第四十五話:吠えろ、勇者
諸事情で投稿が遅れてしまい、申し訳ございません
詳細はツイッターにある通りです。
今までこの作品を待ってくださった皆様の期待に沿えるよう、がんばります
魔族
一見人間と変わりない容姿をしている彼らだが、侮るなかれ
それは、人族を遥かに凌駕する力を持つ。
それは、獣人を遥かに超えた五感を持つ。
それは、エルフを遥かに超えた知識を持つ。
それは、あまりにも多種族と違いすぎる。
だからこそ、彼らは他の種族から恐れられるのだ……その魔族の中でも選りすぐりの強者、天道十二門。
異世界召喚された勇者は、その力を垣間見るであろう……
☆ ☆ ☆
「……成程、僕を殺すか……」
十二門が一人、レイジは笑った。先ほどまで十二門および魔王の共通の見解で調べる価値もない雑魚と評価していた勇者の一人、リクトが人族では珍しいほどの「何か」を感じさせる雰囲気を纏ったからだ。
そして、レイジは珍しくリクトには嫉妬しなかった。先程まで勇者のカズトには抱いていた感情が、リクトには抱かなかったのだ。
それだけでも異質、それだけでも異常。
それが分かるレイジは、リクトの評価を改めた。
試す価値の無い有象無象の雑魚から、異質な存在へと
「いいよ、遊んであげるよ!!」
自分の感情が昂ぶるのを感じ、その心のままレイジはリクトに攻撃を仕掛けた。
自身の泡を生み出す能力で。
腰に掛けてある刀や先程の連携攻撃を見る限り、彼はカズトと同じく近接に特化した戦法を得意とするだろう、そう考えたレイジは、様子見に彼の進行ルートに可燃性の泡を配置した。
破壊したら爆破するその泡は、レイジの攻撃手段の中でも比較的オーソドックスなもの。
それをどう対応するか?その反応を見るためにレイジはあえて分かりやすい攻撃をした。
「さあ、来なよ」
☆ ☆ ☆
お前がその気なら、俺は躊躇わない。
ゴブリンロードを両断したこの刀で、お前を殺す。
あいつは笑いながら泡を出してきた、でも関係ない。この刀なら斬れる……!?
「ぐ、あァ!!?」
なん、だ。斬った泡が爆発した!
体のあちこちが痛い……これが十二門の力なのか?
「……」
あいつが指を鳴らすたびに、泡が溢れてくる。
これじゃあ近寄れない……
なんてな
無属性魔法発動、刀身に流し込む。
「風の精霊よ、わが刀身に宿れ」
勿論無属性と刀に宿る特性を誤魔化すためのカモフラージュは忘れない。
手の内を見せるのは、危険すぎるから。
「精霊……?」
困惑しろ、考えろ、俺が精霊を使役したのかと思え。
そうやって考えてくれれば、隙ができるからな
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
雄叫びと共に刀を横に振るう。風の属性を宿したその刃は、刀身から離れた位置にいる十二門に向かっていく。
勿論道中にある邪魔な泡をなぎ倒してだ。
「ッ!!!!」
激しい爆発音と共にレイジに向かう風の斬撃。
間一髪のところでレイジはそれを全身に泡を纏うことで防いだが……分かってんだよ、防がれることは!
俺が狙ってたのは、道中の邪魔な泡だったからなぁ!
「アァァァァァァァァ!!!!」
吠える、この一撃で殺すために。今持てる全力の一撃を叩き込むために!
ステータスが上昇した今なら、殺せる筈だ!!!
「甘い」
ごッ……!?
「大声を出したのが君の敗因だ。その状態じゃあ肺の酸素が少なくなる」
自分の体が地面に崩れ落ちる。呼吸ができなくなる。
「なるほど、僕が嫉妬を覚えない訳だ……君は嫉妬を覚える必要が無い程弱い、その刀の性能に頼り切っている、評価を改める必要は無いね、君は雑魚だ。有象無象だ」
そんな、俺の能力は発動している筈なのに、何で……!?
