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従順な彼女に突然別れを告げた結果  作者: 荒三水


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23/69

六日目 朝 学校

翌朝になっても、沈んだ気分が晴れることはなかった。

 昨晩はなかなか寝付けず、寝不足で重い頭のまま、体を引きずるように俺は教室までやってきた。

 

 誰ともろくに挨拶もせず目もあわせず、足早に自分の席へ。

 座るなり、すぐに机に顔を伏せた。

 

 いきなりこんな調子ならば、周りもヤバイと察して、誰も寄り付かないだろう。

 だがこの場合、それはむしろ好都合……というかそれが狙いだ。今は誰とも話す気分じゃない。

 

 本当に、最悪……最低だ。

 高山さんは、上がり際も俺のことを気にしてくれていた。

 

 だが俺は、何事もなかった体を装って、逃げ帰ってきた。

 もう一度きちんと、謝罪すべきだったのに。理由を、全て、話して……。

 


 ……バカか俺は?

 理由があれば、あんな言動が許されると思ってるのか?

 そもそもまっとうな理由なんてない。高山さんには全く何も……なんの関係のないことだ。


 不意に頭をかきむしりたくなる衝動を、なんとか抑える。

 こうして伏せって目を閉じていたって、気が休まることはない。それどころか、逆に色々考えてしまう。

 これじゃダメだ、こんなんじゃ……。


 俺は頭の中のもやもやを振り切るように、むくりと顔を持ち上げた。教室内は相変らず朝から騒がしい。

 だが集まって騒いでいるのはいつものメンツで、一人で黙々と携帯をいじるなり読書するなり勉強をする奴らと完全に二極化している。


 グループの中心で何事か話していた秀治が、俺に気づいてアイコンタクトをしてきたので、軽く手を上げて最低限答える。

 本当はそういう気を遣うのすら、しんどいのだが……。

 そういえば純花は……まだ来ていないようだ。珍しく遅い。

 多少遅れようがどうでもいいことではあるが、もはやアイツのことを考えるだけでさらに肩の荷が重くなる。

 

 俺が半ば無意識に大きくため息を吐くと、近くからかすかに視線を感じた。

 すぐにその元を辿ると、その視線の主は、隣のメガネマスク女だった。

 昨日の朝は俺が挨拶しても完全無視だったくせに、どういうつもりかちらちらこちらを見てくる。

 

「んだよ」


 それがどうもムカついたので、ぶっきらぼうに睨み返してやる。

 すると北野はすぐにぷいっとそっぽを向いて、スマホに視線を落とした。

 そのしぐさがまたイラっときたので、よっぽど怒鳴りつけてやろうかと思ったが、こんな存在感皆無な奴にキレたところでどうしようもない。

 相手にするだけまさに時間の無駄。どうせ何か言ってくるわけでもない。もう俺の隣の席には、誰もいないと思ったほうがいい。

 

 俺が徹底無視を決め込んだ矢先、すっと横から手が伸びてきて、机の上に紙切れが差し出された。

 反射的に紙に書かれた文字列に目を落とす。


『朝っぱらからあー俺欝だわーだるいわーみたいな感じ出すの、ウザイんでやめてくれます?』

 

「なんだと……」


 と俺がぐるっと窓際の方へ首を回すより少し早く、隣でガタっと席を立つ音がした。

 そして北野は俺が呼び止める隙も与えず、逃げるようにとことこと小走りで教室を出て行く。

 俺はあっけに取られたまま一度その後姿を見送るが、やがて手元の紙切れをぐしゃっと丸めると、自分でもよくわからないままに立ち上がってその後を追った。


 



 

 女子トイレに駆け込もうとする北野をふん捕まえて、いつもの廊下へ連れて行く。

 北野は最初チカンだなんだと抵抗していたが、やがて観念したようにぶつぶつとつぶやき出した。


「まったく、沸点の低い……、ほんと、これだからDQNは……で、なんなんですか今日は」

「なんなんですか、じゃねえよ、お前が先にケンカ売ってきたんだろうが」

「それは、そもそも原因はそっちじゃないですか。朝から一人ではぁはぁため息ついちゃって、もう典型的な構ってちゃんですよね」


 北野はやれやれ、とおおげさに身振りをしてみせる。

 こいつ、いっそ頭一回どついてやろうか。

 でもここで手を出したらまた「あ~すぐ手が先に出るDQN~」とか始まるに違いない。絶対。

 

