第五話:彼らはゴブリンと対峙する
街から少し離れた森の中、そこにはゴブリン達の集落がありました。
このゴブリン達は二年前からこの森にやってきて、小さな集落を作り始めたのです。
そしてそこに住むゴブリン達は集落に来る他のゴブリン達を拒まず、受け入れてきました。
やがてゴブリン達の集落は立派になり、森の中の豊かな食料も相まってゴブリン達にとっては最高の環境になりました。
そこでゴブリン達は、初めて森の外へ出てきて行きました。そこには見たことも無い白い壁、見たことも無い言葉で喋る何かがいました。
ですがその存在はゴブリン達を攻撃してきました。自分達は何もしてないのに、向こうから襲ってくるのです、ですがゴブリン達は疑問にも思いませんでした。
何故なら、初めてその生き物を見た瞬間にゴブリン達もその生き物を殺したいほど憎いと、相容れない敵だと、そう感じたのですから。
やがてゴブリン達はその生き物…人間を襲い始めました。森から出て、街に向かう人間を襲いました。
そして、人間達はこれを驚異と感じ、ゴブリン達の拠点を探して見付け、その王であるゴブリンロードの討伐依頼を出したのです。
・・・・
デカイ、一目見た瞬間にそう感じた。
あまりにも巨大な体格、立派な牙、目立つのはその手に持つ武器だ。そいつはゴブリンの王に相応しいと思う程に巨大で鋭い刃を持つ剣を持っている。
そいつは俺達を見た瞬間に雄叫びを上げる、アマネちゃんは小さく悲鳴を上げたけど、ネルは動じなかった。
このゴブリンロード、怒っているな…目が血走ってるし怒りに震えてるってのが俺でも良く分かる。
まぁ当然か、気が付いたら自分達の集落を落とされて、仲間達を一瞬で殺されたんだ。
群れのボスとしちゃ怒るに決まってるよな。
「ゴブリンロードは強敵、初心者が近接戦闘で勝てるとは思わない方がいい、たとえどれだけ特別であっても」
ネルが杖を構えながら忠告してくる。口数が少なく表情も余り変わらない彼女なりの忠告だろう、それだけを言うとゴブリンロードの動きを観察し始めた。
相手がどう動くのかを見極めるためだろうな、そこら辺も流石ベテラン冒険者って所かな。
そういえばずっと気になってたけど、他の冒険者が働かないのを心情にしてるって言ってたけど、どういう事なんだ?そう思いつつネルを見ると、俺の言いたいことを察したのか、相変わらずの無表情で俺に言った。
「私が働くのは意外?」
「失礼だとおもうけどな、他の冒険者達もそう言ってただろ?働かないのが信条だって」
「冒険者が私が働かないのを心情としていると言うのは事実だけど、私は気にしない。生きられればそれでいいから」
そう言うと、ネルは魔法の詠唱に入り始めた。
話を聞いてみると益々何を考えているのかが分からない、マイペースというかなんというか…まぁ今回限りの付き合いだし別に良いか。
それに彼女の魔法は俺達の助けになるのが分かったし、頼らせて貰うかね。という事で俺は様子見の一撃をゴブリンロードに与える。ゴブリンロードはそれに機敏に反応して俺の攻撃を受け止めた。
「ッ!」
だけどゴブリンロードは思った以上に手強かった、俺の剣を受け止めたと同時に体重と力を込め始めて、俺を強引に吹き飛ばした。
幸い吹き飛ばされた先に障害物はから良かった。もし木とか残骸とかに当たってたらどうなることやら…確かにネルが言ってた通りだ。
これまでのゴブリンとは何もかもが違いすぎる、実際に相対してみると、それが良く分かる。
すかさずゴブリンロードが追撃してくるが、炎の槍がゴブリンロードに直撃してゴブリンロードを怯ませた、恐らくネルが援護してくれたんだろう。
次にゴブリンロードの膝にに一本の矢が刺さり、ゴブリンロードは驚いたのか俺への追撃を中断し、後方へ下がった。
あの矢はアマネちゃんの援護だ、彼女の武器は弓矢、彼女の能力の関係上一番適していると彼女が判断して使い始めた武器だ。
二人の援護によって生まれた時間を利用して、俺は一旦後方に下がった。
「リクト君!大丈夫だった!?」
「無謀、ゴブリンロードに関しての忠告はした筈」
「悪い悪い、行けると思ったんだけどなぁ」
二人に怒られつつも、俺はこれからどう攻めるかを考え始める、単純にどう攻めるか迷う…
「私があいつの動きを止めるよ」
「貴女が?」
「そうか、アレを使うんだな?」
「うん、私の力があいつに通用するか…確かめたいの」
「オーケー、フォローは任せろ」
