6話 友達と親友
今回は真面目回です。
「まつり~、ちょっとゆかりちゃんを見てきてくれないかしらぁ?」
「もぐもぐ…ごくんっ…ほえー? お姉ちゃんがどうかしたの?」
「朝ご飯が出来そうだから、呼びに行ったら、ローリーだかロールーだかが怖いって言って、お布団を被ったまま出てこなかったのよぉ」
「んー? ローリー? 確か、そんな飲み物があったような…。…異世界の神の使徒だっけ…? …そういえば、パパはまだ出勤しないで大丈夫なの?」
「む、すでに遅刻気味なのだが…。昨夜の微妙に怯えたようなゆかりが気になってな」
「はー、お姉ちゃんの部屋に行ってくるから、ママはそのかき混ぜてる卵を、スクランブルエッグか卵焼きにでもしときなよ? パパは、遅刻なんてしたら、色々な人に迷惑かけるんだから、そろそろ会社に行ってね」
「わかったわぁ。ゆかりちゃんをお願いねぇ」
「うむ、任せたぞ。まつり」
コンコンコンッ
「やー、お姉ちゃん、どうしたのかなー?」
ノックをして妹の祭が部屋に入ってくる。
もぞもぞ動いて、被ってる布団の中から顔だけ出す。
「…学校行きたくない」
昨日あった出来事を思い出す。
変なお嬢様には目を付けられるし、担任は変だし、止めにクラス全員引き連れて歩くという目にあった。
「んー、学校で苛められちゃった?」
ベットに腰掛けて、丸まってる俺の背中を撫でながら、妹が優しく問いかけてくる。
あれは苛めと言うより、恐怖体験に近い気がする。
自分の常識とあまりに違う出来事と、初めての体験によくわからない恐怖を感じた。
「苛められては…たぶん、ない」
「そっか、苛められてはないんだ」
「うん」
「でも、嫌な事はあった?」
「…嫌な事って言うか、吃驚したって言うか…なんとなく行くのが怖い」
友達が一人も居ない中で、昨日みたいな目にあうのは不安だ。
「んー、吃驚したって事は、誰かと何かあったんだと思うんだけど、もしかしたらお姉ちゃんの勘違いかもしれないよ?」
昨日の何を勘違いするというのだろうか。
「嫌な事って断言しないなら、今日だけ頑張って行ってみない? 今日行って嫌な事ってわかったら、学校行かなくても良いし、転校とか考えようよ」
平穏に勉学に励みたいだけなのに、昨日みたいに吃驚体験があるかもと思うと、不安はあるけど…。
年下である妹が、優しく諭すように元気付けてくれる。
俺のほうが年上だし、今はお姉ちゃんなんだから、頑張らなきゃって思いが湧いてくる。
俺の知ってる兄弟って言うのは、上が下を守るものだ。
「…ん、今日だけ頑張って行ってみる」
「うん。パパやママに私も、お姉ちゃんの味方だからさ。今日だけ頑張って。でも、無理はしなくていいからね」
母にも負けないほどの笑顔で見つめてくる。
家族って、姉妹って良いものだ。
「それにさ、案外お姉ちゃんと仲良くなりたいだけだったかもしれないよ?」
そうだったら良いなぁ。
妹よ、お姉ちゃんは駄目だったよ。
妹に元気づけてもらい、周りに警戒しながら登校したまではよかった。
教室に入り、素早く自分の席につこうとしたら、右隣に座る御堂さんに捕まり抱っこされてしまった。
昨日後ろの席に座ってたはずなのに、なぜ巻物お嬢様が右隣に!
