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【短編集】 このネタ、温めますか?

アプリな恋愛

作者: 吉遊

 “このネタ、温めますか?”という短編集においていた作品です。

 ジャンル変更にともない、短編として投稿することにしました。

『本気の恋がしたいっ!』


 狙っている男の子と会話やデートを重ねて好感度を高め、知り合いから恋人へとステップアップしていく女性向け恋愛シュミレーションゲームです。

 このアプリでは自分がヒロインとなり、好みの相手と理想の恋愛ストーリーを体験することができます。

 さあ、気になる男の子の情報をたくさんゲットして、彼の好みの女の子に変身しちゃおう!


 ※本アプリは基本無料で遊べますが、一部有料アイテム等を購入することにより有利に進めることができます。



   ◇◇◇



 そのアプリを見つけたのは、本当に偶然だった。


「……何コレ?」


 いつものように自分のベッドの上でダラダラとスマホを使い、某小説投稿サイトの日間ランキングを見ていた高瀬恭子(たかせきょうこ)は突然現れた見知らぬ画面に怪訝な表情を浮かべた。


「んー? 乙女ゲー?」


 どうやら、そこは女性向けアプリの紹介ページらしい。

 乙女ゲームなのに攻略対象(イケメン)のイラストやCVの説明が一切ないのが少し気になるが、無料アプリだからだろうか。普段スマホでゲームをしたりしない恭子にはイマイチ判断が付かない。

 しかし、ラメ入りピンクの可愛らしいフォントで書かれた“本気の恋がしたいっ!”というそのタイトルが、恋愛とは程遠い高校生活を送っている彼女の乙女心を巧みに(くすぐ)ってくるのは確かだ。


(高校生になったら、漫画とか小説みたい……とまでは言わないけど、そこそこ甘酸っぱい感じの恋とかできると思ってたのになぁ。もう二年なのに好きな人すらできないし)


 所謂“オトシゴロ”真っ盛りな恭子は、恋愛に多大なる夢を抱く恋に恋する少女だった。……若干、思考が二次元(オタク)よりかもしれないが。


(ちょっとだけやってみようかなぁ。……どうせ、無料(タダ)だし)


 そんな、“何かが変わるかもしれない”という軽いけれども、意外と期待は大きいという複雑な――ある意味では分かりやすい――思いを持ちながら、恭子は画面右上にあるダウンロードの文字をタップした。






 ダダダダダッっと玄関から自分の部屋まで一気に駆け抜け、その勢いのままドアを開けた恭子は開口一番にこう叫んだ。


「会長の好感度が足りなーいっ!!!」


 “どうしよ~”と意味もなくアワアワと手を動かしている自分の相棒(パートナー)を見ながら、恋愛指南係(サポートキャラ)であるミオは小さな笑みを漏らす。尤も、その笑みは可愛らしい黒猫の姿に似合わない悪辣なものであったが。


「どうしたんだニャ、恭子ちゃん。会長の好感度は今朝までと一緒でハートは二つなのニャ」


 攻略対象の一人である武藤怜(むとうれん)の好感度を確認し、慌てふためいているらしい恭子にミオは小首を傾げて見せる。……正直、ミオ自身もこのあざとい仕草はともかく、“胡散臭い猫語”はどうかと思うのだが、服務規程なので仕方がない。しゃべり方一つで指名率が上がるならプライドなんて捨てる。ミオはそういうサポートキャラだった。


「違うんだよ、ミオ!! ハート二つじゃ、全然ラブイベントが起こらないの!! ……今日だって廊下ですれ違ったときに“よう”って声掛けられただけなんだよ。いや、声掛けてもらえるのは嬉しいけど。そこはやっぱり、ちょっとは会話したいっていうか」


 落ち込んでいるのか、部屋の床に“の”の字を書き出した恭子は、その武藤(かいちょう)にほんの三日前まで存在を認識すらされていなかった事実をキレイに忘れてしまっている。


