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欠陥神話  作者: 澪標ぜろ
7/10

咎の鎖

------------------××××さん……!××××さん!?どこですか………!?貴方様の元に私めがやってまいりました!姿をお見せ下さい××××さん………!…………………………………………………………………ああ、やっと見つけた。…………あれ、××××さん、隣の女は一体誰???……あはは、おかしいな、××××さんの隣に私以外の女が居ていいはずがないのに。××××さんは、私に永遠を誓ってくれた。私は××××さんを信じる。××××さんは悪くない。そう、悪いのは××××さんを誑かしたあの女。………うふふ、そうよね、××××さんが私を裏切るわけないもんね。ああ、私はなんて愚かなことを思ったのだろう。一瞬とはいえ、××××さんを疑ってしまった。あはははは、××××さんを信じられなかったこんな私なんか、○○○○○○○いいのに………




--------------------------------------------------------------------------------

--------------------

----------

-----


………またこのパターンかい。


傲慢の部屋で意思を失った私は、目が覚めたら見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。目が覚めたら見知らぬ部屋にいる、という普通に生活していればそうそう体験することは無いだろうという事態に既視感を覚えている自分自身にげんなりしながら、部屋全体を見回す。6〜8畳ほどの木造の部屋だ。小さい窓が1つあり、イメージとしては屋根裏部屋の寝室、といったところか。普通である。最初のときのように気狂いじみた部屋でなくてよかった。私は安堵する。その良くも悪くも普通な部屋の隅に置かれた、特に固くもなければ柔らかくもない布団がしいてあるベッドの上に、私は寝転がされていた。周囲には誰もいない。……誰が私をここまで運んだのだろう。

と、割とどうでもいい疑問が浮かぶ。


……それにしても。

「あの夢はなんだったのだろう…」


私はベッドに腰掛けて考察を始める。ただの夢、と思ってしまえばそれまでだが、ただの夢と片付けてしまうのは私の直感的にいけない気がした。夢にしてはやけに鮮明で、そしてなにより歪だった。

夢の中での私は何もない暗闇をただただ走っていた。……いや、さまよっていた、か…?まるでなにかを探すように。実際にはなにか、ででは無く、誰か、だったが。名前を呼びながら走っていたが、その名前がどうしても思い出せない。そして暫く闇の中を走った後、夢の中の私は遂に目的の人物を見つける。……ただし、その隣には見知らぬ女がいたが。女を見た瞬間に夢の中の私に沸き起こる、鮮烈な《嫉妬》の情動。そして、………………………


----------コンコン、


突然の部屋のドアのノックの音で私の思考回路は停止した。誰だろうか。前回ドアの向こうから現れたのは四五と九十だった。今回もその二人だろうか。


「どうぞ、入ってくれ。」


私はドアの向こうの人物に部屋に入るように促す。


「はい。失礼します、雨織様。」


そして聞こえるテノール音域の声。………………え、テノール???


聞きなれない声に少し警戒しながら開かれるドアを見ていると、

「……………あ、あの時の…」


そこに現れたのは私を連れ去った金髪イケメンだった。


「やあ、屋上では世話になったね、金髪君。」


突然の金髪イケメン君の来訪。とりあえず軽い嫌味を言ってみる。拉致も同然なやり方でこの世界に連れてこられたのだ。嫌味くらい言う権利は私にはあるだろう。

…さあイケメン君はどう言い返してくるかな…


「その節は申し訳ありませんでした。雨織様の御身に影響がないよう、加減はしたのですが…………」


盛大に嫌味を言った筈なのにイケメン君は嫌な顔1つせず、むしろ罪悪感に染まった顔で素直に謝られた。……なんだ、すごく拍子抜けだ。


「…はあ、もういいよ。いい加減顔をあげてはどうだい。」

「……では失礼致します。」


なんだか私が悪いような気がした。なので未だに下げている頭を上げさせる。くそう、ちゃんとした姿勢をすると結構身長あるぞこの金髪……!私だって小さいほうではない。身長は165cmくらいはあるはずだ。