「大日さんを守ると誓ったので、何時でも守れるように抱っこしているのですから、大人しくしてくださいな」
すごく楽しそうな声で状況を説明してくれる。
良かったですね。お嬢様。と声を合わせて此方を見守る取巻きA&Bさん。
俺の席の左隣にAさんが、後ろの席にBさんが座ってる。
昨日は、左右は男子で後ろがお嬢様だったはずだ。
朝からクラスメイトの女子に抱っこされるとは、想像の外の事だ。
甘くて良い匂いに、座ってる太ももがむっちり気持ちよく、後頭部のクッションも柔らかな感触が素晴らしい。
このような夢心地、予想外すぎる!
これは危険だ!と俺の理性が叫んでいる。
「う、にゅううぅ」
危険な夢から逃れるべく、降りようとジタバタするが、抱っこされてると足がつかず、逃げられない。
そんな俺の様子を見て、取巻きAさんが声をかける。
「お嬢様、大日さんは嫌がっているのでは…?」
「まさか!? そ、そうなんですの?」
驚愕と動揺というタイトルが相応しい声で問いかけられる。
同級生に抱っこされて、嫌がらない人は居ないと思うんだ。
「出来れば…やめて欲しいかと…」
答えると、拘束が緩んだので、抜け出して自分の席へ座る。
そっと御堂さんの方を見てみると、虚ろな目をして真っ白な顔になっている。
どう見ても落ち込んでる。
あれ、俺が何か悪い事をした気分になるんですけど…。
昨日の事を考えると、最初は嫌味を言われたけど、帰りには守ろうとしてくれたよね。たぶん。
クラスを扇動して担任を撃沈させたり、自宅まで来ようとするのは行き過ぎだと思うけど。
そういえばさっきも、守る為だとか言ってたな。
もしかしてこれは…。
妹に今朝言われた事もあり、聞いてみる。
「えっと、御堂さん。友達になりたい…」
の?と言い終わる前に、御堂さんが顔を目の前まで近づけてくる。
目が少し血走ってて怖いです。
「お・お・お・おお・おひるさん、本当ですの!?」
いえ、今は朝です。
御堂さんの迫力に押され、無意識に首を縦に振る。
「「おめでとうございます。お嬢様」」
取巻きA&Bさんが、同時に祝辞を贈る。
んと…友達ゲットだぜ?
御堂さんと和解してすぐに、天之先生が教室にいらっしゃった。
そして、普通に朝の出席確認を始める。
今日はちゃんと、返事は「はい」と言えました。
返事をした時の先生の笑顔は、故意的に見ませんでしたとも。ええ。
昨日の今日で平然としてる担任とクラスメイトに感心しつつ、ぼーとしてると気になる名前が呼ばれた。
「瀬田」
「はい」
返事をした方を見ると、元気のなさそうな男子が居た。
俯いて、暗い雰囲気を纏わせているが、あれは間違いない。
俺の心の友こと、親友の信幸ではありませんか。
同じ高校なのはわかってたので、暇を見て捜そうと思ってたが、同じクラスだとは思わなかった。
昨日は気づかなかった。すまん、親友。
出欠確認が終わり、信幸のところへ行こうとすると、御堂さんから声をかけられる。
「大日さん、お友達になったのですし、色々お話しませんこと?」
キラキラした目をさせ、此方を見てくる。
そんなに嬉しそうにされると、断れない。
焦らずとも、信幸と話す機会は後であるだろう。
新しい友達が出来て嬉しい。嬉しいんだけど、女友達ってべったりしすぎじゃない?
