第三十話:今度は私が君を守るから part2
物量ってのは、そう簡単に覆せない
「では行くぞ」
金髪のツインテールの女の人は、片手剣を巧みに操り押し寄せてくる魔物達を軽々と倒して行く。その動きはまるで舞を踊っているように綺麗で優雅で…そして無駄がなかった。
飛びかかってくるウェアウルフに大して、体の軸を少しずらしてから素早く正確な一撃を与える。
単純に上手いと感じた、洗練された動きってこういうのを言うんだろう、私も彼女の援護をしなきゃ。
彼女が魔物の気を引いてるうちに、私は素早く魔物の頭部に矢を撃ち込む。よし!良い感じだよ!
「ふむ、中々正確な射撃だが経験が無いな!」
「わぁ!?」
射撃に集中していたら、いつの間にか魔物に接近されていた。でも私に接近していた魔物は例外なく彼女の剣によって倒されて行く。
「常に戦場を見る事、特に後衛は剣士よりもそれを意識しなければいけない。良く覚えておく事だ」
「は、はい!」
強い…!彼女は戦闘中でも私にアドバイスしてくれる位には余裕を持って戦える実力を持っている、私も頑張らないと!常に周りを見て…戦場を見て…あ、魔物が何体も並んでる。
ここをこうして撃ち込めば一本の矢で同時に倒せるかな
シュッ
「「「ギャワン!!」」」
「ほう…!」
よし、三体同時に射れた。急所に当たってないから一撃で仕留められなかったけど…ふぅ。
やっぱりきついな…今は命がかかってるから考えないようにしてるけど…生き物の命を奪うのは…本当にきつい。
ううん、駄目。それを考えたら私はきっと……駄目だアマネ、リクト君をここで死なせたりはしたくないというのを思い出せ。だから考えたらいけない、別に人と殺し合う訳じゃないから…!
「しかし、本当に数が多い」
金髪の女の人も言うけど、本当に数が多い!せめて後何人かは助けが無いと…!
「やぁぁ!!」
「ギャン!?」
「ふぇ!?」
い、いきなり何!?何か赤い髪の女の人がウェアウルフを殴り飛ばした!?
「アマネ!」
あっ…!
「ネルちゃん!?マナちゃんまで!」
「ま、間に合ったですぅ!」
二人共どうしてここに…?それにあの赤い髪の女の人って良く見たら受付のリーネさんだ!
「ウェアウルフが突然大量発生して、街にいる冒険者は殆ど駆り出されたんですぅ!」
「大討伐」
「はい、そこで銀河の冒険団のお二人にも協力してもらおうと思って…まさか試練を受けてたお二人まで巻き込まれているとは…」
そっか、確かにこの金髪の人もウェアウルフが大量発生しているって…
「それに、風騎士のコルルさんまでいらっしゃるとは…」
「コルル…?」
「紹介が遅れたな…私はコルル。ただのコルルだ…っ!?君は」
金髪の女の人__コルルさんはマナちゃんを見て驚いたような表情を浮かべた。
「えええと…何です?」
「いや…気の所為だ」
何だろ、気になるな…
「来る」
ネルちゃんは短く一言だけそう言って文字詠唱をし始めた。ウェアウルフ達は唸り声をあげて私達を睨みつけている。
「ふむ、後衛二人に前衛が三人か…そこの彼が目覚めていればまだ楽だったのだがな」
「彼…わわっ!?アルタイルさんが!」
「まさか、信じられない…」
マナちゃんとネルちゃんの言う事も分かる、私だって何でリクト君が急に倒れたのか分からないから。でも今リクト君は無防備だから私達が守らないといけない。だから…!
「アマネ…」
「カグラさん…」
「二人共、力を貸して!今度は私達が助けるの!」
「は、はいです!」
「うん、分かった」
頼もしい仲間が力を貸してくれる、これだけで私の心が嬉しくなる。ふふっ、負ける気が全然しないなぁ…!私も全力で頑張る!だから…見てて、リクト君!
「さて…何故私が魔法剣士を目指しているか、その真髄を見せようじゃないか!」
「では私も肉体言語でお話しましょう!」
コルルさんは片手剣を構え、リーネさんは拳を鳴らしながら微笑みを浮かべる。
「私も行くです!」
「設置完了…いつでも行ける」
マナちゃんは槍を構え、ネルちゃんは杖を構える、そして私はバイオリンを構えて音を奏でる。私のオリジナル作曲、大空の彦星!
「これは…凄まじいな!」
「こ、これ凄い能力です!こんな…聞いたことも見たことも無い!」
「流石アマネ、仕事が早い」
「フル!パワー!ですぅぅぅ!!!!み、な、ぎ、っ、て、き、たぁぁぁぁ!…ですっ☆」
マナちゃんはいつも通りか…でも、私の仕事はまだ終わりじゃない。リクト君はこの世界じゃ例外を除いて詠唱によって異能が起こるって。なら私も詠唱をする
「桜花乱舞、桜舞い散る春の息吹」
私の周りに風が巻き起こる。優しい風が私の周りを廻っている。
「始まりの春、新しい時代を担う春の吐息。その風は誰よりも優しく、その風は誰よりも力強い」
__守りたまえ。
__護りたまえ。
「我が祈り、我が想い、この風に乗せ何処までも届けよう…優しき我らが春の順風」
ゴォォォォッッ!!!!
「行くよ」
優しい風に包まれながら、私は弓を構えた。
リクトさん、深刻な空気状態。これも常識凌駕の力なのか…?




