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従順な彼女に突然別れを告げた結果  作者: 荒三水


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五日目 昼休み 廊下 純花

 秀治が去ってから、俺も後を追うようにして空き教室を出る。

 そして自分の教室に戻る途中で、非常に運の悪いことに、今会いたくない奴のツートップと遭遇した。


「あー早坂だ。どしたんこんなとこで?」


 廊下の曲がり角で鉢合わせしたのは、橋本と、同じクラスの女子、それと純花の三人。

 飲み物を買いに出た帰りなのか、それぞれ手には紙パックの飲み物を手にしている。


 会話の内容も内容なので、俺はさっきまで秀治といたことを話したくなかった。

 適当に嘘をついてごまかす。


「便所だよ便所」

「ウッソだー、なんでこんな遠くまで~。あ、さては大のほうかな? 小学生みたいなことしやんのー」


 キャハハ、とバカっぽい笑い声を上げる橋本と、つられてくすくすと笑う女子。

 まともに相手をするのもバカらしいので、俺はわざとらしくため息をついて、さっさとすれ違おうとする。


「ほい」


 だがその時、橋本がいきなり純花の背中を押して、俺の前に立ちふさがらせた。

 

「わ、ちょっと由希……」

「じゃね~、ごゆっくり」


 そしてなにやら意味ありげな目配せをして、そのまま純花を残しもう一人の女子とともに去って行く。

 残された俺たちの間には、気まずい沈黙が流れる。だが純花はそれをごまかすように、いつもどおりを装って口を開いた。


「あはは……もう、困っちゃうよね由希ったら」

「いいのか? 行かなくて」

「えっ? ……う、うん」

 

 いつにもまして純花の様子は不自然だった。

 口ではそう言いながらもまっすぐこちらを見ようとはせず、視線もふらふらとどこかおぼつかない。

 それでも残ろうとするのが不思議だ。俺としてはさっさと橋本たちの後を追って、いなくなってくれたほうが楽なのだが。


「……あたし、ともくんに話があるから」

 

 やっと目を合わせたと思ったら、急にそんな事を言いだした。思わず目を見張る。

 また適当にお茶を濁して、当たり障りのない会話に終始するだけだと思っていただけに。


 俺は純花に促されて通路を移動し、暗い空き教室の前までやってくる。

 行き止まりで純花は、辺りに人気がないのを確認すると、何か決心をするようにぐっと手を握りしめる。

 そしてうつむきがちだった顔を上げて、俺の目を見詰めてきた。


「あの、昨日って、ともくん、バイトだったんだよね?」

「……ん? ああ、それが?」

「……そ」

「は?」


 小さくつぶやいた純花の声が聞き取りづらかったので、耳を近づけるようにして聞き返す。

 少しだけ間があった後、純花は俺に向かってはっきりと口にした。

 

「嘘だよね?」


 うってかわって鋭い口調に、どきりとする。

 嘘と言われたことよりも、その別人のような声の調子が、俺を驚かせた。

 

「由希が昨日、ともくんが駅で、北野さんと一緒にいるの見たって、言ってたよ?」


 ……そうか。そういえば、橋本に口止めはしてなかったな。

 俺は橋本に、昨日北野と一緒にいた理由を、それなりに筋が通るよう説明したつもりだ。それでその話は終わったと思っていた。

 

 普通なら……仮にも純花の親友を自称するなら、それをわざわざ純花に話すようなことはしないだろう。

 するとしても純花のことを思えば、しっかりその理由まで話すのが当然だ。

 だが純花の口ぶりからすると、橋本は「俺と北野が一緒にいるのを見た」ということしか話していないに違いない。

 

 そういう奴だ。

 あの女がクズだということはわかりきっていること。

 しっかり口止めしておかなかった俺に、落ち度がある。


 それにしても面倒だな……。

 昨日橋本にしたのと同じ、若干ウソ混じりの説明をまたしなければならなくなるとは。

 

「それは、俺が北野のイヤホンを壊して、それを弁償させられて……」

「嘘! 最初バイトだって言ったじゃん! なんでそういう嘘つくの? あたしわかってるよ、本当はともくん、北野さんと前から知り合いだったんでしょ!? 夏休みに偶然、引っ越してきて会って……それで……」

「待て待て、落ち着けって。そんなわけないだろ」

「もういい、全部わかってるんだから!」


 一体何がわかってるって言うんだか。

 ここまで荒唐無稽だと、呆れるのを通り越して怒りがこみ上げてくる。

 俺は小刻みに体を震わせる純花に向かって、冷めた口調で言い放った。


「お前のくだらねえ妄想話に付き合う気ないから。じゃあ、もし本当にそうだったとして、何が悪い?」

「悪いよ! やっぱりともくんって嘘つきだよね。嘘ばっかり。あたしにバレてないって、思ってるのかもしれないけど、嘘つく時、すぐわかるから」

「それで? 俺がいつ、どんな嘘ついたって? 具体的に言ってみて?」

「そ、それはっ! 昨日のこととか……」

「じゃあそれ、お前自分の目で見たの? 橋本が嘘をついている可能性は?」

「ゆ、由希は、そんなことっ……」


 純花が言葉に詰まる。その可能性は十分ありえる、と思ってしまったのだろう。

「ごめ~ん、見間違いだった」とかいうのを、平気でやってもおかしくないのが橋本だ。

 まあ今回に限っては本当なんだが。


「つうか、それだけ人を嘘つき呼ばわりするぐらいだから、自分は絶対に嘘つかないんだろうな~、すげえな~」

「ち、ちがうっ、そういうわけじゃなくて!」

「聖人君子様と俺じゃ、やっぱ到底つり合わないよな」


 純花がここまで声を荒げたのは初めてかもしれない。

 だが、結末はいつもどおりだ。

 最後は結局……。


「ごめんなさい……」


 純花が謝って終わる。

 別にもう……謝る必要なんて、ないのに。

 頭を下げる純花に、俺はこれといって言葉をかけることもなく、無言で踵を返してその場を去った。

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