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魔女の日記  作者: 和砂
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11ページ目


『○月×日 異世界三十週目

 8月も終りね。でもやっぱり暑い日が続いている。本当、学生さんも、見回りしているガーディアンも、ご苦労様だわ。外を通りかかる人を見る度に思うわよ。

 外の暑さに目を細めると、お客様がやってくる。て、なんだ。レクタじゃない。随分と久しぶりな気分だわ。旅行はどうだったかって、お土産を渡す時に言ったじゃない。楽しかったわよ。あら、なぁに、その変な笑顔。

 あぁ、そうそう、ルオスへの贈り物の時は助かったわ。折角貴方に助けてもらったけれども、今は、あまり時期が良くなかったと思うのよ。しゅんとして言うと、彼は苦笑する。

 ルオスとも付き合いが長いだろうし、知っていたわよね。気にすることないって言われても、ちょっと無理よ。私は、自分の馬鹿さ加減に呆れているの。で、用件は何。生憎ルオスは、連日お仕事が忙しくて、帰ってきてないわ。何なら、お弁当届けるついでに伝言しましょうか?

 申し出た私に、彼はモテキャラらしからぬ事を尋ねてきた。ちゃっかりしているから、もう知っていると思っていたけれど、私の誕生日なら、来月よ。女将さんもトキちゃんも知っているわ。レノアちゃんや、私の事苦手にしているクウハちゃんもお祝いしてくれるっていうから、私も楽しみよ。貴方もお祝いしてくれるの? ありがとう。』








『○月×日 異世界三十一週目

 9月に入ったけれど、月初めは暑いのね。カウンターでお客さんを待っている間、ちょっとだけ欠伸をする。良い天気なんですもの、眠くなっちゃうわ。あまりに暇だったせいか、トキちゃんも窓際でうとうとしている。ルオスはお仕事が忙しいみたいだけれど、こっちは平和ねぇ。

 三度目の欠伸をして、身体を伸ばす。あら、レクタ、いらっしゃい。パン屋の入口で突っ立っていても、相変わらずハンサムね。でも、暑いからドアを閉めて頂戴。冷気が逃げるわ。気温が暑くて、レクタも頭がどうにかなってしまったんじゃないかしら。さりげなく腰に手を回さないで、暑いのよ。

 どうやら居座る気らしい色男に、仕方がないから、トキちゃんと私、レクタの分のお茶を出す。もちろん女将さんにも用意したけれど、気を使ってもらっちゃって、三人で話しているの。といっても、私はレクタに用はないわよ。あら、酷いなんて言わないで。貴方って、言動が不一致で油断ならないし、気まぐれに女の子を口説く以外の用件がわからないのよ。それも本気じゃないし。

 あら、誕生日のお話なの。ルオスには言ってないわよ。だって、催促しているみたいじゃない。そう言うと、レクタは嫌に良い笑顔で頷いている。

 …一体なんなの?』









『○月×日 異世界三十二週目

 異世界八ヶ月目。このあたりになると、随分過ごしやすくなってくるの。私の誕生日も、丁度この週よ。

 誕生日には、お昼にパンを買いに来たレノアちゃんやクウハちゃんに、お祝いを貰ったわ。あら、可愛い。文房具なんて貰うのは久しぶりよ。やっぱり学生って良いわね。有り難う、大切に使わせて頂くわ。そうして二人にキス。あらら。どうして慌てているの?

 たまに仕事場に泊り込んでいるから今日もそうかと思ったら、その日の午後にルオスが帰ってきた。早いお帰りね、珍しい。それに、レクタもいるじゃない。夕飯をご馳走するなら、準備しなくちゃ………て、あらら? トキちゃんに女将さんが台所から出てきて、もぅ準備が終わっているみたい。お誕生日だからって、気を使わせちゃったかしら。

 その後、皆でテーブルを囲んで、お夕食。いつも女将さんとルオスと三人だから、賑やかね。そんな事思っていると、レクタにさくさくと席に着かされた私。あら、皆どうしたの。きょろきょろとしていると、レクタが大きな包みを渡してくれる。「お洋服よ☆」って言われたけれど、つい、「セクハラ?」って言っちゃったわ。だって、どうしてサイズなんて知っているのよ。「俺の特技☆」って言われたら、ますますセクハラっぽいじゃない。感情の露出が多い方が良いなんて言わないけれど、やる事なす事、嘘くさいのよ、貴方は。