ま、まさか……本当に補正後のステータスには、守り抜く者が機能しないのか?そんな筈は無い!それならあの時のゴブリンロードには勝てなかった!
なのに俺は、こうして倒れている、何でだよ?何で?
こいつの言うとおり、俺が弱いからか?俺が駄目だからか?
「僕の目も鈍ったか……まぁリクトがこの様子なら、中のアマネも変わらないだろうし……今回は僕は引かせてもらうかな」
「ま、待て!天道十二門!」
「待たないよ勇者カズト、まぁ君はそれなりの脅威にはなったから、今度会う時は全力で殺し合おう」
俺が刀に頼り切りの雑魚
確かにそうだ。俺はステータスも低いし戦い方も分からない、この世界に来て自分の能力がチート染みてて調子に乗ってた。Aランクの魔物にも軽々勝てたのも、刀のおかげなのに自分の力と勘違いして……頼らない頼らないと口だけで言ってすぐに頼る
だからこんなピンチにすぐに陥る。
俺は弱い、口だけの男。
守る守るって言ってて、肝心な時には活躍しない屑。
ウェアウルフの時もそうだ、俺は情けなく気絶して……コルルさんに叱られて、皆に甘えて……
そして今回も、こいつに負けて情けなく床を舐めている。
ふざけんな
このまま情けない恰好をさらしてて、口だけのゴミ屑男に成り下がって、しかも何も言わないで……このままこいつをノコノコ逃がす?ざけんな……ふざけんな、ふざけんな!!!
「ふざけんな!!」
「「ッ!?」」
立ち上がる、立ち上がってやる
このままこいつの言うとおりの、刀に頼っただけの口だけ男になるのは、絶対に嫌だ!今までの俺が口だけの男だったなら、今から変わる、変わってやる!!
「雑魚?有象無象?口だけの男?それはそうだ!さっきまでの俺はどうしようもない野郎だった!だったら変わってやる!今ここから変わってやる、そう決めた!それをお前にみせてやる!」
「へぇ、僕の能力の支配から抜け出したのか……それにその表情、ふふふ……面白い、面白いよもう一人の勇者!!」
さっきまでは独りよがりだった、頭に血が上って状況が見えていなかった。
でも……今なら分かる、こいつの能力の正体が!
そもそもこいつがやった器官に泡を潜り込ませて窒息させる方法、これを初手で使わなかったのには理由があるはずだ。
そして俺が能力を解除できたのにも理由がある、それは……
「そうか、効果範囲と意識の集中」
「へぇ……気づいたんだ」
これだけの能力、発動するだけでもかなり集中するはずだ。
こいつがカズトと話した後に逃走を図ろうとしたところで、支配が緩んだ気がした。おかげで解除できた。
確かに凶悪な能力だけど……やりようはある
「カズト!同時にかかるぞ!こいつの器官に泡を発生させる現象は、二人同時にかけられない!」
俺が倒れている間にカズトに同じことをしなかった理由、それはこの反則紛いの能力を同時に使うことができないからだ。
「正解、僕は確かに同時にかけられないよ。でもそれがどうしたんだい?君たち二人がかかってきた時のことを忘れたわけじゃないだろう?」
何?そんなことがあったのか?ということは対抗策もあると……だけど!
「人数が増えたら、その限りではない」
「待ってたぜ、ネル!」
「グッ!?」
無数の魔法が奴に襲い掛かる。
「き、君は……大丈夫なのか?」
「眠らされただけだから、支障は無い……それに連続で爆破されれば嫌でも目が覚める」
チラリ、とネルは俺を見てくる。
多分さっきの情けない姿は見られただろう。
失望もされたかもしれない。
けれど俺は言う、言わなくちゃならない。
「力を貸してくれ、ネル!」
「当然!」
まったく、本当に俺は良い仲間に出会えた。それがよく分かる、本当に最高だよネル!!
「行こうリクト!天道十二門をここで!」
「ああ、倒す!」
「ここで沈んでもらう……!」
「クフッ、なら僕も最後まで付き合おうじゃないか!」




