第四話:魔術師とクエスト
「ねえ」
「ん?」
冒険者登録を済ませた俺達は、これからどうしようかを相談する前に誰かに声をかけられた。声をかけてきたのは青色の短い髪をした女の子だった。細かい寝癖が所々についていて、ぴょこんとアホ毛らしきものもある。
「二人、初心者だね」
女の子はそう言うとこちらを品定めするような目線でジロジロと見てくる。多分どれだけ俺達が優秀なのかを見てるんだろうな。
オンラインゲームとかでも相手の装備や職業、レベルや取ってるスキルを見てある程度のプレイヤースキルを予測する事ができる、というか俺がそうしてた。
ならばこちらも遠慮なく見させてもらうとしますかね、女の子の装備はこれといって特徴は無いかな…まぁ普通だな、初級冒険者と変わりは無いかもしれない。唯一気になるのが変わった形をした杖だという事だ。多分魔法使い系なんだろうな。
「お、おい!あの女って」
「ああ、働かないを心情としたほぼニート魔法使いのネルじゃねえか!」
「あいつが自分から動くのか…金でも尽きたのか?」
な、なんか周りの冒険者達の会話から不穏な空気を感じる…アマネちゃんも引いてるじゃないか!苦笑いしてるぞ!
「所詮他人の評価、気にしない」
き、気にしないっていっても…
「ここの冒険者達が言う通り、私は金が尽きた。君達初心者、私プロ。オーケー?」
「お、オーケー」
「じゃあ行こう」
「えっ?行くって?」
「魔物退治の依頼、早くして」
な、なんかこの人俺達を指揮してるし…ってかいきなり出てきてそれは無いんじゃ…いや、待てよ?
「ど、どうしようかリクト君」
アマネちゃんが不安そうな表情をして俺に助けを求めてきた、確かに色々と不安要素はある。冒険者達の評判や初心者と知りつつ声をかけてきた事。怪しすぎるといってもいい…が
「分かった、お前に付いていこう」
「リクト君!?」
「懸命な判断」
俺達は右も左も分からない新参者で新人冒険者、そこに教えてくれる人が来るならこっちとしても都合が良い。それに魔法使いって事はもしかしたら俺の無属性魔法を成長させる良い切っ掛けになるかもしれない。
「私はネル・クライス」
「俺はリクトだ」
「むぅ……私はアマネ、よろしく」
少しアマネが不機嫌そうだけど関係ない、ネル…どういう目的で近付いてきたのかは知らないが、これはチャンスだ。この世界の人間が使う魔法…学ばせてもらう!
「じゃあこれ」
早速ネルは依頼受付所に行って、一つの紙を提出した。
「こ、これって…ネル様ならば可能ですが、其方の二人は」
「問題無い、私を誰だと思ってる?」
「そ、そうですね…ではこの依頼、確かに受理しました」
幾つかやり取りをした後に、ネルがこちらに近付いてきてその紙を見せてくる。なになに…ってこいつは!
「魔物退治、Aランク推定のゴブリンロード」
「え、Aランク!?」
おいおい、いきなり手強い奴が…ってあの野郎先に進んで行きやがった!
「早く行こう」
「お、おい!待てよ!」
置いてかれない内にネルを追いかける。
「行ったな、あいつら」
「行くぞ」
「おう」
ネルを追いかける事を意識していた為、付けてきている人物に気付く事はできなかった。
・・・・
「そういえば、ネルさんはどうして冒険者になったんですか?」
移動している間暇なのか、アマネちゃんがネルに質問していた。俺は興味無いから隠蔽の制度を上げている、目指すは自分ですら魔力を感知できない隠蔽をな。
「私が冒険者になった理由は一人で生きるため、それ以外の何も無い」
「そうなんですか」
会話が続かないのが気まずいのか、アマネちゃんが苦笑いしつつ助けを求める視線を送ってくる、だが俺にはどうしようもできないからスルーするしかない。
「それよりも君に興味がある」
するとネルは俺を見つめてそう言った。俺に興味があるってどういう事だ?一目惚れか?悪いけどお子様には興味は無いんだよ。
「へ?どういう事です?」
会話を続けるチャンスかと思ったのかな?アマネちゃんが積極的に聞くけどネルはそんな彼女を完全に無視している、なんか応援したくなるな
「俺、ネルさんとは初対面なんだけど」
「私も初対面、だからこそ腑に落ちない」
