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欠陥神話  作者: 澪標ぜろ
6/10

傲慢なる翁

「はーい!お姉ちゃん、あれがお待ちかね"傲慢"の部屋だよー!」『部屋でーす!』


廊下に四五と九十の元気な声が響く。先ほどのギロチンの件もあったのであれから、周囲に細心の注意を払いながら廊下を進んだが、特に何事も無く"傲慢"の部屋についてしまったようだ。少し拍子抜けだったが、発作が起きているこの体ではなにかあってもとっさの反応などできやしない。私はなにもなかったことに少しホッとしながら四五と九十が指をさす部屋の扉を見た。


「…………随分と素晴らしいセンスをお持ちのようだね、"傲慢"は………」


四五と九十の指の先には、キラキラと黄金に輝く、センスの悪い彫刻が掘られている大きな扉があった。この金は金メッキだろうか、いや、本物の金……?


「あ、お姉ちゃんもそう思う?あれねー、"大罪"のみんなもあまり好きではないよー。好きなのは"傲慢"本人だけ。」

『悪趣味だよねー。』


どうやら四五と九十もこの扉はあまり好きではないらしい。……いや、キンキラゴテゴテしたものが好きな人でも好む者なぞいるのだろうか、


……人間の頭蓋でできたドアノブ付きのドアなど。


本当に悪趣味極まりない。

「………お姉ちゃん、このドアノブ見てもあまり反応ないよねー……」

「うん?いや、さっきもいったけれども、悪趣味だとは思っているよ。」

「……………ふーん…」

「どうしたんだい、四五ちゃん」

「ううん、なんでもないよお姉ちゃん。」

「そうか」


なにやら四五が意味深なことをきいてきた。何も感じないか、と言われても「悪趣味だ」としか言えないな……他にどう思えばいいのだろう。


『ねえねえ、早く行こうよー!』

……おっと、九十を待たせてしまったようだ。私のスカートの裾を引っ張っている。……スカートで思い出したがそういえば私の着ている制服、血まみれだな……これで人様の前にでていいものなのか……?


トントン「失礼しまーす!"悪食"です!"嫉妬"候補を連れてまいりました!」

あ、気づいたら四五が扉をノックしていた。……この格好で"傲慢"に会わなくてはいけなくなってしまった。……まあ、いっか。


私が一人で勝手に結論をつけていると、扉の向こうから返事らしき声がした。


「四五、九十か。入りなさい。許可を授けよう。」

「はーい」

四五は声の主に返事をし、私の方に顔を向け、「行くよ、お姉ちゃん」と声をかけてから頭蓋のドアノブを捻り、ドアを開けた。あのドアノブ、回しづらくはないのだろうか……



ギイィィィィ………………………


建て付けの悪そうな音をたてて扉は開いた。

「……扉も扉だったけど、部屋の中もまた…」


扉は金で光っていたが部屋の中は黄金に輝いていた。部屋の中ほとんどが黄金に染まってた。金、金、金、金、金。部屋の灯りから出た光が金の家具に当たり乱反射して、その乱反射した光がまた別のもので乱反射して、と非常に目に悪い内装だった。私が一番最初に寝かされていたモノクロ部屋もなかなか異色だったが、異色さで言うとこの部屋はモノクロ部屋の比ではない。アメリカのカジノ街より光り輝いているこの部屋は色彩感覚を失われそうなほどだった。

そしてその部屋の中央にあるこれまた馬鹿でかい光輝いている円形のテーブルの一角に置いてある玉座?みたいな椅子に、一人の老人が座っていた。長い顎髭を蓄えていてちょうど、田中正造に似たような風貌だ。田中正造(仮)は四五と九十に目をやってから私の方に視線を向けるとおもむろに椅子から立ち上がり、叫んだ。

「よく来たな時雨雨織。貴様のことは報告を受けている。我が名は"傲慢"!卑しい貴様の身でありながらもこの高貴なる私様の部屋に入り、私様の御身を崇められることに感謝し跪け!」


……………………………………………………は?