「……他の二人はどうだったのニャ? 日野(ひの)くんには差し入れ渡せたのかニャ?」


 慰めるのが面倒臭くてしょうがないミオは、とりあえず話を変えることにした。単純な恭子にはこの方法は意外と使えるのだ。

 案の定、先程までの落ち込みっぷりをどこやったのか、彼女は打って変わった嬉しげな様子で今日の報告をしてくれる。


「あのねあのね、日野くんにはちゃんとタオルとレモンの蜂蜜漬け差し入れできたよ! “こういうの貰ってみたかった”てメチャクチャ喜んでくれた!!」


 当然だ。なんたって、このミオが直々にリサーチしたのだから。サポートキャラの情報収集能力を侮ってもらっては困る。……しかし、今時そんなベタな差し入れを欲しがる男って、どうなのだろう。


「それは良かったニャ。日野くんの好感度はもうハート五つにニャってるし、このまま日野くんルートに入るかニャ?」

「あっ、えー……確か、逆ハーはできないんだったよね?」


 不安そうに聞いてくるあたり、まだどの攻略対象を恋人にするか決めかねているらしい。


「その場合は逆ハーというか、普通に二股になるニャ」


 あるいは三股。

 しかも、相手にバレると確実に破局するという愁嘆場もセットで付いてくる。まあ、誰も恋人にしないのであればお友達エンドという、ある意味平和な関係もある訳だが。


「ふ、二股!? そんなのダメだよ!!」

「じゃあ、なるべく早く誰を恋人にするか決めるのニャ。とりあえず、日野くんはもう好感度上げちゃダメニャ」

「ううっ、私の癒しなのに~」


 爽やか系な日野彰太郎(しょうたろう)はともかく、俺様生徒会長な武藤怜も、攻略対象の最後の一人である黒木零乃(くろきれいの)も癖のある人物というか、あまりコミュ力が高い方ではないため、そうそう甘々な展開にはならないのだ。……普通の男子高校生に、乙女の期待は重過ぎる。


「う~、でもでも、会長と黒木くんってなかなか好感度上がらないし……」 


 ちなみに、現在の各攻略対象の好感度はこうなっている。

 

 武藤 ♥♥♡♡♡♡♡♡♡♡

 日野 ♥♥♥♥♥♡♡♡♡♡

 黒木 ♥♥♥♡♡♡♡♡♡♡


 ハートが六つになると個別ルートに入るため、他の二人の情報や恋愛指南は受けられなくなってしまう。しかも、個別ルートに入ったのに他の男に意識を向けているとあっと言う間にバッドエンドだ。恋愛において何よりも重要なのは相手への愛情、つまりマメさである。

 大人気恋愛アプリ“本気の恋がしたいっ!”は、無駄にどこまでもリアルな恋愛を目指していた。


 ――――そう、リアル(・・・)な恋愛である。


 先程から恭子が当たり前のように“声を掛けてもらった”“差し入れを渡せた”と話しているのは、何もスマホの画面越しの出来事ではないのだ。

 文武両道な俺様系生徒会長の武藤怜も、サッカー部エースで爽やか系イケメンな日野彰太郎も、儚げ系黒髪眼鏡美人で隠れ(?)ツンデレな黒木零乃も、みんな現実に存在している。

 つまり、このゲームはアプリをダウンロードすることにより、現実(リアル)で乙女ゲーのシステムを使用できるようになるという超画期的なゲームなのであった。


「とりあえず、他の二人の好感度をハート五つまで上げてから、どの攻略対象を恋人にするか決めれば良いニャ」


 “うー、うー”と唸りながらベッドの上をゴロゴロと器用に転がる恭子に、ミオはそうアドバイスする。……ギリギリまで全員キープしておけ、と。


「あっ、そっか! そうだよね。何も今すぐ決めなくても良いんだよね」

「そうなのニャ。まだまだ時間はあるから大丈夫なのニャ!」

「よーしっ! そうと決まれば……会長と黒木くんの攻略必勝法を教えてください!!」


 ガバッと床にジャンピング土下座する恭子。

 ミオはそんな彼女をニンマリと見つめながら、猫撫で声でこう言った。


「特殊アイテムを手に入れるのニャ」

 

