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魔女の日記  作者: 和砂
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10ページ目


『○月×日 異世界二十七週目

 だんだん暑くなって来ていたのはわかっていたんだけど、今日は特に暑いのね。思わずカウンターにへたれちゃう。あら、レノアちゃん、クウハちゃん、貴方達も涼みに来たの?

 それからしばらくお話をして気を紛らわしたんだけど、近々慰霊祭があるって言うじゃない。ええと、昔、この街であった暴動で亡くなられた人を悼む行事らしいわ。ふぅん。私もお花を用意しておいた方が良いのかしら。落ち着いた服だって、持ってないのよね。でも、肝心なのは気持ちでしょうし、女将さんに相談してみましょう。そうして聞いたら、…え、ルオスのお父さんも、そう、なの?

 まぁ、どうしましょう。私ったら、いくら知らなかったとはいえ、そんな。あんな事、するんじゃなかったわ。しかも、その日はお店もお休みだっていうじゃない。お仕事もないだなんて、ますます身の置き所がないわ。あぁ、どうしましょう。

 しばらく悩んだけれど、とてもその日は一緒にいられないわ。だから、やっとの思いで手紙を書いたの。ええと、“しばらく出掛けます”って、これで良いのかしら?』








『○月×日 異世界二十八週目

 週の始まりがお墓だなんて、縁起の良い物じゃないわね。あまり人が来ないから静かだし、考え事をするには丁度良いかもしれないけれど。しかし、私もよくやるわ。いつも星を見に行くときに使っていた籠の中には、日記とペン、それから少しの食料品。今はお昼間だから畳んでいるけれど、防寒用に黒い外套も持っているのよね。あんまりお腹が空かないから、食料品は減っていないけれど、野宿しているから外套は大切なの。暖かい季節で良かったわ。いくら年中温暖な地域だからって、冬だったら、凍死しちゃうかも。

 お墓に人は来なかったけれど、カラスや猫ちゃんやワンちゃんみたいな、動物は沢山いるのよね。仲良くなったから、皆に食料を分けてあげる。だから、ちょっとだけお願いを聞いて頂戴。私はよく知らないから、お墓に供える花を教えて欲しいのよ。すると猫ちゃんが白い花を持ってきてくれるじゃない。あら、有り難う。でも、私は持って行けないのよね。困っていると、カラスがそれを咥えて何処かへ飛んでいってしまった。まぁ、届けてくれるの?

 皆の気持ちは嬉しいけれど、私、今、とっても悲しいの。せめて慰霊祭がもっと先だったら良かったのに。ルオスの誕生日のすぐ後だなんて、最悪だわ。そんなつもりじゃなかったんですもの。一生懸命頑張って、ルオスに喜んでもらえたと思ったのに、そんな気持ちも萎んじゃうわ。ルオスのお父さんだって、こんな時期に亡くならないでくれれば良かったのに。第一、ルオスのお父さんでしょう。強かったと思うわよ。

 もぅ、駄目ね。死者の悪口を言うだなんて、それも、お墓で。あぁ、ごめんなさい。すっかりしゅんとなって、私はお墓の外れに座り込む。せめて慰められるような真似が出来れば良かったわ。私は魔女だから、あまり人に関わることがないの。それに、唯一弾ける二胡だってないから、音で慰めることも出来ないわ。

 私に出来るのは、せいぜい、気不味さから逃げることと、ワンちゃんや猫ちゃんの頭を撫でることぐらいよ。ふぅ…慰霊祭、早く終わらないかしら。お墓の人だって、私が居るから、きっと居心地が悪いでしょうし。

 でも、不思議。死者を悼む人の気持ちで、境界線って微妙に変化するのね。いつもは動かないそれも、時期が時期なのか、今は少しだけ位置を変えているわ。それをじっと見ていると、誰か、人の気配がするの。ちょっと目を上げてみると、木の陰に青い髪。ルオスかしら。長く家を出ていたものね。

 ―――謝りましょう。女将さんにも言わなくちゃ。猫ちゃん達にお別れを告げて、立ち上がる。それから、木の傍まで歩くけれど、あら、居ない。家に行ったのかしら。顔を合わせるのは、今も気まずいけれど、やっぱりきちんと謝りましょう。いつまでも逃げていても、先には進まないって、お父さんも言うだろうし。

 それにしても、ルオスって、足が早いのね。さっきまで居たと思ったのに、影も形もないわ。何だか釈然としないけれど、お家まで戻ってみる。

 あら、やっぱりルオスじゃない。家の前で待っているだなんて、意地が悪いわ。あ、こっちを見た。今気がついたばっかりという演技は止めて頂戴。貴方、お墓まで来ていたじゃない。何だか良くわからないって顔しているけど、まぁ、いいわ。合わせてあげるわよ。でも、居なくなったからって怒るのは、変よ。きちんと手紙を残しておいたわ。え、なぁに。“家出”?

 嘘。私、そんなつもりで書いたわけじゃないわ。ちょっと、見せて。…んー。たぶん、書き間違いみたい。そんなに、ガクッてしないでよ。わざとじゃないんだから。

 それよりも、ごめんなさい。折角プレゼントしたのに、貴方には嫌な思いをさせちゃったわ。あら、なぁに、その顔。私は真剣に言っているのに。でも、ともかくごめんなさい。』








『○月×日 異世界二十九週目

 うっかりしていたけれど、前の週で異世界七ヶ月目だったのね。ふぅ。やっぱり半年過ぎてしまうと、もうどうでもよくなるわね。それに、それどころじゃなかったし。がっかりしすぎて、今は全然力が入らないわ。カウンターで接客するだけで精一杯よ。あら、レノアちゃん、クウハちゃん、こんにちは。まだ、暑いわね。学生さんは大変でしょう。でも、夏もそろそろ終わりですもの。9月に入ったら涼しくなるわよ。9月といえば、私の誕生日なのよね。あら、祝ってくれるの? ありがとう。

 次の日には、トキちゃんとお買い物に行ったわ。二人で出掛けるのも、珍しいから、つい、はしゃいじゃったわ。お買い物ついでに喫茶店に寄ってみたり、遠目にガーディアンを眺めてみたり。うん、悪くない。さて、そろそろ帰りましょうか。

 帰り際、通りを歩く女性を見たの。この暑い中で涼しげな髪の色。ルオスのより薄い色合いだったわ。それも、美人で、目の保養。

 けれど、彼女もトキちゃんと同じ、私の世界の境界線が絡み付いている。なんて言うのかしら、トキちゃんのモノより、執念を感じるわ。ちょっと、あまり触れたくはない感じよ。何だか見たことがあるような感じも、何となく気分が悪い。力在る者とでも関わっているのかしら。思わず振り返って見てしまったわ。』



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