せっけん
最初に会った時から、ずっと、君はそうだった。
何にしたって、世界の汚れはもう。
自分が引き受けるんだって、そんな顔して。
きみは、もう、自分の居場所はここだって顔をして、そこに居たんだ。
それなのに、君の体ったら。
初めて会った時から、苦しそうに。
もう、弓なりにのけ反って。
そんなに、グイって曲がらなくたってさ、大丈夫だよって。
言った言葉も聞こえないふり、したんだ。
時折、君は。
僕の知らないところで、涙を流していた。
僕はそれに、気付いていたよ?
君を見た時、君の下が、涙で濡れていたことがあったから。
のけぞった体の上に、満々と涙をたたえているのだって。
たまに、そういうことがあることを。
内緒だけど、僕はみたことがある。
涙をたたえて。
それを、こぼさないようにして。
我慢して、我慢して。
それこそ、涙の縁に、泡を立てて、どうにか持ちこたえている。
そんな君を見ているのに。
その涙を、流させてあげることを、僕はしなかった。
久しぶりに、君を見た時。
もう、君は、小さく、小さく、しぼんでしまって。
もう、その体は、薄く、薄く、削れてしまって。
それでも、弓なりに、反っている所だけは、相変わらずだった。
手を伸ばして、何とかつかみ取ろうとしたけれど。
そんなことは、できないよって顔をして。
君は、排水溝の先へ。
どうして、逃げてしまったんだい?
穴を覗き込んで。
不謹慎だと思いながら、僕はそう叫んだ。
ねぇ、掴んだものが、するするって逃げていく時にはさ。
するするって行くのは、どんな気持ちでするするしている?
ごめんね、小さくなるまで、ごしごしして。