「随分と身長があるようだが、何センチくらいあるんだい?」

「そうですね……人間の長さの単位に換算すると……192cmでしょうか。」

「192………」


私の予想以上だった。180後半くらいかなと思っていたのに…!日本人ではそうそう聞かない身長だ。


「そういえば雨織様、いつ頃お目覚めになられたのですか?」


金髪イケメン君が話題を変える。

いつ頃、か。

「ついさっきだよ。目が覚めて、少し考え事をしていたら君がここへ来た。」

「考え事、ですか?」

「うん。でも君が気にするような事ではないよ。多分ね。」

「はあ……」


イケメン君は納得したような、してないような返事をする。


「……ここは、君の部屋かい?」

「ご名答でございます雨織様。よくわかりましたね、お察しの通り私の部屋です。」

「やはりか………」

「…失礼ながら、どうしてここが私の部屋だとお分かりで?私がこの部屋にたまたま来た、という可能性も有りうるでしょう。」


イケメン君の探るような視線が私に向けられる。

………そうだね、

「確かな確証は無いよ。ただ、」

「…ただ?」

「『なんとなく』そんな気がしたのさ。この部屋の主の検討をつけたのは君がこの部屋にきてからだしね。」

「私が、きてから……?」

イケメン君が首を傾げる。

「そう。君がこの部屋にきてから。この部屋の雰囲気と君が重なって見えたのさ。」

「………………………………」


最初に聞こえたテノールの声。非常にこの部屋にしっくりくる声だった。そしてイケメン君が部屋に入ってきた瞬間、イケメン君がこの部屋に初めからいたような錯覚を覚えた。……あの錯覚は一体……?


「……………やはり、雨織様は………なのか……?」


私の脳内に新たな疑問符が浮かんでいると、目の前にいるイケメン君がなにやら意味深なことを言っている。私がどうかしたのか。


「私がなんなのかい?」

「………!!!あ、いえ、こちらの事情です。雨織様はお気になさらず。」

どうやら無意識に口に出ていたらしい。焦るようなイケメン君の返事。ま、いっか。

「ふーん……そういえば、………あ、名前の聞いていなかったね。名前を聞いてもいいかい?」


イケメン君の名前を知らなかったことに今更ながら気づく。本人に向かってイケメン君と言うわけにもいかないしね。四五と九十の時といい、よく名前を聞くのを忘れるな、私は。


イケメン君は「そういえばそうですね。」と苦笑混じりに言い、それから少し躊躇うような顔つきになった。


「あの、私の名前、笑わないでくださいね……」

え?名前で笑う??

「ん?どうして名前で笑う必要があるんだい?私は人の名前で笑うような人間ではないぞ。」

相当おかしな名前なのだろうか。山田太郎的な。まあ、どんな名前でも別にどうでもいいが。


私の言葉を信用したのかしてないのか定かではないが、イケメン君から絞り出すような声が聞こえた。

「………私の名前は、《マリア》です。」

「《マリア》……」


《マリア》。なるほど、笑わないでくださいとはそういうことか。確かに普通は男性につける名前ではない。だが、笑うほどではないだろうか……?


「ふむ、マリアさんか、よろしく頼むよ。」

「私の名前、笑わないのですか…!?」

「なんだ、笑って欲しかったのかい?」


心底意外そうな顔をするマリアに軽い冗談を言う。するとマリアは「いえ、そんなわけでは!!」と全力で否定してきた。どうやらマリアはなんだかんだでいじりがいがある人物のようだ。


「確かに男性しては些か一般的な名前ではないかもしれない。」

「……ですよね……」

落胆で肩を落とすマリア。

「でも、」

そんなマリアに私は言う。

「多少おかしな名前だから、なんだ。そんなことでいらないコンプレックスを持つんじゃないよ。名前なんてただの記号だ。名前に囚われてばかりだと何も始まらないぞ?」

「…………っ……!」

すう……っと、マリアの頬を伝う、一粒の涙。…………え、涙!?そんな傷つけるようなことを言ったか私は!?

