第七話:勇者の前に強者現る
ぐっちゃぐっちゃと、何かを練り潰す音が鳴り響く。
その部屋には異臭が漂っていた。生臭く鉄錆のような不快な臭い。
ぐっちゃぐっちゃと、何かを練り潰す音が鳴り響く。
真っ暗闇で、ほとんど何も見えない部屋。なのに何かがそこに居る事が分かる、真っ赤な服を着た男性だ。
ぐっちゃぐっちゃと、何かを練り潰す音が鳴り響く。
その男性は、ニタニタと不気味な表情を浮かべながら何らかの作業をしていた。
「ああ、まだまだ足りないなぁ」
そんな事を呟いた男性は、作業を中断して立ち上がる。
辺りに鳴り響く不気味な音は、鳴り止んだ。
「えっと、これで10か」
真っ赤に染まった手をペロリと一舐めしてから、男性はそれを見つめる。
そこにあったのは_____
☆ ☆ ☆
「やっぱり、何か変だ」
「変、ねぇ」
変異したゴブリンロードを倒した俺達は、街に戻ろうとした、所ネルが少し気になる事ができたと言い出してゴブリンロードを調べる事に決めた。
個人的には特に変だとは思わないけど、ネルの冒険者としての感が何かを感じたんだろうなと思って、この場は何も言わずに彼女に従う。
「強さ的にもこいつは強くは無かった、私は変異種と何度か戦った事があるから断言できる、これは弱すぎる。AランクどころかDランク止まり」
「Dランク…」
アマネちゃんが顔を青くしてゴブリンロードの亡骸を見つめる、確かにこいつがDランクなんて言われたら少なからずショックはあるだろう、俺もそうだしな。
「ネルちゃん、ランクって…?」
「そういえば新人だった」
忘れてたと言わんばかりな表情を浮かべるネル、まぁ新人レベルの実力って訳でもないしな、俺もアマネちゃんも。
「簡単に説明する、依頼には難易度があって、SSSランクからFランクまである。ここまで言えば分かる?」
「どれだけ面倒臭がりなんだよ…いや、分かったから良いけどさ」
「なら良い」
「え、えぇ…」
つまりネルはこう言ってるんだ、このゴブリンロードは強者じゃなくて単なる雑魚だって。
俺的には結構キツかったんだけどなぁ。
「でも、何で?依頼にはAランクって」
「ひょっとするとこいつは別のゴブリンロードって可能性があるけど…現段階では何とも言えない」
「ありえるのか?変異したんだぞ?」
「この世界は未知が多い、何が起こったとしても不思議じゃない」
「じゃあ、これからどうするの?」
アマネちゃんの言う通り、これからどうすれば良いのか分からなくなってきた。
こいつが依頼とは別のゴブリンロードっていう可能性も出てきたし、その場合は奥に行く必要があるし。
「奥に行く必要は無い」
ネルがそう言い切ると、ポケットから小さなカプセルを取り出し、それを飲み込んだ。
「それは?」
「魔力補給、依頼には集落は一つと書かれていたから、そこまでは分かっている」
「はぁ…ッ!?」
突然ネルの人差し指が光り輝き、それを空中にまるで文字を描くように走り始める。
すると、空中に何らかの文字が書き出され始める。俺もアマネちゃんもその現象に驚き声を出す事を忘れてた。
「そこ」
短く言った瞬間、ネルの周囲から氷の槍が現れる。
この世界じゃ詠唱が無いと魔法は使えない筈、なのにネルは魔法を発動させた。
次にネルは氷の槍を草むらに向けて発車する。
「ぐぁぁ!?」
すると、三人の男が慌てて飛び出してきた。
「えっ?えっ?」
「成程」
困惑するアマネちゃんと、納得したように頷くネル。
「この女!文字詠唱の使い手かよ!」
「畜生!ただのニート女だと思ってたのによ!」
「チッ…」
「Aランクの理由が分かった、原因はそれ」
ネルがこちらを向きながら男達を指差す。
俺にも良く分かった、こいつらが原因だってのがな。
「この野郎がぁ!覚悟しやがれ!」
「俺達ゃ泣く子も黙るシンディラーズ!テメェらの身ぐるみ剥いでから奴隷商に売りつけてやんよ!」
「ど、奴隷!?」
多分こいつらはこの依頼を受けた冒険者を襲って、そいつらから装備を奪いその冒険者を売って金を稼いでいたって事か
「最近になって急にAランクにギルドが上げたからよぉ、身入りが少なくなってしょうがなくてさぁ」
「まぁそういうこった、この依頼を受けた自分の不幸を呪うんだな」
「ふぅん……」
急にランクを上げた?成程、ギルドはこの異変に気が付いていたってことかな?だけど犯人の特定はできていなかったから、Aランクの依頼も可能な冒険者に頼ったって事か。
って事は、ネルはそれ相応の冒険者になるって事か、さっき文字詠唱って言ってたけれど、それかな?………あれ?
名前 ネールディラス・K・アフロディテ
熟練度が足りないため、名前以外の情報を読み取れません
こ、これは?急に何かの情報が浮かび上がって来て
名前 アマネ・カグラ
能力値
HP51/51
MP23/48
STR10
VIT7
INT24
DEX46
SPD12
LUK10
能力音楽奏者
適正属性 水、光、風
称号 勇者
性質 ??
