表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の日記  作者: 和砂
17/19

16ページ目


『○月×日 異世界四十六週目

 一年最後の週よ。あぁ、年が明けるわね。良かった。一年の変わり目は、皆と一緒に過ごせるみたい。今日は夜更かしをして、ずっと庭で過ごすことにしたの。皆はどうかしら。思い思いよ。女将さんは明日も早いからって、寝ているかもしれないわ。ちょっと寒さを感じるけれど、カーディガンを前で合わせて、手をこする。息を吹きかけて暖めて、それからお茶に手を伸ばすの。晴れていて良かったわ。星も見えるもの。空を見上げると、綺麗な星空。なんとなく、だけれど、お別れの時間が近づいてきているのが分かる。

 結局、私、何の恩返しもしていないわ。この前の週から準備しているのは、年明けのお祝いだし、私が残せるものって、何かしら。ルオスの日記は、大半が私の悪行で埋まっているけれど、それ以外は何もない。ちょっとお茶が熱いから、息を吹きかけて、冷ます。一口飲んだら、ぱらぱらと写真をめくる事にしたわ。一応、今日って、一年の反省をする日なんですもの。写真を見て思い出すものも、多いでしょうし。

 本当、色んな事があったわね。でも、やっぱり一番思い出があるのは、ルオスとのことかしら。そうねぇ、ルオスを怒らせたり、慌てさせたり、哀しませたり……本当、ろくな事してないわ。彼の日記を占領するのも、当たり前ね。ちょっと申し訳ないわ。

 週末、大掃除と称して、こっそり、荷物の整理をしたの。もう見向きもしていなかったタンスの奥に、こちらに来た時に着ていた制服を見つけて、ぎょっとしちゃったわ。最初に持ってきていた荷物だとか、後から皆に貰った贈り物だとか、結構な量。それを整理していたのよね。もともと女将さんからの借り物が多かったから、それは残しておくとして。そうねぇ、レクタから貰った服も、ちょっとどうしようって感じだわ。畳めば入るかしら。それから細々したものも、多くて。終わった時には、ここで買った鞄も含めて、三つの荷物ができあがったわよ。

 すると部屋の中って、物がなくなって、寂しく見えるのよね。元々誰の部屋かは知らないけれど、私の雰囲気が染みついているのよ。どことなく。

 窓を開けると、良い風。さよならの準備が進んでいくわ。』








『○月1日 異世界四十七週目 新年

 まぁ、おめでとう。おめでとう。朝起きて、誰彼構わず、抱きついてキスをする。年が変わったからって、別に生活に影響があるわけじゃないし、普段と同じ一日が始まっていくのよ。でも、ほら、やっぱり新年なんだから、少し気分が高揚するものじゃない。お客さんにも、キスしちゃうわ。

 さて、挨拶が終わったら、すぐに贈り物を渡しに行くの。もちろん、ここでお世話になっている人達に、よ。女将さんやルオスはもちろん、レクタやレノアちゃん達にも、ご近所さんにも。

 皆、皆、おめでとう。今年も、蒼穹から幸運が訪れますように。』








『○月2日 異世界四十七週目

 おはよう、ルオス。まぁ、嫌だ。そんなに身構えないで頂戴。昨日、挨拶代わりにキスしたのは、特別なの。今日はしてあげないわ。後から欲しいって言っても、あげないの。あら、ちょっとは残念そうにしてよ、失礼しちゃうわ。

 お昼は、いつもの様にお夕飯のお買い物。あら、レクタ。最近よく会うわね。貴方もお買い物なのかと思ったけれど、まぁ、なぁに。レノアちゃん達とお勉強なの。こっそり人をからかうのが好きで、不誠実な根無し草だと思っていたけれど、案外、面倒見が良いのね。最初の印象より、随分見直したわ。

 夕方はお夕飯の準備が出来たら、ちょっと休憩。女将さんとお茶を飲む。

 あら、ルオス、お帰りなさい。と思ったら、一旦、帰って来ただけだっていうじゃない。まぁ、これからお仕事なの。大変ね。お夕飯はいらないって言うし、貴方、本当に頑丈に出来ているのね。』








『○月3日 異世界四十七週目

 朝起きて、大きく伸びをする。もう何処に何があるか、見なくてもわかるわ。着替えて一階に下りると、女将さんは既に開店の準備をしている。私って、まだ若いはずなのに、いつも女将さんに負けているのよね。急いで制服に着替えて、棚の準備。パンの焼ける、良い匂いがするわ。あら、ちょっとお腹が鳴っちゃった。

 お昼ちょっと前に、ガーディアンの拠点にお邪魔する。ルオスは何処なのかしら。あ、居た、居た。通りの隅から、小さく手招き。貴方って、仕事場じゃ目付きが違うのね。ちょっと怖いくらい。まぁ、お仕事が忙しいんでしょうし、なめられたら困るものね。

 お弁当を渡すと、彼は顔を顰めるの。あら、まぁ。お仕事が忙しくて、今日は帰れないかもしれないんですって。分かったわ、女将さんに伝えておくわね。

 帰り道。一人でぶらぶら歩いていると、あら、レクタじゃない。本当に、よく会うわね。今日もお勉強みたい。貴方も大変ね、あんまりそうは見えないけれど。大人って、こうして平気なふりをして毎日を過ごさないといけないのかしら。そうだったら、ものすごく大変だわ。私もいつまでも楽しい学生気分で、ぼんやりしていられないのよね。そろそろ、頑張らなくちゃ。』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