「なんでそこでなくんだい!?私の言葉如き、泣く価値なんぞ微塵もないだろう!」


ゴミに等しい私の言葉なんぞ、聞き流してもらっても構わないくらいだ。

私はとりあえずマリアにハンカチを手渡……そうとポケットに手を入れようとして、やめた。そういえば私のハンカチは血まみれだ。いくらなんでも血まみれのハンカチで顔を拭きたくはないだろう。

マリアを見るとすでに自分のポケットから白のハンカチをだし、涙を拭いていた。そして拭き終わるとまた丁寧にハンカチをポケットに戻し、私に向かって頭を下げる。


「お見苦しいところをお見せしてしまったことをお許しください雨織様……」

「見苦しくはないさ。泣きたい時は泣けばいい。」

「ありがとうございます…」

「……笑われなかっただけでその涙。少し大袈裟だね。他にも訳があるのかい?」


涙の訳を少し深くまで聞いてみる。

「………それを話すには、少しお時間をいただかなければいけないのですが…」

「構わないよ、それくらい。…あ、それなら君も立って話そうとしないで座って話せばいいじゃないか。イスはあるのだし。」


どうやら長話になるらしい。そうなると私だけ座っているのは忍びない。私は部屋の一角にある木製のイスに腰掛けるよう勧めた。


「ありがとうございます。……ではお言葉に甘えて失礼します。」


マリアは素直に椅子に腰掛けると、話を始めた。


「雨織様は"傲慢"様からこの世界の序列についてお聞きになられましたか?」

序列……えーっと……

「序列上位から、悪魔、神、天使、人間の順になっている、という話かい?」

私のないに等しい記憶力をフル回転させて思い出す。

「正解でございます」とマリアが言う。よかった、合っていたみたいだ。

「私は、その序列第三位、《天使》に属しています。」

「天使…」

前から天使の羽根のようだ、とは思っていたが本当に天使だったとは。……ん?

「ここは悪魔が住む空間なのだろう、天使の君がどうしてここにいるんだい?世界間の移動は自由なのかい?」

素朴な疑問が浮上する。本当に自由だとしたら随分と緩い世界だな。悪魔の空間に天使。少しシュールだ。

そんな私の問にマリアが答える。

「いえ、序列が下の者は上の序列の世界へは許可なしには行ってはいけません。」

やはり、か……いくらなんでも通行自由はゆるすぎるか。

そしてマリアの答えは暗に「序列上位の者は序列下位の空間に行ってもよい」ということも示していた。

しかし、それならばなぜ序列下位のマリアが上位の悪魔の空間にいることが許されているのだろう。


「私がこの世界にいることが許されている…いや、居させられている理由は、私の家の歴史にあります。」

マリアの家の歴史……?なにがあったのだろう。


「雨織様が住んでいらっしゃった人間界の書物に神について書かれているものはございますか?」

「…神……?そうだね、代表的なものはキリスト教、仏教、ヒンドゥー教、イスラム教などの神話かな。」

世界の代表的な宗教を例にあげる。

因みに私はオリンポスの神々の話が好きだ。どうでもいいことだが。


「キリスト、教……そのキリスト教、申し訳ありませんが説明願えますか?」

「キリスト教ね……」

私は知識を頭からひっぱりだす。

「ええ、っと……確かキリストが一度処刑されてまた復活したから崇められたんだっけ……?」

……だめだ。キリスト教に関する知識が全くないことに今気づいた。私は更に頭を絞り、キリスト教に関する知識を思い出す。

「………で、確かキリスト教を産んだ母親の名前が聖母マリ……ア…で……」


………マリア………?


「……滑稽ですね。この全世界の歴史上、最悪の咎人が、"聖母"、ですか……」


口先では滑稽と言っておきながら、顔は怒りの色を浮かばせてマリアが呟く。


………聖母マリアが咎人……?どういうことだろう。そして目の前にいる者の名前……


「聖母マリアと、君、どういう関係なのだい?」

先ほどの発言といい、聖母マリアと目の前にいるマリア、無関係とは言えないだろう。


「……聖母マリア…彼女は私の直系の先祖でございます 。」

「ふうん…ってことは彼女も天使だったのかい?」

「ええ。人間界で伝えられている歴史は間違えでございます。実際には聖母マリアは神・キリストを産んではおらず、ただのキリストの乳母兼使用人でございます。」


………………………はい?


