悪い食
※少しだけ、グロ表現ありです!
四五、九十とはぐれてしまった私は、とりあえず1人で"傲慢"を探してみようとしばらくの間、屋敷をさまよっていた…が、
結果::収穫なし
……いやね、言い訳をさせてもらうとね、この建物広すぎるよ。東京ドーム何個分あるのさ。まあ私は東京ドームを実際に見たことがないからこの質問に答えられてもイメージがわかないだろうけど。……はぁ、全く、屋敷の見取り図くらいあってもいいものだよ。ダンジョンを彷徨うRPGの勇者の気持ちがよくわかったね。
それと気になったところがもう一点、私以外一切人が見当たらないってどういうことだい!?屋敷を彷徨っていたとき途中途中目についた扉は全て開けてみたけれど、全て無人。……ふざけているとしか思えないね。
…… あ、ある廊下の窓から見えたこれまた豪華な庭園に、背中から羽が生えている馬や首が3つ付いている巨大な犬とかが見えたけれども、私は全力でスルーした。……ははっ…外はいい天気だったね。ワタシハナニモミテイナイヨ。
……さて、散々歩き回ってそろそろ足も疲れてきたし、そこら辺のどっか適当な部屋に入って少し休憩でもしようか。どうせ誰もいないだろうしね。
私は多少、現実逃避をしながら本日何度目になるかわからないため息を吐き、T字路となっている廊下のつきあたりをなんの気もなく「右」に曲がり、「適当に」目に付いた部屋のドアの前に立った。
--ここで、別のルートを選んでいたら……後になって私は思うことになる。あのとき、「左」に曲がっていたら、もしくは隣の部屋を選んでいたら、未来は全然違うものになっていた。不思議の国へ迷い込んだアリスのように、無知で、ある意味無垢のまま、いつもの日常に帰れた。
……だがもう、遅い。
私は部屋のドアを開けた。
「………っ…………………………」
そして、盛大に顔をしかめた。
「……………なんだいこの悪臭は…………」
顔をしかめた理由は単純で、真っ暗な部屋の中に充満している強烈な腐敗臭のせいだ。鼻から、口から、ひいては全身の毛穴から、不快な臭いが私の身体に侵入してくる。
……いったい、この臭いの正体はなんなのだろう。気になった私は部屋のライトのスイッチを入れた。スイッチの場所は今まで彷徨っているなかで何度も部屋に入り、スイッチを入れているので特に迷わない。
……カチッ
一瞬、瞬いてから、ライトはついた。
「…ある程度酷いのは…予想していたけど……これは…………想像以上だね……」
明かりがつき、部屋の内装が鮮明に見えるようになったことにより、私は先程からの強烈な腐敗臭の正体がわかってしまった。
部屋の広さは大体12~15畳ほどだ。窓もなければ家具もない。ただ、その部屋には夥しい量の血が付着していた。きっとホースで水の代わりに血をぶちまけたらこうなるだろう。なるほど、腐敗臭の正体はこの血だったのか…
……とりあえず部屋から出よう。
「そうはさせないよ?お姉ちゃん」『させないよー』
と、〈部屋にいた〉四五と九十に行く手を阻まれてしまった。
「……やあ、四五ちゃん、九十ちゃん。」
「いくらなんでも無視はないよ!」『ひどーい!』
「……すまないね」
実を言うと、私は明かりがついたときから四五と九十の姿を視界に捉えていた。だがとあるもう一点の要因のために、敢えてスルーしていた。なので、先ほどの部屋の説明には多大な語弊があった。正しくは「壁は血まみれで、『何人かの全裸の人間が両手を一つにしばられ、天井から吊るされていて』、それを恍惚とした表情でみている四五と九十がいる」だった。私がスルーをした要因とは、『これ』だ。
『これ』らの種類は老若男女様々だ。全員意識がなく、顔も青白いので死んでいるか生きているかはわからないが、多分死んでいるのだろう。…四五と九十はなんのためにこんなことをしているのだろうか。
私は一瞬、『これ』の存在意義についての考察をしたが、直ぐにやめた。そんなことよりも四五と九十に再会できた今、早く"傲慢"のところへ行きたかった。
私がその旨を四五と九十に言うと、四五は少し考えるような仕草をしてから、「いいよ」と答えた。……どうでもいいことだが、二人の行動の決定権はどうやら四五にあるらしい。出会ってから、九十の意思で行動をしているのを見たことがない。
「あ、でも」
と、四五が横目で九十をちらっと見て、何かを思いついたように言葉を繋げた。
「九十が、今までずっとお姉ちゃんを探していたから、お腹すいたんだって。"傲慢"のところに行くのは九十がお腹いっぱいになったらでいーい?」
「……ああ、構わないよ」
私は四五にそう言われて、改めて九十をみた。…確かにお腹を空かせてそうだ。よく聞くと腹の音も聞こえる。このまま"傲慢"のところへ行くのはいくらなんでも可哀想だ。
……あれ…?…そういえばこの建物に食堂なんてものはあっただろうか…?今まで散々歩き回ってきたけど、そんな豪勢なものは無かったはずだよ…
探し方が悪かったのか…?……それとも私が忘れているだけ…?