「へ?」
「私が知らない魔術の天才、そんなのは存在しない。貴方は何者?」
「え?え?」
成程…この女、知ってたのか。アマネちゃんは何が何だか分からない様子で俺とネルを交互に見る、なんか不思議と保護欲が湧いてくるな…まぁ問題はこいつか。
「俺は天才じゃない、ただ追求するだけの凡人だ」
「貴方が凡人?嘘を言わないで」
「本当だよ、俺は誰もが辿り着ける領域に一番早く辿り着いた凡人だ。俺が出来る事を考えた結果身に付けた力だ」
嘘は言ってない。実際無属性は気付きさえすれば誰にでも簡単に使える力だ、使いこなすには当人のイメージと潜在魔力が大事なのが条件だがな。
「貴方が凡人なら、世界は天才で溢れてる」
「そーですか」
やっぱり納得はできてないようだな…でも、同時に達成もした。多分ギルドでの魔法がバレたから追求されてんだろうな。魔力を感知する技術があるって事だ、だったら…それを上回る隠蔽を完成させれば、俺は更に高みへ行けるな。
「そろそろ連中の巣に近付いた筈」
「うっ…」
ネルがそう言うと同時に血生臭い香りが漂ってくる。思わず吐き気がしてきそうな不快な臭いが。
案の定アマネちゃんは手で口と鼻を抑えている、俺は隠蔽を使うと同時に新たなイメージを思い描く。
イメージは鷹の目、高所から獲物を見つけ急降下し獲物を仕留める狩人の目。
(索敵!)
見付けた、あれがゴブリンの巣か。
「見付けたぜ、ここから少し歩いた所に集落がある」
「えっ?何で分かるの!?」
「索敵魔法…何故詠唱もせずに使える?」
「そりゃ自分で考えろ」
この様子だと、やっぱり無属性魔法目当てで近付いてきたな。下手に追求されても面倒、かといって無属性魔法を目当てに近付いてきた奴に説明する義理も無い。
「行くぞ」
とはいってもこの世界に来て初めての強敵だし、手を抜く義理も無いけどな。
よし、普通に目視できる距離まで近付いた。
「アマネちゃん、サポートを頼む。俺が前衛だ」
「う、うん!」
「その魔法の才能で近接?理解できない」
この女いちいち突っかかって来やがって…面倒だ。一気に終わらせたいが、こいつを働かせないと異世界人が使う魔法が分からない。カズト達勇者が使う魔法だけじゃ難しいからな。
「迸る炎天、全てを焼き尽くす焔の刃…フレイムカッター!」
大層な詠唱の割には派手さは無いのな。でも見たぞ!異世界人が使う魔法を!
やっぱりカズト達とは質が違うな、こっちの方が優れている。詠唱からなる過程と魔法という結果を見た今なら、その過程を省略できる。故に
「あ、ありえない…!」
「な、何それ!?」
炎を纏う剣が完成した、魔法剣だ
「名前を付けるなら、魔法剣:焔って所かな」
「卓上の理論である魔法剣を…!?」
ネルの奇襲によってゴブリン達がこちらに気付き、迫ってくるが
(視覚強化、運動性能強化)
無属性魔法の身体能力強化により、迫るゴブリン達を切り刻む。剣で傷付けたゴブリンの傷口から発火していき、ゴブリンの全身を燃やし尽くす。
思った以上に爽快感が半端ないけど、それ以上に三つの魔法を同時に運用していると燃費が悪すぎる!
王様からもらった装備の内の一つの魔力回復薬を飲み干しつつ、ゴブリンを斬るけど数が多すぎる!このままじゃジリ貧だ、なら!
「面倒だ、一気に決める!」
イメージは炎の竜巻、剣から巻き起こる全てを焼き尽くす竜巻!剣を纏っていた炎に徐々に回転が加わって、それがイメージ通りの姿になった時に、一気にその剣を振り下ろす。
「これで、どうだぁ!!!」
同時に、凄まじい熱気と共に剣先から放たれる赤い竜巻が、ゴブリン達を巻き込んでいく。
それはゴブリンの集落ごとゴブリンを巻き込み、焼き尽くして行く。やがてその場に立っているゴブリンは一匹もいなくなった。
「す、凄い!凄いよリクト君!」
「まだ、終わりじゃない」
「ああ、ゴブリンロードがまだいる筈だ」
そう、本来の依頼はゴブリンロードの討伐なんだ。こんな下っ端共は前座、本来の相手は…
「オォォォォォォ!!!!!!」
「来たか!」
この、ゴブリンを束ねる長だ。
『報告、称号:魔法の開拓者により潜在魔力容量が大幅に上昇しました』