13ページ目
実は、我が親友殿の書いている小説が、魔女の行ってしまった異世界です。
多分にネタばれするのではないかとびくびくしていますが、親友殿の「ま、いいんじゃね?」と言質を取っているので、修正版はそれほど怒られないと思っています。
『○月×日 異世界三十七週目
きゃあ! 賑やかね。まさか、こんなに大きな物だとは思わなかったわ。確かに私の母校も、三年に一度ぐらいお隣の桐葉高と合同で行うから、慣れたものだけれど。―――へぇ。色々あるのねぇ。結局一人で来ちゃったけれど、それで良かったみたい。全部回るつもりよ。でも、やっぱり、異世界って言っても、やることは似たようなものなのね。ちょっと安心よ。
短時間でほぼ回りきったわ。私の健脚も、まだまだ捨てたものじゃないわね。あら、ステージでは催し物があるみたい。遅くなったら困るけれど、ちょっと見ていきましょう。あら、…あら、あら、あら。まぁ、なぁに。女装コンテストなの?
それはそれで面白いわね。なにせ、クウハちゃんも出ているみたいだしぃ。あは。とっても可愛いわ。なんだかトキちゃんに似た、可愛らしい感じね。素晴らしい美少女っぷりよ。思わず持っていたカメラで、写真に撮しちゃう。あら、泣きそうな顔ね。まぁ、年頃の男の子だし、複雑なんでしょうけれど。私は大満足よ。
終わってしまうと、私も人の流れに従ってお家に帰ろうと足を進める。帰り際、ステージ裏で落ち込んでいるクウハちゃんと、可愛い女の子と一緒の、レノアちゃんを見かけたわ。アディオス、二人とも。思い出は、ばっちりカメラの中よ。
ジェスチャーで伝わったのかしら、「むぎゃっ」と呻き、慌てて手を伸ばすクウハちゃん。それを慰めるとも、止めるレノアちゃん達。うふふ。さようなら。』
『○月×日 異世界三十八週目
学園祭も終わって、一息ついたような時間。この週になって、私はやり残したことを思い出したの。そうよ、ルオスの日記。すっかり忘れていたわ。時折お掃除する度に見かけていたけれど、何だかんだで忙しくて、忘れていたのよね。折角ですもの。この機会にちょっとだけ解読してみましょう。
―――あら、あら、あら。嫌だわ、ルオスったら。私の事を書いているじゃない。目で追っていくと、私の名前が出てくる出てくる。詳細まではわからないけれど、大雑把に見ても、ちょっと多いわよ。あらー。そんなに困らせているつもりはなかったんだけど、やっぱり、ちょっとお転婆だったかしら。反省。
でも、やっぱり文字はよくわからないのよね。第一、異世界に来て随分経ったからって、トキちゃんが居なかったら、私、言葉も満足に話せていないわよ。
うーん、雑誌で一応の勉強はしているけれど、文字もきちんと勉強してみようかしら。』
『○月×日 異世界三十九週目
さて、11月よ。文字を勉強しようと思うって言ったら、またルオスが教えてくれるっていうじゃない。あら、素敵。確かに言葉の時も、少しだけ話して貰った記憶があるけれど。わかったわ。じゃあ、また夜に。
お昼間にレノアちゃん達がやって来たから、写真が現像できた事を教えてあげたわ。あら、クウハちゃん、そんなに震えて感激しないで。によによ。確かに私の趣味だけど、ステージに出た以上、貴方は被写体なの。例えレノアちゃんに騙されたとか、押し切られたとしても、出た以上は貴方の責任。世の中って厳しいわよね。
その後は女将さんやトキちゃんと一緒に、写真の整理をする。あら、思ったより沢山あるのね。もちろんリスト用の物じゃないわ。誕生日の時の写真だとか、旅行中のもの、何気なく撮った写真だとか、プライベートの物よ。あ、でもこれは例外。ルオスの入浴シーン。女将さんが大笑いよ。他にも、私とトキちゃんと一緒に撮った物もあるわ。あとは、レノアちゃん達やレクタとも。あら、レクタと撮る写真は、何処かいかがわしいわね。肩に手を回されているわ。ちょっと顔を顰める。ルオスとは、あんまりないわね。まぁ、お仕事で夜ぐらいしか会わないし。あ、でも旅行中に沢山撮ったんだったわ。
次の、次の日の夕方。ルオスが早く帰ってきたわ。ガーディアンって、結構不定期よね、時間も日にちも。まぁ、慣れちゃったけれど。それにしても、貴方って、制服か私服か、時々わからないわ。どうせ、私服もそんなに持っていないんでしょう。あら、図星みたいね。