 次はトキちゃん。お菓子なのね、美味しく頂くわ。それに、お料理も女将さんを手伝ってくれたんでしょう。ありがとう、ありがとう。私、妹が欲しかったのよね。残念ながら、可愛らしい愚弟しかいないけれど。トキちゃんってあまりしゃべらないけれど、とっても良い子で、可愛いのよ。思わずきゅーって抱きしめる。本当に、有り難う。嬉しいわ。

 それから女将さん。手作りのカーディガンだなんて、まぁ、びっくりよ。知っていたのか見かけたのか、ルオスが納得したような素振りをするのも見ちゃったわ。「ここはあんまり気温の変化はないけど、夜は結構冷えるからね。女の子なんだから、体を冷やさないようにね」ですって。まぁ、感激。お夕飯もとっても美味いし、私、すごく嬉しいわ。女将さんに抱きついて、キスをする。

 三人から贈り物を貰って、ご満悦の私。だけど、ルオスには教えていなかったから、彼は気まずいかもしれないわ。そうしてちらりと彼を見ると、あら、何かを差し出してきた。どうやら、プレゼントらしいじゃない。驚くってものじゃないわ。まぁ、知っていたの!?

 どうしてと尋ねると、レクタが「うふふふふ、レイナちゃん。甘いわ☆」って言うの。貴方ね。セクハラよ、セクハラ。ちょっとむくれると、「嫌ねー、レイナちゃんったらっ。何もスリーサイズ教えたわけじゃないじゃない」と、笑顔で言うじゃない。まぁ、まぁ。頭に来て、背中をぽかぽか殴ってやったわ。それでも笑ったりするだなんて、余裕があるじゃないの。むかつくー。

 一通り照れ隠しも済んで、気を取り直した私。折角のプレゼントですもの、わくわくして開けてみる。あら、可愛いネックレス。ちょっとアンティーク風なのも良いわ。でも、堅物で通っている貴方が買ってくるだなんて、想像がつかない。似合わない買い物をしたのね。想像して、思わず苦笑する。

 早速、こっそりつけていた首の鎖を外したわ。金の細鎖で出来たそれは、シェイラン家――私のお父さんの実家――での、婚礼の証になるもの。もちろん大切なものだけれど、それよりもルオスの気持ちが嬉しかったし、今はまだ使わないものだもの。思い切って外しちゃった。

 あら、ネックレスをしていたのには、気がつかなかったのね。ちょっと困った顔が、面白いわ。ルオスからの贈り物をつけてみる。まぁ、とっても素敵よ。「似合う?」って尋ねたら、ほっとしたように笑ったわ。それから、頷いてくれる。

 えぇ、とっても満足よ。嬉しかったから、笑顔で彼らに答えたわ。皆、ありがとうっ!』








『○月×日 異世界三十三週目

 それから、ずっとルオスの贈り物を身につけているんだけれど、彼、変な顔をするのよ。たぶん、照れているのね。女将さんのカーディガンだって、星を見に行く時に、大助かり。すっかり愛用しているわ。レクタから貰った服だけれど、あれは大切な時にしか着ないの。だって、素敵な物なんですもの。

 それと、レノアちゃんとクウハちゃんに貰ったお祝いは、有効に活用させて貰っているわ。お昼時なんかは特に。

 この前思いついた事だけれど、ルオスにお弁当を届けるついでに、ガーディアンの拠点で出張パン屋さんをすることにしたの。女将さんにも許可を貰って、良い考えでしょう? 問題があるとすれば、そこの人の数。皆訓練後でお腹をすかせているから、ちょっと怖いぐらいよ。それでこっちは、必死でメモを取るのよね。この人にはこれ、あの人にはこれって具合に。ふぅ、今日も大変だったわ。一息ついた処で、前に誘拐された時に助けてくれた人達と会うんだけれど、私、もう無茶してないわよ。』


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