いやいやいや、いくらなんでも人を見下しすぎでしょう、高貴なる私様ってなにさ。しかも言うだけ言ってまた座っているし。


私が田中正造(仮)の言葉に呆然としているとそれをみかねた四五が田中正造(仮)を睨みつけた。

「ちょっと"傲慢"!お姉ちゃんにいきなりそれはないでしょ!」『そーだそーだ!』

「んむ…そうか?初対面の者は跪かせておくのが私の信条である。」

「あーはいはい、そうですか」


初対面は跪かせるのが信条って……流石"傲慢"……

まあ、いいか。私がここにきた目的をさせてもらおう。

「はじめましてだね。突然で悪いけど話をさせてもらってもいいかな、"傲慢"さん。」

「……なんだ、その言い方は、"傲慢"様と呼べ。」

「"傲慢"さん」

いちいちうざいなこの老害は………


「……む」

「質問を3つほどいいかい?」

「生意気な小娘が……まあいいだろう。高貴な私様の懐の深さに感謝しろ。」

……もうこの老害の発言をいちいち気にしないようにしよう。


「では質問。私をここに連れてきたあの白い翼の男。あれは誰で、何者だい?そして、ここはどこだ?何が目的で私をここまで連れてきた。」

「ふむ……予想通りの質問だな。さて、貴様の質問の答えだが、二つ目のものから答えさせてもらおう。」

「順番はなんだっていいよ。答えてもらえるのであれば。」

「そうか。…………では最初に…時雨雨織、貴様は悪魔や神の存在を信じているか?」

「悪魔や神?」


本当にこの老害はなにをいいだすのだろう。悪魔や神?…ふざけるな。戯言もいい加減にしてほしい。

「…私はそういうものは一切信じていないよ。でもまあ悪魔はいるかもしれないね。」


私はここで一旦言葉を切り、一呼吸置いて言った。

「でも神はいない。いたとしても私を救わない神などいらない。」


―――この世の全ての人類に自由と平等を……


どこかの聖書に書いてあったのを読んだことがあった気がした。

……確かに平等だったよこの世の中は…《神》は全ての人類に平等に〝不平等〟を配った。その不平等の上にいるか、下にいるかは知ったこっちゃないというギャンブル付きときた。

そのギャンブルで負けに負けた人間が、私時雨雨織である。圧倒的底辺。それが私だった。


「……くくっ」

「何がおかしい。」

「やはりお前たち人間は《神》をなにか自分たちに都合がいいように定義づけているな。」

「定義づけ……?」

「そう、定義づけ。実際の神はそんなにキレイなものではない。」

「……へぇ、まるで、実際に神にあったことがあるような口調だね…」

「それはそうだ、実際にあうのだからな。」

「……どういうことだい?」


実際に神に会う?どういうことだ?


「それを説明するのだったらこの世のことを話したほうが早いな。…高貴なる私様は決して一度しかいわぬ。心して聞けよ。」

「…ああ、わかったよ……」


さっきから何かと鼻につく言い方するが、言っていることは気になる。

この世のこととは一体……


「まず最初にこの世界の構造からだ。この世界は主に三つに区切れている。1つ目はお前ら虫けら共が這っている【グーラ】。」

"傲慢"の人差し指が顔の横で立てられる。


「2つ目は天使・神が生活する【ラズール】。」

"傲慢"の中指が立てられる。


「3つ目。我らが悪魔が住まう神聖なる聖域【カラジオス】。この3世界でこの世は成り立っておる。それぞれの域の位置関係としては【グーラ】が一番下にあり、お前たち人類が大気圏と呼んでいる場所に【ラズール】と【カラジオス】があるな。」

「ふうん………」

「まあ、正確には大気圏周辺の時空を曲げなければいけないが…そこは割愛だな。……よし、次の説明に入る前に時雨雨織、」

「なんだい?」

「【グーラ】にいるお前たち人類、【ラズール】の天使 ・神、【カラジオス】の悪魔。この4つには序列がある。時雨雨織、当ててみろ。」

急に話をふられた。序列……?そうだね………神話や物語などのテンプレでは……

「人類の上に悪魔がいて、その上に天使、最上位に神がいるかな。」

「ほう……予想通りの不正解だな。」

「それは済まないね。」

「いや、お前たち人類の無知さを間近で見れるいい機会だった。」


無知、ねえ……


「正解は下から人類 、天使、神、悪魔だ。覚えておけ。ああ、因みに貴様の質問の1つだった、貴様を連れ去った者は、天使にあたるな。」

「……あの金髪イケメンは天使だったのか……それにしても悪魔が一番最上位なんだね。面白い。」


………どうして天使が序列では上のはずのこの【カラジオス】に関わっているんだ……?


ふとした疑問が脳裏をよぎる。しかしすっかり自分の話に陶酔している"傲慢"はこちらの考えている素振りなど見向きもせずに話を続ける。

「ああ。人類は神が最上位だとほざいている輩がほとんどだがそれは大きな間違いだ実際の神は我々悪魔にこうべを垂れ、人間の前でしか大きな顔ができない矮小な存在だ。」

「随分と神はひどい扱いだね。なるほど、そこで神と合うんだね。……で、今までの貴方の話を聞いてまとめると、ここは貴方たち悪魔が住む世界【カラジオス】で、貴方もここにいる四五ちゃんと九十ちゃんも同じ悪魔だということかい?」


四五ちゃんと九十ちゃんもこの世界にいる以上、悪魔なのであろう。この二人が悪魔……外見からは信じられないが、ギロチンを腕一本で受け止めたり、人肉を美味だと言うあたりやはり悪魔なのだろう。