休み時間になるたびに、声をかけてくる。
「大日さん、写してない分は私のノートをお貸ししますわ」
「その練習問題はこう解くといいですわよ」
「大日さんが答えられない問題を指すとは…。あの教師、許せませんわね。あ、先程の答えはこの箇所ですわ」
ノートを貸してくれたり、問題の解き方を教えてくれたりは嬉しいんだけど、ずーと横から笑顔でニコニコしながら見られると、緊張します。
放置して信幸に会いに行くほど、度胸もないし。
さらに、トイレに行こうとすると、何故かついてくるんですよ。
女子トイレが全部個室とはいえ、知り合いが居ると思うと緊張してしまう。
友達付き合いに詳しくないとはいえ、御堂さんのべったり具合は、ちょっと行き過ぎじゃないのかと思う。
取巻きA&Bさんもセットでついてくるから、尚更疲れるんですよ。とほほ。
このままでは、信幸と話す機会がなくなるのではと焦った俺は、昼休みに信幸と話そうと決意する。
「大日さん、一緒にお昼を食べましょう」
「あ、ごめん。ちょっと用事があるので、無理」
んが、と言う擬音がぴったりの口の開け具合で固まる御堂さん。
速攻慰めに回る取巻きズ。
ちらっと目を教室内に移すと、信幸が教室を出るのが見える。
御堂さんには悪いけど、今は追いかけねば。
一応お弁当を持って、信幸を追いかける為に教室を出る。
さてはて、どう声をかけたものか。
一人食堂に向かう背中を発見。
俺の転生云々の状況を、人前で説明すると痛い子決定なので、まずは人気がない場所へ連れて行かねば。
昨日の開かない屋上扉前の階段でいいか。
「えーと、瀬田くん、ちょっとこっちに来て」
「へ?」
手を取って強引に引っ張る。
俺が手を引きながら歩くと、何も言わずについてくる。
もっと抵抗されると思ったが、なんだか元気がないな信幸。
目的地に着いてすぐに、溜まってた言葉を吐き出す。
「信幸、俺だよ、俺俺」
「えっと、何処の口座に入金すれば?」
口座?
自分は隆一アピールから、口座の話になる不思議。
「オレオレ詐欺なら入金しないとまずいかなって」
「直接会って目の前で、オレオレ詐欺をするアホが居るかーー! てか、詐欺なら入金するなぁーー!」
頭が良い爽やか男子の面影すらなく、どんよりしてボケている!
こんなアホな会話をする為に、此処に来たんじゃないのだ。
「俺だよ、相模隆一だよ」
「ん…そういう冗談は好きじゃないんだけど…」
信幸の顔がはっきりと曇る。
冷静に考えると、いきなり知らない他人が、私死んだ親友です。とか言ってきたら、悪い冗談としか思えないか。
「信じられないかもしれないけど、順序だてて話すから聞いてくれ」
俺を険しい目で見つめたままだが、聞く気はあるのか、じっとしている。
そんな信幸に、階段に座るように勧め、俺も隣に腰をかけ、入学式の日の事故の後に何が起きたかをゆっくりと話した。
話を聞き終わり、お弁当も食べ終わった信幸は、深く思考する為か目を閉じている。
やつれてる訳じゃないのだが、あまりに元気がないというか、覇気がないというか…。
心配になって、俺用のお弁当を無理やり食べさせたのだ。
「ロリ神とか…ありがちな展開だけど…。ちょっと確認していいかな?」
考え終わったのか、目を開き質問を始めた。
「恐怖のプールと言えば?」
「…小六の時、プールの授業で着替えようとしたら、俺の水着が女子用のになってて、名前のところも『さがみりゅういち』と書かれていた」
名前を書くところは、水着と一体になっていて、名前部分だけ取り替えるのは相当難しい事から、俺の名前だったと言うことは、おそらく新品だったはず。
俺の水着を隠すだけじゃなく、女子用に換えるという、小学生にしては凝りすぎた苛めの方法だった。
当時の担任の女の先生も、それ着て授業受けていいよーとか言いやがるし。
「魔のホワイトデー」
「中二の3月14日に、俺の下駄箱にラブレターが五個入ってた。男子からの…」
バレンタインのお返しに、女子に何か渡す日だろうに、朝下駄箱開けたら五個の封がされた手紙が入ってたのだ。
もしかしたら、女子からの手紙かもしれないと、中身を全部確認したのだが…一個見るたびに、恐怖に震えたのは言うまでもない。