ステータス…?それが俺に見えてるのか?また何かスキルを取ったって事か?なら…
名前 クロス・ディラー
能力値
HP50/50
MP20/20
STR13
VIT12
INT10
DEX11
SPD10
LUK1
適性属性 無し
名前 ミール・ストライク
能力値
HP21/21
MP42/42
STR5
VIT6
INT21
DEX10
SPD5
LUK1
適性属性 火
名前 ブレイヴ・X・リテイク
熟練度が足りないため、名前以外の情報が読み取れません。
これは…二人は雑魚だけどこのブレイヴって奴が未知数って訳か?
それに、ネルの名前が違うじゃないか…訳ありって奴か?まぁ興味は無いけど。
てか、あのブレイヴって奴何か俺の事を見てくるな…
「面白い、お前俺と戦えよ」
瞬間、ブレイヴが俺の目の前に瞬間的に移動した。
「ッ!?」
身の危険を感じて咄嗟に剣を構える。次にブレイヴは身の丈程もある大剣を軽々と振り下ろしてきた。
___重すぎるっ!!
ほぼ無意識で自分に強化魔法をかけて、その一撃を押し返し、鳩尾に肘打ちを打ち込む。
「グッ…」
苦悶の表情を浮かべながら下がるブレイヴ、今の攻防で分かった、こいつは桁違いだ
「なんだお前、何でそんな力を持って追い剥ぎなんてしてんだ」
「事情ってのがあってね、俺はどうしても噂の勇者って奴に会いたいんだよ」
勇者…もう広まっているのか?
「ここ暫く、勇者カズトってのが活躍してるらしいじゃないか、俺はそいつを見極めたいのさ。害になるかならないかをなぁ!」
「ぐっ!?」
更に素早くなったブレイヴは、重く強力な一撃を何度も何度も振るってくる。
「あのゴブリンロードを倒すお前!勇者なんじゃないのか?」
「人違いだ!」
「その割には強いじゃねえかよ!そらそらそらぁ!」
防戦1方、このままじゃいつか押し負ける。けれど!
生憎俺は1人じゃない!
「っ!?がぁぁ!!!頭がァ!!!」
「リクト君!」
「っ!!」
音楽奏者
その音は人間の鼓膜に直接音を届ける力。それによってブレイヴに隙が生まれる。
俺はその隙を逃さずブレイヴに頭突きをしてからサマーソルトキックを御見舞してやる。
「お待たせ、他の二人は瞬殺した」
そして、ネルも合流する。
「幾らお前が強くても、こっちの方が有利だぜ」
「降参するのが身の為」
俺、ネル、アマネちゃんはブレイヴの動向を注意深く観察する。俺は無属性による身体強化を更に重ねがけし。
ネルは文字詠唱をして何時でも魔法が撃てるように。
アマネちゃんは弓矢を構えて何時でも撃てるようにと、万全の布陣で迎え撃てる準備をする。
「リクト…確かに人違いだな、それでもその強さ、その連携…クククッ、面白い!」
満面の笑みを浮かべたブレイヴは、大剣を背負って俺を見る
「俺はブレイヴ!ブレイヴ・X・リテイク!この名前を覚えとけ!」
「なっ!?ブレイヴって!」
ネルが驚いたような表情を浮かべた瞬間、ブレイヴの姿が消えた。
「えっ!?ど、どこに行ったの!?」
「瞬身魔法、風の属性の中でも高難易度に分類される魔法…でも詠唱をしている気配は無かったのに」
多分、文字詠唱の要領でどうにかしたんだろう。それか詠唱の影響を受けない能力とか…どっちにしろ逃がした…いや、見逃されていたか。
あの速さがあれは俺達を殺す事は容易い筈だからな…ッ!
「悔しいな…」
「リクト君…」
ブレイヴ・X・リテイク…次は絶対に…!
☆ ☆ ☆
久々に倒しがいがある奴を見た。
名前はリクト、あいつは最初剣を交えた時には大したことはない、手応えも何も無い奴だった。
だが急に強くなった。まるで強化魔法を使ったかの如く。
奴には適性属性は無い、俺の能力はそれを教えてくれるからな、なのにそれが無かったって事は奴は適性を持っていない事になる。
あの弓使いの女が使ったような素振りも無かったし、一体何をしたのか全く分からない。
だからこそ、面白い。
それにしても、お前がそこにいるとはな、ネール…まぁ、深くは聞かないでおくが、次に会ったら敵同士だ。
何せもうすぐ魔王が動き出す、魔王が動き出したら次は
他国同士による、戦争だ。
☆ ☆ ☆
報告、リクト・アルタイルのレベルが上がり、ステータスが更新されました。性質、大鷲により一部ステータスに補正がかかりました。
HP85/85
MP10026/26+10000
STR15
VIT12
INT13+5000
DEX14
SPD18
LUK85
↓
HP148/148
MP10034/34+10000
STR23
VIT17
INT27+5000
DEX24+1000
SPD24
LUK86