第二十四話:怒らせたらダメな奴って、いるよね
雪とか積もらなくて良かったよ、本当に、前の時は転びまくったからなぁ。
現在進行形で思っている事ですが、仲間が怖いのです。
仲間と一緒に歩いているけど、何か黒いオーラが見えそうなんです。特にマナさんは何か雰囲気が他の二人より変わってます。聞いてませんよクロウ先輩。
「ルールは簡単だ、相手が参ったと言うか、戦闘不能になるまで僕と貴様のパーティが戦うというルールだ。武器は訓練所にある模造刀を使ってもらうぞ」
まぁ模造刀じゃないと相手を怪我させるからなぁ、模造刀でも怪我するって?ははは、そんなまさか。
いやね、模造刀でも殺せるってのは物語の中の話だろ?多分平気大丈夫、知識無いから知らないけどさ。
「私武器使わないから」
「珍しいね、楽器の類を持ってるとは…話には聞いたハーモニカとかいう奴じゃないか」
ハーモニカだけじゃなくてバイオリンもあるんじゃが…もしかして知らないのか?この世界にある楽器の類、後で調べておくかな。
「…………」
ふと、ネルの方を見ると最低限の動きで文字詠唱をしてるのが見えた。やる気ありすぎじゃないです?さっきまでだれてたネルはどこ行った?
「ふむ、では妾はこの二本の短剣を使わせてもらおうかの」
槍じゃないんですかマナさん絶対雰囲気変わってるっての、何で誰も突っ込まない訳?
てか、何か不用意に動いたら俺まで巻き込まれそうで怖い、やっぱり俺は今回は動かないでおこう、邪魔したら巻き込まれる、確信した。
「僕のパーティは四人、そっちも四人、だがそっちは初心者しかいないそうだな。結果は見えてる……うん?どうしたアルタイル?震えてるのかい?」
はい、そうです。怖いです。震えてるのは問題無い筈です。正常な神経してればな!
「アハハ!無様だな!女男!」
あ?
「女か男か良く分からない顔立ちして、それで髪を伸ばしたら女じゃないか!身体付きも僕に比べれば貧相だしな!そんなんで良く冒険者になりたいと思ったね!そんなんじゃ武器もまともに振るえないだろ?大人しく国へ帰れば良いさ!ただし彼女達は置いていって貰うがな!」
ああ、アマネ、ネル、マナ、今皆がどうしてそんなにブチギレてるのか…やっと分かったぜ。
確かに、確かに俺を女って言う奴はいたが、ここまで馬鹿にする奴は初めてだぜ。
良く見たら、顔立ちもカズト君程じゃないけど整ってるな。ふ、ふふ…フフフ…イケメン殺す。
「では審判!試合開始の合図を!」
「う、うむ…試合開始!」
試合開始の合図と同時に、一直線にイケメンに向かって駆け出す。俺とほぼ同時にマナも駆け出していた。
「ハハハ!馬鹿が魔道士というのを知らないのか?やってくれヒズリー!」
「お任せ下さい!天から降り注…キャア!?」
相手の魔道士が詠唱をしている最中に、ネルの文字詠唱による奇襲が相手の魔道士の詠唱を止めた。
「………」
「〜♪」
だが未だにネルは無言を貫いていた、次にアマネがハーモニカから音を出した。彼女が奏でる心地いい音を聞いたら、身体がさっきよりも軽くなった。
「ほう、これは良い物じゃな!」
マナが一瞬で相手の盾を持ってる女に近寄り、二本の短剣を巧みに操り女の盾と武器を弾き飛ばした。
なるほど、マナは高速戦闘が得意なのか?いや、今のマナは武器が違うし判断するのはまだ早い。
「こ、こいつらぁ!」
相手の男はそれに怒ったのか、魔道士の女と僧侶らしき女を置いて俺に向かってきた。
「うぉぉ!!!」
一応俺が使ってる武器は、刀の模造刀と剣の模造刀の二本だ。まぁ今俺が持ってるのは剣の模造刀だけだけど、とりあえずこいつぶっ倒す。
男が俺に向かって何度か剣を振るが、俺はそれを全て軽々と受け止めて弾く。
アマネの音楽を聞いてから、調子が上がっていた。
「くそ!何でだ!何で初心者が僕の攻撃を受け止められる!?」
お前が大したこと無いだけだろ。その証拠にお前の攻撃、全部見てから余裕で防げるぞ?