「よし、お姉ちゃんの許可がでた!」
私が懸命に記憶力と格闘していると、四五は嬉しそうな顔をして、
着物の帯から和包丁を取り出し、それを逆手に持ち、彼女の一番近くに吊るされていた若い男の腹を勢い良く縦にまっぷたつに裂いた。
男の腹から吹き出た血をまともに被り、私の上半身が赤に染まる。……あーあ…服が血まみれだよ…
---ボトッ……ベチャ…
男の臓器や肉が不快な音をたてながら大きく切り裂かれた傷口から零れ落ちる。むせ返るような真新しい血の匂いが部屋中に漂う。
私がこの血まみれの服をどうしようかと悩んでいると、
『ねえ、四五、もういい?もういい?』
と、九十は如何にも待ちきれないといった表情で四五になにかの催促をしている。
「……ん?ああ、もういいよ九十!」
『やったぁ!』
四五がいいと言った、瞬間
--グチャァ…
九十は今だに血と肉が零れ落ちている男の腹に腕を思いっきり突っ込んだ。
--グチョ…グチュ…ベチャ…
九十が腕を動かす度に男の腹から肉どうしが混ざり、ぶつかり合う生々しい音が発せられる。
『……あ、あったぁ♪』
しばらく男の腹の中をまさぐっていた九十は嬉しそうな声をあげ、素早く腹の中から腕を引き抜いた。
--ブチブチブチィ……!
血管が切れる音が辺りに響く。ドバっと血が流れ落ちる。九十がこちらを向いた。笑みを浮べているその顔は血に染まっている。そして、その手には、一つの握り拳ほどの肉塊が。
『へへへ……やっぱり心臓が一番"おいしい"んだよね…』
どうやらあの肉塊は心臓らしい。九十は肉塊を見て、うっとりとした表情を浮かべた。
それを見た四五が「早く食べちゃいなよ」と急かす。
九十は『わかったー』とだけ言い、
男の心臓を一口で丸呑みした。
…………よくあの口の大きさで心臓が入ったね……
『ふー、満足満足』
「満足?じゃあ早く"傲慢"のところにいくよ九十!お姉ちゃんも待たせているんだし、アイツ遅くなるとめんどくさいから!」
と、言い四五はこちらをみて、「ね、お姉ちゃん」と、同意を求めるような声をあげた。
「え?……ああ、……うん」
いけない、咄嗟のことだったので返事が曖昧……になってしまった。目の前の状況があまりにも非現実的すぎて脳内処理が追いついていない。どうして九十は人肉を食べているのだろう。……美味しいのだろうか……
そんな私の様子に、四五はなにか察しがついたような表情をし、
「あー…そっか、お姉ちゃん、私たちの"大罪"知らなかったんだっけ。」
と呟いた。そして今だに手に持っている和包丁についた血をペロッと舐め、言った。
「私たちの大罪は"悪食"。全てを飲み込み、支配する者。……改めてよろしくね、"嫉妬"のお姉ちゃん!」
こんにちは。澪標です。
間が空いてすみませんでした……
四五と九十にはちょっとハメを外してもらいました☆