれん推しからのアルティメット肩すかしに終わった俺は気分転換にとネカフェといふものに来たで候。

 まず第一印象は汚い、煩い、ネカフェって漫画あるんだ。の三つだ。

 ま、これは仕方ない仕方ない。とりあえずネカフェ来たんだしとりあえずネットに繋いでー、サーフィン!ライブ!ゲェム!

 そうしてやっとの事でノッて来たところで先程の二重の極みである。

 もう帰ってやろうか。金勿体無いからしないけど。

 これから何をしたものか。どうせだから家ではやらないことしたいよな…。


 ――その時、俺の脳内に電撃走る!!!


 ネットの広告を探し、悉くを踏む。変なの踏んで変なの出てきたら電源ボタンをプッシュ。エスケープ。完璧だ。入店時に個人情報を書き損じた甲斐があったというもの。

 となればいざ実行!さぁ、纏めて来るがいい!この私、どうせ残り時間的に長くはないからな!

 脱毛、ソシャゲ、オンゲ、漫画、アンケート、漫画、出会い系、ソシャゲ、漫画、ソシャゲソシャゲソシャゲ。ソシャゲばっかじゃねぇーーーか!

 いやー、見誤ったでござるよ。ソシャゲ星の数ほどあるんだね。驚きのソシャゲ率。

 いやー、飽きた。スクロールバー掴んでぐりぐりぐり。

 ぽいっ。


 白色がベースのページに黒い背景。

 黒の下地に白文字。シンプルが過ぎるデザイン。見た瞬間は英語か何かだと思ったが、明朝体の白文字は日本語である。

 ただ、「勇者になりませんか?」とだけ。

 思考も緩やかに、マウスを滑らせてカーソルを広告に合わせた。


 押し込む。


 瞬間、ページの白色は全て塗り潰され画面全体を黒色に侵食される。もう文字は見えない。


『立候補、受諾致しました。暫定審査、回路、一定以上』


 スピーカーからではない。ディスプレイそのものから声が発せられている。アナウンスのような、少しノイズのかかった女性の声だ。


『ランク、A-over。現段階での順位、一位』


 なんか評価されてる。そうだ、電源切らないと…!

 電源ボタンに人差し指を伸ばす。そのまま体ごとぶつけるようにしてボタンを押した。大丈夫だ、すぐ切れる。ネカフェのパソコンは電源を切る時になんか色々消すんだ。大丈夫だ。


『順位変動、なし』


 ディスプレイの電源ランプは切れてる、こっちももうすぐ切れる。


『おめでとうごさいます。あなたは剣の勇者になりました』


 目を潰すような閃光も、音すらもなかった。床が溶け落ち、そのまま暗くて先の見えない奈落へと落ちていくような感覚。

 視界の淵から漆黒が身体を呑んで行く。

 やがて遠くなった世界は閉じて。

 もう真っ暗で何も見えない。


 視界を内側から塗りつぶされたかのような闇。

 ただそれだけ。

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