念の為に言うが、間違ってもバレンタインに俺は男子に何か渡したりしてない。
「慟哭の卒業式…」
「……中三の卒業式の日の朝…不良グループのリーダーから告白された…」
卒業式の日に、目を付けられてた不良グループに、朝体育館裏に連れて行かれ、そこでリーダーの男子から告白されたのだ。
思わず絶叫しながら、教室に逃げて、信幸にその時の絶望を聞いて貰ったっけ。
年が上がるごとに、苛めの内容が物理的じゃなく、精神的なものになっていったが、あれはきつかったなぁ…。
「そう言えば、あの時は卒業式前なのに、不良グループのリーダーを殴りに行ってくれたんだっけ」
「あぁ、彼はね…。さすがに、人として越えちゃいけない線を越えようとしたからね。僕も焦って冷静になれなくて、殴りに行ったんだっけ」
「ん、今更だけど、ありがとな」
俺の為に、苛めた相手を殴りに行ってくれたのは、友達として嬉しかった。
「隆一」
「信幸」
お互いに手を出して、ガシッと握手をする。
人と人が解り合うというのは、素晴らしい事だ。
「はぁ、しかし女の子になっちゃうとはねぇ」
「転生条件に性別は入れてなかったからな。迂闊だった」
「それで、僕に打ち明けてくれたって事は、また友達として付き合ってくれるって事でいいのかな?」
「もちろん、親友としてよろしく頼む」
前世での唯一の友人で、気心の知れた信幸は貴重な存在だ。
縁さんというフィルターを通さないで話せるのは、信幸しかいないだろう。
信幸と解り合った事で安心し、つい余計な事を呟いてしまう。
「俺ってこのままでいいのかなぁ」
「ん? どういう事?」
「あ、いや。…なんとなく、このまま縁さんをやってていいのかなって、なんか騙してるようで…」
家族とか周りは、俺のことを大日縁として見る筈だ。
だというのに、中身は別人の俺なわけで…。
「それは、周りに俺は相模隆一で、別人ですって言いたいってこと?」
「周り全員にとは言わないけど、せめて家族くらいには言うべきかなぁって」
信幸が、天井を見ながらうーんと唸り腕を組む。
「それってつまり、貴方方の娘は亡くなりました。自分は別人ですって言うって事だよね」
「そうだな」
「で、言ってどうするの?」
言ってどうするって、騙してみるみたいな物だから、言わなきゃ駄目だと思うんだが。
「言ったところで、縁さんは生き返らないし、隆一は別人になるわけじゃない。そもそも、そんな話信じてもらえないかもしれないし」
確かに、あの家族の場合『やー、今度は別人設定なんだねー』とか『わかったわぁ。男の子用の服を買いに行きましょう』とか『ふむ、男子の心得を教えればいいのかね』とか言って、別の意味で信じてもらえなさそうだ。
「こういう言い方はきついかもしれないけど、家族に転生の事を言うのって、隆一が楽になるだけで、家族は悲しい思いをするだけじゃないかな」
「そう…かな」
「言って楽になりたいって雰囲気がするよ。もう縁さんとして生きるしかないんだから、余計な事を考えずに、自分らしく大日縁って言う人生を生きればいいんじゃないかな?」
そうなのだろうか。
あまりにも俺に都合の良すぎる解釈に聞こえる。
「それが一番なのかな…?」
「さぁ?」
「はぁ!? さぁってなんだよ!」
真剣に聞いてるのに、さぁとか酷すぎる。
俺の親友は、こんなに適当な奴じゃなかったはずだ。
「神ならぬ身だからさ、何が一番なんてわからないよ。ただ、悩んで不幸になるよりも、適当にやって皆で幸せになる方がいいと思ったんだ。もし家族の人に言わなきゃいけなくなったら、その時言えばいいと思うしね。先延ばしはうちの国の伝統だよ?」
それは、悪しき伝統だと思う。
だけど、信幸が、悩んでる俺を思って言ってくれてるのは痛いほどわかる。
今は信幸の言う事を素直に聞いておこう。
昔から変わらぬ、心強い親友の言葉を胸に刻み、前向きに頑張っていこう。
前向きに人生頑張ろう、という決意をした後に言うと恥かしいが、普通の悩み事を相談せねば。
「前向きに今後の人生頑張ろうと思うんだけど、相談があるんだ」
此方を向き、言葉を待つ我が親友。
コホンと咳をし、居住まいを正す。
