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魔女の日記  作者: 和砂
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12ページ目


『○月×日 異世界三十四週目

 そろそろ9月も終わりねぇ。なんだか、寂しい気がするわ。今日もカウンターに座って、お客さんを待つ。ガーディアン拠点で出張パン屋さんをしたせいかしら。学院に近いパン屋さんだから、元々買い手も多かったけれど、お客さんが増えたような気がするわ。時々思うのだけれど、貴方達の上司のお家に買いに来るって、気まずくないのかしら。まぁ、ルオスがパン屋さんって想像しにくいし、別に私はどうでも良いんだけれど。

 もちろん買いに来るのは、学生さんも多いのよ。噂をすれば、ほら、レノアちゃん達。いらっしゃい、新作はそっちの棚ね。パンを選ぶ彼らを盗み見ていると、どことなく疲れた様子が見えるわ。最近、忙しそうね、貴方達。そう言うと、二人は苦笑する。あら、何かあるのかしら。聞いてみると、来月に学園祭があるって言うじゃない。まぁ、素敵!

 やっぱり異世界でも学園祭はあるのね、私も行きたいわぁ。一般人にも公開されるらしいから、是非見に行くわ。ルオスはきっとお仕事でしょうし、レクタでも誘おうかしら。あら、レクタもあそこの卒業生で、お祭りに関わっているの。それを聞いて、ちょっと心配になったわ。さて、誰と行こうかしら。』








『○月×日 異世界三十五週目

 夕方、女将さんとお店の後片付けをする。それにしても、女将さん一人で切り盛りするのって大変でしょうね。ルオスもお仕事上、お休みは不定期だし、アルバイト員も私とトキちゃんだけだし。女将さんって、つくづく凄い人だと思う。私のママとは正反対ね。ママは本当にお嬢様って感じだもの。でも女将さんも素敵だわ。

 さて、今夜も星を見に行く。占星術から読める事は、あちらもあまり変化がないみたいって事。お父さんも時々星を見ているだろうし、ママも魔女だからカードで占っているんじゃないかしら。

 それにしても、広い夜空ね。元の世界じゃ、ビルに囲まれて少ししか見えないもの。あ、今日は月が出ていたわ。月を眺めてしばらく、あら、ルオスじゃない。もうすっかり、私の行動範囲がわかっているみたい。悪戯心が湧いて、時折場所を変えようかしらって思っちゃう。

 折角ですもの、貴方もどうぞ。席を勧めて、今日はお茶も用意していたから、渡す。「準備が良いな」ですって。もちろん。日課になっているんだもの。それに、月の下でお茶会って素敵じゃない。

 でも、貴方と話そうと思っても、何を話せばいいのかしら。折角一緒にお茶をしているんですもの、無言じゃ寂しいわ。そうだ、貴方の日課について教えてくれないかしら。これなら、きっと……えぇと、ない、の?

 女将さんのお手伝い、ね。うん、素敵よ。大丈夫、立派な事だわ。ただ、ちょっと、お話の内容としては返答に困るだけよ。あら、不満顔ね。仕方ないじゃない。私、そういう時にどう言って良いかわからないのよ。え、私はどうか、ですって?

 うーん、そうねぇ。日課だったら、星を見ることでしょう、カードで占ったり、…元の世界だったら、worldっていう、アバターを使用したゲームとか、ドラマを見たり、素敵な映画をチェックしたり、今度の週末は背伸びして、上品なお店に食べに行きたいなぁとか。まぁ、そんな所ね。

 えぇ、そうよ。娯楽が沢山。街も、ここよりもっと大きくて、もっと高い建物がびっしり。空もそれで区切られているみたいで、上を見上げると、水中から空を見ている感じ、よ。ご想像通り、ちょっと、窮屈な感じね。

 あら、興味があるの。もし、貴方がこちらに来たら、是非とも案内したいわ。だって、ずっとお世話になりっぱなしだもの。少しは恩返ししたいし。

 じゃあ、貴方が迷子にならないように、今日は、私の住んでいる所についてお話しましょう。』








『○月×日 異世界三十六週目

 異世界9ヶ月目よ。もう、ほぼ一年じゃない。驚いちゃうわ。こんなに長期間、別の場所に居るなんて、珍しいわよ。いつもみたいに白い空間じゃないし、女将さんやルオス、トキちゃん、レノアちゃん、クウハちゃん、それにレクタみたいな親切な人もいて楽しいわ。帰るのが惜しくなっちゃうわね。泣いちゃうかも。

 今週は、お父さんの誕生日。流石にここじゃあ、お祝いも出来ないけれど、この日には必ずすることがあるのよね。

 夕方、服職人と噂の、レクタの家のメイドさん、パルータさんに頼んでいた物を引っ張り出す。借り物だから、扱いは丁寧にしなくちゃ。着替えて、それから、即席で作った扇子を取る。あら、ぴったりじゃない。ちょっとスリットを深めのモノを選んだから、行動は慎重にしないと、見えちゃうわ。念のために足にも包帯を巻いておく。靴擦れすると、型が崩れて、格好悪くて、駄目なのよ。

 よし、大丈夫。早速庭に出てみる。周囲を見回して…よし、誰もいないわね。いつかお父さんに披露しようって、まだ練習途中なんですもの、見られたら恥ずかしくて、恥ずかしくて。さて、気を引き締めて、息を吸う。夕日が綺麗ね。私の家の、庭の牡丹の様。お祝い事にはあの花が欠かせないから、夕日の赤は気分が良いわ。意識を変えると、すっと身体が動くのね。お父さんの動きを思い出して、腕を伸ばす。あぁ、しまった。つい、扇子に鈴をつけていたわ。足を踏み出して舞う度に、涼しげな音がする。一度回転して、ぴたりと止まる。そのまま流れるように腕を動かして、手を翻して扇子を回す。また、綺麗な音。まぁ、良いわ。女将さんぐらいなら見られても…………て、ルオス?

 あまりの事に、扇子を取り落としてしまったわ。貴方、今日は遅いって言っていたじゃないの。思わず泣きそうになる。ちょっと視線を外すと、レクタが「わー☆」と拍手していたわ。それから、トキちゃんも。拍手を有り難う。お世辞でも嬉しいわ。でもね。………見られたくなかったのよぅ。』



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