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魔女の日記  作者: 和砂
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4ページ目


『○月×日 異世界九週目

 もうちょっと、もうちょっとよ、私。そろそろ日常会話ぐらいなら出来る自信がついたわ。でももう少し秘密にしましょう、ルオスにだけ。女将さんには今日ばれちゃったのよね。だって、女将さんがお隣に行った間に、電話が鳴るんだもの。電話に出るしかないじゃない?

 電話が終わった後、女将さんは「もっと早く教えてくれれば良いじゃないかい?」って苦笑いよ。でも、やっぱり完璧にしておきたいじゃない。どうにかルオスには秘密にしてくれるって約束したけれど、うん、ちょっと不安だわ。

 他に何かあったかしら。そういえば、お買い物途中でレクタに会ったわ。ほら、ルオスのお友達。今日は緑色の髪の女性と歩いていたけれど、お家に勤めているメイドさんらしいの。この街一番のでっかいお屋敷に住んでいるんですって。ちょっとだけ挨拶をしたけれど、お坊ちゃんなのに、完全に尻に敷かれているわね。微笑ましいわ。

 それと、ルオスね。最近溜め息ばっかり。どうやら、お仕事が大変らしいの。まだ定時には帰ってきているけれど、これから忙しくなるんじゃないかしら。もちろん、これは私の勘。しっかりカードで占ったわけじゃないから、当たらないかもしれないわ。』








『○月×日 異世界十週目

 すっかりパン屋のお姉さん―――断じておばさんとは呼ばせないわ――として定着してきた私。学院に入学したばかりの子達とも仲良くなったわ。一人は茶髪の可愛い子。猫みたいで、ついつい抱きしめちゃうの。名前はレノア君。もう一人は彼のお友達で、クウハ君。外国から来たらしいわ。お父さんと同じ直毛の黒髪が、とっても羨ましい。私、ママと同じで赤毛の癖毛なのよ。クウハ君のは多少跳ねているけれど、やっぱり黒髪が良かったわ、私。

 それから…今日は悲しい事があったの。ルオスに怒られちゃった。夜にどこかに出かけているのは知っていたみたいなんだけど、私、星を見に行って、そのまま寝入っちゃったのよね。どうやら寝ずに探してくれたみたいで、朝日が昇る少し前に起こされたの。死んでいるとでも思ったのか、目を開けて見た彼の顔は真っ青だったのよね。この地域は年中温暖だから風邪もひかなかったし、少しは悪かったなぁと思わないでもないけれど、やっぱりそんな目で見るのは止めて頂きたいわ。貴方、時々とっても怖い目をするんですもの。

 帰りは、地面で寝たせいで上手く立ち上がれなかったから、彼に負ぶってもらっちゃった。普段意識しないけれど、やっぱり、男の人なのね。大きな背中に揺られながら反省する。ごめんなさい、ルオス。』








『○月×日 異世界十一週目

 異世界三ヶ月目。日常会話ぐらいなら、完璧よ。…たぶん。

 早速ルオスに試したわ。朝起きて「おはよう」って言ったら、彼、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたのよ。発音が若干もにょもにょするのは仕方がないとしても、まぁ、失礼ね。ともかく、大成功。時々変な言葉も混じってしまうけれど、ある程度の意思疎通は可能よ。よく頑張ったわ、私。

 満足気で過ごした、その日のお昼間。≪魔女≫だからか、私は良く怪異現象に巻き込まれるんだけれど、それがあった。

 女将さんがお買い物に行っている間、暇をしていた私は、得意のカードを使って占っていたのね。すると、何処から鈴の音が聞こえるじゃない。トキちゃんも好んで鈴の装飾品を付けるから、彼女かと思ったんだけど、何か違うわ。寒気がするって言うのかしら、皮肉にも馴染みのある、≪境界線≫の感覚。その時引いたカードは、森羅万象、神、運命を司る“世界記”。

 もちろん、異世界に来る時に≪境界線≫には触れちゃうから、来るかもしれないなぁって予感はあったし、実際、人間に気付かれないでも、この世界にも居るのは知っていた。見ようと思えば見ることも出来るし、話そうと思えば出来ない事じゃない。でも、会いたくないわ。私は魔女だけど、ただの人なんですもの。その考えが通じたのか、“神”が姿を現すことはなかった。ちょっとした様子見だったんでしょうって、ほっとする。というか、そう思うことにする。

 その後は何だか嫌になってカードを仕舞い、カウンタでぼーっとしていたんだけれど、トキちゃんがアルバイトが終わって帰る頃になって、こっちをじっと見てきたの。それは、お昼間の怪異を感じているようで…―――あぁ、やっぱり知っているのね。苦笑すると、トキちゃんは「大丈夫?」と尋ねてきた。まぁ、なんて優しい子。思わず抱きしめちゃったわ。有り難う、大丈夫よ。そう答えると、ちょっとだけ微笑む。まぁ、可愛い。

 それにしても、変な世界ね。そして変な街だわ。それとも、この国が変なのかしら。境界線が密に絡み合って、何かの模様を描いているみたい。トキちゃんもそうだけれど、案外近くに人が知らないはずの神の存在を知る、“世界に関わる者”の気配がある。私が街を歩いているだけで、ほら、丁度、世界の中心に帰って行く、風の精霊みたいな、見えない男の人がいるじゃない。目が合ったから、つい、「こんにちは」って挨拶したの。まぁ、何よ、そのお化けを見つけたような顔は。貴方にそんな風に扱われるなんて、心外だわ。貴方の方が、よっぽどお化けみたいなものじゃない。』








『○月×日 異世界十二週目

 異世界に来て三ヶ月目。今日は素敵な出来事があったの!

 ルオスが言葉を教えてくれるって言うじゃない。どうやら私の言葉の使い方が、少し変わっているらしいのね。まぁ、それは仕方がないとしても、夕食が終わってすぐの空いた時間に、私は彼の部屋を訪ねたわ。あら、でも変ねぇ。笑顔で部屋に入った私に、どうして何とも言えない顔をするのかしら、貴方は。私は枕やクッションがないと、落ち着かないのよ。それに、先にベッドに寝ころんだのは私なんだから、別に良いじゃない。「確保」って主張すると、やっと諦め顔になる。さぁ、先生、教えて頂戴。』



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