乳母。まさかの真実に返す言葉が見つからなかった。どう転んだら乳母から聖母になったのだろう。人間の歴史のいい加減さに驚きを隠せない。

「その乳母がなんで咎人に?」


ただの乳母。そこから咎人、という重いワードに繋がらない。


「…………大変申し訳ありません、これ以上は私の独断では話すことができないので……」


私の問にマリアは答えてくれなかった。禁則事項になるほどの重い罪なのか……


「ふむ…わかった。なら仕方ないね。まあ、君の先祖のマリアさんがなにかをやらかした、とだけ記憶しておくよ。それでいいかい?」

無理に言わせることもないだろう。兎に角話を次に進めたい。


「十分でございます。……で、雨織様がおっしゃっていた風に言いますと《やらかした》ことで、"大罪の七魔"の皆様の怒りを受けまして、罰として今後産まれる一族の第一子を悪魔に捧げる、ということになり、名前は罪を忘れないように、と代々マリアになっております。」

「なるほど………」

だから男なのに《マリア》、か……

先ほどの涙の訳もわかった。


「………捧げるということは一生このままこの世界に居続ける、といことかい?」

この世界に自由もなく飼い殺し。しかもそれが生まれたときから決まっている運命。

私なら耐えられない。


「はい、基本的にはそうですね。」

そんな私の問に、なんでもない、とでも言いたそうな顔でマリアは答える 。


「………君は、それでいいのかい?」


なんでもない、と言いたそうな顔に仮面じみたものを感じた。

「……なにをおっしゃりたいのですか……?」

怪訝な顔をするマリアに私は深く追求してみる。


「生まれながらの運命、永遠に着せられる《咎人》の濡れ衣。これからも続く終わりない奴隷生活。」

「…………………」

「君は、その境遇に満足してしまっているのかい?」

「…………っ……!」


瞬間、剥がれ落ちるマリアの仮面。先ほどの涼しげな顔とは一変、核心をつかれたような表情になる。

「……ほらね、君は今の境遇に不満を持っている。だったらなぜ抗おうとしない?」

私は更にマリアに詰め寄る。

「どうして、自分の力でその首輪をちぎろうとしない。どうしていつまでも大人しくて従順な犬に成り下がっているんだい?」

「…………………」


マリアは椅子に寄りかかって項垂れたまま、顔をあげない。


「………なにか言ったらどうだい?」

「……………私だって…」


微かに聞こえるマリアの声。

「私だって、こんな状況

、望んでいるわけではないのです!!!!!」


ガタガタガタッっと音を立て、椅子を蹴飛ばしながら立ち上がり叫ぶマリア。その顔には悲痛な面持ちが。


「私だって、囚われた生活より、自由がいい。こんな生活抜け出せるならさっさと抜け出したい!!!」

敬語が崩れていることにも気付かず、叫ぶ。心からの本心を。

「…………でも、…私は所詮マリアなのです…………」

先ほどの勢いは何処へやら。敬語も戻り、力なく呟く。


「マリアはマリア。いいのです。飼われた犬のままで………」

「…………………」


そう、力なく笑うマリアを私は無言で見つめる。…………そして、


「そうか。ならそのままでいいんだね。了解したよ。どうやらこれ以上君と話していてもなにも得るものがなさそうだ。……私は行くよ。じゃあね。」

「…………………………え?」


ここでマリアの話を聞いていたのが私ではなく漫画やアニメの主人公だったらマリアを説得したであろう場面。

だが私が選択した行動は「切り捨て」だった。




----------飼われることに満足し、首輪を噛み切ろうとしない犬に用はない。


私は呆然としているマリアを背に、ドアを開け、部屋を去った。














































閲覧ありがとうございます。こんにちは澪標です。

今回はイケメン君改めマリアを出しゃばらせました。

あの腰抜けが←

マリア、次の出番はいつになるんでしょうね(笑)

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