「いや、つうかな、まさかお前に、欝アピールうざいんですけど、なんて言われる日が来るとは思わなかったから」

「はあ? それはどういう意味ですか」

「だからお前のファッション欝が毎度うぜえって言ってんだよ」

「はああ? 自分のことを棚に上げて何を言いやがりますか?」


 相変らず容赦ない。完全に舐められている気がする。

 だが俺がコイツの陰気臭いのをウザイと思うのと、北野が不機嫌に欝オーラを発している俺をウザイと思うのは似たようなものか。


「……まあいいや、さっきの俺がウザかったかもしれないっていうのは認めてやるよ。だけどお前のその意味不明な欝キャラと一緒にされるのは心外なんだよ」

「あ~そう来ますか、それはつまりアレですか、俺の欝度をお前ごときと一緒にすんじゃね―よってことですか。わかりました。そうまで言うなら、私の欝エピソードを話してあげましょう」


 北野はふん、と得意げに鼻を鳴らすと、聞いてもいないのに語り出した。

 

「あれは忘れもしない冬の寒い日……。私が学校から帰ろうとしたら、自転車のかごの中には空き缶が……」

「またストローが刺してあったとか言うんじゃないだろうな。カゴにゴミ突っ込まれてたとかなら、俺だってあるから」

「それだけじゃありません。なんとその翌日、私のカバンの中に空き缶が押し込まれてました……」

「ふぅん、それを誰かにやられたってわけ?」

「まあそれは私が帰りに買って飲んだやつなんですが……」

「あっそ、もういいわその話」


 どう着地させる気か知らんが、この時点でもう聞く価値がない。

 ていうか意味がわからん。


「とにかく私は空き缶のポイ捨てとか、できない人間なんです!」

「だからなんだよ、大体できないほうがいいからな」

「はー、もういっそDQNになりたい……。楽でしょうねーあんな風に頭空っぽになれたら。なので私をDQNにしてください。代わりにあなたをいじめられっ子にしてあげます」

「俺にメリットねえからそれ」

「なんかそんな感じの名前のラノベありましたよね」

「いや知らねえから」


 どんな話だよ。

 逆に読んでみたいわ。


「へー、でもお前、一応そういう風になりたいとは思ってるわけ? だったら手伝ってやるよ、まずはそのメガネマスクを外して……」

「あっ、いや、ちゃう、違います! 今のは冗談です、冗談に決まってるじゃないですか」

「冗談に決まってるってなんだよ。お前本当にそれ、そのままでいいと思ってるのか? 

「そ、それぐらいわかってますよ私だって。好きな人と二人組み作ってー、がきたらヤバイってことぐらいは」


 本当にわかってんのかこいつ……。

 だが最初は孤立しようが知ったこっちゃない、ぐらいのノリだったはずが、このままはさすがに無理と本人も自覚し始めたのだろう。

 それでももう遅えけどな。


「私にだってあるんですよ、タイミングとかそういうのが。まあ、あなたみたいなイケイケな陽キャラに、私の繊細な感覚はわからないでしょうけど」

「イケイケとか、別にそんなんじゃねーよ。俺は……」

「なんですか?」

「ただのクズ野郎だから」

「ですよね、知ってます」


 間髪入れず返されて、俺は思わずふっと吹き出してしまった。

 これだけ気持ちよく言われると、腹が立つどころか笑えてくる。

 だけど決して嫌な感じではなくて……今はそれが、妙に心地よかった。

 

 もしこれが純花だったら――。

 あいつはきっと、そんなことない、と必死に否定するだろう。

 違う違うとしつこく繰り返して、しきりに俺のことを褒めそやしてくるに違いない。

 だけど純花が、どれだけ優しい言葉をつくして、どんな言葉で俺を褒めたとしても……。

 俺が今のような気持ちはなることは、なかったと思う。

 

 その時、登校時間終了を告げるチャイムが鳴った。


「あっ、ヤバイ!」


 すると北野は、俺のことなどすっかり忘れたかのように、廊下を駆け出した。

 そしてそのまま女子トイレに突っ込んでいく。


 俺はトイレのドアが閉まるのを見届けると、踵を返して、教室へ戻るベく歩き出す。

 重かったはずのその足取りは、不思議と軽くなっていた。

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