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魔女の日記  作者: 和砂
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14ページ目


『○月×日 異世界四十週目

 とうとう10ヶ月よ。もう、驚くしかないわね。もし、私のお腹に赤ちゃんがいたら、こっちで産んでいるわよ。そんなに経つのね。

 ふぅと溜め息。窓の外は雨。これじゃあ、出掛けられないわ。ルオスは、雨でもお仕事でしょう。ご苦労様よね、ガーディアンの皆。お店は開いているけど、やっぱり雨だし、お客さんは少ないわね。そうすると、ちょっと暇なのよ。トキちゃんと私で、ぼぅっと入り口を眺めている。たまには良いかもしれないわね。こんな日も。

 雨は降ったと思ったら、次の日には晴れて、その繰り返し。不思議な天気。時期的に冬になるだろうに、こっちでは気温の変化が少ないの。まぁ、こんな雨の日に出掛けるのも何だけど、夜のお散歩に行く。雨避けに作った黒い外套のせいで、本当に不気味に見えると思うわ。手にはランプ。陰気な魔法使いに見えるでしょうね。そう、“隠者”みたいな。

 傘を叩く雨の音が続いている。周りに足音はないわ。あっても聞こえないでしょうね、やっぱり出掛けるんじゃなかった。雨が酷くて、歩いているだけで服が濡れちゃう。戻ろうかしら。そろそろルオスも帰ってくるでしょうし、また心配をかけちゃうかも。でも、どうしても出掛けなければならない気分だったのよね。

 雨は段々酷くなるばかり。やっぱり戻りましょう。来た道を引き返そうと振り返る。あら、丁度十字路に居たのね。お父さんの実家、シェイラン家では交差点は人生の選択地点、ママの実家のビザンザージオ家では交差点は魔術の生まれる場所・異世界の入り口とされている。何か、嫌な感じね。境界線が際限なく揺らいでいるのがわかるわ。誰か、居るのね。貴方はだぁれ?

 怖がって、目を閉じいては駄目。揺らぐ先には、無音の空間。ひらりと落ちたカードは、見なくてもわかる。“世界記”。世界の在り方を指し示すモノ。“貴方”が、“私の神”の“兄弟”ね。少し視線を厳しくする。

 何があっても、私に対処出来ることは、ただ一つしかないもの。≪魔女≫が世界に影響が及ぼせる能力は一つ、“審判”のみ。本来自分の世界でしか影響がないそれが、異世界でどんな意味を成すのか、使えるはずの私にもわからない。だって、私は≪魔女≫でも、“只の人間”なんだもの。でも、それを行って良いとは、私も思っていないわ。お願いだから、私に関わらないで。怖い。そう、私は怖い。世界の深層に触れる事は、一介の人間には出過ぎたことだもの。“神”の部分になど、触れたくはないのよ。

 「私は、人間だわ」

 すると彼は、表面上は穏やかに笑う。その口が微かに動いたようだったの。「選択の時間が迫っているよ」と。そしてふっと揺らぐ。境界線が元に戻っていく。不可解な言葉が頭に残っている。選択の時間?

 ぴんと来たのは、元の世界に帰れると言うことで。ほっとするべきなんでしょうね、本当は。でも、私は自分の動揺に驚いていたの。あぁ、分からないわ。相変わらず、雨は止む気配がない。でも、これで良かったのかも。ふと足下に落ちた雫。雨のように次第に強まる気配。あぁ、どうしましょう。私はどうすれば良いのかしら。分からないのに、涙だけがこぼれる。それでも足下のカードを拾う余裕はあるのね。惑星と巨大な本の絵柄の“世界記”。何処に行っても、神様って意地が悪いわ。

 帰りましょう。時が来れば、自ずと分かるはずだから。傘も取り落として、すっかりずぶ濡れ。女将さんに呆れられちゃうわ。振り返った所で、やっぱり貴方が居るのね、ルオス。あら、ぎょっとしている。それはそうよね。こんな雨の中をずぶ濡れで突っ立って居るんだから。でも、出来たのは泣き笑い。ごめんなさい。ちょっと、余裕がないの。

 「どうしたんだ?」ですって。貴方、相変わらず鈍いのね。変な所で勘は良くて、いつも通り、優しいのに。あら、大丈夫よ。ただ、疲れただけ。そう、疲れただけなの。まぁ、抱きしめなくても大丈夫よ。第一、貴方が濡れちゃうわ。風邪引くわよ。あら、そんなに柔じゃない、ですって?

 そうかもね。また心配かけちゃうわね、ごめんなさい、ルオス。でも、付き合ってくれるのなら、今はこのままで。誰かと一緒じゃないと、不安なの。私、まだまだ、子供だから。』








『○月×日 異世界四十一週目

 38度7分。ばっちり風邪よ。ベッドに入って二日。まだ熱が下がらないわ。朝は熱が下がって、夜に熱が上がる感じ。それを繰り返しているの。もう慣れたもので、結構意識もはっきりしているわ。あら、もう夜なのね。しばらく寝ていたみたい。4時頃までは記憶があるんだけれど、明かりをつけない部屋は、外と一緒で真っ暗だわ。

 首だけ動かして窓を見る。あら、雨も降って来ちゃった。ルオスは、傘を持って行っているのかしら。彼は彼の言葉通り、柔じゃなかったみたいで、今日もお仕事よ。あの雨の日、お家に帰ると、女将さんに怒られちゃったわ。急いでお風呂に入ったけれど、その翌日には熱が出ているし。駄目ねぇ、本当。

 「へくちっ」と、変なくしゃみをする。あ、ちょっと寒気がする。いそいそと布団に潜り込んで、肩まですっぽり被ったわ。暖かい。それにしても、早く治らないかしらね。寝ておくだけっていうのも、体力いるのよね。ルオスの丈夫さが羨ましいわ。』


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