そうだ、どうせなら武器で受け止めるんじゃなくてギリギリで回避してみるか。ちょっとだけ試してみよう、俺が無属性に頼らないで、どれだけやれるかを。
「ホホホ…無様じゃのう、そらそこの男。そなたの仲間は皆叩きのめしたぞ?」
「な、何だって!?」
「ご、ごめんなさい…」
一番最初に近接武器持ちをマナが倒したからな。しかも同じ近接武器持ちのこいつは俺にだけ攻撃してくるし、流石に援護無しの魔術職じゃマナの相手は務まらないな。
「早くしないと私が殺るけど」
「こらこら、殺すのは禁止されておるじゃろう?」
「大丈夫、トラウマ植え付けるだけ…くすっ」
「ふぅ、もう演奏は必要無いかな…?」
演奏を止めてもバフは続いてるな、まだ身体が軽い…てか、ネル突っ込めよマナの変わりよう…まぁ、今は目の前のこいつか。
「くそ!くそ!くそ!」
「クソクソ連呼するな、小物に見える」
「なっ!?誰が小物だぁ!!!」
激怒したせいで、あいつの剣がどんどん荒々しくなってきた。でも全然怖くない。
あのゴブリンロードの方が、何倍も怖かったし何倍も強かった。
結局、こういう奴の実力は全然無いって事になるな。
「いよっ」
「よしっ!!」
相手にわざと武器を弾かせる、それを見た相手は勝利を確信した笑みを浮かべて、俺に向かって武器を大きく振りかぶる。
「喰らえ!!」
でも、大きく振りかぶったせいで、胴体ががら空きなんだよ。
「ごふっ…!?」
居合の要領で、刀の模造刀の持ち手の部分を相手の鳩尾に当てる。
「〜〜っ!?」
相手は悶絶しながら地面にうずくまった。
俺はそれを見下ろして、静かに言う。
「誰が女男だ」
うん、俺も若干キレてたわ。しかも自分の悪口でキレるなんて…反省しないとな。こんなんじゃこの先やっていけないよ、どんな悪口を言われても気にしない精神を身に付けないと…。
「そこまで!この勝負、アルタイル一行の勝利!」
勝負にも勝ったし、さっさと退散しよっと。
「流石じゃ、見事な手腕褒めて遣わすぞ?」
「ねえ、どうなってるのマナ」
「知らんがな…」
「お疲れ様、皆!」
あぁ、アマネが俺の癒しで本当に良かった、その笑顔に癒されるぅぅ。
「やるなお主等、ただの新人ではないな?」
審判の人が良い笑顔をしながら近付いてきた、労ってくれるのかな?
「彼はリオナオンから来た奴なのだが…性格が悪くて度々注意を受けていたのだのよ…何はともあれ、諸君の勝利を祝おう」
「あぁ、ありがとう」
やっぱり他にも問題を起こしていたんだな、大方リオナオンの方で問題起こしたからこっちに来たんだろうな。そうだと思いたい、じゃないとリオナオンのイメージがどんどん悪くなる。
「…………はっ!?」
突然マナがさっきまでの威厳溢れる雰囲気じゃなくなって、元の小動物を思わせる雰囲気に変わった。
「お、お疲れ様です!皆さん!勝利のお祝いに何か美味しい物食べに行きたいです!」
「行きたいのか…」
マナが戻った、戻ったのは良いが唐突すぎてちょっと困惑してしまった。
「マナちゃん…さっきのって」
「気の所為です!!」
「う、うん」
触れられたくないっぽいな、まぁ怒らせないとあのモードにはなりそうにないし、マナから話してくれるまではそっとしておこうか。
「食事に行くのか?なら良い店を知ってるのて、紹介しよう」
「ありがとう、ええっと」
「私はルミナだ、ルミナと呼んでくれ」
「分かった、俺はリクト。これから宜しくな」
こうして俺達は、新たな土地で若干不安なスタートをして、ルミナと出会った。
この季節、風邪には気を付けてね!




