第三十一話:物量VS質
物量を覆す条件の一つ、無双キャラを持ってくればある程度は戦える。
今回の話は三人称視点でお送りします。
無数とも言える程…それ程の魔物の群れ、ウェアウルフの群れ。一般人はおろか冒険者でさえ蹂躙される程の物量、最初は拮抗していてもやがて冒険者が疲れ果て、その牙に命を落とす。だが、この場にいるのはただの冒険者ではない。
まずは先手、ネル・クライス。
彼女はかつてゴブリンロードとの戦闘により魔法のストックを使い果たしていた。だが彼女は宿屋でゴロゴロしている間に再び魔法のストックを貯めていた、そして彼女は今それを解放し始める。
「先手は貰った、魔法陣第一陣から第十陣まで…一斉掃射」
彼女の杖から魔法陣が現れる、その数は十。そこから放たれるのは爆炎と氷槍と鋭風。
それらは魔物の群れの中心部に容赦無く叩き込まれ、離れていても感じる程の衝撃と共に魔物の群れを蹂躙する。
これだけで、魔物の群れの約半数は機能しなくなった。だがまだ半数は残っている。
魔物の少数がネルを脅威と判断したのか、一目散に彼女の元へと向かうが。
「やらせないです!」
マナ・D・ジェミニ。彼女の槍によって全ての魔物が文字通り蹴散らされていた。一体も残さず彼女の槍術によってネル達に向かっていた魔物は全て彼女が振るう槍の前に倒れている。
「私の目が黒い内は、クライスさんとカグラさんの邪魔はさせないです!」
マナの槍術は守りに特化している。彼女の戦い方は敵の攻撃をカウンターの要領で攻撃したり相手の動きに合わせて槍を放ったりと、相手に合わせた戦法を取る、とにかく彼女は戦い方に隙が無い、そんな彼女の隙を付くのはリクトでも難しい程に。
だが、決して自分から攻めるのが不得意な訳ではない、敵が隙を見せれば最小限の動きでそれを付き、再び守りの姿勢に入る。それが彼女の戦法だ。
そして、中でも目立つのは彼女が陣取った場所から一体も後ろに敵を通さない程の強固な守り。
マナは敵を足止めする事を何よりも得意としていた。それは数が増えてもその仕事に支障が出ない程の物。彼女に槍を持たせればそれだけで一種の要塞と化していた。彼女の背中は何者にも通れない、通りたければ先ず私を倒して行くが良い、そう彼女の表情は語っていた。凄まじいドヤ顔で。
「中々やる、私も負けてられないな」
そう言い右手に片手剣を、左手に小さな杖を持つ彼女、コルルは獰猛な笑みを浮かべながら迫り来るウェアウルフの群れを蹴散らす。彼女の片手剣による剣劇は単純に美しい。
見る者が見ればまるで舞を踊っているようだ…そんな彼女の剣劇。その最中に、彼女は左手に持つ杖を巧みに操り魔法陣を構築し始めた。
「その炎は天へ昇る柱、ファイアーピラー!」
それは魔法、剣の舞を踊る彼女はその舞の中に魔法の詠唱を組み込んでいた。炎の柱は複数のウェアウルフを燃やし尽くし、それを逃れた残りのウェアウルフはコルルが追撃する。
ウェアウルフを斬りつつ、詠唱を行うコルル、まさしく魔と武を合わせた戦闘をする彼女は魔法剣士を名乗るのに相応しい実力を持っているだろう。
「シッ!」
そんな彼女達の一方的暴力とも言える戦闘に、新たな人影が現れた。それは冒険者組合の受付嬢であるエルフの人物…リーネ・シゼリスだ。
彼女がやったのは至ってシンプル。ウェアウルフの頭部を殴り飛ばしたという事だ。尤もそれは凄まじいスピードで放たれた拳…殴り飛ばされたウェアウルフは痙攣した後にその体を崩壊させる。
殴ったと同時にリーネは魔物の核である魔石を取ったのだ。魔物は絶命と同時に魔石を人体でいう急所にあたる場所に出現させる。
それを殴り飛ばしたと同時に取り出した…これだけで彼女がどれ程の実力を持っているかが分かる。