アマネちゃんは弓を持ちながら俺を見る。多分彼女は自分の能力を使う気だろう。
彼女の能力はありとあらゆる音を操る。どんな音であっても彼女はそれを自分の意思一つで操れるんだ。
ネルは説明を求めるような表情でこちらを見てくるけど、とりあえず見た方が早いと彼女に言い聞かせた。
そして、アマネちゃんが弓の弦を爪で優しく弾き、音を出す。
「グルォ!?」
するとゴブリンロードは慌てたように周囲を見渡した後に
「グガァァァ!?」
頭を抱え込み、苦しみ初めた。その光景にネルは何が起こったのか分からないといった表情でアマネちゃんを見る。
「魔力が感じられない…今、何をしたの?」
「な、何って…私、楽器やってたから弓の弦でそれを再現しただけだよ?でもちょっとやり過ぎちゃったかな?…………テヘッ☆」
「…後で詳しく聞かせてもらう」
誤魔化そうとしたのか、ウインクしながら舌を軽く出したアマネちゃんをジト目で見つめるネル、まぁ初見…しかも異世界の住人からしたら当然の反応だよな。
アマネちゃんの音楽奏者は使い勝手が良い能力だ、小さな音を大きくしたり、大きな音を小さくしたり、特定の相手に音を届けたりと。
そして今回やったのは、小さな音を大きくして特定の相手に届けるという事、たったそれだけの事だ。
でも、その音が鼓膜が破れると感じる程にに大きくて直接それが伝わるとしたら?
「グ…ウゥ」
そして、ゴブリンロードは酔っ払ったおじさんのようにフラフラとし始める。そして立てなくなるほどに弱って地面に膝を付いたら。
「炎風よ…我が声に従い敵を討て、フレアトルネード」
そこへネルの炎の竜巻が襲いかかり、ゴブリンロードを炎の竜巻に閉じ込めた。
凄い熱気だ、この距離でも届く程の熱、ネルはかなり優秀な魔法使いみたいだな。
「まだ倒れない」
だけどゴブリンロードはそれでも倒れはしなかった、さっきまでは膝を付いていた筈なのに雄叫びと共に再び立ち上がった。止めを刺そうと思って魔力を引き出したら
「グアァァァaaaaa!!!」
「っ!?」
「な、何あれ!?」
突然ゴブリンロードの体色が変わり、炎の竜巻をかき消した。ゴブリンロードの目の色は黒から赤になり、緑の肌は真っ赤に変色した。
「変異種」
ネルは一言だけ呟くが、彼女を見てみると今までのぼんやりとして眠そうな表情や雰囲気は消えて、引き締まった表情をして雰囲気も油断が無い、真剣そのものといった感じになっていた。
「へ、変異種って何?」
「通常の魔物の個体とは違い、体色が変わっていたり身体の構造が違う魔物。当然変異種の魔物は手強い」
つまり、相手がレベルアップしたって事なのか。あれより強くなってる、しかもあの様子じゃ正気は失ってるな。って事はアマネちゃんの能力は効かないと思った方がいいな
「まさか変異種になるとは予想してなかった、私の失態」
「気にすんな、偶然だろ偶然」
「そ、そうだよ!ネルちゃんの失敗じゃないよ!それよりもあの魔物を倒さないと皆が危ないよ!」
アマネちゃんの言う通りだ、こいつの配下のゴブリンを一掃したからこのゴブリンは正気を失う程に怒り狂ってる筈。ここで俺達がやられても街を襲うのは確実だ、街にはカズト君達がまだいる筈だけど、それでも他の人達がどうなるかは分からない。
俺達が、こいつを倒さなくちゃならない。元々ゴブリンロードを倒す予定だったんだし、そいつが少し強くなっただけの事だ。
「Gyaoooooo!!!!」
変異したゴブリンロードが大気を震わせるほどの声量で雄叫び上げた。その迫力に震えそうになるけど耐える。
俺は唯一の前衛だ、俺が怯んだら誰が仲間を守るんだ、そう自分を奮い立たけて剣を構える。
使うのはあの時一人でゴブリンと戦った時の魔法剣、硬く…鋭く。
準備はできた、後はこいつとやり合う覚悟だけ…怯むな、立ち向かえ、俺ならできる!
「来いよ、俺が引導を渡してやる!!」
「Gyaaaaaaa!!!!」
『報告、リクト・アルタイルの性質:大鷹が影響し、能力力を見透かす瞳を獲得。これによりリクト・アルタイルのステータス一覧が更新されます』
名前 リクト・アルタイル
能力値
HP85 /85
MP10026/26+10000
STR15
VIT12
INT13+5000
DEX14
SPD18
LUK85
称号 魔法の開拓者、冒険者
能力力を見透かす瞳
特別能力常識凌駕
適正属性 無
性質 強欲、大鷲