「あー、女の子として、どう行動していいかわからないから、アドバイスやフォローを頼みたい」
前向きに頑張ろうにも、俺ってば基本が15歳思春期男子なわけですよ。
何も考えずに居ると、見た目美少女、中身男の子という、変人の出来上がり。
女の子として頑張る。ということに、まだちょっと…いや、かなり抵抗はあるが。
「わかったよ。とりあえず、俺って言うのはやめたほうがいいと思う」
「ん、わかった。一応普段から私って言う様にしてる」
「んー、後は、何があるかなぁ」
此方を見つつ、腕を組み立ち上がって、階下に向かいながら考えてるようだ。
階段に座ってる俺から見下ろす位置まで下がると、ピクっと体を震わせ止まる。
真剣な顔で、じーと俺を見つめてくる。
あまりに真剣なので、俺も真剣な顔になってしまう。
「とりあえず、足は閉じた方がいいと思う」
「ん、そっか、わかった」
言われたとおり、左右に開いてた足をピタッと閉じる。
信幸は未だ真剣な表情で、此方を見つめている。
…何か引っかかる…。
おもむろに、再び足を開く。
ビクっと体を震わせ、此方を見続ける親友が一人。
そして、足を閉じる。
「…」
「…見たな?」
ビクンっと、先程以上に震える友人が居る。
「ち、違うんだ! 誤解だよ! 普段はこんな事絶対しないけど、隆一だからって、つい油断して魔が差したって言うか、同級生の可愛い子が、無防備で居たら、見ないと失礼って言うか、いや、水色と白の縞々模様なんて見てない! 見てないよ!」
延々と言い訳を口にする男子一名を生暖かい目で見守る。
俺の親友は、女子のスカートの中を覗く様な奴ではなかった。
ここであることに確信を持つ。
転生してから、ドレスや下着、ロールや担任等、俺の常識が通用しない事が多々あった。
「あんのロリ神めぇえ、異世界だかパラレルワールドだか、別の世界に転生させたなぁぁ!!」
『それは冤罪じゃ!?』と言う声が聞こえるが、もちろんスルーだ。
そんな事より、昼休みも終わるし、そろそろ目の前の、この世界の親友を元に戻して教室に戻らねば。
母を見習って、あの手で行くかな。
教室に戻ると、御堂さん+2が迎えてくれる。
「大日さん、ずいぶん遅かったですわね。もう昼休みも終わってしまうので、お話できず残念ですわ」
「御堂さん、ごめん。思ったより時間がかかっちゃった」
席に着こうとすると、さり気無く椅子を引いてくれる取巻きAさん。
そんなAさんが、教室の出入り口の方を見て、何かに気づいたように声を上げる。
「おや? 今のは瀬田?」
Aさんの言葉に、Bさんと御堂さんが反応する。
「瀬田君がどうかしたのですか?」
「彼が昼休み終わりぎりぎりに戻るのは珍しいのと、左頬に真っ赤な手形があったような気がして気になりまして」
「大方、女子のスカートでも捲って引っ叩かれたのですわ。放って置きなさい」
こうして昼休みは終わったのだった。
午後も平和に授業が終わり、帰りのHRも問題なく済み、最後の罠を警戒していたのだが。
「申し訳ありません。私、お稽古事がありまして、大日さんを護衛できませんの。今日は特に気をつけてご帰宅なさいませ」
と言う事を言って、素早く帰っていったので帰りも平穏そうです。
久しぶりに、親友と帰宅しようと思い、信幸の席に向かう。
まぁ家の方向が違うので、一緒に帰宅はすぐに別れることになるのだが、一緒に帰宅したという気分が大事なのだ。
「信幸、一緒に帰ろうー」
「あぁ、大日さん。うーん、今日は部活に顔を出そうと思ってたんだけど、どうしようかな」
「部活かぁ」
そういえば、高校なんだから部活があって当然だな。
勉強の事しか考えてなかったが、部活動か。
「おや、部活動に興味があるネ? 大日サン」
部活について思案してると横から声をかけられる。
「やぁ、菩比さん」
「ハイ、瀬田君、クラスの男子があえて手を出さない今がチャンスと見たネ? 男の娘との傷は癒えたようで、ヨカタネ」
男の子との傷ってなんだろう。中学の卒業式前の喧嘩のかな。
それを知ってるということは、同じ中学出身者だと思うのだが、俺はわからなかった。
友達一人しか居なかったしね!