つい笑っちゃうと、彼は私の手を引っ張って外へ連れ出すの。まぁ、なぁに。そう言えば、お買い物中も人通りが多かったことを思い出す。何かお祭りでもあるのかと思っていたけれど。ルオスに尋ねると、“鎮魂祭”があるんですって。ふぅん。といっても、私にはわからないけれど。私の処の宗教祭り、“神期祭”みたいなものかしらね。街を挙げてのお祭りらしいし。でも“鎮魂”祭なんだから、きっとしっとりしているんでしょうね。
あら、思ったより賑やかね。でも、それなら着替えて、おめかししたかったわ。もう、ルオスって気を使うところを知らないのね。しかも、貴方も制服だし。まぁ、良いわ。そういうのも、面白いでしょう。人が多いから、手を繋ぐ。あ、前の旅行の時みたいね。あそこもそうだけど、此処も、微かに過去の匂いがあるわ。そのためのお祭りなのかしら。それじゃあ、ますます“神期祭”みたいね。
旅行の時の様に境界線に触れたくないし、ちょっと慎重になるわ。少しだけ不安だから、ルオスの手を強く握り返す。でもそれ以外は、素敵よ。通りもいつもより賑やかだし、お店も閉まっているから、ちょっと現実離れした雰囲気。人も多いし、人以外も居るみたいね。それとも、人の気持ちに引きずられた記憶なのかしら。
ふと、以前に挨拶した風の精霊っぽいお兄さんを見つける。あら、あの人も居るの。何をしているのかしら。と思ったら、彼と境界線が結びついている人達がいるじゃない。あぁ、兄弟なのね。私も兄馬鹿を一人、知っているわよ。あ、気がついた。そうそうぎょっとしないで頂戴。貴方の方が、イレギュラーなんだから。
私が見ている方向が気になったのかしら。ルオスが声をかけてくる。あぁ、大丈夫よ。気分が悪いわけじゃないわ。にっこり笑い返すと、彼はほっとした顔。そしてさっきまで見ていた方を見る。嬉しそうな顔をするのね。あら、知り合いの方?
ちょっと驚いたけれど、さっきまで見ていた人達だったの。あの風のお兄さんは、少し離れた所から様子を窺っている。いやね、貴方みないに危険な存在じゃないわよ。ある意味ではね。ルオスはその人達と話していたけれど、ふと、黒髪の女性(黒髪でストレート、羨ましいわ)がこちらを見る。あら、紹介してくれるの。こんにちは。
私が見ている方向が気になったのか、ちらっと風のお兄さんと目線を交わしたみたい。あら、貴女達も知っていたの。ふとそんな事を言うと、彼ら、ぎょっとしてこちらを見たわ。あら、酷い。貴女達みたいに、世界の中心と親しい人なら、私の事もわかってくれると思っていたのに。
ルオスは最後までよくわかっていなかったみたい。そうよね、貴方は不思議な祝福があるけれど、やっぱり普通の人だもの。でも、知らない方が良いわ。その人に合った能力、その人に合った場所があることは、最も幸せな事なんだから。
他にも色々な人と会ったわ。ルオスの部下だって言う人にも。確か、前に一度会ったわね。自然と≪魔女≫の特性で、彼らを見てしまう。あら、彼も世界の中心の関係者なのかしら。それも、雷電を差す“天河の煌帝”。そして、可愛らしい彼女ね。貴女も貴方と似たような感じだし。ある意味、ルオスって凄い人なのね。こんなに世界の中心に近い場所にいるんですもの。文字通り、“天国に一番近い男”よ。
彼らと別れた後は、トキちゃんを見かける。彼女をあんな可愛い笑顔にさせたのは、今一緒にいる彼が、そうなのかしら。でも、ちょっと待って頂戴。彼って、まさか、一士君に引っ付いている“神”様じゃない。あら、世間って意外に狭いのね。感心していると、少しだけ過去が見えた。でも、手を繋いでいるせいか、それほど怖くはないわ。そんな時、一斉に鐘が鳴りだす。まぁ、壮観。それからちょっともしないうちに明かりが消される。なるほど。皆が玄関に明かりをつける意味がわかったわ。そして、外へ出る事も。
幻想的で、素敵。神期祭を思い出すわ。感慨深く周囲を見回していたら、その時、珍しい物も見たのよ。女将さんはお店の外でのんびりしているけれど、その後ろ。あら、まぁ。まさか、あの時お墓に居たのはルオスじゃなくて、あの人なのかしら。少しだけ視線を上げて、ルオスを見る。そっくりよ。でも、あの人の方が、渋くて好み。視線に気がついたルオスが、苦笑して視線を返してくる。教えてあげるべきかしら。でも、それは女将さんにも貴方にも、あの人にだって、失礼かもしれないわ。秘密にして、私の心にしまっておくわね。』