「それでもウルフ種ですか!遅すぎますよ!」
彼女の圧倒的な速さから繰り出される拳と蹴り。それによってウェアウルフ達はただただ蹂躙されていった。だが彼女達の戦闘のペースが落ちることは無い。
これだけ全力で動けば人間は体力や魔力を消耗するのにだ。特にネルは燃費が悪いのに一向に勢いを落とす気配は無い。
(このパーティ、予想以上に完成されているな。それにあの桃色の髪の彼女、これが彼女の能力か…末恐ろしいな)
(銀河の冒険団…想像以上の手練ですね。特に彼女のこの能力…リオナオンに知られれば不味い程に強力です)
リクト達と行動するのが初めての二人は、チラリとアマネに視線をやる。アマネが先程から使用しているのは、彼女が仲間と認識した存在への強化と魔力、体力の回復。文字通り規格外の力。だがそれを初めて使用したアマネは、想像以上に体力を消耗していた。
もう弓矢での援護が出来ずに、ただこの現象を維持するのに必死な程に。
「まだ、まだだよ!」
それでも歯を食いしばって彼女はそれを展開し続ける。せめてウェアウルフの群れを無力化させる程まで…それを維持しようとする。
「そろそろ数が少なくなってきた」
ボソリとネルが呟く、彼女の言う通りウェアウルフの群れが少なくなってきたのだ。
「ウガゥ…ウォォォォォン!!!」
ウェアウルフの群れの一頭が高々と吠えた。それを合図にしてウェアウルフの群れが引いていく。
「逃げましたね…流石魔物の中でも知能がある種…相変わらず興味深い生態です。この場合何を判断基準に撤退を決めたのか、ふむふむ」
「自分の世界に浸るのは後にしろリーネ」
「むぅ、コルルさんの癖に生意気です」
ウェアウルフを興味深そうに観察するリーネを軽い口調で注意してから、コルルはアマネ達を向く。
「感謝する、銀河の冒険団…だったな。お陰で助かった」
「き、恐縮ですぅ!!」
「風騎士コルル…まさかここにいるとは」
「そういう君は…?」
「ネル・クライス、ただの冒険者」
「ふむ、私としては君に良く似た人物を知ってるのだが…まぁ今は置いておこう、問題はそこの彼女だ」
コルルは心配そうに表情を変えてアマネを見た、他の人間もアマネを心配そうに見つめている、それ程にアマネは顔色を青くして息を上がらせていた。
「だ、大丈夫だよ。ちょっと頑張っただけだし」
「駄目、アマネは休むべき」
「そうです!カグラさんは休むべきです!」
「そ、そうかな?」
「うむ、そうするべきだが…そこの彼は何時まで眠っているんだ?」
コルルがリクトに呆れた視線を向ける、リクトは未だに表情を歪めて眠っていた。傍らには水筒らしき物もあった。
そして、それを見たアマネは違和感を覚えた、彼が倒れる前はあんな物何処にも持ってなかったからだ。
「あれ?アルタイルさんってあんな物持ってましたっけ?」
「そもそも、あれ何?」
ここでアマネは更なる事実に気が付く、元の世界の水筒を彼女達異世界の人間は水筒と認識していなかったことに。
つまりあれは必然的にリクトの物になる…そこでアマネはリクトの能力に予測を立てた。
(物を作り出した?)
リクトの未知の能力の一端、それをアマネは今知ったのだ。
☆ ☆ ☆
作り出す。
壊す。
作り出す。
壊す。
創り出す。
破壊する。
創り出す。
破壊する。
それが君の真髄だ。
それが君に与えられた星の能力だ。
だから君は古い物語を破壊して、新しい物語を創り出すんだ。君自身の新しい物語を。
自分はここで観ているよ、君がこれから成すことをね。今代の勇者の一人、リクト。
無双キャラが複数いた場合はこうなるけどね!
ほ、ほのぼ…の……なの…か?
つ、次こそほのぼのだから!次こそは…