信幸は面識があるようだ。
「今その話は、ちょっと、ね」
「…彼のことを出すのは、不謹慎ダタネ。申し訳ないネ」
見た目は特徴的で、頭の上左右にお団子を作って髪を纏めており、目も細めで糸目って感じだ。
背は高くもなく低くもなく160cm台だろう。体つきも細いけど女の子らしい丸みがある。
でも、一番の特徴はなんとも言っても話し方だ。
「んと、そのしゃべり方って…」
「あぁ、ウチは中華料理店を経営しててネ」
あ、在日の方でしたか、それは失礼な事を言ってしまった。申し訳ない。
「うちって、純正日本人家系でさ~。少しでも本場っぽさを出そうと、しゃべり方を変えてるんだよね~」
物凄い流暢な日本語で、一片の片言すらなく説明してくれる中華娘。
さっきの俺の謝罪を返せ。
そして、色々な処に頭を下げるんだ。
「あは、は。それで、菩比さん、部活動がどうしたの?」
「うん? ソウダタ、瀬田君の色恋の話じゃナカタネ。部活説明会も四月だったシ、部活に興味あるナラ、参加できなかった大日さんを、ウチの部活にスカウトネ」
中華料理屋の娘の部活と言うと、調理部とかだろうか。
「あれ? 菩比さんの部活って言うとなんだっけ?」
「手芸部ヨ」
「なんで、調理部とかじゃないんだ!?」
「料理は実家で十分覚えられるネ。それなら、学校では別の事したかったネ」
筋が通ってるような、なんか違うような。
しゃべり方の話からして、油断してはいけない人物のようだ。
信幸が部活に行くって言うなら、入部は別にして、見に行くくらいするか悩む。怪しいが。
「ごめん、今日部活に顔出さないで、大日さんと帰ることにするよ。だから、スカウトは後日にしてくれないかな?」
部活より俺を優先する親友が、ちょっと嬉しい。
「ん、ソウネ? お互い焦って失敗してもまずいので、今日は瀬田君の言うとおりにするネ。またね大日さん」
最後だけ、普通に挨拶して教室を出て行く中華娘。
お互いに失敗とか、やはりよくわからない事を言って去っていく。
まぁ、信幸と久しぶりに帰れるので、俺的には無問題だな。
信幸と一緒に下校する中で、重要な事を知らされる。
「そういえば、隆一、明日って重要な日だけど、知ってるよね? 四月に渡された予定表に書いてあるけど、たぶん、隆一的にイベント日だよ」
重要な明日について、信幸に詳しく聞く。
これは、今晩のうちに作戦を立てねば!
長くなって、中華娘の話はカットしました。
1話毎の長さって、どのくらいが良いか悩みます。
感想、矛盾、誤字の指摘など、お待ちしております。