「しかも私様と四五・九十は共に悪魔のなかでも最上位にあたる"大罪の七魔"の一角だ。」

「"大罪の七魔"……?」

「ああ、そうだ。四五・九十は"悪食"、私様は"傲慢"。悪魔の最上位にして、世界の頂点に君臨する者。それが我々だ。」

「それはまた大層なもので。"悪食"や"傲慢"がいるのだったら他の5つの大罪もいるのかい?」

「ああ、勿論いる……と言いたいが」


ここで"傲慢"は忌々しそうに顔をゆがめた。

「先日"嫉妬"が原因不明の消滅をしやがってな……

"嫉妬"が空席になっている状況にある。」

"嫉妬"が原因不明での空席ねえ……。……ん?待てよ、あの屋上で金髪イケメンは私を〈"嫉妬"の君〉と言わなかったか?四五ちゃんと九十ちゃんも私を

"嫉妬"のお姉ちゃんと呼んでいたしもしや……


「もしや、私にその空いた椅子に座れと言っているんじゃないだろうね……?」


………"嫉妬"の悪魔なんて冗談じゃない。「なにを寝ぼけたことを言っているんだ時雨雨織」と"傲慢"が笑い飛ばしてくれることを願いながら聞くと、"傲慢"は満足そうな顔で「話が早くて助かる」とつぶやき、


「悪い話ではないだろう?心配するな、"大罪の悪魔"になるのにそんなに苦労はない。」

とさも既に私が話を了承したかのように話す。

「……待ちなよ、なぜ私なんだい?特にこれと言って特徴などない人間をどうしてわざわざ選ぶ必要がある?貴方たちみたいに特徴があるならまだしも……」

「特徴がない?はっ………どの口がそれをいう!」


「無個性」。私以上にこの言葉がぴったり合う人間がいるのだろうか。だが目の前の"傲慢"はそれを真っ向うから否定してきた。

「嫉妬。この観点をみると貴様ほど"大罪"に合う人間はいない。」

「……どういうことだい?嫉妬なんてこの世に生きる人間の全員が全員持っている感情だろう。」

「そうだ。全員が持っている感情だ。…「ただの嫉妬」ならな。貴様の年代だと他人の頭脳、外見、スタイル、性格などが妥当だろう?」

「まあ、そうだね。」


―――「あの子頭良くていいよねー!」

「だよね!スタイルもいいし羨ましい わー……本当に嫉妬するくらいだよねー」


いつか、クラスの女子たちがこんな会話をしていたのを思い出す。確かに普通の嫉妬はそうであろう。


「だが、貴様の嫉妬は格が違う。貴様の嫉妬はもっと赤黒く、醜いものだ。違うか?」

「……私の嫉妬は…………」


------------------------------ドク、ン



「………………っあ……!」

いいかけたところで、また例の発作に襲われる。くそ、考えるな、考えるな……!


「嫉妬について触れると呼吸障害が起きるのも、異常性の1つだな。………止めをさしてやろう。」

「や……めろ………………カハッ」


やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ。

これ以上言うな!


―――ワタシガコワレル………


「時雨雨織、貴様は世界が好きか?……大嫌いであろう?この美しく穢らわしい世界を気に入らないとは全く勿体無いとは私様は思うがな。貴様はずっと死に憧れていた。今もそうだろう。死にたくて死にたくて、でも死ねなくて、そんな自分が嫌で嫌でしょうがなかったのであろう?」

「…………………………………………」

「『お父さん、お母さん、なんであの時私も連れて行ってくれなかったの?』」

「……………なんで、それを………!?」

「私様の情報収集能力をなめるなよ。時雨雨織。貴様の情報など全て知っておるわ。

………貴様は目の前で家族に逝かれたショックでその発作が起きるようになったと貴様は勘違いしているようだが、それは全くをもって間違いだ。家族の死など実は貴様は何も感じていないのだろう?」

「ち、違…う…」

違う違う違う違う違う違う。ちゃんと私はお父さんとお母さんの死を悲しんで…悲しんで…………あれ、


私は両親の死で涙を流したことが一回でもあるだろうか………?


突きつけられた現実、止まらない発作に私の精神は限界を迎えていた。

「貴様にとっては死んだ両親ですら"嫉妬"の対象でしかなかったのだ。「異常なほどの死への願望」、「生まれながらの自殺志願者」、これが貴様が"大罪の七魔"に選ばれた理由だ。」

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う…!」


私は、そんな人間ではない!!そんな……

「そんな人間なのだ。貴様は。」


………プチン、


なにかが切れる音がした。


「……………いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



そして、私は壊れた。






「……やれやれ、壊れたか。煩いな。………おい、マリア、マリアはいるか!?」

「はい、こちらに。」

「この煩いのをどこかに運んでおけ。で、落ち着いたらまた私様の元へ来させろ。」

「御意。」


どこからか、会話が聞こえる。


「先程は申し訳ありませんでした。……そして今回も、また失礼します。」


トンッ………


首筋になにかがあたる音がした。そして薄れゆく目の前の景色。……この感覚さっきも………




横にはあの時の金髪イケメンがいたような気がした。

閲覧ありがとうございます。こんにちは澪標です。

ついに出ました傲慢さん。なぐりたくなりますね←

そしてイケメン君再来。彼にも頑張ってもらおうと思います!

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