 特殊アイテム。

 それは、ゲーム内で一定条件を満たした場合にのみ手に入れることのできる便利アイテムである。この場合の“一定条件”とは――――課金だ。


「えーっ、お金が掛かるの!? 無料アプリなのに!?」

「基本は無料ニャ。ただ、より有利に恋愛を進めようと思うならアイテムの取得は必要不可欠。……第一、愛とはお金が掛かるもの!」


 恋愛指南係としてはかなり夢のないことを語るミオは、商品を売ろうとする訪問販売員のような熱い思いが溢れてしまい、うっかり“猫語”を忘れ素でしゃべっていることに気づいていない。……まあ、ミオの給金は指名料+いくつ商品(アイテム)を売ったかという歩合制なので、それも仕方がないのかもしれないが。


「……アイテムって、どんなの?」

「今の恭子ちゃんに必要なアイテムは、これニャ! “彼の胃袋鷲掴み☆~誰でも簡単お弁当レシピ~”……なんと税込五百円!!」

「スゴイ……って、ただの料理本じゃん!!」


 意外なアイテムに思わずノリツッコミを返してしまった恭子に、ミオはチッチッと指を振って見せる。


「そんなことないニャ! 黒木くんは家がお金持ちだから家庭的ニャ料理に憧れてるし、会長だって愛情の詰まった贈り物には弱いんだニャ」

「えー、でも料理本ならたぶんウチにもあるし」

「……マトモに料理したこともない女子高生が、主婦が見るような料理本を見て美味しいお弁当が作れると思ってるのかニャ?」

「うっ」

「しかも、このお弁当レシピは税込五百円ニャ。こういう料理本は普通に買ったら二~三千円はするはずニャ」

「うう……っ」


 ミオの的確な口撃の前では、五百円玉を差し出す以外の選択肢はなかった。

 恭子から五百円を巻き上げ……受け取ったミオはホクホク顔でそのお金を首から下げていたがま口財布へと仕舞う。


「毎度ありがとうございました、だニャ。これからもドンドン課金……じゃニャくて、特殊アイテムを使って攻略対象達を落としていくのニャ!」

「う、うん」

「アイテムには今回の料理本だけじゃニャくて、コスメやファションアイテムもたくさんあるんだニャ。そう、恋で自分を磨くのニャ!」

「うん!」


 と、ノセられやすい恭子はミオの言葉に元気いっぱいに頷くのだった。


 ――――しかし、彼女は知らない。


 このゲームのハッピーエンドの条件が“両想い”になることであると。……そして、“恋人編”である第二章は完全有料アプリであることを。




 流行りの乙女ゲーものを書こうと思ったらこんなのができました。……一体、どこで間違ったんだろう。

 ちなみに、主人公達の名前は白泉社の某人気少女漫画から(勝手に)お借りしました。



《簡易登場人物紹介》


高瀬恭子(たかせきょうこ)

 ノリが良く、ノセられやすい、というか騙されやすい素直な子。


・ミオ

 アプリのサポートキャラ(黒猫)。完全無欠の萌ボイスの持ち主。


日野彰太郎(ひのしょうたろう)

 爽やか系イケメン。サッカー部エース。ベタなシチュに弱い。二年。


武藤怜(むとうれん)

 俺様系美青年。文武両道な生徒会長。家が貧乏なのは秘密。贈り物と誠実な優しさが効果的。三年。


黒木零乃(くろきれいの)

 儚げ系黒髪眼鏡美人。隠れ(?)ツンデレ。家はお金持ち。家庭的で明るい子が好み。二年。

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