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魔女の日記  作者: 和砂
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3ページ目


『○月×日 異世界四週間目

 おめでとう、私。とうとう一ヶ月目よ。

 困ったわ。お父さんとお母さん、クリスも心配しているんじゃないかしら。…といっても、連絡方法があるわけじゃなし、どうしようもないのだけれど。あら、大丈夫よ、ルオス。別に今の生活に不便はないわ。ただちょっとだけ、家族が心配なだけよ。病気でもないわ。ないから、私が居ないところでオーナーと話し合いなんて必要ないのよ。変に心配性よね、彼も。

 そうね。周囲に心配をかけるわけにもいかないわ。あまり悩まないことにしましょう。占星術を教えてくれたお父さんや、古い魔女の家系のママならきっと、私の事を信じていてくれるし、きっと今の状況にも何となしに気がついているでしょうし。

 もぅ、ルオス! いくら言葉がわからないからって、…だから、心配はないって言っているでしょう!?』








『○月×日 異世界五週間目

 一ヶ月過ぎてしまうと、やることもだんだん落ち着いてくるものね。私はオーナーのお手伝いで少しばかりバイト料を貰うようになったわ。それからテレビや雑誌を読む事も定着しているし、ルオスやオーナーの生活行動もわかってきた。でも、そうなると私は退屈しだすのよ。そうねぇ、何かあったかしら。デバイスもないもの、娯楽って少なくなるわね。

 あ、そうよ。夜は空いているのだし、占星術でも試してみましょう。思い立ったら、吉日。即行動よ。ごそごそとビニルシートを探して、魔法瓶にお茶を、残りの菓子パンは貰って良いらしいから、それを少し。肩にケープを巻いて、片手にランプを持って、お出かけ。

 ん、んー。昼間と違って、夜だと雰囲気が違うわね。大きな通りから外れて、いつか見た小さな丘に登る。丘の上には元孤児院らしい、大きな家があるの。もちろん今も人が住んでいるから、そこまでは近寄らずに、広い芝生にシートを敷いた。静かで、虫の声が聞こえる。天井は一面ビロードに細かなビーズを縫い付けたみたいで、素敵。とても良く見えるわ。星空から見た事で、向こうの境界線がはっきりわかる。お父さんもママも元気そうね。予想外な事に、一士君含めた、マジョを良く知っている級友達が少し慌てているみたいだけど、私が居なくなることは、そんなに珍しい事じゃないのよ。流石に異世界は予想外だったけれども。

 う、少しだけ風が強く吹いた。ちょっと身体が冷えちゃった。持ってきたバスケットから魔法瓶を取り出す。暖かいお茶がおいしいわ。周囲はとても静か。まるで、小さい頃に出会った、自称”伯爵”と過ごした時のよう。私、これからどうなるのかしら。

 ―――止めよう。早く帰りましょう。きっとオーナーが心配しているわ。』








『○月×日 異世界六週目

 ふわあぁぁ。いけない。欠伸がでちゃった。現在夜中の二時近く。いい加減に眠くもなるわね。

 どうして私がこんな夜遅くに起きているかというと、急な来客で起きてしまったから。でも、ドアをノックされる前に気付いて開けたのは、流石にまずかったかしら。でもでも、戸口で大声で呼んで欲しくなかったのよね。

 何の前触れもなく開けた私に、来客―――恐らくルオスの知り合いよ。だってガーディアンの制服着ていたもの―――は、ぎょっとして固まったわ。それから私はやってきた彼をテーブルに案内すると、二階へ昇り、ルオスの部屋をノックした。あら、声がするわ。開けてみると、彼は既にガーディアンの制服に着替えていた。素早いわね、ルオス。でも、どうして気がついたの?

 彼も私が起きていることに驚いたみたい。悪かったわね。気がついちゃうのよ、私は。だって、魔女なんですもの。これまでだって色々な物に気がついているけれど、私、知らない振りしていたのよ。けれど、今は私情を挟んでいる暇はないみたい。やってきた人は急いでいたし、ルオスも私を促して直ぐに下に下りた。

 私は彼らが何事か話し合う様子を眺めていたわ。だって、わからないんですもの。それからルオスは話がまとまったらしく、出かけるような事をこちらに示した。だから、私は頷いて、彼が出て行った後の鍵を閉める事を約束したの。

 ガーディアンも大変なのね。ちょっとだけ見直したわ。』








『○月×日 異世界七週目

 今日もこれといって変化はなく―――あら、いけない。忘れていたわ。今日はルオスの友人が来たのよ。幼馴染らしい、真っ赤な髪に同じ色の目の、素敵な彼。名前はレクタ。ルオスと違って、とってもハンサム。ルオス程身長はないけれど、スラリとしていて、服のセンスも良いし、目の保養になったわ。けれど、どこか引っ掛かる人なのよね。

 幼馴染の気安さか、言葉も早口だし、内容も何を言っているかよくわからなかったけれど、行動は夜会で会う女たらしっぽい。私も、こんな見た目しているから肩を抱かれるぐらい、挨拶のうちよ。でも、微笑みながらそんな事をしているのに、彼、何処か慎重な目をしているのよね。いっつも胡散臭い笑顔浮かべている豊っぽいわ。いいえ、策士家な従兄のジョンかも。ともかく、彼は何か裏があるわね。私の持ってるカードの占いで、“嘘つき男爵ルーク”が出たから、ちょっと警戒しましょう。

 もう一つ可笑しな点は、どうもルオスが不機嫌なのよね。貴方、お友達が尋ねてきてくれたのに、殴ることはないんじゃない?人としてどうかと思うわよ?』








『○月×日 異世界八週目

 異世界二ヶ月目。本格的に困ったわ。

 卒業したばかりだったから猶予期間が多くあるけれど、大学はどうなっているのかしら。一ヶ月ぐらいなら魔女に慣れている両親や友人達が誤魔化してくれるでしょうけれど、流石に限界でしょう。あーぁ、浪人生決定なのかしら。

 それはさておき、私はやっと日常生活の言葉を理解し始めた。オーナーであるルオスのお母さんは、“女将さん”って意味で呼んでいたみたい。やっとすっきりしたわ。今まで身振り手振りで尋ねていた、ルオスのちょっとした言葉も理解しているけど、今はまだ知らない振りをするの。もっとはっきりわかるようになってから、カミングアウトするつもりよ。うふふ。彼はどんな顔をするかしら。今から楽しみだわ。

 さて、今日お掃除をしていた私は、偶然、ルオスの部屋で彼の日記を発見したの。文字は雑誌に書いてあるような、慣れない変な文字で、まだ私にはわからない。けれど、分厚いハードカバーの本だったから、“もしかして”と思ったのよね。ふふふ。

 解読しない手はないわ。でも、彼って妙に勘が良いから、気をつけないと。なんて書いてあるのかしら。とっても興味深いわ。』



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